ニュース

藤島知子の“女性同士のガチバトル”競争女子「KYOJO CUP」レポート

第11回:3か月半ぶりに富士に戻ってニューシャシーで挑むレース。決勝は波乱の雨!?

富士スピードウェイで3か月半ぶりのレースが開幕

 9月26日、KYOJO CUP SUPPORTED BY MUSEE PLUTINUM 第3戦が富士スピードウェイで開催された。

 富士スピードウェイは東京オリンピック・パラリンピックの自転車競技の会場となった影響で、6月上旬に開催された開幕戦以降、スポーツ走行ができない状況。全ての参加者はレースウィークの金曜日になって、ようやく3か月半ぶりに走行が解禁された。

 私がハンドルを握るENEOS号は今回のレースから新しいシャシー(車体骨格と足まわりのほか、エンジン、トランスミッションなどを一新)を導入してもらうことに。ニューシャシーとなれば、4年以上にわたって戦い続けてきた個体と比べると、新しく組み上げたものであるぶんメリットは大きいはずだが、ほとんどテストができない状況でレースウィークを迎えてしまったため、実質1日で調整を行なわなければならない状況だった。

今回のレースから、車体骨格や足まわり、エンジン、トランスミッションなどを一新した新しいシャシーを導入

 というのも、レーシングカーというものは不思議なもので、設計自体は同じであっても、これまでのシャシーに自分のドライビングポジションを合わせて発泡ウレタンで型取りをしたシートをはめ込んで座ってみても、ペダルのタッチやステアリングホイールの距離が違っていると感じる。ドライビングの基本フォームとなる運転姿勢が不自然になると、マシンの挙動を体で感じ取れず、本来行なうべき運転操作ができない。ドライバーの判断や操作がわずかに遅れてしまえば、マシンの挙動を乱すことに繋がるため、ドライバーとしては妥協できない部分だ。チームのメカニックに相談し、ハンドルが遠いことに関しては、スペーサーを噛ませて調節してもらうことができた。

同じ設計のマシンであっても、なんとなく違いを感じる。ハンドルが遠いことに関しては、スペーサーを噛ませて調節してもらった

 前回のレースは7月に鈴鹿サーキットで行なわれたが、自分自身のドライビングは昨年と比べて一歩前に進んだと思えた面はいくつかあったものの、肝心のタイムは更新できず、走りに対して自信を失いかけていた。もっと考えて走るべきだとか、そんな考えは捨ててとにかく飛び込む方がよかったのか? といった思いが頭の中を巡るが、走る時間を与えてもらったにも関わらず、そのチャンスを生かせなかったことが悔しかった。

 反省点を挙げればきりがないが、考えているだけでは何も解決しない。どんなスポーツもそうだが、マイナスのイメージで取り組んで良い結果に結びつけることは難しい。KYOJO CUP事務局はドライビングアスリートとしてメンタルを鍛える一助となるようにと、オンラインでメンタルトレーニング講習会を行なっている。講師の小林玄樹先生の話によると、「楽しんで取り組む方が良い結果を生む」という話もあったので、今回は初心にかえって、レース自体を楽しむように気持ちを切り替えて臨むことにした。

 金曜日のテストを終え、土曜日にFCR-VITAのレースが行なわれたあと、夕方のスポーツ走行で最後の調整をして、日曜日の予選に挑む。KYOJO CUPはドライコンディションで走れると思っていたが、土曜日の夜に雨が降ったらしく、当日の朝になったらコースは湿っている状態。こうした路面を走る場合、周回を重ねるとコンディションが回復して、後半にベストタイムが出るケースが多い。ただし、与えられた予選の時間は20分間で気温は16℃と少し低めの状況。タイヤを温めてアタックに入ることをイメージしながらピットからマシンの鼻先を出してスタートを待つ。

 私は少し出遅れてコースインすることになったが、タイヤのグリップを探りながら走っていたら、集団についていくタイミングを逃して単独で走行することに。適正な車速に落とす必要があるコーナーに高めの車速で飛び込んでしまったり、逆にボトムスピードを落とし過ぎるコーナーがあったりと、走りにメリハリをうまくつけることができず、2分3秒994で14番手からのスタートが決まった。

決勝レースは初めての雨! スピンやオーバーランが多発した結果は……?

 曇りの予報だった天気は、まさかの雨に変わり、決勝の時刻を目前にして路面は完全なウエットコンディションに。頭を雨モードに切り替えてコースインの時間を迎えた。とはいえ、このシャシーで雨を走るのは初めて。前後のブレーキバランスを変える調整ダイヤルを動かしながら、ブレーキの感触を確かめてダミーグリッドに着く。フォーメーションラップでタイヤとブレーキを温めるべく、アクセルとブレーキ操作を繰り返すものの、ブレーキを踏むと途端にロックしてしまうほどグリップが得られない。皮肉にも雨量は増す一方で、フォーメーションラップ中にスピンする車両やオーバーランしてしまう車両が続出している状態だ。各車は足回りのパーツの違いやセッティング、タイヤの空気圧の差はあるにしても、タイヤについてはダンロップの指定タイヤに統一されているので、路面とのコンタクトは大きく変わらないはずだ。走り出しで何が起こるか分からない不安がよぎる中でグリッドに着くと、レッドシグナルが全灯して消灯。レースがスタートした。

