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日本TI、EVの製造コスト削減を実現する「EV向けパワートレーン・インテグレーション」記者説明会
2021年5月18日 10:48
- 2021年5月17日 実施
EVに求められるパワートレーンのインテグレーションとは
日本TI(テキサス・インスツルメンツ)は5月17日、EV(電気自動車)向けパワートレーンのインテグレーション(統合)に関する記者説明会を行なった。
登壇したのはドイツでHEV(Hybrid Electric Vehicle)を担当しているというパワートレーン部門 ゼネラルマネージャのカール・ハインツ・スタインメッツ氏。まず「パワートレーン・インテグレーションは、EV分野でもっとトレンドで主流になっているジャンルの1つ」とあいさつ。また、現状でEVが普及できない理由として、購入価格がICE(内燃エンジン)の車両に対して1万2000ドル(1ドル110円で132万円)と高価なことと、航続距離の問題があると解説。
続けて、地域によって異なるがEVへの関心は徐々に高まっていて、EVを購入しようとしているユーザーは、日本では10%、ヨーロッパでは60%、中国では70%、アメリカは30%が「購入を検討している」と回答したというアンケート結果を紹介。そして、より消費者のEV購入を進めるためには、コスト的にも走行距離という点でもICEと匹敵させる性能を持たせる必要があり、「その解決策の1つが今日のテーマであるパワートレーン・インテグレーションにある」とスタインメッツ氏は言う。
EVのコスト削減方法としては、より設計をシンプル化させ、機能と安全を合理化しつつも信頼性も高め、走行距離を伸ばす。つまりシステム全体の効率を高めることが求められる。TIは現在、パワートレーンシステムを1つの筐体に収めることで設計をよりシンプルにし、部品点数を削減。同時にハードウェアもシンプルにできるため、コストを削減するだけでなく、部品点数が減ることで重量も体積も削減可能としている。これらの統合により、業界でもトップレベルの電力密度を実現させつつ、システム効率98%という高効率を達成できるという。また、安全レベルについても「ASIL(Automotive Safety Integrity Level、自動車安全水準)」規格でもっとも高い「D」ランクも効率的に獲得できるようになるとしている。
EVにおけるパワートレーンには「インバータ」「配電ユニット(PDU)」「高電圧DC/DCコンバータ」「オンボード・チャージャ」「BMS(バッテリ マネジメント システム)」などがあり、「2 in 1」や「3 in 1」あるいは「All in 1」など、組み合わせる中身や数はクライアントの求める要求によって異なる。もちろんインテグレーションする数が多いほど重量やコストの削減効果も大きくなるという。
また、HEVであれば、これらに「エンジンコントロール」や「トランスミッションコントロール」もプラスされ、より複雑ながらその効果も大きい。しかし「インテグレーションには“熱”という課題がある」とスタインメッツ氏は言い、この熱性能は重要な要素で、TIのソリューションを展開することで熱性能の最適化も図れるのが特徴としている。
TIではMCU(リアルタイム制御マイコン)のC2000シリーズの925MIPS(Million Instructions Per Second)とPWM(Pulse Width Modulation、パルス幅変調)によりシステム効率が増大、また、2.2MHzの高速スイッチングゲート・ドライバや保護回路を集積したGaN(窒化ガリウム)FET(電界効果トランジスタ)を使うことにより、磁気回路を従来よりも59%削減できたという。
このようなオンボード・チャージャやDC/DCコンバータを使うことで、1nsあたり150Vという高速の電力密度を実現することを可能とした。また、絶縁型ゲート・ドライバ「UCC587091」を使うことで、システムにおける電力密度を最大化できるという。これを達成するために、診断系など外部コンポーネントを省略化。このように統合されたソリューションを使うことで、パワーモジュールなどを省くことも可能という。さらに、温度センターの精度を高め、最高175℃の高精度温度測定が可能としたことで、より効率が向上したという。
EVの信頼性および性能の向上について
