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ホンダ、安全への取り組みを実践する「安全運転普及本部」が発足50年を迎える
これまでの活動の成果を振り返りながら、2030年へ向けて新たな決意を表明
2020年10月1日 15:14
- 2020年9月30日 発表
本田技研工業は、日本のモータリゼーションが発展期にあった1970年に、交通社会に関わるすべての人の体験、知識、意識の向上をサポートするための「安全運転普及本部」を設立し、「ヒト」に焦点を当てた安全運転の普及活動を開始。そして今では、日本国内のみならず海外へも活動範囲を広げている安全運転普及本部が、10月1日に発足50年の節目を迎えたことにより、これまでの活動内容や今後の展望などを発表した。
9月30日に東京都港区青山にある本社で開催された発表会に登壇したのは、本田技研工業専務取締役 安全運転普及本部長 竹内弘平氏と、同じく安全運転普及本部 事務局長の鈴木英樹氏の2名。
ホンダの考える安全とは
最初に登壇した竹内氏は、ホンダでは環境・安全ビジョンに「自由な移動の喜び」と「豊かで持続可能な社会」の実現を掲げ、そのビジョンの実現に向けて、2輪車・4輪車の運転者だけでなく、子供から高齢者まで、交通社会に参加するすべての人に、安心と安全を提供するため「Safety for Everyone」というグローバル安全スローガンのもと「人の能力」「モビリティの性能」「交通エコシステム」の3つの要素を融和させながら取り組んできていることを紹介。
そしてインターネットやVR(ヴァーチャルリアリティ)の進化により、移動しなくても成り立つ生活が可能になりつつある中で、人を守るだけでなく、リアルな世界で人々の好奇心を後押しし、移動の歓びを広げることにつながる安全をホンダでは追求していると解説した。
これらは創業者である本田宗一郎氏の「お客さまの生命を尊重申し上げるところに私たちの使命があると信じます」という言葉から生まれた“人間尊重”という基本理念に基づくもので、バイクやクルマを製造するモビリティ企業として、道を使う誰もが安全で、事故に遭わない社会を実現するための原点となる考え方だという。
さらに竹内氏は、交通事故ゼロ社会を実現するには、モビリティの安全性能の向上や交通に関わる生活空間が健全に機能することが大切だが、最終的に主役となるのは「ヒト」となるため、安全な製品の提供はもちろん、その機能や効果や限界などの正しい知識や乗り方も合わせて提供することが、本当の意味での安全提供になると考えていると語った。
安全運転普及本部が発足した1970年(昭和45年)は、交通事故死者数が統計史上最悪の1万6765人というワースト記録を残した年でもあり、当時は「交通戦争」という言葉が生まれるほど荒んだ時期だったことを紹介。
そこから50年、ホンダは常に“ヒトに焦点を当てた活動”に取り組んでいて、先進安全装置を搭載したクルマでも、ユーザーがそれを正しく理解していなければ意味がないとして、その機能と効果の限界について、正しく理解してもらえるように販売店の店頭でユーザー1人1人に直接安全を語りかける「手渡しの安全」を今でも実践している。
また、本田宗一郎氏は「安全に危険を体験させる、これが一番大事なことである」という言葉も残していて、ホンダでは全国7か所に作った交通教育センターで、交通安全教育のための専門コースと、安全運転の知識と高い運転スキルを備えた専門のインストラクターによる、実車やシミュレーターを使った「参加体験型の実践教育」を行なっている。
実はこの活動は安全運転普及本部の発足よりも古く、1964年に鈴鹿の安全運転教習所で白バイ隊員向けに行なわれたのが始まりと言われている。現在では、企業、団体、学校、個人を対象に、年間約9万人が安全運転のための研修やスクールに参加しているという。
ホンダは2017年に策定した「2030年ビジョン」で、交通事故ゼロ社会の実現をリードすると掲げているが、近年は官民一体の取り組みにより国内の交通事故死亡者数は減少傾向にあり、2019年はピーク時の1/5となる3215名まで減少。ところが海外では、進展国を中心に交通事故は増加傾向にあり、これまで50年間培ってきたデータやノウハウを共有していくという。すでに41の国と地域で安全運転普及活動が行なわれており、竹内氏は半世紀に渡り安全運転普及本部がどのような活動を続けてきたのか、また活動の意義や想いを熱く語った。
安全運転普及活動の基本理念と取り組み内容
続いて事務局長の鈴木氏が、各活動に関する詳細を解説。
まず、グローバル安全スローガンである「Safety for Everyone」を実現するために、安全運転普及本部は「人づくり」「場づくり」「ソフトウェアの開発」という3つの柱を軸に活動を開始。