曇りの予報が雨に変わり、ウエットコンディションでの決勝となった

 14番グリッドからスタートした私は、前走車の後を追うも、スタート直後の混乱があると予想しながら慎重に1コーナーに進入した。冷えたタイヤはスタート直後にアグレッシブに攻め込めるほどのグリップレベルに達しておらず、コーナーの入口付近で5番グリッドからスタートした36号車 KNC VITAの荻原友美選手が単独でスピン。3番手からスタートした86号車 Dr.DRY VITAの猪爪杏奈選手はそれを避けるようにコースの外側を走ってコースに復帰しようとしている。その直後の1コーナーの立ち上がり付近で、今度は87号車 おさきにどうぞ☆VITAの山本龍選手がスピンしている。

 一方、先頭集団はヘアピンでイン側を走るマシンがコース幅ギリギリのラインまで膨らんで立ち上がる中、縁石の上を跨ぎながら走るマシンもいる状況。リスクはあるが、アクセルを開けていかなければ前に出られない。姿勢を崩したマシンがいれば、容赦なく隙をつき、先を目指して突き進むのがレースの厳しさだ。

 スタートの混乱から後退に追い込まれてしまっていた86号車 猪爪選手は怒濤の追い上げでヘアピンで私を含む数台を抜いていったが、300R先のダンロップコーナーのターンインで7号車 ORC・ワコーズAFC VITAのおぎねぇと接触し、7号車のおぎねぇがスピンしてコース上に停車している。その先では13号車 ORC☆サウンドキッズVITAの金本きれい選手がスピン。その隙に私はスープラコーナーで65号車 中川ケミカルMARS-VITAの小松寛子選手に追いつき、抜きに出ようとインをつこうと試みるも、前に出たい気持ちとは裏腹にアクセルを深く踏み込む体勢にもちこめきれず、追い越すに至らない。

 路面温度が低く、雨量が多くてタイヤが温まりにくい厳しい状況で、果敢に挑むドライバーたち。中継ではトップ集団のせめぎ合いが脚光を浴びているが、実は中盤以下の集団でもさまざまな戦いが巻き起こっている。

 スピンやコースアウトしていたマシンが続出する波乱のオープニングラップから2周目を迎えるタイミングで、トップはポールポジションからスタートした34号車 YGF Drago VITAの下野璃央選手、18号車 ORC ARUGOS VITAの辻本始温選手に続き、6番手からスタートした37号車 KeePer VITAの翁長実希選手がジャンプアップ。ストレートエンドでは4番手を走る11号車 D.D.R vita01の斉藤愛未選手の後ろにいた101号車 佐藤工業IDI VITAの岩岡万梨恵選手がアウト側から抜きに出たが、1コーナーで止まりきれずにオーバーランしてしまう。トップを快走していた34号車 下野選手はコカ・コーラコーナーの立ち上がりでグリーンベルトに乗った際にスピンをして、辻本選手らに抜かれてしまう。2番手を走る翁長選手も何度もオーバーランする攻めとともに辻本選手を追っている形だ。

 雨量が増して前の車両のタイヤが巻き上げたしぶきとヘルメットのシールドに叩きつける雨で前方の視界がよく見えない。スリップストリームについて追い上げたいところだが、前を走るマシンの背後について身を任せるにはリスクが大き過ぎて、わずかに走行ラインをズラしながら追従する。ほんの数周で、ものすごい緊張感の連続だ。12周で行なわれるKYOJO CUPはまだまだ序盤。チェッカーを迎える時間が訪れるは遠い先の話に思えてくる。

 2周を迎えた私は、序盤でスピンしてしまっていた36号車 荻原選手が持ち前の勝負強さで私の背後に迫り、1コーナーでインを差して前に出た。さらに前を走っていた65号車 小松選手は1コーナーのブレーキングで止まりきれずにオーバランしたあと、再びコースに復帰したが、その後を追う荻原選手は速度を維持したまま100Rのアウト側から小松選手を抜き去っていった。

 再び小松選手に追いついた私はヘアピンの進入からハイスピードな300Rにかけて併走。アウト側にラインをとり、ダンロップコーナーの入口で並ぶところまで迫ったが、イン側を走る小松選手との接触を恐れるあまり、わずかにアクセルを緩めてしまった。2台が絡み合って走る一瞬の隙を狙って、金本選手が小松選手と私の間に見事な切り込みで滑り込む。しかし、その直後、登り勾配の途中で金本選手、小松選手が私の目前で相次いでスピン。今度は私にチャンスが巡ってきた。