混在型の信号はC2000シリーズで実現していて、これらをサポートするためにオンチップのADC、コンパレータモジュールなどを使い、応答時間を30nsレベルまで高めている。これらを実現しているのは、「センシング」や「診断」「保護」「ステート・マシン」など先進的なメカニズムをCPUの関与があってもなくてもできるようにしているためだという。
さらにGaN FETの統合型デジタル温度レポート機能を使うことで、活発にパワーマネジメントをできるようになり、エンジニアはシステムの熱性能を最適化することができるとともに、より低いサーマルインピーダンス(熱抵抗値)を提供することで、エンジニアたちはGaN FETにより小さなヒートシンクを使うことができ、熱設計をもっとシンプルにすることができるという。
そして、GaN FET内部の過剰電流、過剰温度、過小電圧の保護を実現し、統合型のゲート・ドライバを使うことで、ディスクリート(個別半導体)に比べてBOM(Bills of materials、部品表)における品目を10個ほど減らせている。
絶縁型ゲート・ドライバを使うことで、短絡のトラブルから守り、ノイズの激しい環境でも200nsのもとでゲート・ドライバの堅牢性を保証しながら、CMTI(Common Mode Transient Immunity、相過渡電圧耐性)に関して150V/nsを超える状況を実現する。また、非常に強力なCMTIを使うことで通信をきちんと機能させることもできる。絶縁型ゲート・ドライバとフォルトデータ通信を通じて、さまざまな高電圧のノイズやスパイクなどに対処できるという。
そして、システムの信頼性を向上させるためにゲート・ドライバのデバイスは診断系や防御系も統合していて、より高い電力密度を実現でき、より強化されたシステムのために“熱損失”も最小限に抑制。この温度センサを通じてドリフト電流を無視できるような状態に抑えられるだけでなく、ディスクリートセンサでRTD(Resistance Temperature Detector、測温抵抗体)や熱を伝わらないようにする抵抗体NTC(Negative Temperature Coefficient Thermistor、サーミスタ)に比べてよりよい結果を生み出すことができるという。
システムのコストとサイズを半分に
スタインメッツ氏によると、TIではSiC(シリコンカーバイド)およびGaNベースのパワーマネジメントデバイスをマッチさせ、リアルタイムコントローラも使うことで最大切り替え周波数1MHzを達成し、これにより業界最速のリアルタイムコントロールループを実現。また、GaN FETを使うことでEVのオンボードチャージャ、あるいはDC/DCコンバータのサイズを最大50%までコンパクトにでき、さらに絶縁型ゲート・ドライバを使うことで50以上の安全メカニズム機能を統合してBOMも削減できるという。
スタインメッツ氏は「何よりも大切なのは搭乗者の安全性の確保で、それは複数のメカニズムを通じて実現するわけで、例えば短絡や過剰温度などが絶対に発生しないようしなければならない」と言う。仮にディスクリートのコンポーネンツを使い、安全性のためのメカニズムが統合されていなかった場合、相当大きなBOMに膨れ上がってしまうだけでなく、システムのコストが増大し、PCB(Printed Circuit Board、プリント基板)の占める面積も膨れ上がる。さらに、PCBの中にディスクリートが増えるほどシステム障害の確立が高まってしまう。つまりドライバーICの中のインテグレーションは、大きくシステムの信頼性を向上させることになる。
さらに、熱に関わるシステムを最適化することも小型化につながり、コストも削減できるという。より小さな温度センサがあれば、熱源の近くに配置できるし、熱応答時間の改善も図ることが可能になる。
TIは絶縁型ゲート・ドライバやマイコン(MCU)などをTÜV SÜD認定の開発プロセスを使って設計することで、クライアントにも機能安全の証明となる「ASIL D」を合理的に取得できるようにしている。また、安全性のためのメカニズムを確保するための機能機構と機能安全分析資料も提供し、クライアントは独自に開発することも可能だ。TIDM-02009のトラクション・ドライブおよびDC/DC制御のリファレンス・デザインなど、TÜV SÜDの評価をすでに得ている製品もある。
最後にスタインメッツ氏は「TIのパワートレーン・インテグレーションを使うことで、TÜV SÜDのレベルを達成でき、自動車メーカーは開発期間を短縮できるだけでなく、ISO 26262のASILの最高ランクDの取得に役立つ」とTI製品の優位性を語り発表会を締めくくった。