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水素カローラが「KAWASAKI」ステッカーを貼って鈴鹿に登場 褐炭水素ミックスで走るほか、液化水素カローラへ進化の可能性も

鈴鹿の日立アステモシケインを走る32号車 カローラH2コンセプト

 9月18日~19日、鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)でスーパー耐久シリーズ2021 Powered by Hankookの第5戦が開催される。台風14号接近に伴い18日土曜日のスケジュールは午前中のセッションが中止、午後からの予選もスタート時刻を遅らせて開催される予定だ。

 このスーパー耐久第5戦にも、ルーキーレーシングはトヨタ自動車から委託を受けて水素燃焼エンジンを搭載する「カローラH2コンセプト」(以下、水素カローラ)をエントリー。16日の練習走行に参加していた。

 すでに大きな話題となっている水素カローラだが、その特徴は水素で発電して走る燃料電池車(FCEV)である新型「ミライ」と同じ燃料(圧縮水素)を用いながら、その水素を「GRヤリス」ベースのエンジンで直接燃やして走ることにある。

 新型ミライもカーボンニュートラルを達成していくために必要なクルマとして期待されているが、同じ燃料を用いることができるなら、水素カローラもカーボンニュートラル車として未来の選択肢に入ってくることになるわけだ。さらに、この水素カローラでのエンジンの変更点は、燃料噴射などの部分となっており、ガソリンエンジンで動く既存車のカーボンニュートラル化という未来にもつながってくる。

 ただ、これはとても楽観的なシナリオで、実際には水素燃焼の問題、燃費の問題、ガソリンよりもエネルギー体積密度に大幅に劣る圧縮空気を用いる問題など解決すべき点も多い。その問題点をスーパー耐久という耐久レースの場を使って洗い出し、レースごとにカイゼンしていこうとしているのがルーキーレーシング、そしてトヨタの挑戦となる。

カイゼンに次ぐカイゼンで、進化を続ける水素カローラ

 カーボンニュートラルの選択肢を広げる水素カローラでの挑戦は、トヨタ自動車 代表取締役社長 豊田章男氏とGAZOO Racing Company President 佐藤恒治氏が出席した4月22日のオンライン会見で発表。5月21日~23日に開催される富士24時間レースへの参戦が明らかにされた。

モリゾウ選手こと豊田章男社長は、なぜ水素エンジン車で24時間レースに挑むのか? すべてのエンジン技術者へのメッセージ

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1320702.html

 佐藤GRプレジデントによると、この時点で水素燃焼エンジンは24時間のベンチテストが終わっておらず、豊田社長が「びびっと」きて急遽参戦することになったと語っていた。

 水素なので「爆発するのでは?」とか、「本当に24時間走りきれるのか」と心配された水素カローラだったが、結果はマイナートラブルがいくつかあったものの無事完走。リタイアするクルマも出る中、水素エンジンの信頼性を実証して見せた。「爆発するのでは?」という疑問も当然あったが、逆にいうと爆発するくらいの大きなエネルギーを持っていないと、燃料としては使えない。ガソリンだって爆発するし、リチウムイオン電池だって爆発する。問題はそのエネルギーをコントロールする技術が手の内に入っているかいないかということにある。トヨタはすでに新型ミライで圧縮水素の保存などには量産車レベルでの知見があり、新型ミライのコンポーネントを多数転用することで安全な水素供給を実現していた。

 しかしながら、明らかな問題点もあった。それは航続距離の短さと給水素時間の長さだろう。給水素時間の長さについては、富士24時間レースの最中に作業のムダを見直すことでカイゼン、時間短縮に成功していた。さらに8月1日に行なわれたオートポリス戦では給水素の部分を見直すことで40%時間短縮。驚異的なスピードで給水素の時間短縮を実現しつつある。

24時間レース中にカイゼンされた水素カローラの「給水素」

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1341119.html

水素カローラは、15%トルクアップと給水素時間40%短縮のアップデートでオートポリス参戦

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1341442.html

鈴鹿でのアップデートは?

