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藤島知子の“女性同士のガチバトル”競争女子「KYOJO-CUP」レポート

第6回:初開催の鈴鹿サーキットは雨の決勝レースに

2020年7月26日 開催

 2020年7月26日、鈴鹿サーキットでKYOJO CUP(キョウジョ カップ)第2戦が開催された。

 2017年にシリーズが始まって以来、女性ドライバーたちが競い合うKYOJOカップは、富士スピードウェイのみで開催されてきたが、2020年は富士スピードウェイが東京オリンピック・パラリンピックの自転車競技のゴール地点となる予定だったことで7月のレース開催が難しかったことから、鈴鹿サーキットで初めて開催されることになった。

女性ドライバーたちが競い合うKYOJOカップが鈴鹿サーキットで初開催

 ここ鈴鹿市は、KYOJOのレースで使われているマシン「VITA-01」の開発・製作を行ない、レース参戦のサポートも行なっているウエストレーシングカーズの本拠地。鈴鹿サーキットではVITA-01のクラブマンレースがいち早く開催されていた場所だけに、レースウィークのスポーツ走行では、鈴鹿をホームコースとして走るドライバーたちが数多く存在する。彼らは土曜日に行なわれるレースに向けて最終調整を行なっていた。

 全長5.8km、高低落差は40mに及ぶ鈴鹿の国際レーシングコースは、序盤に急勾配のS字が連続するテクニカルな東コースとハイスピードな西コース、低速のシケインから1.2kmに及ぶ下り勾配のホームストレートに繋がるレイアウト。富士スピードウエイと比べると、鈴鹿はコース幅が狭くて逃げ場が少なく、勾配は険しくて、ハイスピードなカーブもあったりする。万が一、コース外に飛び出てしまった場合は、コース外に舗装されたランオフエリアは少ない。

 レースウィークの初走行では、アグレッシヴな走りで攻めていく鈴鹿をホームコースとして走るドライバーたちに容赦なく抜き去られていく。環境が違う中で、どんなラインで走るべきか、どう攻めるべきなのか様子を伺ってみたりするのだが、世界中のドライバーたちにエキサイティングと言わしめるコースだけに、攻略し甲斐がありそうだ。

 土曜日の夕方に行なわれたVITAのクラブマンレースには日曜日のKYOJOカップに参戦するドライバーのうち7名がダブルエントリーしていたが、大雨という慣れないコンディションで鈴鹿勢と競う上では苦戦しているように見えた。高低落差が大きいコースは、川が流れる箇所もあったり、水が貯まっている場所もある。ドライコンディションとは異なるライン取りが求められそうだ。

KYOJO CUPに参戦する#24 藤島知子 ENEOS☆MOMO☆PMU

 そうして迎えたレース当日。梅雨が明けていない鈴鹿は依然、愚図ついた空模様が続いている。予選前に15分のフリー走行が行なわれた後、そのまま20分間の予選に移った。予選から雨が降るのではないかと予想していたが、濡れていた路面はレコードラインから徐々に乾いてきて、ラインを外して走らなければ、ドライコンディションといえた。

 フリー走行では、先ずは新品のタイヤの皮むきとベストな状態で予選に臨めるように温度や内圧を上げることに集中する。一旦ピットインしてメカニックにタイヤの状態をチェックしてもらうと、再びコースインをして予選のタイム計測が始まった。

ピットでタイヤチェック

 タイヤは温まっていることから、すぐにアタックに入る。鈴鹿のフルコースは広く、別のマシンと絡むタイミングはなく、単独で走行。練習用のタイヤと比べてニュータイヤはグリップするが、これまでの踏み方だと、ブレーキでボトムスピードが落ち過ぎてしまったりして、巧くアジャストしきれていない。また、130Rでアクセルを踏み切れていないせいか、セクター4の最高速度が伸びていない。他のドライバーの背後を追う形でスリップストリームを狙って周回したりしたものの、ベストタイムは2分32秒785で9番手。ポールポジションはラストアタックをベストで決めた#38 Ms.Legarsi with YLT VITAの三浦愛選手が獲得した。

