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MBD開発推進センター、マツダ 人見氏がステアリングコミッティ委員長に モデルベース開発は「道具は同じものを使って、競争はその使い方でやればいい」

2021年9月24日 発表

ステアリングコミッティ委員長 人見光夫氏

MBD(モデルベース開発)推進センター正式発表

 9月24日に発足発表が行なわれた「MBD(モデルベース開発)推進センター」。正式な発足日は2021年7月9日、英語名はJapan Automotive Model-Based Engineering center(略称:JAMBE)で、国内自動車メーカー5社(スバル、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、マツダ)と、サプライヤー5社(アイシン、ジヤトコ、デンソー、パナソニック、三菱電機)が運営企業となっている。正会員、パートナー会員も数多く、日本のクルマ作りを担う会社が名を連ねている。

 このMBD推進センターのステアリングコミッティ委員長に就任したのが、マツダ シニアイノベーションフェローの人見光夫氏。人見委員長ら各ステアリングコミッティが参加しての設立会見がオンラインで行なわれた。

MBD推進センターのステアリングコミッティ

ステアリングコミッティ委員長はマツダの人見氏

MBDとは?

 人見委員長は、モデルベース開発というものに対して「モデルにするのは何のためかということです。一度やった仕事は、数式にして、次からは自分もまた同じ苦労をしなくてすむように、ほかの人も同じことをしなくてすむようにするためと理解していただけたらいいんじゃないかと思ってます」と語る。

「三角形の面積を測るという仕事があった場合、毎回方眼紙を当ててマス目を数えるかということです。この公式を編み出せば、次からは自分もあっという間に面積が分かります。ほかの人にも使えるようになります。料理で例えるならおいしいものができたときにはそれをレシピへとして残すようなものだというふうに理解していただいたら分かりやすいんじゃないかと思います」。

「レシピ、これも一つのモデルです。モデルとは模範という意味もありますのでそういうものだと思ってください。技術要素は、モデルにする数式にするとコンピュータで扱えるようになります。そうすると非常に早く検討が進む」。

 このモデルベース開発はモデルというものを作って共通化すれば、各社の開発が早く進むと人見委員長は語る。気になるのは、すべて数式(モデル)として定義されてしまうと、各社の強みや秘密などが可視化されてしまうのではないかということ。

 これについて人見委員長は、「道具は同じものを使って、競争はその使い方でやればいい」という。また、広島東洋カープファンとしても知られる人見氏だけに野球にも例え、「イチロー選手と同じバットやボール持ったらみんな同じように活躍ができるかというとできません。使い方やその人の能力はもう会社の競争の領域ですから、そこまで一緒にするというわけでは決してありません」とも語る。カープファンであるならば、なぜ、鈴木誠也選手ではなくイチロー選手? という疑問は残るが、グローバルの活躍となるとイチロー選手となるのだろう。

 問題はこのモデルベース開発において、どこまでの粒度でモデル化されるのか、どこまでをMBD開発推進センターで定義していくかにある。その点について質問のために手を上げたが時間切れとなったので、以下はいくつかの発言から推測での記事とする(その後、事務局から回答が得られたので、記事末に追記)。

 1つのヒントは、「燃費が計算できるモデル」にある。会見では、「モデルベースの教育、そしてモデルガイドラインの提供、燃費検討できる車両シミュレーションモデル」など、燃費が計算できる程度のモデル化は目指していることになる。

 また、発言ではトランスミッションとパワートレーンの接続などの話も出ており、たとえばトランスミッションを塊としてモデル化することで、自動車会社は燃費検討がしやすくなる。燃費を検討する上ではトランスミッションの中の精密な仕組みの設計図までを入手する必要はなく、重さや効率、接続部位などがモデル化されていれば、クルマの設計に盛り込んでいける。

 燃費にはタイヤも大きな要素となるが、たとえば非常に精密なモデルベース開発が進んでいるタイヤにしても、転がり抵抗や大きさなどをクルマ側で受け取る(タイヤの大きさはギヤ比と同じ)ことができれば、タイヤの分子構造までは公開しなくてもよいといった感じだろう。

コンピュータシミュレーションをフル活用するダンロップのタイヤ開発/大規模分子シミュレーションによって高性能タイヤを製品化

https://car.watch.impress.co.jp/docs/special/610831.html

 このMBD推進センターは、オープンイノベーションを採り入れるとのことなので、今後、設立の背景となった官や産業界だけでなく、学といった大学との連携も視野に入れている。参加団体が増えていく段階で、海外のグローバルサプライヤーや外国の自動車メーカーの参加についても、いずれ明らかになっていくものと思われる(その後、事務局から回答が得られたので、記事末に追記)。

 10月8日はMBD推進センターの概要、会員制度、MBD・モデル流通の実践事例について説明する「MBD推進センター」発足記念オンラインフォーラムが開催される。気になる方はJAMBE公式サイトの案内を確認のこと。

MBD推進センター

https://www.jambe.jp/

関係者すべてが同じ会社のごとくつながって仕事ができるようになる

※16時40分追記

 その後、事務局とやりとりして、分かった部分について追記しておく。海外メーカーなどの参加については、「開発や製造拠点が日本にあること」とのこと。10月8日に開催される「MBD推進センター」発足記念オンラインフォーラムで、参加などについての方法が説明されていく。

 また、モデルベース化の粒度については、トランスミッションなどの大きなものも含むが、燃焼モデルのような小さなものも対象としている。ガソリンエンジンの燃焼モデルのようなものがあれば、各社はシリンダーヘッドやピストンヘッドなどを設計し、その燃焼モデルを適用すれば開発が容易になる。解析の難しい物理法則をモデルベース化し、各社はそれを使って計算すればより早く開発が進むし、開発時間はコストなので大幅なコスト低減に結びつく。アイディアの勝負になってくるわけだ。