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ステランティスと台湾フォックスコン、合弁会社設立会見詳報 モバイルドライブはIVIなど製造

2021年5月18日(現地時間) 発表

ステランティス CEO カルロス・タバレス氏

 FCA(フィアット・クライスラー・オートモビルズN.V.)とグループPSA(プジョーS.A.)が対等合併してできた新しい自動車メーカーのステランティス(Stellantis N.V.)は5月18日(現地時間)、台湾のIT企業であるホンハイ・グループ傘下のフォックスコン(Foxconn Technology Group)との合弁会社「モバイルドライブ(Mobile Drive)」を設立することを発表した。同日、両社のCEOや担当者による記者会見が行なわれた。

 フォックスコンは、Apple iPhoneの受託製造などを請け負っているEMS(Electronics Manufacturing Service、電子機器の受託製造サービス)大手として知られており、スマートフォンやPCなどの電子機器を設計、製造することに長けているベンダーだ。

 今回の合弁会社ではフォックスコンから250のソフトウェアエンジニアが参加し、コクピットやIVI(In-Vehicle Infotainment system、日本で言うところのカーナビゲーションのこと)の開発を行なっていく。両社の議決権は50:50で、Mobile Driveはステランティス向けだけでなく、他の自動車メーカー向けにも製品を納入するティアワンの部品メーカーとなる。

 記者会見に参加したステランティス CEO(最高経営責任者)のカルロス・タバレス氏は、「今後われわれはソフトウェアの開発に注力し、自動車のライフサイクルを通じて機能をアップグレードしていく」と述べ、OTA(On The Air、インターネット回線などを通じて自動車のソフトウェアをアップデートすること)の仕組みを利用して機能をアップグレードしていくことで、自動車もスマートフォンと同じように機能を追加することを実現し、ユーザーの利便性やユーザー体験を向上させていくと述べた。

ステランティス車のソフトウェアは、今後ライフサイクルを通じてアップデートが提供され続けるように

 ステランティス CEO カルロス・タバレス氏は、「われわれは優れたユーザー体験を重視しており、それを実現するのがソフトウェアだ。このためソフトウェア開発に力を入れていく、これがステランティスにとってコア戦略となる。そのためフォックスコンと今回の取り組みを行なっていくことになった。2つの企業が協力して、インターネットに常時接続されたことを利用した新しい機能を提供していく。これはステランティスにとって長期的に取り組んでいかないといけないことで、2つの企業が合弁会社で協力してデジタルコクピットやIVIのソリューションなどを提供していく。これからのステランティスの自動車のソフトウェアは、自動車のライフサイクルを通じて機能をアップグレードしていくものになる」と述べ、自動車メーカーにとってソフトウェアが最も重要な差別化のポイントになりつつあり、ステランティスとしても積極的な投資を行なっており、そうした中でのフォックスコンとの提携であると強調した。

 今回ステランティスと合弁会社を作ることになったフォックスコンは、台湾のホンハイ・グループの主要子会社。ホンハイ・グループは、創業者のテリー・ゴー氏が立志伝中の人物として知られており、日本で言えばパナソニックを創業した松下幸之助氏のような人物と台湾では見られている。日本のシャープが経営危機に陥ったときに同社を買収したことでも知られており、家電やコンピュータといった電子機器産業では非常に重要な企業グループの1つと考えられている。

 フォックスコンは、そうしたホンハイ・グループの中でもEMSと呼ばれる電子機器の受託製造サービスを行なっている企業で、Appleや日本企業などがその製品の製造を委託する先となっている。AppleのiPhoneの製造を受託して製造していることでも知られている。つまり、そうしたスマートフォンやPCの設計、製造に長けており、ITのノウハウを自動車の世界に持ち込むには格好の協業先と言える。