ポールポジションを獲得した#38 Ms.Legarsi with YLT VITAの三浦愛選手

 今回のレースは新型コロナウイルス感染症対策のため、ピットを含めたパドックは、レース関係者のみ入場を許される状況。関係者全員に健康チェックフォームの提出と入場の際の検温が徹底された。

ブリーフィングや会場のようす
ピットにおいてもマスクは欠かせない

 当日はインタープロトシリーズやRS、CS2などのレースも行なわれていたが、一般の来場者はグランドスタンドなどのコースサイドのみで観戦が許されていた。当日は富士を舞台にしていたインタープロトのレースも鈴鹿で初開催ということで、悪天候のなかで応援に駆けつけてくれている人達もいたが、そうしたレースファンの姿を目にすると、言葉は交わせなくても、なんだかとても嬉しく思えてくる。鈴鹿は街中にサーキットが存在する世界的にも珍しいコースで、レース文化が地域に根付いている街なのだと改めて実感した。

15時45分からスタートする決勝レース前から雨模様

 決勝レースは15時45分からスタート。妖しげな雲は、今度は予想に見事に応える形で雨模様に。決勝レース直前に路面を潤すどころか、雨脚はいっそう強まっていった。

 鈴鹿の走行で一度も雨の走行を経験していなかった私は、前日の雨のレースを経験していたドライバーと比べて不利な状況といえたが、やれることをやるしかないので、頭の中を雨モードに切り替えてシミュレーションをしてみる。コースに降り注ぐ雨量はスタート時間が近づくにしたがって増え、スタンディングスタートを行なうのが厳しい状況のため、セーフティカーの先導でレースがスタートした。

決勝スタート前に雨脚が強くなる

 冷えたタイヤを温めながら前走車のマシンに追従して走る。雨は弱まることがなく、3周を終えたところでレース開始を知らせるグリーンランプが点灯した。

 コントロールラインを通過した集団は、下りの1コーナーに向かって勢いを増していく。バイザーに打ち付ける雨と前方を走る集団が巻き上げた水しぶきで数十メートル前の状況さえ見えない。コース外の看板などを目安にしながら、次のコーナーまでの位置関係を予測しながらブレーキを掛けて通過していく。

 1コーナーでは7番手からスタートした#48 星七選手がコースアウトして、グラベルに足を取られてしまっている。デグナーの先にあるダンロップコーナーでは、3番手からスタートした#8 猪爪選手がスピンしたことで、#37 翁長選手が3番手に繰り上がった。

決勝は水たまりが深い場所を通過するとハイドロプレーニング現象を起こしてしまうコース状況

 5周目に入った私は7番手でコントロールラインを通過したが、水たまりが深い場所を通過するとハイドロプレーニング現象を起こしてしまうこともしばしば。駆動輪が空転し始める予兆を感じたら、アクセルペダルの踏み込みを少しだけ緩めながら様子を慎重に走らせていく。目の前のマシンに届きそうに見えても、なかなかペースを上げていくことができないのがもどかしい。

セーフティカーが入りそのままレース終了に

 レースの周回数は8周、または25分を上限にチェッカーフラッグが振られる。レースがスタートをしてから3周目。2コーナー先のS字区間で2台が接触した影響で、トップをキープする#38三浦選手と2番手、3位手の車両の間隔が大きく開いた状況になっていた。さらに、#86 小泉選手が1コーナーでコースアウトし、130Rからシケインの間では、私の前を走っていた#36 荻原選手が足をとられてスピンしたところで、再びセーフティカーが入り、25分が経過した時点でレースは終了となった。

