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ホンダアクセスが手掛けるModulo Xの「実効空力」は誰でも体感できるのか?
フリードと新型フィットで実際に比較走行させてもらった
2020年12月11日 11:30
新型「フィット」の第2章がいよいよ始まる。コンプリートモデルのModulo Xがそれだ。Modulo Xというブランドは、誰もが街中の速度域でも感じられる「実効空力」を武器とする一方で、専用セットの足まわりやホイールを装着することで独自の世界を展開。インテリアに対しても華やかな見た目とドライバーを滑りにくくサポートするなどの方程式が盛り込まれている。意のままに操れる操縦性、そして所有欲を満たすデザインがポイントのブランドだ。
Modulo Xは2013年に登場した「N-BOX」を皮切りに「N-ONE」「ステップワゴン」「フリード」「S660」「ヴェゼル」と展開を拡大。これまでに累計1万4000台以上を販売した実績がある。近年ではマイナーチェンジモデルに対してもきちんと対応し、ステップワゴン、S660、そしてフリードで新たなModulo Xを誕生させている。
もちろん数値やデザイン一辺倒ではなく、あくまで実のあるものを開発しているため、すべての改良ポイントは実走での確認や改良を繰り返しているところもModulo Xの興味深いところ。開発アドバイザーに土屋圭市氏を起用していることを見ても、走りに対するこだわりは半端ではない。今回はそんなModulo Xのこだわりを伝えようとスペシャルなプログラム「実効空力 体感試乗会」が展開された。新型フィット Modulo X プロトタイプに乗る前に、まずはフリードの乗り比べで感じたModulo Xの「実効空力」のインプレッションをお伝えしたい。
本当に「実効空力」は感じられるのか? フリードで試す
準備されたフリードのModulo Xは、2020年5月に行なわれたマイナーチェンジに合わせて登場したモデルで、実は前期モデルと比べるとかなり進化している。かつて公道で前期と後期を乗り比べてみたが、直進安定性が高まったこと、そして微操舵域から確かな手応えを感じさせてくれるステアリングフィールが何よりも見どころの1台だったことを思い出す。今回はそのModulo Xの進化はどんなものかを感じやすくするために、ベースモデル、フロントバンパーのみをベースモデルに戻したもの、そしてModulo Xコンプリート状態を比較試乗することになった。
まずはベースモデルがどんな走りをするのかを確認すると、80~100km/hあたりで常にクルマが対角に揺らいでいた。試乗を行なったサーキット「袖ヶ浦フォレストレースウェイ」は、路面のうねりが所々にあり、それに対してフラットに走れるか否かを感じやすいコースではあるが、ベースモデルはかなり路面の荒れ具合に対して対角ロールが大きく、フラつきを感じるものだった。
対して突き上げはソフトで、タウンスピードであればそれを心地よく感じる人もいるだろう。だが、速度を高めれば高めるほどリフトして行く感覚があり、接地感が薄いところは気になる。ステアリングのニュートラル付近の応答性が甘く、わざと幅員を狭めたパイロンコースでは、操舵を一定にして駆け抜けることが難しい。コースの途中、コーナリング中に段差が設けられていたが、そこでは4輪が完全に地面から離れる感覚があり、前後輪共に飛びながら駆け抜けたことも気になるポイントだ。
続いて試乗したクルマは、フロントバンパーのみをベースモデルと同じにした試験車両。走り出せばゆっくりとした状況から4輪が見事に引き締められた感覚があり、フラットな乗り味が特徴だ。瞬間的な入力があるとベースモデルに比べれば硬質な感覚があるが、それを一瞬で納めてフラットに駆け抜けるから心地いい。おかげで対角に動くことが気になっていた路面であってもクルマはピタリと走ってくれる。ベースモデルに比べれば操舵感がシッカリとしているから好感触。ただ、ステアリングを切った後の動きが甘く、アウトにはらんで行く感覚があったことも事実。コーナリング中の段差では、フロントのみが接地を失いアウトへと向かっていた。確かに空力的効果が薄いのかもしれない。