フォックスコン CEO ヤンウェイ・リュー氏

 フォックスコン CEO ヤンウェイ・リュー氏は、「Mobile Driveが目指しているのはグローバルな自動車のデザインだ。ステランティスが自動車のノウハウを、フォックスコンがスマートデバイスのノウハウを提供して開発を一緒に行なっていく。そしてMobile Driveはステランティスだけでなく、他の企業にも製品を提供していく。このことはホンハイ・グループ CEOであるテリー・ゴーの肝入りでもある」と述べ、ホンハイ・グループのテリー・ゴー氏もこのプロジェクトを後押ししていると説明した。

スマートフォンのユーザー体験を自動車に持ち込む、パーソナライズやAIが重点開発ポイントに

ステランティス CSO(最高ソフトウェア責任者) イヴ・ボヌフォン氏(会見より筆者キャプチャー)

 会見ではステランティス CSO(最高ソフトウェア責任者) イヴ・ボヌフォン氏と、フォックスコンの子会社となるFIH Mobile CEO カルヴィン・チー氏が、両社の提携に関して具体的な説明を行なった。

3つの要素

 ステランティスのボヌフォン氏は「ソフトウェア開発には3つの重要な要素がある。それが優れたユーザー体験、AI、そしてソフトウェアを自動車のライフサイクルを通じてアップデートし続けられるというサービスだ」と述べ、Mobile Driveのソフトウェア開発の方向性として、ドライバーや乗客が使いやすいIVIやメーターなどのユーザーインターフェースの開発、自動車が走ることで作成されるデータを利用したAI、そして自動車の寿命が尽きるまでソフトウェアがずっとアップデートされるという「永久アップデート」が重要になると指摘した。

開発の方針

 その上で、「重要なことはパーソナライズだ。ユーザー1人ひとりに合わせてカスタマイズできないといけないし、スマートフォンで使えるサービスは自動車でも使えるようにする必要がある。そしてオープンなシステムで、どのレンジの自動車でも使えるようにスケーブルである必要がある。また、生体認証を利用してパーソナライズできるようにしたり、AIの機能を利用してカスタマーアシスタントとしても利用できるようになる。さらに、サービスやメンテナンスの情報もインターネットを通じてディーラーと共有できるようにする必要がある」とし、Mobile Driveではそうした機能を実現するソフトウェアを開発していくと述べた。また、このMobile Driveで開発したソフトウェアは、ステランティスが多数持つブランドのすべてで利用できるようにする計画だとも説明した。

合弁会社の説明

 そうした合弁会社となるMobile Driveは、「製品はステランティスだけでなく、他の自動車メーカーにも製品を提供するティアワンの部品メーカーとなる。議決権は50:50で、ステランティスは自動車の経験を、フォックスコンはモバイルインターネットデバイスの経験を持ち寄って開発を始める。すでに250のソフトウェアエンジニアがプロジェクトに参画しており、開発は始まっている」と述べ、Mobile Driveがティアワンの部品メーカーとして他社にも供給していく企業になることを強調した。

FIH Mobile CEO カルヴィン・チー氏

 また、FIH Mobileのチー氏は「ステランティスはグローバルに自動車を提供しており、その100年にわたる経験がある。フォックスコンは長年にわたる製品開発の経験があり、ソフトウェア開発に長けている。その両者の強みを持ち合って作るのが今回の合弁会社になる。目指しているところはパーソナライズと、地域の特徴に合わせたソフトウェア開発だ」と述べた。また、そうしたIT機器ではサイバーセキュリティと呼ばれる悪意を持つ侵入者による攻撃が脅威になっているが、そうした脅威にも対処できるようなソフトウェア開発を目指すと説明した。

2つの会社が強みを持ち寄る
注力分野
デジタルコクピットやIVIの開発が注力分野

 さらにチー氏は「スマートフォンなどのデジタルを中心としたライフスタイルと、自動車を中心としたライフスタイルの融合を目指す」と述べ、スマートフォンのユーザー体験を自動車に持ち込み、自動車がまるでスマートフォンのようになる世界を目指していくと説明した。