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藤島知子の“女性同士のガチバトル”競争女子「KYOJO CUP」レポート

第9回:2021年シーズンが開幕。初戦は11位完走

2021年6月6日 開催

いよいよKYOJOカップの2021年シーズンが開幕しました

5年目を迎えたKYOJOカップ。今年は新たに4人のドライバーが参戦

 2021年6月6日、富士スピードウェイで「KYOJO CUP SUPPORTED BY MUSEE PLUTINUM 第1戦」が開催された。

 今季で5年目のシーズンを迎えるKYOJOカップは、世界的に見ても珍しい女性ドライバーのみで競い合うプロレースシリーズとして始まったものだ。関谷正徳氏が発起人となり、レースを運営してきたオーガナイザーにとっては、新たな領域へのチャレンジだった。何事も構想を実現するとなれば、それ相応のエネルギーが求められるが、KYOJOカップにいたっても、このレースの意義に共感してくれたスポンサー各社、マシンを提供してくれるチームオーナー、ファンのみなさんの協力によって2017年の春に開催が実現した。

 女性ドライバーの競技人口は男性と比べて少なく、運営面では関係者の相当の力添えがあって実現した厳しい道のりだったのではないかと思う。数年で終わってしまうレースもあるなか、このレースを通じて他のスポーツと同じように、女性同士が競い合う環境で揉まれ、スキルアップしていくドライバーたちの様子をみても、こうした場を提供し続けてくれていることに、ドライバーの一人として感謝するばかりだ。

 また、2020年シーズンは最終戦の結果をもって、三浦愛選手が見事にシリーズチャンピオンの座を射止めたが、2021年はインタープロトシリーズのプロクラスに出場するということで注目を集めている。

MUSEE×KYOJO CUP#1【競争女子】(4分57秒)※2020年に公開された紹介ビデオ

 さて、その一方で、KYOJOカップに初めて挑むチームもあり、2021年の開幕戦は15台がエントリーし、ドライバー4名が初参戦となる。13号車 ORC☆サウンドキッズVITAの金本きれい選手は4歳からカートキャリア17年で今回が4輪レースデビュー。34号車 YGF VITA 01の下野璃央選手はスーパーFJで2勝、TCR JAPANシリーズでチャンピオンに輝いた経歴をもつ。35号車 恒志堂レーシングVITA610は、ラリーで経験を積んできた兼松由奈選手が登場。2020年に三浦選手がハンドルを握っていた38号車 LHG Racing YLTは幼い頃からモトクロスの経験者で、ドライバーオーディションでシートを得て4輪レースにデビューを飾る永井歩夢選手。今季もこれまでさまざまなカテゴリーのレースで腕を磨いてきたベテラン勢、新たに4輪デビューを飾る若手、着実に実績を上げて勢いを増すドライバーたちの熱い戦いが繰り広げられるのではないかと期待が高まる。

ベテランから若手まで女性ドライバーが集うKYOJOカップ

メンタルトレーニングなど走る以外の領域もサポートしてくれるKYOJOカップ

 富士チャンピオンレースシリーズのレースウィークに入った富士スピードウェイは、VITA-01、インタープロトシリーズ、86/BRZなどのマシンに加えて、今回、新たにスタートするヤリスカップは91台もエントリーし、パドックは賑わいをみせていた。この時期の関東甲信越地方は、梅雨に入りそうで入らない不安定な陽気が続いていたが、金曜日のスポーツ走行は途中で赤旗になるほどの大雨に見舞われた。決勝日がドライの予報だったことから、クラッシュのリスクを踏まえて走らないチームが多かった。

 KYOJOカップはレースを安全かつフェアに戦う上での心構えを持ってもらうために、これまで若手のプロドライバーを育成に尽力してきた関谷正徳氏がレース前にレクチャーを行なってくれる。昨シーズンの最終戦の動画を皆で確認しながら、接触のリスクを検証し、フェアに戦う走らせ方について講義が行なわれた。

ブリーフィングはソーシャルディスタンスを保って行なわれた
関谷正徳氏によるレース前レクチャー
同じマシンをシェアして走る見崎清志氏からもアドバイス

 関谷氏は「VITA-01のマシンはダウンフォースが効かない特性のため、その分スリップストリームが効いて、後続のマシンが抜ける競り合いを見られるところが面白い。しかし、その分ドライバーの走行マナーが問われる。また、安全に走るためには、挙動を乱した後にどうするべきか、事前に想像しておくことも大事」と語っていた。

参戦マシンはウエストレーシングカーズが開発・製作する「VITA-01」というマシンのワンメイク
トヨタのヴィッツRSに搭載されているエンジンと同型のものを使用する
タイヤは2020年からダンロップのワンメイクとなっている
3種類の外観からマシンカウルを選べるのでカラーリングと合わせて個性も出せる

