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ホンダ、渋滞解消に向けた「旅行時間表示サービス」説明会 ホンダ車以外でもメリットを享受できるサービスとは?
2021年8月21日 14:27
- 2021年8月19日 実施
車両から上がってくるデータにより、渋滞や事故など社会的課題を解決するデータ活用サービス
本田技研工業は8月19日、ホンダ車から得られた走行データなどを元に渋滞解消のソリューションを自治体などに提供する「旅行時間表示サービス」を8月に提供開始したことを明らかにした。
ホンダは「Honda CONNECT」や「インターナビ」などの携帯電話回線を通じたインターネット経由で車載器などに渋滞情報の配信サービスなどを行なっているが、そのサービスの裏側では車載器から得られた各種の情報をユーザーから同意を得て個人情報などを使わない形で取得した上でビッグデータ化し、それを元によりリアルタイムな渋滞情報などをユーザーに提供している。ホンダでは、そうしたユーザーにより安価にサービスを提供できるように、そうしたデータの外販や利活用を推進しており、今回発表された「旅行時間表示サービス」もそうした取り組みの1つとなる。
ホンダによれば実際に道路を走っているホンダ車からアップロードされるデータを元に、複数のルート、それぞれの所要時間を計算し、それを道路に設置する表示機に表示することで、渋滞している道を走っている車両のドライバーに対して道路選択の変更を促すことで、渋滞解消を目指す。既に栃木県が昨年の秋に導入し、実際に渋滞解消の効果があったという。
モビリティサービス事業本部 コネクテッド事業統括部 福森穣氏は、ホンダがこうした車両から上がってくるデータの利活用に関して古くから取り組んできたという歴史を紹介した。
続けて福森氏は「ホンダは1981年に世界で初めてカーナビゲーションシステムの市販化を始めてからさまざまなサービスを展開してきた。現在日本中を走っている、370万台の車両からデータが日々上がってくる。それを購入したいという自治体や企業向けに新ビジネスを展開し、渋滞などの社会的課題を解決していきたい」と述べ、ホンダの車両から日々上がってくるさまざまなデータを活用することで、渋滞などの社会的課題を解決していきたいと説明した。
ホンダが販売している車両には「Honda CONNECT」や「インターナビ」などのインターネット経由でさまざまなサービスを受けられる機能が、標準またはオプションとして用意されている。例えば最新のHonda Connectの場合には、メーカーオプションの車載情報システムに用意されており、購入後1年間は無料で、その後は有料で利用することができる。
そうしたサービスの代表例が「プルーブ情報」またはフローティングカーデータ(FCD)とも呼ばれる、クルマに搭載されているさまざまなセンサーから上がってくる情報のうちプライバシーに関わる情報を省いたデータを、自動車メーカーなどが集中管理するサーバーにアップロードし、それによりリアルタイムの渋滞状況の通知などに役立てる仕組みだ。こうした仕組みは何も自動車だけでなく、スマートフォンの地図アプリなどにも同様の機能が用意されており、例えば速度が速い端末を自動車として認識して、渋滞情報として活用する、そういう使われ方が一般的だ。そうした一種の集合知と言えるデータをIT業界では「ビッグデータ」と呼んでおり、そうしたビッグデータとAI(人工知能)を組み合わせることで、新しいサービスの創出などが行なわれている。
ホンダではこのような取り組みを古くから行なっており、福森氏によれば「2007年に埼玉県と共同で急ブレーキ多発箇所などを抽出し、それを元に現地での原因の調査や原因分析を行なった。それを元に対策した結果、急ブレーキが3分の1に減るなどの効果を得た」という取り組みなどがよく知られているほか、NEXCO中日本とは、車両が穴を乗り越えたときにガタガタするのなどを検知し、どこに穴があるのかを調べて道路管理者に通知し、早く修復するなどの取り組みも行なわれている。また、2011年の東日本大震災の時にはそうしたプルーブ情報を元に、どこを自動車が通れたのかをGoogleマップ上に重ねて表示するなどの取り組みが行なわれている。
福森氏によればそうしたデータの活用は都市計画にも生かされており、調査員による交通量調査などでは分からない、車両の出発地点と到着地点、走行ルート、通過台数、速度や時間などのデータを活用すると、なぜ渋滞が発生しているのかなどを説明することができ、例えば新しいバイパスを作る時にその建設の有益性を科学的に説明できるとした。また、緊急事態宣言前と宣言後に自動車の動きがどう変わったかなども、プルーブ情報からさまざまなことが分かると説明した。
