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藤島知子の“女性同士のガチバトル”競争女子「KYOJO-CUP」レポート
第2回:ニューフェイス6名の加入でこれまで以上の刺激的な展開に
2019年10月7日 08:00
- 2019年9月1日 開催
富士スピードウェイで9月1日、競争女子選手権「KYOJO-CUP 第2戦」が開催された。6月に行なわれた開幕戦は10台の参加だったが、今回のエントリーは15台。初参戦のメンバー6名が加わった今回のレースは、参加台数も増えたとあって、どんなレース展開になるのか予測もつかない。なぜなら、今回のニューフェイスは各カテゴリーで経験を積み上げてきた選手ばかりだからだ。
フォーミュラレースの登竜門である「スーパーFJ」優勝者の村松日向子選手、沖縄のカート場の娘さんで4歳からレーシングカートの経験を積み、今回のレースが4輪デビューとなる翁長実希選手、千葉のカート場の娘さんであり、レーシングシミュレーター店の「D.D.R」から出走する額賀由里子選手、ドリフトからは久保川キャサリン澄花選手、N-ONE OWNER'S CUPで活躍していた岡村英莉選手、香港からは母国のモータースポーツシーンで好成績を収めてきたYEUNG Denise選手も遠く国境を越え、女性のみで競われるKYOJO-CUPに興味を持ち参戦に至ったそうだ。
KYOJO-CUPはウエストレーシングカーズ製のレース専用車両「VITA-01」に横浜ゴムのスポーツラジアルタイヤ「ADVAN NEOVA AD08R」を指定タイヤとして装着し、富士スピードウェイを10周して競うワンメイクレース。マシンはドライバーの体重とヘルメットなどの装備品を含めた最低重量として615kg以上で走らなければならない。トヨタ自動車の「ヴィッツ GR SPORT」仕様の1.5リッターエンジン+5速MTを軽い車体に搭載しているが、今どき珍しくパワステはナシ。ABSやスタビリティコントロールなどの電子制御も一切付いていない、ドライバーに操作を委ねるアナログ感満点のレースカーと言える。
ドライバーの操作がそのままあらわになるという点では、より繊細にコースのコンディションやクルマの状態を汲み取る感性と、受け取った挙動を次の操作に繋げるテクニックが求められる。初参戦したメンバーにVITA-01のステアリングを握った感想を質問してみると、「ABSが付いていないから、タイヤがグリップを超えた時にロックして止まらない感覚は初めて」とのことで、ブレーキ操作の難しさに最初は戸惑ったようだ。そうは言いながらも、最近の市販車ベースのレース車両とは異なる感触を得て、自分の思い通りに走らせるために試行錯誤しながら、少しずつ手応えを得てきていることにやり甲斐を感じているようだった。
日本にはさまざまなカテゴリーのレースが存在しているが、富士スピードウェイで開催されているKYOJO-CUPが、女性のみで競う「プロレースシリーズ」と位置付けられている点にはそれなりの理由が存在する。自分自身でマシンを購入してレースに挑むオーナードライバーもいるが、多くの場合、マシンを所有するオーナーの協力によって、女性ドライバーがレースシーンで活躍するチャンスを与えている。KYOJO-CUPが開催される前日には、「FCR-VITA」と呼ばれる富士スピードウェイ主催のレースが行なわれているが、2人のドライバーが同じマシンを使ってそれぞれのレースにチャレンジするため、チーム内で情報を共有しながらスキルアップを図ることができる。
ちなみに、私がステアリングを握っている#24「ENEOS.Pmu.CLA.VITA」は、前日のレースでレジェンドドライバーの見崎清志さんがステアリングを握って走る。速いタイムで走る彼の車載映像と私の走りを比較しながら、何が原因で遅れをとっているのか検証。同じマシンのステアリングを握る同士、ドライバーの視点でドライビングについて議論を交わすことができる。そんなふうに各チーム、車載のデータを照らし合わせたりしながら、何ができて何が不得意なのかを検証し、スキルアップを目指して次のステップに繋げていけるというわけだ。
みんなで女性によるレースを盛り上げていこうとしている
