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日産、内田社長兼CEOが語る事業構造改革計画「NISSAN NEXT」記者会見レポート
「必ず日産を成長軌道に戻す。日産のポテンシャルはこんなものではない」
2020年5月29日 08:33
- 2020年5月28日 実施
日産自動車は5月28日、前日に行なわれたルノー、日産、三菱自動車工業のアライアンス記者会見に続き、日産単体の2019年度決算および事業構造改革計画の記者会見をオンラインを通じて実施した。参列者は、社長兼CEOの内田誠氏、COOアシュワニ・グプタ氏、CFOのスティーブン・マー氏の3名。
まず冒頭、内田社長兼CEOは「経済活動に深刻な影響を及ぼしている新型コロナウイルス感染拡大を予防すべく、感染者対策に少しでも役立ちたいと、フェイスシールドや医療ガウンの生産や、車両提供などの支援を世界中で実施させていただいているが、同時に新型コロナウイルス感染症の影響に加え、自社固有の問題による業績悪化にも直面している」と述べた。
2019年度業績について
2019年度通期のグローバル需要は、中国市場の減速や新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、前年比6.9%減の8573万台で、販売台数は10.6%減の493万台にとどまった。また、売上高は9兆8789億円に減少。営業利益はマイナス405億円。当期純利益はマイナス6712億円となった。グローバルでの販売減に加え、将来の収益性改善に向けた6030億円の構造改革費および減損損失を計上していて、これらを除いた当期純利益はマイナス682億円となる。そして、自動車事業のフリーキャッシュフローはマイナス6410億円と悪化しているが、ネットキャッシュは1兆646億円と健全維持をアピールした。
また、前年比で見ると為替変動、規制対応、商品性向上コスト、原材料価格の高騰を含めた外部要因が自動車業界全体の収益を圧迫、加えて商品高齢化、販売正常化の取り組みが十分な収益の貢献に至らず、販売台数の減少が収益を圧迫した。また、将来に向けた研究開発費や生産費用が550億円ほど増加していたことも要因となった。そして将来の台数の見通しに基づく、現在の生産能力が余剰であることから、グローバルな事業用資産の減損を行ない5220億円の損失を計上し、2020年度には約700億円の減価償却費削減が見込まれるという。
質疑応答で経営責任について問われると、内田社長兼CEOは「経営責任として非常に重く受け止めている。新型コロナウイルスの影響の中で臨時休業などで苦労をかけている従業員の痛みを分かち合うために役員報酬の大幅な削減に取り組む。具体的には業績変動報酬については、COとCOOは全額辞退。その他経営会議メンバーについては自主返納を行なう。また、2020年の基本の報酬に関しては昇給を半年間見送り。それに加えて、上半期期間に対して基本給をCOは50%減額、CO以外の執行役は30%減額、これ以外の執行役員は20%減額」と明言した。
続いて短期の事業運営資金については、「新型コロナウイルス感染拡大の影響で経済活動が元の水準に戻るにはまだ時間がかかると見ているが、自動車事業の資金は健全な状態を維持していて、2020年3月末の手元資金は1兆4946億円、ネットキャッシュは1兆646億円。さらに1兆3000億円の未使用のコミットメントラインも確保。加えて、新型コロナウイルス対応のために4月~5月に7126億円の資金調達を実行。さらに、経営トップレベルのキャッシュマネージメントと収益改善プログラムを立ち上げ、市場や供給網の状況をタイムリーに反映した生産計画の見直し、在庫管理、経費費削減、将来の成長に欠かせない最低限の設備投資や新車投入時期の最適化を行なっている」と内田社長兼CEOは説明した。2020年度の業績見通しについては、マイナス15~20%を予想しているが、現在精査中とした。
事業の振り返りと今後の展望
2011年に発表した中期経営計画“日産パワー88”以降、需要の増大を前提に新興市場を中心とした事業規模拡大の成長戦略を取っていた日産。しかし、蒔いた種を十分に育てられず、結果として刈り取りができなかった。さらにその大きな投資の影響により、日本を始めとする主力市場へ新製品を投入できない事態を招いた。2年前からこの拡大路線からの転換を図っていたが、足下で抱える700万台規模の門構えに対して販売は500万台を割る状況で、事業を継続して利益を出すことは困難となっていた。ここから脱却するために、これまで向き合ってこなかった「失敗を認めて、正しい軌道に修正すること」「回収が十分に見込めない余剰資産の整理を実行すること」。そして「選択と集中」を徹底して、コアマーケットやコアセグメントに持続的にリソースを投入する。これは苦渋の決断となるが、一切の妥協なく断行することが必要であると判断。
今回の構造改革計画のポイントは、過度な販売台数の拡大は狙わず、収益を確保した着実な成長を果たし、自社の強みに集中し、事業の質、財務基盤を強化し、新しい時代の中で“日産らしさ”を取り戻すこと。これに注力し、2023年度末にはその先の10年を戦うための十分な体制を再構築し、新たなステージに移行させる。この思いから事業構造改革計画を「NISSAN NEXT」と命名したという。新たなロードマップとしては「最適化」と「選択と集中」2本の重点分野があり、「最適化」では、生産能力の最適化とグローバルな商品ラインアップの効率化、その他経費などの最適化により大幅な固定費を削減。「選択と集中」では、集中する領域ではしっかりとしたマネージメントのもと投資を行ない、確実なリカバリーと着実な成長を目指す。この2つの改革を実行するための重要な基盤となるのが、品質重視やユーザ―指向。ビジネスパートナーであるサプライヤーやディーラーとなる。