レースを制した#38 Ms.Legarsi with YLT VITAの三浦愛選手

 実質3周で行なわれたレースを制したのは、ポールポジションからスタートした#38 Ms.Legarsi with YLT VITAの三浦愛選手。2位は#37 Keeper VITAの翁長実希選手。3位は#8 Dr.DRY VITAの猪爪杏奈選手。私は6位でレースを終える結果となった。

決勝レースは6位でレースを終えた

 全4戦で開催されるKYOJO-CUP。2020年の開幕戦と第2戦はあいにくの豪雨に見舞われてしまったが、次戦は11月23日に富士スピードウエイで開催される予定だ。鈴鹿のレースで揉まれた体験を糧に、再び富士で開催されるレースが一体どんな展開を迎えるのか。1戦ごとに経験値を積み上げていくKYOJOドライバー達がどんな成長を遂げていくのか楽しみだ。

ウエストレーシングカーズ製「VITA-01」について神谷弦社長に訊く

ウエストレーシングカーズ株式会社 代表取締役社長 神谷弦氏

 今回はKYOJOカップで使われているレース専用マシン「VITA-01」の企画・設計・開発を行なっているウエストレーシングカーズの神谷弦社長に、マシンが生まれた背景についてお話を伺う機会を得た。ウエストレーシングカーズは神谷弦氏の父である神谷誠二郎氏が1973年に創立し、レース車両の技術開発とモータースポーツの活性化に多くの功績を残してきたことでも知られている。モータースポーツ初心者からベテランに至るまで、本格派のレース専用車両をランニングコストに優れた価格帯で提供されているレースマシンは、レースの裾野を広げ、興行として盛り上がりをみせている。もちろん、KYOJOカップもその1つだ。

KYOJOカップで使用されるレース専用マシンVITA-01

──ウエストレーシングカーズは、これまで数々のレーシングカーを製作されて来ましたが、VITA-01はどういった経緯で生まれたレーシングカーなのでしょうか。

神谷氏:「モータースポーツに興味があってもなかなか初心者が参加できるレースがないんだよね……」。こんなお客さまのひと言からVITAー01の企画が始まりました。レース界の敷居を低くするにはいきなりフォーミュラではなく、その前のカテゴリーが必要であると受け止め、2009年にコスト低減を徹底追求したマシンの企画開発をスタートしました。

──初めて登場するレーシングカーということで、当初は少しずつ台数が増えていったのでしょうか。

神谷氏:最初はVITAだけのカテゴリーでレースをすることは難しかったので、量産車のツーリングカーとの混走でレースが始まりました。実際にスタートしたところ、外国人に興味をもってもらえたり、昔レースをやっていて引退していた人に「面白そうだね」と言っていただいたりしました。2013年には28台ほどが集まるようになり、鈴鹿のほかにも、ツインリンクもてぎや岡山国際サーキット、筑波サーキットなど、全国各地のサーキットでVITAのレースがスタートしました。その後、2015年には100台のマシンを生産。2017年には富士スピードウエイでFCR-VITAのシリーズとKYOJOカップがスタートしたこともあって、勢いはさらに加速していきました。

──VITA-01は、まさにフォーミュラカーとツーリングカーの中間に位置するレース専用車両だと感じていますが、現代のクルマと違い、電子制御に頼らないシンプルなメカニズムはドライバーの操作した動きがそのまま挙動として現れるもので、腕を磨く上ではとても貴重なマシンといえそうですね。いまでは、海外でもVITAのレースが行なわれているとか?

神谷氏:海外においては、フィリピン グランプリのオーガナイザーがVITA-01のコンセプトに興味をもってくれたことをキッカケに、マシンを輸出してレースが行なわれています。2019年に鈴鹿サーキットで初めて開催された「VITA OF ASIA」は、その名の通り、アジアNo.1を決める賞金が掛かったレースで、華やかな雰囲気の中で行なわれました。初年度のVITA OF ASIAは54台ものマシンが集まりましたが、ローリングスタートは初めてというアマチュアドライバーも数多くいました。そこで、国内外のレースで活躍されたレーシングドライバーの福山英朗さんに徹底したルールのもとで走ってもらうためのアドバイスをしていただいて、無事にレースを成功させることができました。