 鈴鹿でのアップデートとして佐藤GRプレジデントが明確に示していたのが、水素エンジンのパワーアップ。オートポリス戦での水素エンジンは、富士24時間のバージョンに対して信頼性を上げながら15%のトルクアップ。最高速の向上やレスポンスアップを図り、5時間と短くなったとはいえオートポリスも無事に完走した。

 佐藤GRプレジデントは鈴鹿ではガソリンエンジン並みに引き上げるとオートポリスで語っており、GRヤリスの最高出力200kW(272PS)、最大トルク370Nm(37.7kgfm)並みに引き上げられたかに注目が集まるだろう。

 また、給水素時間についても水素充填口をデュアルにしたことでさらに高速にした模様。これについては、予選時などに詳細が分かるかもしれない。

 航続距離について佐藤GRプレジデントはオートポリスで示唆的なことを話していた。航続距離については「極端なことをいうと、タンクを多く積めば航続距離は伸びるんです」といい、タンクの大きさと燃料消費率改善の両方の視点から考えることが大切だという。

 ただ、気体の圧縮水素を用いる限り、これ以上のタンクの増加は非現実的。それを解決する手段としては、気体の水素ではなく液体の水素、つまりマイナス253℃の液化水素を用いる方法が考えられるという。

「気体の水素の持っている体積当たりのエネルギー密度は、やはり液体に対して、ガソリンに対して1/10とか1/11になる。同じ体積なら、持っているエネルギー量は気体の水素は圧倒的に小さいのです」「エンジニアとして正しいと思ってしゃべっているのですが、何らトヨタとして検証ができているわけではありません。でも、やるのであれば液化水素を使うのが現実的だと思います」(佐藤GRプレジデント)。

 トヨタとして何か決まっているわけではないとしつつも、液化水素を使う「液化水素カローラ?」というものが、水素カローラ開発の先にあることを示唆していた。

水素の「つくる」「はこぶ」「つかう」で川崎重工が仲間に

 豊田社長は水素カローラの挑戦の中で、水素の「つくる」「はこぶ」「つかう」を見てもらいたいと発言している。「つかう」は富士の24時間レースで実現、「つくる」はオートポリスのときに大林組が地熱から作った水素を使って実現した。そして、今回の鈴鹿でテーマに挙げられていたのが「はこぶ」になる。

 この「はこぶ」はオートポリスの記者会見にも参加していた川崎重工が担当(現在、オートポリスは川崎重工が運営している)。川崎重工や富士24時間での水素供給を担当した岩谷産業が加わっているHySTRA(技術研究組合 CO2フリー水素サプライチェーン推進機構)が実現しようとしているオーストラリアから液化水素サプライチェーンをアピールしていく。

 川崎重工が世界で初めて実現した液化水素輸送船「すいそ ふろんてぃあ」が将来的に運ぶ予定の、オーストラリアの褐炭由来の水素を使用する。すいそ ふろんてぃあが実際に液化水素を日本に運べるようになるのは10月以降となるため、今回は褐炭水素由来の水素を岩谷産業が空輸、FH2Rの水素と混合して使用する。

HySTRA、液化水素のサプライチェーンを解説 プロジェクトリーダーである川崎重工の西村元彦氏らが取り組みを語る

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1351846.html

 HySTRAによると、将来的にはすいそ ふろんてぃあで運んだ水素を、港湾施設の液化水素タンクに保存。その横には水素で発電する施設を作るなどして効率的な水素サプライチェーンを築くことが可能だという。

 こうした水素を「はこぶ」という取り組みがクローズアップされるのが鈴鹿のスーパー耐久になる。そのため、鈴鹿戦の水素カローラには「KAWASAKI」のステッカーを貼ったと豊田章男氏はいう。

 トヨタといえば、二輪ではヤマハ発動機と資本関係にあり、とくにエンジンなどは歴史的に共同開発を行なってきた間柄。しかしながら、水素という軸で捉えると、トヨタの未来の担うクルマに「KAWASAKI」のステッカー(しかも、フライングK付き!!)が貼られてしまうという衝撃。高校生時代にKR250やTZR250を乗り継いだ記者としては、2018年の鈴鹿8耐でヤマハ vs. カワサキの戦いを見たものとしては、トヨタのクルマにカワサキのステッカーが貼られて鈴鹿を走るとか、混乱の極み(それほどでもないですが)とも言える。

カローラH2コンセプトのフロント部に貼られた「KAWASAKI」ステッカー。フライングKもでかでかと

【鈴鹿8耐 2019】カワサキワークスの10号車「Kawasaki Racing Team」が暫定優勝

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1198654.html

 それほど衝撃の仲間作りをしながら進めないと、水素の時代はやってこないのかもしれない。川崎重工と仲間になった鈴鹿での水素カローラはどこが進化したのか、そしてどこへ進化していこうとしているのか。スーパー耐久の鈴鹿戦に注目していただきたい。