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今後のクルマ作りに欠かせない「モデルベース」を紹介するメディアブリーフィング

人とくるまのテクノロジー展 2019 名古屋で坂本秀行会長が解説

2019年7月17日 開催

「人とくるまのテクノロジー展 2019 名古屋」で行なわれたメディアブリーフィングの様子

 愛知県名古屋市にあるポートメッセ名古屋(名古屋市国際展示場)で7月17日~19日、自動車技術会が主催する自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展 2019 名古屋」が開催されている。この展示会ではブースでの展示に加え、自動車技術会 会長の坂本秀行氏によるメディアブリーフィングも行なわれたので、本稿ではその内容を紹介する。

 ブリーフィングでは自動車技術会の活動とこれからの自動車技術の読み解きについて坂本会長から語られた。また、総務担当理事 展示会企画会議議長の豊増俊一氏と、常任理事の東雄一氏も列座していた。

公益社団法人自動車技術会 会長(日産自動車株式会社 執行役副社長 日産生産・SCM担当)の坂本秀行氏
公益社団法人自動車技術会 総務担当理事 展示会企画会議議長(日産自動車株式会社 フェロー 電子・メカトロニクス車両開発担当)の豊増俊一氏
公益社団法人自動車技術会 常任理事の東雄一氏

 坂本会長は「まずは自動車技術会について少し紹介させていただきます。自動車技術会は5万人を超えるメンバーがいて、半数くらいが自動車メーカー、自動車用部品メーカーに所属しています。残りの半数の方々は官や大学、そして電機など自動車以外のメーカーの方です。このように多様なメンバーによって構成されている日本最大の学会なのです」と組織の解説を行なった。

 続いて活動内容だが「開催している『人とくるまのテクノロジー展』は自動車や部品、計測などいろいろなメーカーの方が集まっていて、それぞれの成果を持ち寄っています。そしてその内容を議論できる場となっています。会の開催趣旨もまさにそこにあります。さらに春と秋には専門技術者同士が議論できるハイレベルな会も行なっています」と代表的な活動を紹介した。

自動車技術会の活動を紹介するスライド。自動車技術会は5万人以上のメンバーから成る日本最大の学会
そのほかにも自動車技術会のコアとなる活動がある。これは子供を対象にした「キッズエンジニア2019」の紹介。8月7日~8日にポートメッセ名古屋で開催
クルマの基本的な設計や設計の独自性、コストなどを審査し、実際の走行でタイムも競い合う学生フォーミュラの日本大会。こちらは8月27日~31日に期間に静岡県のエコパで開催される
坂本会長の解説にも出た学術講演会。今年は10月9日~11日に2019年秋季大会を開催する
2018年から開始した新しい試みが「自動運転AIチャレンジ」。大学生を中心にコンテストを行なっている。今年も開催するが日程などは未定

 続いて昨今の技術の解説。坂本会長が取り上げたのは「モデルベース」という開発技術についてだ。

 坂本会長は「モデルベースはいろいろなところで話題になっていて、経済産業省も推進しているものです。そして自動車技術会も重要な活動として捉えています。では、なぜこれをやっているかということですが、いろいろな研究者や技術者が自分が考えた技術や研究成果、さらにサプライヤーの方が『この部品が自動車にどのように役に立つか?』ということを試せる環境を作るためです。これまで、そういったことがあっても自動車メーカーに実験を依頼するしかなく、道のりが長いものになっていたのですが、モデルベースがあると自分の持っているアイデアや技術、研究成果、部品をその場ですぐに試せるです。これはある意味革命です」と切り出した。

メディアブリーフィングのメインはモデルベースの解説

 そして「われわれはいろいろな分野の技術が自動車を通じて交わることで化学反応を起こすことを推進していますので、モデルベースはそのために必要な大きなソリューションだと思っています」と語った。

 次はモデルベースとは? という話だ。坂本会長はこのことについて「この現実の世界とは別に、もう1つのバーチャルな世界をイメージしてください。そのバーチャルな世界でクルマが動く、これこそがモデルベースの世界です。このバーチャルの世界で重要になるのが、まず制御工学で『プラントモデル』と呼ばれる制御対象です。これは動くものを指します。燃料を入れると動くエンジンや電気を通すと動くモーター、そしてサスペンションなども含まれます。もう1つは『制御モデル』というものです。こちらはアクセルを踏んだときにドライバーが期待するのと同じ出力を出したり、ブレーキを踏んだりしたときもどれくらいの制動を入れるかなど、いろいろなことを決める頭脳です」と説明した。