こうして迎えたKYOJO-CUPの第2戦。レースウィーク中盤は雨がパラつく不安定な天気だったが、そこから天候は回復し、決勝当日は曇りでドライコンディションで走行することになった。
朝の8時台にスタートした20分間の公式予選。私はコースイン後に単独走行となり、思うようにタイムを伸ばせず、いったんピットに入ってタイヤのエア圧を調整。気持ちを整理して再びコースインしていった。今度は前走車のスリップストリームを利用する作戦に切り替え、タイミングよく前走車についていけたと思ったものの、タイムを狙う周回の1コーナーの進入で3台いた前走車の1台が姿勢を乱し、私は上手くまとめきれずにハーフスピン。それまでの周がベストタイムだったため、9番グリッドからスタートすることが決まった。
決勝レースはお昼過ぎ。その間、パドックでは来場者に楽しんでもらうためのさまざまな催しが行なわれていた。ステージ上ではKYOJO-CUPのドライバーらが勢ぞろいしてトークショーを開催。輸入ブランドのジャガーやマクラーレンは市販モデルに体験試乗できる催しを行なっていたほか、横浜ゴムは最新タイヤの実力を体感できる試走会を実施。KYOJO-CUPのマシンのスポンサーにもなっているKeePer技研はクルマをピカピカに磨き上げるメンテナンスを実演していた。ピット裏では応援に駆けつけたファンがドライバーとコミュニケーションを取る場面を見かけることもしばしばで、みんなで女性によるレースを盛り上げていこうとしている雰囲気が伝わってきた。
時間が過ぎるのはあっという間で、気がつけば決勝のコースインの時間が迫っていた。コントロールタワー付近にマシンを並べ、フォトセッションをこなしたら、ドライバーたちのにこやかだった表情は真剣な目へと変わり、それぞれのマシンに乗り込んでいく。ダミーグリッドに着くと、実にたくさんの応援者たちがスタンドやピットビルの上から見守ってくれていることに気付いた。
ニューフェイスの活躍でKYOJO-CUPはこれまで以上に刺激的な展開に
富士の裾野に位置するサーキットとは言え、9月初旬でもまだ日射しが容赦なく照りつけてくる。気温が上昇しているなかでフォーメーションラップが開始。スタートに備えてタイヤを温めてグリッドに着く。レッドシグナルが1つずつ点灯し、数秒で消灯した。エンジン回転を上げ、すぐさま1速にクラッチをミート。スタートは上手く決まり、3台を抜いていい流れのスタートを切ったが、1コーナーで両サイドをマシンに囲まれて前に出られず、遅れを取ってしまった。
マシン同士は接近しながらハイスピードでコカ・コーラコーナーを通過。接近戦で走る緊張感とともにマシンが接触しないよう細心の注意を払いながら、とにかくアクセルを踏んで前を走る集団に食らいついていく。遅れを取るものかという思いでアクセルペダルを踏んでいくも、トップ集団と中盤のグループそれぞれで団子状態になり、スリップストリームを使いながらタイヤを温存し、前に出ていくチャンスをうかがう。
周回を重ねていったところで、集団の前方車両2台が接触。すかさずステアリングを切って回避したあと、#28「AEONMALL VITA」のステアリングを握るいとうりな選手と、スリップストリームを使って抜き、また抜かれ、そして抜き返すと繰り返しながら気持ちを前へ前へ。焦る気持ちでミスを招かないように、攻めながらも冷静さが問われるあたりがレースの難しいところ。そうして10周で振られたチェッカーフラッグを7位で受ける結果となった。
トップ集団では激しいバトルが繰り広げられていたが、開幕戦で優勝した#86「CF亜衣★制動屋★44VITA」の小泉亜衣選手は3位。村松選手と翁長選手は初参戦ながらも見事なレース展開で観客を沸かせ、優勝は#37「KeePer VITA」の翁長選手。#36「KNCVITA」の村松選手は最後まで翁長選手のテールに食らいつくも、惜しくも2位となった。
ニューフェイスも加わって、これまで以上に刺激的な展開を迎えたKYOJO-CUP。各ドライバーが負けじと切磋琢磨していくことで、レース全体のレベルはさらに高まっていきそうだ。次戦は10月20日に富士スピードウェイで開催予定。女性ドライバーたちの頑張りを多くのみなさんに見届けてほしいと思う。