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39号車の脇阪寿一監督に、SUPER GTの展望と自作PCによるeモータースポーツの取り組みを聞く

脇阪寿一監督、39号車 DENSO KOBELCO SARD GR Supra(ヘイキ・コバライネン/中山雄一組)を率いる

 39号車 DENSO KOBELCO SARD GR Supra(ヘイキ・コバライネン/中山雄一組、BS)を走らせるTGR TEAM SARDの監督を務めるのが、脇阪寿一氏だ。脇阪監督は、2002年、2006年、2009年と3度のSUPER GT/GT500のチャンピオンを獲得した名ドライバーで、現在も「86/BRZレース」では現役ドライバーとして参戦を続けているだけでなく、TGR(Toyota Gazoo Racing)ではアンバサダーとしてモータースポーツの魅力をファンにアピールする役割を担っている。

 SUPER GT公式テストを実施中の富士スピードウェイにおいて、脇阪監督に2021年シーズンの展望について、そして脇阪監督がブログで紹介して話題になっている「自作PC」に関して話をうかがった。

39号車 DENSO KOBELCO SARD GR Supra(ヘイキ・コバライネン/中山雄一組

開幕戦から優勝を目指す。岡山、SUGO、オートポリスのファンの前で走ることができるのがうれしい

身ぶり手振りで語ってくれる脇阪監督

──岡山国際サーキットでの公式テストに続き、今回この富士スピードウェイでの公式テストが行なわれている。チームの状況などはどうか?

脇阪監督:1つひとつステップバイステップでやっている。去年からこのチームに合流させていただき、新型車のテストを開幕前にしていたがコロナの状況になったので、テストが足りない状態で開幕する直前に延期になった。

 その後、夏に開幕してから短い間に進んでいくというシーズンになった。そうした中でレースをしていたが、シーズンが開幕してしまうと目の前の成績も考えないといけないし、なかなか大きなトライはできない。クルマの根本的なことも、シーズン前のテストで全てを理解した上で、クルマがこういうバランスになっているからこんなふうに攻めたいとかやるわけだが、昨シーズンは全てが後手後手になってしまい、試せなかったことがある。

 今年のシーズン前のテストでは、目の前のタイムを追いかけるのではなく、根本的なこと、どう動かせばどうなるのかということから1つひとつデータを積み重ねていっている。

 たくさんの引き出しを作って、シーズン中にどう使うかということをやっているが、去年よりいろいろなことが分かり始めている。どう活かすのかはライバルがいての勝負になるので、ライバルを意識しながら、チームがどのようにしていくのかを意識しながら1年戦っていきたい。

 GR Supraに関しては今年で2年目になるが、基本的には幅のある強いクルマだと評価している。確かに去年、タイトルは獲れなかったが、それはGR Supra同士でポイントを食い合ってしまったからであって、車両が負けていた訳ではない。ただし、レースなのでやはり結果やタイトルは重要なので、それをどのように数字につなげていくかが今シーズンのテーマになる。

──セッション1となる3月27日午前中の走行でもGR Supra勢は上位にきていた。

脇阪監督:全体的に上位にいる。この辺りがクルマの底力を示していると思っていて、心配はしていない。

──2021年シーズンは、富士や鈴鹿、もてぎが減って、オートポリス、スポーツランドSUGO、岡山国際が増えることになる。その影響は?

脇阪監督:確かにクラス1規定になってから、サーキットによって車両の得意不得意というのはある。しかし、与えられた環境の中、ルールの中でベストつくし、誰が一番なんだというのを決めるのが競技。

 その中でわれわれは成績やタイトルを獲らないといけないが、それ以上にSUPER GTというのはファンのみなさまがいてこそ成り立っている。ドライバーがいて、チームがあって、レースクイーンがいて、それぞれのファンのみなさまがサーキットに集結して楽しんでいただく、そういう形で成り立っている。

 確かに富士スピードウェイなどで開催するのは、レース村からすれば行きやすくて便利というのはあるが、全国でSUPER GTの開催を待っていただいているファンのみなさまがたくさんいらっしゃって、そこへ行くことが大切だ。

 確かに富士や鈴鹿、もてぎは減るが、去年行くことができなかったオートポリスやスポーツランドSUGO、岡山国際に行けることは大切で、そういうファンのみなさまをワクワク、ドキドキさせることもわれわれの仕事。この3大会はプラスアルファの力を出して、2年分のワクワク・ドキドキを感じられるように戦いたいと思っている。

 その最初のレースになる岡山国際のレースは観客が入った形で行なわれるので、自分としてはスタートダッシュしていい成績を残したい。すでに述べたように、岡山国際のお客さまは2年待っていただいたことになる。そうしたファンのみなさまに感動を与えることができれば、ファンも増えると思っている。

 そしてファンが増えると、ファンのみなさまにいただけるエネルギーが増えるので、ドライバーのオーラのまとい方も変わってくる。しっかりと2021年のスタートを切っていきたい。そして優勝することができれば最高だ。

──2人のドライバーは今シーズンも継続になるが、ドライバーに期待することは?

脇阪監督:とにかく彼ら優秀ですから、彼らがその優秀さを発揮できるように、僕がどうステージを作れるかというところだ。多分今までスピードとか、戦うっていう上で必要のなかったことまでを彼らがしたり、必要のない心配があったりとかあったと思う。僕がそれを取り除き、より走りやすい環境を作り上げていく。それにより、よりレベルが上がるところで走ることができるので、その上で起こる課題を彼らが見いだして解決する、この1つひとつがチームの進歩につながる。

 レースというのは、たくさんの人たちが集まってクルマが走る訳で、ドライバーが特別ってことはないが、やっぱりメディアの方々がヒューマンドラマを描いていただくので、ドラマでの分かりやすい題材となる。そうするとドライバーには注目が集まるので、影響力がある。

 チーム内に対しても同様で、ドライバーがどういうテンションでチームに参加し、どういう戦いをするかによって、メカニックのがんばりも普段の楽しさも変わると思う。そういった影響力のあるドライバーになることを期待したい。

自作PCにチャレンジしている脇阪監督、自動車のチューニングと自作PCには共通点が多い

──先週末(3月20日~21日)に行なわれたスーパー耐久に併催されていた86/BRZではオウルテックさんの“新人”レースクイーンが話題になっていた。2人がSUPER GTのレースに来る可能性はあるのか?