具体例としては、1994年に導入した、ユーザーにクルマの安全に関するアドバイスができる営業・サービススタッフを養成する「セーフティコーディネーター制度」や、1964年に開設した全国7か所の「交通教育センター」の設置。さらに、幼児や高齢者などを対象にした教育プログラムや、1996年に発売したホンダ ライディングシミュレーターをはじめとする教育機器の開発などが挙げられる。
その結果、2輪車・4輪車の販売会社や地域の企業や行政、学校などと連携しながら、これまで日本国内で延べ657万人以上の人に交通安全・運転教育を実施してきたという。
さらに、2018年には現行の新車に搭載される先進安全技術「ホンダセンシング」についても正しく理解してもらうため、新たに「アドバンストセーフティコーディネーター」の養成を開始。ホンダセンシングの正しい知識や体感試乗会を開催できるノウハウを習得させ、地域の企業や行政などと連携しながら安全運転を普及する役割を担う。
海外でも交通安全・運転教育を実施
安全運転普及本部発足から2年後の1972年には、同本部内に海外での活動を推進するための部門「海外安全運転普及推進委員会」を発足。1978年にブラジルに交通教育センターを設置するなどの体制構築を行ない、人材の育成に取り組む各国現地法人に対してノウハウの提供などの支援を開始した。同時に、納車時の安全啓発や、交通教育センターでの運転者教育、学生や子供を対象とした安全教育など、それぞれの国や地域の実情に合わせた活動を積極的に実施しているという。
幅広いユーザーへ展開
ホンダでは「体が不自由な人にも運転を楽しめる機会を」と、1981年に足でステアリングなどの操作を補助できるフランツシステムを、実際にエーベルハルト・フランツ氏から技術指導を受けながら開発。同時に道交法改定にも寄与し、これまで運転できなかった人もきちんと運転できるようになった。
さらに脳梗塞などで後遺症の可能性があるドライバーの安心・安全な運転再開を目的としたリハビリシステムなども手掛けていて、システムを利用することで運転再開へのアドバイスや医師の判断材料として利用されている。また、教習所協会や作業療法士会、行政・免許センターの三者連携体制を構築し、リハビリだけでなく自己の運転レベルを評価する指針とするなど幅広い用途に展開を進めているという。
自らの気づきを促す「DSPシステム」
50年にわたって常に時代の変化に合わせ、交通参加者向けに開発してきたソフトウェア。中でも参加体験型の実践教育の場である交通教育センターのプログラムを、実車や運転シミュレーター、測定機器を活用しながら進化させてきたのが、自身の日常の運転習慣をチェックし、自らの“気づき”を促す「DSPシステム」だという。このプログラムでは、参加者への客観的なアドバイスを行なうほか、教育効果の測定・手法の検討、走行データを基に、ドライバーへいかに安全運転を促すかの研究などに利用されている。
時代に先駆けた安全運転普及活動の進化
安全運転普及本部が発足して50年となる2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により非接触などの新しい生活様式が求められる中、これまで取り組んできた「人から人への手渡しの安全」や「参加体験型の実践教育」の活動を基本にしながらも、新しい教育手法への取り組みの検討も開始。
1人1人に最適化された「アダプティブラーニング」や、ヘッドマウントディスプレイを用いてVRを活用した「疑似体験学習」など、時間や場所を問わず、自分のレベルに合わせていつでも好きな時に学べるという、新しい教育手法も模索中だという。
また、将来の自動運転社会を見据えて、安全運転支援技術の機能における効果や限界について正しく理解してもらうために、先進技術を気軽に体験できるVRの活用や、教育機器の進化についても検討していくという。
安全に関する想いは別の部署でも活発
また、安全運転普及本部とは異なる部署でも、DSPシステムと同じ「気づき」の観点に注目した子供向けの安全アイテム「Ropot」を開発していて、参考展示された。
Ropotは後方に向けてミリ波レーダーが搭載されていて、子供の背後から迫ってくるクルマやバイクなどの物体を検知すると振動で知らせる装置。子供が小学生になり、親から離れて1人で行動を始めたばかりの7歳児は、特に交通事故が多いというデータに基づき開発された。
あくまで交差点での一時停止や道路にはみ出して歩かないなど、反復して注意するべきポイントを体に覚えさせる教育を目的としているので、あえて音声装置などは搭載せず、振動によって後ろから親に「トントン」と肩を叩いて教えてもらう感覚に寄せて開発したという。また、開発は最終段階に入っていて、近々に数か所で実証実験が行なわれる予定だという。