 また、レースウィークの前には、レースにエントリーしているドライバーに向けて、メンタルトレーニングのオンライン講座が開かれた。講師はプロドライバーやオリンピック候補選手に指導している小林玄樹氏。レースの世界は個々のドライバーが誰かに指導を受けたりしながら、各々で取り組むことが多い。こうして、走る以外の領域でドライビング・アスリートにとって必要な知識が得られる環境を用意してもらえることは、これまでさまざまなワンメイクレースを体験してきたドライバーとしても貴重な体験であり、学ばせてもらうことが多い。

予選は雨。コースは完全なウェットコンディション

予選も決勝も日曜日の1dayで行なわれるKYOJOカップ。金曜まで「日曜日は晴れ」とされていた天気予報は、土曜の段階で見事に覆り「曇り時々雨」に変わった

 予選は11時10分からコースインして、20分間で行なわれるが、天気予報は見事に的中。路面は小雨が降る完全なウエットコンディション。各マシンはウェービングしたり、ブレーキ操作、アクセル操作を繰り返してタイヤを温めながら走っていく。コース上は雨量次第で路面の接地感がまるで異なるため、今のコンディションで少しでもグリップするラインを探っていく。周回を重ねながらタイムアップしていくものの、思い切ってアクセルを開けていけない。ただし、置かれている状況はみな同じ。徐々にタイムアップしていくマシンが増えていく。

 全体の状況では、3周目に今季初参戦となる34号車 下野璃央選手がトップに上がり、2分17秒722をマーク。4周目は87号車 山本龍選手、5周目には下野選手が2分16秒675でトップを奪還したりしながら、せめぎ合いをみせている。路面コンディションは好転するかと思いきや、期待を裏切り、雨がまた強くなってしまったりと、難しいコンディションが続き、スピンする車両やコースアウトが続出する。6周目には、18号車 辻本始温選手がトップに立ったが、すかさず下野選手が奪還し、2分15秒127でポールポジションを獲得した。

トヨタの水素燃料電池車「MIRAI(ミライ)」のカットモデルが展示されていた。現場には開発者自らが足を運び解説してくれた

 コロナ禍の開催とあって、パドックは依然、レース関係者のみの入場に限られていたが、今回は感染予防対策を行ないながら、ジャガーの最新モデルの人気車種に試乗できる催しが再開されていた。また、トヨタの水素燃料電池車「MIRAI(ミライ)」が展示されており、メカニズムが分かるカットモデルを見ながら解説したり、モビリタの敷地を利用した体験走行会も行なわれていた。自動車メーカーは環境との共存をテーマにさまざまな取り組みをみせているが、初めて触れる燃料電池車を興味深げに眺める人たちも多かった。

ミライの試乗車
ジャガーの試乗車

決勝がスタート

スターティンググリッド

 時刻は15時を回り、KYOJOカップの決勝の時刻が迫ってきた。私は13番手からのスタートとなり、コースインしてダミーグリッドにマシンを並べる。雨は上がって、御殿場市街の見晴らしが良い状況。路面コンディションはインタープロトシリーズのマシンが周回を重ねたこともあり、ほぼ乾いてきている状況だ。

フォーメーションラップを終えて、グリッドに着き、レッドシグナルが消灯。開幕戦の火蓋が切って落とされた

 オープニングラップは、上位5台の順位は変わらなかったものの、8番手からスタートした7号車 ORCワコーズAFC★VITAのおぎねぇ選手が6番手にジャンプアップ。2周目に入った1コーナーでは、トップを走る34号車 下野選手の背後に迫った18号車 辻本選手が気迫のブレーキングでクロスラインを描いてトップを狙うものの、下野選手は見事に抑え込んでみせる。

 一方で、7番手は11番手からスタートした610号車 RINA ITO選手が上がり、24号車 ENEOS.CLA.PMU01にのハンドルを握る私は、集団に紛れ込みながら、前を狙っていった矢先、ダンロップの2つ目のコーナーで48号車 ワコーズEDニルズVITAの星名選手と接触してしまった。1番手から4番手までの先頭集団は混戦の状況が続いていたが、2周目に突入するところで、18号車 辻本選手、87号車 山本選手が34号車 下野選手を交わし、トップ1、2に躍り出た。