生産能力の最適化と商品ラインアップの効率化
現状の販売レベルを踏まえ、今より20%削減して通常シフトで年間540万台体制とする。具体的にはインドネシア工場を閉鎖し、タイに集約。バルセロナ工場も閉鎖に向けて準備を始め、サンダーランド工場を維持。北米の工場もセグメントやプラットフォーム毎に生産工場を集約する。さらに合理化を行ない工場稼働率80%以上を維持し、収益の改善を図るとしている。ただし、需要が拡大した際は600万台近くまで生産できる弾力性は持たせるという。生産能力を適正化する一方で、働き方改革や柔軟な生産体制を構築するための工場のインテリジェント化に対しては投資を継続し、新たな時代のモノ作りとして原材料やコストの最適化にも同時に取り組む。
また、商品ラインアップはコアモデルに絞り込み、2023年度末までに車齢の長い乗用車とトラック、ロシアのダットサンのような地域専用モデルを打ち切り。2018年度の69モデルから20%減となる55モデル以下に削減。グローバルで魅力と競争力を発揮できるCセグメント、Dセグメント、電気自動車、スポーツカーに集中。そこに先進技術を搭載し、より価値の高い競争力を持った商品として開発。ライフサイクルも車齢を4年以下にして、刷新を図る。苦手とするセグメントに関しては、アライアンスパートナーであるルノーや三菱自動車のアセットを活用し、商品や技術の提供を受ける。これらにより2018年度比で3000億円のコスト削減を実施するとしている。
選択と集中
「マーケット」「商品」「技術」の3つのカテゴリーで選択と集中を推進。マーケットでは、日本、中国、北米を主要コアマーケットとし、経営資源を集中し健全な事業運営の実現を目指す。その他のエリアは市場の回復や成長のペースを見極めつつ、アライアンスのアセットも最大限活用しながら適正な規模での事業展開を図る。また、ビジネスチャンスの限られている韓国からの撤退と、アセアン地域の一部マーケットの事業縮小も明言した。
日本国内は改めて力を入れていく。1990年以降グローバル投資を優先してきたため、ユーザーの期待に沿えない部分があった。これからは実用性のある先進技術とその価値に目を向け、魅力ある商品の拡充を図る。具体的には2023年度末までに、新たに電気自動車2モデル、e-Powerモデル4車種を追加しラインアップを拡充。販売の電動化率は60%超えを見込む。
中国では現在でも健全な事業運営を続けているが、新型コロナウイルスの影響、市場の成長ペースの鈍化、環境規制の強化とリスク要因はある。しかし世界最大の自動車市場では、今後も着実に成長を果たしていく。7車種の電気自動車を揃え、e-Powerを搭載した主力商品を投入。アメリカではここ数年販売正常化を図っているが、予定よりも時間がかかっている。2019年に発表した「セントラ」で成果が出始め、2020年は新型「ローグ」を皮切りに新型「パスファインダー」「QX60」「フロンティア」などSUVとピックアップを中心に新車攻勢に転じ、商品力を強化していく。欧州はより厳しさを増す競争に加え、環境対応を始めとする規制強化により苦戦。もう一段上の対策が必要となることから、アライアンスで発表したリーダーとフォロワーの枠組を活用しながら、クロスオーバーSUVに重点を置く。
今後の新車投入
将来のための投資継続、アライアンスのさらなる活用という点では、各社の強みを売り上げに結びつくように推進していく。商品はラインアップの整理とコアモデルへの集中を行ないつつ、今後18か月の間に12の新型車を投入する予定。中にはプレミアムブランドのインフィニティも含まれる。
6月中旬にはアメリカもっとも売れている日産車の「ローグ」を一新。同じく6月に海外ではすでに若々しいデザインと実用的な技術で評価を得ている「キックス」が日本国内でデビュー。7月にはクロスオーバーEVの新型「アリア」がいよいよ正式発表。アリアは内外装に最新のスタイリングを実現しつつ、先進運転支援技術プロパイロット2.0や最新パワートレーンを始めとする、数々の先進技術が搭載され、新しい時代の日産の顔となる重要な役割を担っているという。そして2023年度までに計8車種の電気自動車が投入される。
最後に内田社長兼CEOは「繰り返しになりますが、必ず日産を成長軌道に戻します。日産のポテンシャルはこんなものではないと12月の就任以来、繰り返し社内外に発信してきました。素晴らしい人材やグローバルでの事業の経験。目的に向かってものごとを成し遂げる力。これまでの失敗からの学び。これらはすべて当社の大事な資産です。失敗から目をそらし、つじつまを合わせて取り繕うのではなく、失敗を認めて正すべくことを正す。まず経営層が意識を変え、社内の内向きな文化を変えていく、そしてお客さまや販売会社、取引先の信頼を取り戻す。これは行動規範やプロセスを変えれば変わるものではない、全社で一貫性をえて、私たち自身が変えていく。そのためのあらゆる取り組みを続けていきます」と今後に向けた決意を語った。