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新型コロナウイルスによる自動車業界への影響は「現時点で見通すことは難しい」と豊田章男自工会会長
定例会長記者会見にて
2020年3月19日 16:47
- 2020年3月19日 実施
自工会(日本自動車工業会)は3月19日、定例会長記者会見を実施。通常であれば2020年度の国内4輪車需要見通しが公表されるのだが、今回は新型コロナウイルスの状況を踏まえ公表が見合わせられ、自工会会長の豊田章男氏によるあいさつと質疑応答のみが行なわれた。
豊田氏によるあいさつは冒頭で新型コロナウイルスの件に触れ、「自動車の生産面・販売面に大きな影響が及んでおります。供給が滞る部品を別の仕入れ先で作っていただいたり、生産現場のみんなが徹底した予防活動をして現場を守り続けたり、力を合わせ必死に生産の継続・挽回を目指しておりますが、お客さまへの納車が遅れており、多くの方にご迷惑をおかけしております。政府からは感染拡大防止に向け、早め早めの対策を打ち出していただいております。先が見えない、何が正解か分からない今の状況においては、とにかく決断をして実行していくしかございません。1日も早い収束を願い、私どもも力を尽くしてまいりたいと思います」と収束に対する想いを語った。
また、「急激な人と物の停滞は、経済に大きな影響を与え始めました。今は先が見通せないことへの不安な気持ちをみんなが抱いている状況です。政府におかれましては今まさに大きな打撃を受けている中小零細企業や非正規雇用労働者への雇用対応など、先に光を感じられるようなメッセージとアクションを打ち出していただければと思っております。一方、われわれ自身が何をしていかなければいけないのか。あえて前向きな言葉を使わせていただければ『改革を一気に進めて行くとき』と捉えたいと思っております。今まで世の中の変化のスピードは早いというフレーズを幾度となく使ってまいりましたが、こんなにも世の中ががらっと変わることがあるのかというのが正直なところでございます。本当に急激に、そしてすべての人の生活が変わることとなりました。その結果、今までは見えてこなかったさまざまな課題が浮かび上がってきたのだと思います」と、ピンチはチャンスでもあると述べた。
続けて「生産の現場はお客さまへのご迷惑に直結するため、できる限りその手を止めてはいけないと思います。度重なる自然災害によりその対応を積み重ねてまいりましたが、それでも今回お客さまへの影響は避けられませんでした。今後に向けてまだまだ改善できることはあるはずです。販売の面ではネットを活用した消費行動に世の中がもっとシフトしていくかもしれません。そうなることを予測はしておりましたが、クルマはまだそこまでにはならないのではと、どこかでそう思っていたかもしれません。自動車業界は本当に世の中の進化についていけるのか、見つめ直さないといけないと思っております。生産、販売といったいわゆる“現場”“第一線”と言われる職場ではない間接職場では、ずっと言われ続けた“働き方改革”を待ったなしで実行しなければいけない状況となりました。急激にその実現を迫られたことでさまざまな問題が浮き上がっております」と現状について語った。
そして豊田氏は「小さな国土の日本は資源の少ない国です。だからこそ先人たちは知恵や努力といった人の働く力を資源にしてこの国を大きく強くしてまいりました。日本に自動車産業が根付いたのも、先人の働きがあったからです。『働くという日本の資源を今一度高められる機会』と、われわれはこの状況をあえてそのように受け止めて行きたいと思っております」と過去から学び、現状を前向きな姿勢で受け止めると話した。
近頃はどこの現場でも「豊田さんはこの状況をどのようにお考えですか」と聞かれると言い、「共通してお応えしているのは、『真剣に考えないといけないが、深刻には考えないようにしている』ということです。経済がこの状況になっている1番の原因は先が見えない不安です。世の中にはコントロールできる話とコントロールできない話がございます。比率で言えば、そのほとんどはコントロールできないものばかりです。コントロールできない話を深刻に考えすぎれば人はネガティブになってしまいます。ネガティブになっても何もよくなりません。ネガティブの連鎖は物事をわるくするばかりです」。
「だから深刻にはならず、まずはコントロールできる範囲のことを真剣にやっていければよいと思っております。自分ではコントロールできないものを他の誰かが取り組んでくれているかもしれません。そうしたら『ありがとう』と伝え、誰かが困っていれば自分ができることで助けてあげる。みんながそれができればコントロールできることが増えてくると思います。深刻にならず真剣に、みんなで助け合って感謝しあう。道徳の授業のようですが、このトンネルの先に光を見いだすためには、みんなでこれをやっていくしかないと考えております。こんなときだからこそ無理にでも笑顔になって乗り越えてまいりましょう」と今できることを最大限の力で行なうことが重要だと述べた。
官民で連携してやるべきことをやっていく
続けて行なわれた質疑応答では、現状と課題の受け止めや今後についての見通し、この状況が長期間続くのかどうか、生産への影響などについての質問がされた。豊田氏は「今期よりも来期の方が影響が多いと思います。消費の落ち込みがどれくらい長くなるかによりますので、現時点ではなんとも見通すことは難しいかと思います」と述べるにとどまった。
また、「政府は先が見えない中、早め早めの手を打っていただいていると認識しております。その中で今回の新型コロナウイルスショックは、リーマンショックと比べると、金融システムは比較的健全だと思います。リーマンショックの時にあって今ないものは、世界のクルマ市場の牽引役だと思います。リーマンショックの時は中国が非常に全世界を牽引してくれていました。そういう意味ではグローバルではバランスがとれていましたが、今回はそういうところでは期待ができません。ただ、新型コロナウイルスの対策で、公共交通機関を使わずにマイカーや2輪車で移動をするといった動きも一部にございます。ですので、今のところ影響は大きく出ておりませんけれども、こういうときはわれわれ民間企業は民間企業で、政府は政府でやるべきことをやっていこうと、しっかりと連携をとってみんなで命を守っていくということになるかと思います」と語った。