ニュース
日産、新型車開発に日本オラクルのクラウド基盤導入 CFDなどオンプレからクラウドへ
2020年8月13日 17:50
日産自動車は、新車開発における構造力学シミュレーションやCFD(計算数値流体力学)などに、日本オラクルが提供するクラウド基盤「Oracle Cloud Infrastructure」を活用すると発表した。
オンプレミスの高性能コンピューティング(HPC)環境で行なっていたワークロードを、クラウド環境に移行。数万のコアとGPUを活用した大規模なハイエンド可視化サーバーを利用し、エンジニアのニーズに基づいて、コンピューティングリソースなどを動的に変更することで、パフォーマンスの向上と低コスト化を両立し、新車に関わる設計やテストのスピードを向上させることができるという。
具体的には、流体力学や構造力学シミュレーション、3D可視化環境をOracle Cloud Infrastructure上に移行。自動車の空力および構造破損における設計やテスト、ソフトウェアを用いた計算数値流体力学などを行なうことになる。これにより、自動車の燃費向上や信頼性向上、安全性向上のための設計を迅速に行なえるという。
Oracle Cloud Infrastructureは、オラクルが提供するエンタープライズグレードのクラウド基盤で、高い性能とセキュリティ、可用性を実現しているのが特徴だ。グローバルでは24か所のリージョンで稼働。国内では東京と大阪の2か所のリージョンで使用できる。
セールスやサービス、マーケティング、人事、経理・財務、製造などを網羅する広範なアプリケーションに対応しているほか、自己保護、自己修復などの機能を持つ自律型データベースのOracle Autonomous Databaseをはじめとした第2世代インフラストラクチャーを提供。HPC向けの活用もでき、CAE(Computer Aided Engineering)アプリケーションなどの稼働実績も多い。自動車メーカーをはじめとした製造業での導入も進んでいる。
この領域では、HPCアプリケーションに最適化されたコンピュート、ネットワーク、ストレージを提供。RDMA(Remote Direct Memory Access)ネットワークを備えた業界唯一のベアメタルHPCインフラストラクチャーのメリットを提供できるのが特徴だ。
日本オラクル テクノロジー事業戦略統括ビジネス推進本部シニア・マネージャの近藤暁太氏は、「RDMAクラスタネットワークを備えた業界初のIntel Xeonベースのベアメタルコンピューティングインフラストラクチャーを提供しており、2マイクロ秒未満のレイテンシと、100 Gbpsの帯域幅を実現。大規模HPCをクラウド環境で稼働させることができる。CPUの性能を最大限に活用し、安定的に稼働させるためには、オンプレミスにおいても仮想環境は活用しないといったことが行なわれているが、ベアメタルサーバーを活用することで、Oracle Cloud Infrastructure上でも物理サーバーと同様の環境を実現できる。RDMAクラスタネットワークとベアメタルコンピューティングを兼ね備え、オンプレミスHPCクラスタと同等以上の性能を発揮できる点が、他社にはない強みになる」と自信をみせる。
ベアメタルサーバーは、仮想マシン同様の操作性で、数分で割り当てや削除が可能であり、仮想化によるオーバーヘッドがなく、安定した高性能化を実現。HPCクラスタは、最大で2万コアまで拡張できる。「多くのコンピュータリソースを必要とする自動車メーカーのシミュレーションには最適な環境を実現できる」とする。
また、Oracle Cloud Infrastructure上では、NVIDIAのTesla GPUテクノロジを活用。これにより、構造シミュレーションやリモート可視化に活用でき、「オラクルのベアメタルNVIDIA Tesla GPUアクセラレーションハードウェアを使用することで、大量のデータ転送のコストとオーバーヘッドを削減しながら、シミュレーションジョブで生成されたすべてのデータを、クラウド内の3D OpenGL方式で簡単に表示できるようにした」という。
HPCを活用したシミュレーションには、多くのコンピュータリソースを必要とするが、新車を開発するタイミングで利用するため、集中的に利用される時期と、そうでない時期が明確だともいえる。そのため、オンプレミス環境ではピーク時を想定した投資が必要になり、利用していない時期には、使っていないリソースを使わないまま保有しているという状況が生まれる。だが、クラウド環境であれば必要な時期に必要なリソースだけを利用できるため、コストの最適化が行ないやすい。
「多くのコンピュータリソースを活用するHPC環境では、むしろコスト削減効果が生まれやすいともいえる」とし、「オラクルのユニークなクラウドHPCソリューションを利用することで、固定キャパシティとなるオンプレミスのHPCサーバーを購入する代わりに、パフォーマンス重視のHPCジョブをオンデマンドで実行することができる」とする。
日産では、今回のOracle Cloud Infrastructureの採用によるコスト削減効果や性能向上の規模などについては明らかにしていないが、日本オラクルでは自動車業界の別の導入事例においてOracle Cloud Infrastructureを導入したところ、オンプレミスでは15日間かかっていたシミュレーションの計算日数が3日以内に短縮。価格性能比では約2.4倍もの向上を図ることができたという。
クラウドならではの特徴を生かすことで、定常的なコスト削減への要求に応じながら増大するシミュレーション需要の課題にも対応できるというわけだ。
日産では、自動車の空力および構造破損における設計およびテストのCFDおよび構造シミュレーションを実行するためのHPCプラットフォームには、クラウドファースト戦略を推進する姿勢をみせており、今回の発表はその戦略に則ったものとなる。Oracle Cloud Infrastructure上で膨大な計算能力を確保。エンジニアリング・シミュレーションの稼働により、パフォーマンス向上と低コストを実現し、設計やテストのスピード向上を図ることで新車の迅速な市場投入につなげる考えだ。