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自動車工業4団体、Web中継で合同会見。“互助会的”なファンド設立についても説明
2020年4月10日 18:35
- 2020年4月10日 開催
日本自動車工業会、日本自動車部品工業会、日本自動車車体工業会、日本自動車機械器具工業会の自動車工業4団体は4月10日、新型コロナウイルスの感染拡大と政府による緊急事態宣言の発令を受け、Web中継による合同会見を開催した。
すでに関連記事の「自動車工業4団体の共同メッセージ。豊田自工会会長『今、われわれができることは、3つです』」でも紹介しているように、会見の前半では自工会の豊田章男会長があいさつを実施。医療崩壊を防ぐため、自動車産業の現場でマスクの製作に取り組み、人命に直結する人工呼吸器などを直接製造することは考えていないものの、生産工程の改良などでサポートを実施。また、患者の移送などで必要となる車両の提供、空いている寮や保養施設などを軽症患者の療養施設として提供することなどにより、医療関係者の活動をサポートしていくとした。
また、全世界で9000兆円あったGDPがこの3か月で15~20%ほど失われ、日本を含めた各国経済が危機的状況にあることを説明し、自動車産業としては新型コロナウイルスの脅威が去った後に経済を立て直していく原動力になっていく必要があるとコメント。世界的な需要減少と部品供給の停滞により稼働を停止する工場も出はじめてきているが、苦しさに負けて生産現場から高い技術を持った人材が去り、要素技術が失われてしまえば経済回復が遅れてしまうと語り、自分たち自動車工業4団体が持つ“目利きの力”と活動を支えていく資金を組み合わせ、“互助会的な存在”となるファンドを設立したいとの考えを示した。
質疑応答
後半に行なわれた質疑応答では、新しいファンドを設立する計画を考えた理由について、豊田会長が「われわれ自動車産業では、最初は需給対応で、そこから政府の規制や外出の自粛などの対応で部品メーカーさんで部品が作れないようになって、部品欠品で生産の計画が成り立たないような状態が現実となっています。そんな先が見通せない状況の中、それでも元気な会社と本当に苦しくなった会社が出てきて、今は致命傷を受けないようボクシングの“クリンチ”をしている状況です。われわれ4団体にとっての致命傷は、各社が持っている要素技術と人材を失うことだと考えています。なんとか今後、元気なグループがちょっと弱っているグループを助けられる互助会のような仕組みを作って、課題を明確化する“目利き力”を持っている4団体が現地現物で取り組んでいくために、ある程度の予算、お金が必要になります。即断即決で即実行するためのお金としてファンドという形を考えていきたいと思っています。政府においても、将来的に多くの税金を払えるように損金算入できるような仕組みを考えていただきたいと思います」と回答した。
また、雇用の維持について、一部の企業が海外で工場従業員の解雇などを行なっていることについて質問され、豊田会長は雇用をどのようにしていくかは最終的に個社で判断する内容であるとしつつ、「雇用を守るといったところで、この先に状況がどんどんおかしくなっていくことも想像できます。しかし、それでもわれわれが持っているリアルの世界、もの作りの力、生み出してきた技能や技術、それを習得した人材、技能を活用できる仕事場といったものが維持されないと、コロナウイルスが収束した後の経済復興に時間がかかってしまうと思っています。それぞれの会社で雇用に対していろいろなお考えがあるとは思いますが、今こそ人を宝と思うべきで、コストとして見るべきではないんじゃないかと思っています。これはいろいろな意見があると理解していますが、業界団体としては要素技術と人材を失うと、もの作り企業の基盤が壊れてしまうと認識で雇用を守っていきたいと考えております」と語った。