 3周目を迎えるコントロールブリッジには、4番手を走る34号車 下野選手にジャンプスタートによるドライビングスルーペナルティが提示されている。しばらく単独で走行していた私は100Rの進入でスピンしていた48号車 ワコーズEDニルズVITAの星七麻衣選手の前に出た。さらに、7番手を走っていた38号車 LHG with YLT VITAの永井歩夢選手の後を追い、ヘアピンで距離が縮まる。アクセルをもう少し深く踏み込んでしまえば、前のマシンに届きそうだと思えるのに、わずかでも踏み過ぎればタイヤのグリップが追いつかず、すぐさま姿勢を崩してしまう。しかし、様子を窺いながら走っていくと、立ち上がりでまた離されていってしまう。はやる気持ちをマシンの動きに連動していくことができない。なかなかペースが上がらない私を山本選手がホームストレートで勢いよく抜き去っていったが、コカ・コーラコーナーの途中でスピン。私は再び永井選手の背中を追う形になり、走り続けた。

 コースに降り注ぐ雨量はますます増えているようだ。しかし、私たちはレースが続く限り、どんな状況であろうと全力で走り続けることしか選択肢は用意されていない。諦めず走り続けていくと、5周目に入ったところで38号車 永井選手との間隔が少しずつ縮んでいった。最終コーナーに差し掛かるところを見計らって一気にクロスラインをとり、インから抜きに出た。

 6周目を迎えた時点で私の順位は7番手。そのまま順位を死守したいところだったが、ストレートで再び勢いよく追い上げてきた87号車 山本選手がまたも私を抜き去り、10周目には13号車 金本選手の追い上げに飲まれてしまった。レース終盤になってもなお雨は降り続き、路面の雨量はさらに増している状況。13号車 金本選手の後を追う私はヘアピンやダンロップで背後に近づくものの、アクセルを欲張って踏もうとすると、すぐさま姿勢が乱れてしまう。結果、時間内に距離を縮めることができず、私が走る24号車 ENEOS.CLA.pmu VITAは9位でチェッカーを受けた。

 永遠に終わりが来ないかと思えたレースもどうにか12周を走りきり、雨の第3戦は終了となった。ファイナルラップでトップを走っていた辻本選手はスリップストリームで翁長選手が背後についてプレッシャーをかけた形の中、1コーナーのブレーキングで止まりきれずにオーバーランしてしまい、優勝を果たしたのは37号車 翁長実希選手、2位は18号車 辻本始温選手、3位は11号車 斉藤愛未選手が獲得する形となった。

37号車 翁長実希選手が優勝
2位は18号車 辻本始温選手
3位は11号車 斉藤愛未選手

 ドライ路面を走るレコードラインが無意味となるウエットコンディションで行なわれた第3戦。頭をひねり、これまでの走行経験を引きだしながら、アクセルが開けられるラインを狙って走らせるようにトライしてみたものの、他車を勢いよく抜きに出ほどの速さを得るには至らなかった。コースにとどまって生き残ることも必要だが、リスクを背負いながら、ギリギリのところでチャレンジしていかなければ、これ以上の輝かしい結果は得られないのかもしれない。

 VITA-01は電子制御で甘やかさないアナログなレーシングカー。グリップレベルの低いタイヤで競い合う経験は、間違いなく私たちのドライビングスキルと経験値を高めてくれるものだと信じて、諦めずにさらなる領域を目指さなければならないと思う。

Legend’s Club Cup 2021が開催

 レース後、私たちが戦ったマシンをシェアして、日本のレース史に名を残すレジェンドドライバーがハンドルを握って競い合う「AIM Legend’s Club Cup」が2年ぶりに開催された。

2年ぶりに「AIM Legend’s Club Cup」が開催

 今回の開催も多くの報道陣が詰めかけていたが、グリッド上ではマシンをシェアするKYOJOのドライバーたちがそれぞれのマシンの横にレジェンドドライバーのネームカードを持ってグリッドガールを務めていた。

 ウエットコンディションになったため、スタート直後の2周はセーフティカーが先導走行を行ない、ローリングスタート形式が取られた。我がENEOS号のドライバーは土曜日に開催されているFCR-VITAのレースに参戦している見崎清志さん。前日に行なわれた予選の快走で2番手からのスタートとなった。ポールポジションは元F1ドライバーで、レジェンド・レーシング・ドライバーズ・クラブでは若手となる片山右京さんだ。

グリッド上ではマシンをシェアするKYOJOのドライバーたちがそれぞれのマシンの横でネームカードを持ってグリッドガールを務めた。24号車のドライバーは見崎清志さん
ポールポジションは16号車の片山右京さん

 レースはあいにくの路面コンディションでSC先導を除く6周で行なわれることになったが、レース史にとって激動の時代を生きぬいてきたレジェンドたちは周回を重ねながら着実にタイムアップしてみせる技を見せつけてくれた。

 レジェンドドライバーの多くは、シリーズ戦を戦う私たちと違って、練習の機会がほとんど得られないまま走らなければならない難しい環境といえたが、限られた時間の中でマシンやタイヤの特性を把握するためにどうアプローチし、ベストを尽くすのかという姿勢を見せてくれた。今回の雨におけるコンディションは、彼らが現代とは異なるマシンやタイヤの条件など、厳しい環境で鍛えられてきた経験が生かされる場面も少なくないのではないだろうか。それぞれの時代のレースシーンで輝かしい功績を挙げたレジェンドたちが走る様子をこうして目にできることを光栄に思う。