脇阪監督:検討中だ。いきなり連れてくると混乱するかもしれないので。ただ、オウルテックさんはそういう面白いことをやられるスポンサーさんで、人の笑顔を作りたいというスポンサーさんだ。

 僕なんかはトヨタで、サッカーチームといえば名古屋グランパスエイトなのだが、オウルテックさんは横浜F・マリノスのスポンサーをしている。マリノス開幕戦では「オウルテックデー」ということで土屋圭市さんと19号車の坂東監督と一緒にステージに上がってお話しをさせていただいたりした。そこに、ロニー・クインタレッリ選手や松田次生選手も来てくれて、とても面白いステージになった。普通はタブーなんだけど、そんなことは関係ないと。

 そうしたことをやれてサッカーファンのみなさまにモータースポーツを見ていただいたり、その逆にモータースポーツファンにサッカーを見ていただくために一肌脱ぐということなのだ。日産さんは大丈夫なのかとか僕らは心配してしまうけど、オウルテックさんは「そんなこと関係ない、みんなの笑顔が大事だ」とやっていただけるスポンサーさんなのだ。

 それでレースクイーンたちも、グラビアをやってきて、新しい展開を作るという中で、芸能界でもう一度羽ばたくきっかけになればいいと思ってやっている。みんなそれで笑顔になればいいではないかということで、これからもやれることをたくさんやりたいと思っている。

──脇阪監督のブログで自作PCに取り組んでいるということを話題にしていた。脇阪監督の自作PCについて教えてほしい。

脇阪監督:自作PCをやってみて感じたのは、クルマに似てるなということだ。昨年のコロナ禍の中で、ファンのみなさんにも情報がなくて寂しい思いをされている、自分たちでも何か少しでもやれることはないかと、バーチャルレーシングの取り組みを始めたのがきっかけだ。

 それで仲閒が増えて、その仲閒にいろいろ教えられたながら、もっともっといい配信ができないかと模索してきた。

脇阪寿一オフィシャルブログ「脇阪寿一の走らなあかん!」Powered by Ameba

https://ameblo.jp/juichi-wakisaka/

 仲閒と一緒にやっている中で、これは自動車でいうところのチューニングと同じだなと感じている。パーツを変えるとここがよくなるとか、そのパーツをどこから揃えていくのかなどを考えてやっていく。そうすると今度は無駄なところも出てくるし、1つバランスを間違えると、それが上手くいかなくなったりする。

 クルマ好きでチューニング好きな人はパソコンを触っても同じような喜びを得ることができるのではないかと思っていて、eモータースポーツ好きやパソコン好きな方と、モータースポーツのファン、そこの架け橋になれるのではないかと思っている。

eモータースポーツのハンドリングについて語る脇阪監督

──自作PCの組み立てはもう終わったのか?

脇阪監督:組み立ては終わってすでに動いている。ただ、最後の最後の設定(BIOS設定)に悩んだりとか、そういうことを仲閒に聞きながら楽しんでいる。今、eスポーツのコミュニティを作っていて、550名ぐらいが参加してくださっている。

 多分モータースポーツのeスポーツコミュニティとして最大だと思うが、そこで意見交換などをしている。初心者の人が来て、エキスパートの人が質問に答えたりとか、なかなか面白いコミュニティになっている。実際僕にも分からないことを聞いてきた方が、最後の方は逆に僕に教えてくれたりしながら楽しんでやっている。

──eモータースポーツのソフトウェアは何を使っているのか?

脇阪監督:iRacingだ。ハンドルからシートまで何から何まで取り寄せて、いろいろな人と検証したりしている。非常に面白いのは僕らリアルレーシングから来たレーサーと、元々バーチャルでやっていたゲーマーの方の視点の違いだ。僕らは「クルマを攻める」という言い方をする。攻めるというのは何かというと、ハンドルとペダル、そしてシートに接している背中から感じている。そうしてクルマの動きに反応しながらドライビングをしている。

 それに対してゲームで育ってきたみなさんは「攻略する」という。ここをこういうスピードで入っていったら、クルマがこうなるからと攻略する。プロレーサーが起きた現象に対して反応するというこれまでの習慣で染みついた壁を乗り越えられないことを、ゲーマーの方は軽々と乗り越えていく。そのアプローチの違いからコンマ何秒の違いがあって、レーサーはゲーマーに勝てない。

 実際、昨年ル・マン24時間レースのバーチャルレースがあったが、プロのレーサーとゲーマーが組んで参戦していて、最後の1時間ぐらいはどのチームもゲーマーだった。そういう、クルマを攻めたいレーサーと、レース攻略したいゲーマーの差というのがとても面白い。

 自分はそういうのを気にするタイプなので、そういう事例を1つひとつ作ってやってみている。レーサーとして速いのも、ゲーマーとして速いのも、お互いにリスペクトすべきだと思う。

 例えば、レーサーとしてリアルで速い人が上からモノを言ってるというところがあるのだが、リアルではこれだけできたかもしれないけども、そうじゃないと。徐々にリアルとバーチャルの差がなくなってきている現状の中で、それぞれがそれぞれをリスペクトしていくことが大事だと考えている。