ファンドで想定する金額規模についての質問では、豊田会長はイメージはまったく決まっていないと説明し、現状を理解してもらうため自身が社長を務めるトヨタ自動車を例に挙げて紹介。トヨタの売り上げの年間30兆円のうち7割に当たる20兆円が部品購入費となっており、そのほかに設備投資や開発費、株主還元として各1兆円規模を投じている。これがGDPと同様に20%減少すると、トヨタの売り上げとして6兆円、部品メーカーの売り上げに相当する部品購入費が4兆円、設備投資費などでそれぞれ2000億円といった金額が減少すると解説。これだけの金額がこの数か月で縮小しており、互助会といっても相当に厳しい現実が自分たちの目の前に突き付けられていることから、これを乗り越えるためには相当規模の金額が必要になるとの考えを示した。
これは個社や業界団体だけでカバーできるような規模ではなく、政府だけに頼ればいいというものではないものの、納税額が一時的に下がることになっても、自動車産業を維持して将来的に日本経済を復興できるよう配慮してほしいとコメントしている。
テレワークが不可能なもの作りの現場で従業員を感染からどのように守っていくのかという質問に対しては、豊田会長が「まずは公共交通機関の利用を極力減らすよう指示しており、それぞれで人と会う機会を8割減らせるように努力するといったことを行なっています。ただ、これはオフィスワークの人にいえることで、現場で生産や販売をしている人は自宅勤務では仕事ができないということです。なんとか感染者を出さない、仮に出てしまった時は濃厚接触者までしっかりと隔離して感染拡大のスピードをシャットアウトする。オーバーシュートにならないよう、事務職などでは2直化のシフトにして、班分けすることもトライしようと考えていて、例えば感染者が出た場合でも待機する人を半分にできます。また、止めることばかりでなく、止めた後にどのように再開するかを考えているところです」。
「愛知県でも他の都道府県同様にもう1段階行動の制限が厳しくなってくると認識していますので、愛知県下の仕入れ先さまや関係会社などに、これまでとは1段階異なる仕事のやり方の変更に取り組んでもらっているところです。とにかく感染者を出さない、出た場合にも最低限で止めるといった取り組みを、収束するまで地道に続けていく以外にないのではないかと考えています」と説明した。
海外ではPCR検査をドライブスルーで行なっているケースもあり、これを国内で行なう場合の対策がどのようになるかとの質問もあったが、現状では4団体とも政府などから具体的な説明を受けていないと回答。しかし、これに関連して日本自動車車体工業会 会長 木村昌平氏は「車体工業会の会員には、ドクターカーやレントゲンカーといった検診車両の特殊架装を手がけている会社もあります。医療機関や行政の皆さんと調整、連携してサポートにも取り組んでいきたい」とコメントしている。
このほか、合同会見を行なった意図について、日本自動車部品工業会 会長 岡野教忠氏は、「クルマは約3万点の部品で造られており、つまり3万点にわたる部品を造る技術を持っているということです。汎用性があり、応用性のある技術だということで、その技術を医療関係で必要とされる機器や資材の生産に役立てることもできるのではないかと思っています。私は現在、リケンの名誉会長をしておりますが、2007年に起きた新潟県中越地震で被災しました。その復興にあたっては自動車産業の多くの方にご協力、ご援助いただき、自動車産業の団結力と技術力の高さに感動したことを覚えております。また、自動車部品産業はサプライチェーンとして数百社のメンバー企業を抱えており、この危機を乗り越えた後に、日本の経済を復興させる時にいろんな形で協力できるのではないかと考えています。そのためにも、ファンドの話も具体的に考えを進めていく必要があると思っています」と回答。
また、同じく合同会見に参加した意義について、日本自動車機械器具工業会 理事長 辻修氏は「私たちは自動車整備に必要な機器を製造しているメーカーの団体です。クルマの安心・安全に不可欠なものだと考えていますが、参加企業は中小、小規模企業が大多数を占めております。しかし、このたび発表された新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針では、国民の安定的生活の確保に必要な事業として自家用車などの整備を行なう事業が含まれており、自動車整備機器の安定的供給とサービスは私たちの責務であると捉え、しっかりと対応していきたいと考えております」と説明した。