最後に完成版、コンプリート状態のフリード Modulo Xに乗ると、フロントはかなり落ち着いた感覚で、前後のリフトバランスが同等になった感覚がゆっくりと走っている時点から感じられる。フロントバンパー下部に備えられたエアロスロープ、エアロボトムフィンなどが効果を発揮しているのだろう。ちなみにノーマルにあるタイヤ前のスパッツは取り払われているが、燃費的な悪化はないそうだ。ステアフィールは微操舵域から手応えがきちんと出ており、そこから切り込んでもフィーリング変化しないリニアさがあった。
また、直進安定性も高まっており、ベースモデルとは質感がまったく異なると感じられたのだ。これなら幅員が狭くても一定操舵角で駆け抜けることが可能。コーナリング中の段差では前後共に路面を捉え続け、どちらかの接地が抜けるようなことはなくバランスがよかった。実効空力と謳うModulo Xの世界観は、以前に増して理解しやすいものになったと感じられた。
後部席でも同様に試乗してみたが、リアシートでもベースモデルとモデューロとでは乗り心地がかなり異なる。対角に揺らぐベースモデルはペースを上げれば上げるほどそれが顕著に現れ、クルマ酔いにも繋がりそうな感覚がある。対してモデューロはフラットに動き、体が無駄に動いていない。タウンスピードでは硬質に感じる部分もあるが、それは結果的に同乗者にやさしいセッティングといえるだろう。
今回の大本命である新型フィット Modulo X プロトタイプに試乗
それがフィット Modulo X プロトタイプにもきちんと継承されているのか? ベースモデルの走りを確認した後に、いよいよ貴重な1台を走らせる。チューニングポイントとしてはフリード Modulo Xと同様の手法で開発されているようで、フロントバンパー下部の造形はかなり似ている。対してリアバンパーは両サイドをスパッと直角に断ち切ることでそこに発生する渦を少なくしているようだ。
走れば無駄な動きが排除され、フラットに駆け抜ける足まわりは方程式通りの印象。ベースモデルは特にフロントまわりの動きが大きく、路面が荒れてくるとバウンスしてしまう傾向があったが、このプロトタイプにはそれがない。4輪の接地感は常に一定に感じられるほど、やはり前後バランスにすぐれている実効空力がキモといっていい。
ベースモデルでも十分に走りが洗練されたと感じていたが、Modulo Xはそのさらに上を行く。あまりに操りやすいため、フリードよりもペースが上がり、あとは動力性能を求めたくなるほど。その際でも操舵角が増えることなく、4輪で綺麗に旋回しているところが特徴的だと感じた。ワインディングを操って面白く、自由度が高いと感じられる仕上がりはさすがだ。これならどんなシーンでも安全だろう。
Modulo X 開発担当者から「実効空力」の秘密を聞き出す
Modulo X開発担当の湯沢氏に気になる実効空力の生み出し方について伺うと面白い答えが返ってきた。「Modulo Xではダウンフォースがかかり過ぎてミスをすることが多かったんです。レーシングカーのようにフラットなサーキットで走るクルマであれば、ダウンフォースを増してタイヤを潰して走るのはいいのですが、市販車ではそれをやるとダメなんです。一般道では路面が荒れていて、左右でアンジュレーションが移り変わるような環境では、サスペンションのストロークをきちんと確保しておかなければなりません。もしもダウンフォースをかけすぎるとストロークを失い、外乱に弱いクルマになってしまうのです。そこを注意しながら4輪で曲がれるように仕立てています。フロントタイヤだけで曲がるようなセッティングでは、雪道などで危険になってしまいますからね」と湯沢氏。コンプリートモデルと聞くとスポーティ、そしてレーシーというイメージが先行しがちだが、Modulo Xはあくまでも一般公道を見つめ、だからこそ誰もが感じられ、街中から効果を発揮する実効空力に目を向けているのだ。
今はまだプロトタイプだが、今回の完成度を見れば、近い将来フィット Modulo Xが公道を走る日もそう遠くはないだろう。リアルワールドでどう走るのか? 新型フィットの第2章が始まるその日が待ち遠しい。