──鈴鹿サーキットは日本人のみならず、世界が憧れる聖地のようですね。VITA-01はモータースポーツの裾野を拡げることに貢献しているのだと感じます。

神谷氏:レーシングカーを走らせることにハードルの高さを感じる人は多いものです。レーシングカートさえ乗ったことがない人は多いことを考えても、モータースポーツの魅力を伝える努力が足りなかったのかも知れません。VITA-01の存在によりレース界の敷居が低くなりました。先ずはVITAで基礎を学んでから、フォーミュラへステップアップ、というドライバーもどんどん増えています。趣味だけに留まらずドライビングの基礎をしっかりと学べるマシンでもあります。私は誰でもその魅力に触れることができることを伝えていきたいと思っています。VITA-01は、将来的にポルシェのカレラカップやフェラーリチャレンジなどのレースに参加するための第一歩としてレースを始める人もいたりします。制御が少ないシンプルなクルマだからこそ、ドライビングで勝負することできる。スポーツとして成立していると感じています。

──ウエストレーシングカーズのスタッフのみなさんは、VITA-01のレースが開催されるサーキットにいつも顔を出されている姿を目にします。現地ではどんなサポートを行なっているのでしょうか?

神谷氏:車両のパーツの供給はもちろんですが、マシンにトラブルが起こってしまった場合にアドバイスをさせていただいたり、原因究明に取り組むこともあります。セッティングについては、基本的な事はお伝えしていますが、個々の走りに合わせたセットについては、各自で色々試しながら楽しんでほしいと思っています。

 レースはイコールコンディションで行なうことが大事なことだと考えています。例えば、上位6台のマシンのコンピューターをチェックすることもありますし、不正があった場合は失格にしたり、勧告することもあります。レース車両を製作しているウエストレーシングカーズとしては、そうした取り組みを続けることで、イコールコンディションのもとでしっかりと行なわれているレースだと思ってもらいたい。レース自体の質を向上させることに繋がってほしいですね。

──KYOJOカップは女性のみで行なわれるレースですが、どのように受け止めていますか?

神谷氏:女性だけでレースを行なう場を提案したコンセプトは素晴らしいと思います。モータースポーツをスポーツとして捉えている点は、私たちとしても、とても勉強になりますし、2017年と2018年のシリーズチャンピオンを獲得した小山美姫選手は、ヨーロッパで始まった女性のレース「Wシリーズ」に旅立っていったことを考えても、KYOJOカップはレベルの高いレースになってきていると感じています。今後もこのレースで経験を積んだ女性ドライバーが世界で活躍してほしいですね。

女性だけのレースシリーズKYOJO CUPをプロデュースした関谷正徳氏

──モータースポーツの発展を願う上では、性別を問わず、男性にも女性にも活躍していってほしいものです。VITA-01はまさにそのステップを踏むマシンとして各地で受け容れられていますが、VITA倶楽部の輪も広がっているようですね。

女性が主役になるKYOJO CUP

神谷氏:VITAのレースは全国に拡がっていますが、各地でいろんなギャップを感じることがあります。イベントをもっと楽しんで参加していただくために、2019年からは、みなさんと意見や情報を共有する取り組みを始めています。また「たとえ底辺カテゴリーでもドライバー、マシンをどんどん宣伝してあげたい」というコンセプトでVITA倶楽部は活動しています。写真、動画、コメントをいっぱい集めて、モータースポーツの楽しさ、この世界の魅力を伝えて行くことが私たちの目標です。

──レースで結果を出すための努力が報われるためにも、クリーンな環境でレースが行なわれることは重要ですね。今後も拡がりを見せていきそうなVITA-01と、そのコンセプトに共感し、モータースポーツを楽しむみなさん、ウエストレーシングカーズのみなさんの活動に期待しています。お忙しいなか、ありがとうございました。