モデルベースの解説。制御対象とはバーチャルな世界で動くクルマ。制御モデルとは頭脳のこと。スライド中の用語と記事の用語に違う点があるが、記事では坂本会長の使った言葉を優先している
モデルとは、ある現象の仕組みに近似したもので、タイヤが受ける衝撃が耳に音として伝わる仕組みが例に挙げられた。タイヤが路面から受ける衝撃、タイヤのたわみ、サスペンションの動き、内装の動きなどを数学的に表現する

 ここまでの説明でもモデルベースの世界を作るのは大変であると伝わってくるが、さらに坂本会長は「クルマが動く道には歩行者もいるし、植木もあるし、坂もあるなど『交通流モデル』も必要になります。これらを全部そろえて壮大なバーチャル世界を作るのがモデルの世界になります」と付け加えた。

「大変なことですが、こうした世界ができてしまうともうお分かりのように、安全なバーチャルの世界で実験ができるのです。それにこの世界では人が作ったクルマに自分の研究を乗せることも可能になって、結果を見て感じることができるんですね」と続け、モデルベースの活用法も伝えた。

ステアリングを切るとタイヤに舵角が付く、エンジンにガソリンと空気を混ぜるとある出力が出るなどのモデルを、現実のクルマと同じく1つずつ作っていくので膨大な量のモデルが必要になる。それを全部合わせるとバーチャルな世界のクルマになる
制御対象と制御モデルを組み合わせ、コンピュータでシミュレーションする。このときにはクルマの速度設定(変化を含む)もモデルとして用意する。それらを合わせて1つの機能とする

 クルマのモデルをバーチャルな世界で走らせるときは、周囲のクルマなどの環境もモデルで作る必要がある。

 このことに関しては「自動運転の開発でモデルを使います。頭脳の部分でクルマを動かしているなかで、例えば高速道路の合流に差し掛かったとします。ここでは本線を走るクルマの動きに速いもの、遅いもの、さらに前に入られないよう加速して来るものなどいくつものパターンを設定し、そこでわれわれが作った自動運転の制御系が上手く機能するのかということを実験します。それと新しいアルゴリズムを使ったAIを使うとどんなふうに機能するのかも試せるのです。今の開発現場ではこういうことをドンドンやってます」と坂本会長は語った。

環境からクルマの挙動まで評価できるシミュレーションが可能になる
実車での実験も行なっているが、危険なことはバーチャルな世界で試せる。この段階でかなりのレベルに仕上げていけるという
システムが運転しているときに人が介入するとどうなるかを実験するシミュレーション装置。モデルのなかに本物の人間を組み入れるというイメージ。球体のなかに実際にクルマが入るとのこと
経済産業省もこういった活動を支援しているとのこと

 さて、そのような使い方ができるモデルベースだが、モデルを作るには専門的な知識が必要なので、それぞれのメーカーが得意とする分野のモデルを作ることになる。ここで大事なのは各社が作ったモデル同士を組み合わせるときに問題がないことである。そのため流通モデルには統一されたモデリング言語が必要となり、ここは自動車技術会が取り組むところであるとのこと。そのように作られたモデルがまとめて管理され、関係する人が使えるようにしておくと、サプライヤーや大学の人でも自動車の実験ができるようになる。

 このように、モデルベースの利用が可能な世界になることで、自動車の開発はこれまでとは違う進化が期待できるという。

モデルベースの世界に対する自動車技術会の貢献について
モデルベースは2011年から作ってきているので、現在はかなりの数のモデルベースがある。坂本会長の見解では、トヨタ系の企業が強力に推進しているという
電動パワーステアリングのモデルベース

 このような内容のメディアブリーフィングだった。モデルベースという用語は、運転支援機能や自動運転技術の記事でも出てくると思うので、ここで概要を確認していただければ幸いだ。また、自動車技術会という団体が自動車業界を強力にサポートしていることもお伝えできたと思う。