ホンダのデータの特徴としては情報量が多く日本全国を網羅していること、車載のセンサーからの情報と併せての利用、GPSや電波状況に依存しない正確なデータであること、個人情報は含まれないこと、2010年以降であれば過去のデータも提供できることなどを挙げた。
その上で「こうしたデータを上手く活用することで渋滞や事故削減などの社会的課題を解決していきたい。そのために新しいサービスを発表したい」と述べ、今後もホンダが持つデータ資産を上手く活用することで社会が抱える課題を解決していきたいとした。
すべての車両にメリットがあり、低コストや高速道路以外の一般道でも渋滞という社会課題を解決できる
モビリティサービス事業本部 コネクテッド事業統括部 船越允維氏は、ホンダが8月からサービスインしている「旅行時間表示サービス」に関しての具体的な説明を行なった。
船越氏によれば今回の「旅行時間表示サービス」は、ホンダ車から取得したデータを元に、渋滞路と迂回路など複数のルートの所要時間などを、道路脇などに置くことができる「表示機」に表示する。それによりそれを見たドライバーが、ナビは渋滞している道のルートを引いているが、迂回路に行ってみようというモチベーションとなり、多くのドライバーがそうした選択をすることで渋滞が解消するという仕組みだという。車両側にこのサービス特有の受信装置などは必要なく、道路脇に表示機さえ置ければ利用することができるため、ホンダ車以外でもサービスのメリットを享受できる。
前出の福森氏によれば、基本的には高速道路などに設置されている電子掲示板に表示されている「○○○まで何分」というものと基本的な仕組みは一緒だという。しかし、高速道路のそれは高速道路しか対象ではないのに対して、ホンダのサービスでは表示機が設置できる道路であればどこでも利用可能(つまり高速道路だろうが、一般道路であろうが利用可能)なこと、また高速道路のそれは道路にインフラ(例えばビーコン設備など)が必要なのに対して、ホンダの場合は車載器からのデータをインターネット経由で受け取るので道路上のインフラが必要ないことなどが大きな違いになっており、設置コストは圧倒的に低くすむという。
実際かかるコストは表示機のリース料とサービス利用料程度で、具体的な例で言うと、表示機のリースは45万円/月(それもパッケージによって変わり、あくまで標準的な価格モデル)と決して高くない。仮に道路にビーコンや表示機の常設などをしようとすると、コストは膨大(それこそ数千万円から億の単位)になることを考えれば圧倒的に安価にサービスを利用できるといえる。また、イベントの時だけに設置するなどの使い方も可能で、例えば花火大会、野外音楽イベントといった特定の時期だけに発生するイベント時だけこうしたシステムで渋滞を解消したいというニーズにも応えられるという。
船越氏によれば「道路の管理単位(リンク)を決め、そこを走った車両のデータから過去30分間の平均旅行時間をサーバーで計算する。そしてその時間を積算して旅行時間をだし、サーバーから表示機に表示データを送信することでドライバーに伝える」とのことで、予測ではなく過去30分の事実をドライバーに伝えることでドライバー自身が判断することを促す仕組みだという。
このシステムを利用した具体的な事例として栃木県で行なわれた例が紹介され、昨年秋の紅葉シーズンに日光街道(国道119号線)を走る車両に、日光今一線、そして臨時駐車場へと迂回させる実証実験が紹介された。昨年の秋というとCOVID-19の影響で車両が減ってるかもしれないという懸念もあったため、交通量も調べたところ一昨年比で96%とあまり減っていなかったという。
そしてこのシステムを設置した結果としては、ピーク時となる日曜日同士の比較で、最大旅行時間は50%減、平均旅行時間も50%減と渋滞の解消に大きな効果があることが分かったという。今回の栃木県の事例では、この紅葉の時期にだけ置かれていたということで、そうしたイベントの時期だけに設置するという使い方でも渋滞削減に大きな効果が得られることが分かったということだ。
船越氏は「2021年秋より複数の導入計画を予定している。このシステムであれば、従来は大きな設備投資が必要だった渋滞対策を低コストで手軽に実現することができる。社会課題と解決に今後も取り組んでいきたい」と述べ、今後も社会問題の解決に知るようなデータの利活用サービスを提供していきたいと強調した。