 このころ、11号車 D.D.R.VITA01の斉藤愛未選手がスタート違反でドライブスルーペナルティを受けて、ピットロードに向かっていく。トップ集団はテールtoノーズでスリップストリームを使いながら距離を縮め、4周目の1コーナーへ突入していく。100RからADVANヘアピンの進入では、34号車 下野選手が巧みなブレーキングで2番手に滑り込んだ。今回はいつもより2周少ない10周のレースとなるが、まだ中盤。激しいレース展開は実際よりも時間の経過が長く感じられる。5周目の1コーナーでは、36号車 荻原選手が3番手に浮上。私は徐々にペースを上げて、8番手に順位を上げていくが、7番手を走る37号車 翁長選手との距離を縮めていくことができない。

 8周目のヘアピンでは、またしても34号車 下野選手が36号車 荻原選手を抜きに出て3番手に。ファイナルラップに入った1コーナーでは、トップを走る18号車 辻本選手に前に出るのを抑え込まれていた2番手の87号車 山本選手が辻本選手をアウト側から抜きに掛かり、コカ・コーラコーナーまで2台が横並びの状況で進入。辻本選手はトップを死守し、追い抜くことを許さない。

 それに続く100Rからヘアピンに掛けて、34号車 下野選手が2番手に浮上。ダンロップ進入でブレーキがロックしてオーバーランした87号車 山本選手の隙をつく形で、後続にいた34号車 下野選手と36号車 荻原選手が順位を上げるかたちになった。

 トップチェッカーを受けたのは、初優勝を飾った18号車 ORC ARUGOS VITAの辻本始温選手、その後に34号車 YGF VITA01の下野璃央選手、36号車 KNC VITA荻原友美選手と続いた。しかし、車両保管後の車検において、下野選手が最低重量違反で失格に。8位でチェッカーを受けた私は、他車への接触で30秒のペナリティを受けて11位という結果となった。レースは他車とのせめぎ合いの中で速さを競わなければならない難しい競技だが、熱さの中にも冷静さを持って戦わなければならない。反省点を受け止めながら、次のレースに進んでいかなければならないと思う。

表彰台の模様
初戦を制した18号車 ORC ARUGOS VITAの辻本始温選手(手前のマシン))

KYOJOカップ初参戦のドライバーに話を聞いてみた

 開幕戦からそれぞれの思いをぶつけるかたちで熱い戦いが繰り広げられたKYOJOカップ。レースを終えたあと、初めて参戦したドライバーに話を伺った。

13号車 ORC☆サウンドキッズVITA 金本きれい選手

 全日本カート選手権に出場している金本選手。今回がKYOJOカップに初参戦となる一人。運転免許を取得して、まだ3週間だという。そんな金本選手は「VITA-01のマシンは練習で2日間ほどしか乗れていない状況でレースウィークを迎えました。カートとは異なるブレーキの効き具合はまだ読み切れていないし、フワッとしたマシンの動きに戸惑いもありました。ブレーキがロックするだけならいいのですが、MTの操作にもまだ慣れていなくて。チームの人に走行中に撮影した動画を確認してもらったら、操作のタイミングが違うとアドバイスを受けることもありました」とコメント。

 まだ慣れないマシンに戸惑いつつも、「第2戦の鈴鹿サーキットに早く行きたくて仕方がないです!」と、国際格式のサーキットで走れることを楽しみにしていた金本選手。マシンに慣れてきた時に、カートの経験を活かしてどんな速さを見せてくれるのか楽しみだ。

13号車 ORC☆サウンドキッズVITA 金本きれい選手

38号車 LHG Racing YLT 永井歩夢選手

 先日行なわれたドライバーオーディションで2020年のチャンピオンマシンで出場するチャンスを得た永井選手。今回のレースは序盤でリタイヤしてしまったものの、ユニークなキャリアを活かした活躍が期待されている。永井選手は「モトクロスの競技をやってきましたが、レースやラリーにチャレンジしてみたい気持ちがあって、オーディションに参加しました。今回のレースでは、オープニングラップの1コーナーで2台のマシンの進入を許してしまったり、周りの期待からくる圧力に、自分の気持ちが負けてしまいました。モトクロスは30台ものマシンが横一列で一斉にスタートしますが、4輪のレースの場合、それと比べると周囲のマシンとの間隔があって優しく感じます。ただ、ブレーキがロックするのをコントロールしながら走ったりする点では、どちらもミスの確率は変わりません」と、初めて4輪レースを体験した率直な感想を聞かせてくれた。

38号車 LHG Racing YLT 永井歩夢選手
38号車が永井歩夢選手のマシン

 KYOJOカップ 第2戦は、鈴鹿サーキットで2021年7月25日に開催予定。富士スピードウェイは今回のレースをもって、オリンピック競技の関係で数か月間クローズされる。2回目の開催となる鈴鹿サーキットは富士スピードウェイとは異なる性質をもつコース。ドライバーたちが一体どんな走りや成長を見せるのか、いまから楽しみだ。