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藤島知子の“女性同士のガチバトル”競争女子「KYOJO-CUP」レポート
第4回:少しずつ進化していると感じる部分もあった2019年
2019年11月26日 12:30
- 2019年11月17日 開催
2019年の競争女子選手権「KYOJO-CUP」。シリーズ女王の決定を最終戦に持ち越す形で、11月17日にシーズン最終戦となる第4戦が富士スピードウェイで開催された。当日の朝は抜けるような青空で、道路に設けられた外気温計は3℃を示していた。山並みの木々は紅葉で色付き、富士スピードウェイのパドックでは雪化粧をした雄大な富士山が出迎えてくれた。
最終戦で得られるポイントはいつもの1.5倍。これまでの3戦で上位6位に入っているドライバーにチャンピオンとなる可能性が残っている。筆者である私、藤トモも上位を狙いたいところ。出走するドライバーの多くは今シーズンを通して参戦してきたメンバーとなるが、そのうちの1台は鈴鹿サーキットでレース活動を行なってきた大西恵理選手が初エントリー。来季のKYOJO-CUPの本格参戦を前に最終戦に挑むそうだ。レースウィークのスポーツ走行で残念ながらクラッシュしてしまったマシンもあったようだが、試練を乗り越え、各チームはどうにか最終戦に臨めるようにと調整を行なってきていた。
8時30分から30分間の予選がスタート。前日にテストを行なう走行枠が設けられなかったため、いつもより10分長い計測時間が与えられた。気温は徐々に上がってきたものの、タイヤのコンディションを考えると、後半でベストタイムが出ることになりそうだ。グリップの様子をうかがいながらトライしていく。うまくスリップストリームに乗ることができない中、いったんピットインしてタイヤの内圧を調整。再びコースインしたが、何やら走行の途中からマシンの挙動がまとまらない。200km/h程度からフルブレーキを行なう1コーナーや300Rなど、リアが振られる症状が出てきた。
KYOJO-CUPで使われるマシンの「VITA-01」にはABSなどの制御は一切ついていないのだが、最初はリアのブレーキがロックした時と似た挙動を感じたため、少し早めにブレーキをリリースして調整して走っていった。ところが、そのうち強風に煽られるようなゆらぎが出てきた。やはりおかしいとピットに戻ってマシンをチェックすると、右後輪のトーの調節箇所が走行の途中でズレていたことが判明。攻めきれずに終わってしまったことは悔やしいが、決勝をどう戦うのかということに気持ちに切り替えた。
ファンとドライバーの距離が近いこともKYOJO-CUPの魅力
決勝レースまでの時間にはパドックに置かれたステージカーを使い、KYOJO-CUPに参戦する女性ドライバーによるトークショーが行なわれた。ドライバーのメンバーは幼いころからレースをしてきたという20歳前後の学生から50代の社会人まで年齢層の幅は広く、経験してきたカテゴリーも、レーシングカートやフォーミュラカー、ツーリングカーのレースなどフィールドが異なる。トークでは「最終戦に臨む意気込み」や「将来どんなドライバーになりたいか」といった質問の回答からそれぞれのキャラクターが見えてくる時間となり、各々のドライバーがレースに取り組む姿勢に興味を持ってもらう機会となった。
最終戦のグリッドウォークでは、参加台数のわりにたくさんの観客が応援に来てくれているようだった。1戦ごとに駆けつけてくれるレースファンもいるが、女性たちの本気バトルの手に汗握る展開に魅せられて、友人を誘って観戦に来てくれるケースもあったりする。パドックではパンフレットに各ドライバーのサインを貰っているファンや、女性たちの真剣勝負のレースが成功するように温かい目で見守ってくれているサポーターもいた。このレースはインタープロトシリーズや富士チャンピオンレースシリーズと併催されているが、入場ゲートでチケットさえ購入すれば、パドックに入れる気軽さもあるし、解放されているピットを用意する試みも行なわれているので、チームがレースに取り組む様子を間近で感じることもできる。ファンとドライバーの距離が近いこともこのレースならではの魅力の1つだ。
また、今回は新しい試みとして、メインスタンド裏の広場を利用して、ドイツ車のオーナーが集う「ジャーマンカーミーティング 2019」も開催された。会場には堂々たる風格を持つドイツ車が多数集まっていたが、クルマが好きでもサーキットには1度も訪れたことがないといったオーナーも数多く来場し、富士山麓の素晴らしいロケーションでレース観戦する面白さに触れてもらう貴重な機会になった。モータースポーツの発展においても、こうしたクルマ好きとレースの世界を結び付ける試みがもっと拡がっていってほしい。
シーズン最終戦も女性ドライバー同士が真剣勝負!
いよいよ、KYOJO-CUP最終戦の決勝レースがスタート。ポールポジションは初の獲得となった#31 池島実紅選手。そこに#87 山本龍選手、#36 村松日向子選手と続く。ちなみに9番グリッドスタートとなる私の位置からは、シグナルがあるブリッジまでの距離がいつも以上に遠く感じる。そうはいっても、もう前を狙っていくしかない。フォーメーションラップでしっかりとタイヤを温め、レッドシグナルが点灯して、消灯。最終戦の火蓋が切って落とされた。
順調にスタートを切ったあと、1コーナーはアウトから攻めて2台抜きに成功。7番手から前についていくが、ダンロップコーナーの進入で脇が甘く、#610 RINA ITO選手にインを差されてしまう。その後の最終コーナーでインから仕掛けたものの、立ち上がりで再び抜かれ、そう易々と順位を譲ってはくれない。気がつけば、最終コーナーでスピン車両が出ていたり、300R後のダンロップコーナーでオーバーランしてコースに戻る車両がいたりと順位が入り乱れている。さらにはいったん停まっていたマシンがもの凄い気迫で後方から追い上げて前に出ていく。3周目を迎えるホームストレートでは、スタート後に抜いたはずの#13 おぎねぇ選手にスリップストリームに入られ、1コーナーで前に出られてしまう。
その後、最終コーナーでスピンしていた池島選手が怒濤の追い上げを見せて、コカ・コーラコーナーで前に出ていく。再びおぎねぇ選手とのバトルは続いたが、最終コーナーで抜きに出ては、スリップでまた抜き返されてしまった。ヘアピンのブレーキングでマシンの距離は縮まるも、上りが続くGR Supraコーナーの立ち上がりで一瞬もたつき、また少し離れてしまう。4周目はコースアウトしていた山本選手に追い上げられ、後ろにつくも追いつくことができない。7周目は#49 荻原友美選手と池島選手が最終コーナーで接触。走り出した荻原選手の後を追ったが、再びおぎねぇ選手と7位争い。バトルはファイナルラップにもつれこんだ。後方を走る私は第3セクター入口のダンロップコーナーのブレーキングで距離を縮めたが、GR Supraコーナーの立ち上がりで一瞬もたつき、抜き去る勢いが付けられない。最終的には8位でチェッカーを受けることになった。
最終戦の結果は、優勝は#36 村松日向子選手、2位は#37 翁長実希選手、3位は#48 星七麻衣選手となった。シリーズ女王に輝いたのは、最終戦の優勝者であり、この週末はスーパーFJ、FCR-VITA、KYOJO-CUPのトリプルエントリーをしていた#36 KNC Vitaの村松日向子選手。レース終了後に、村松選手からシリーズを勝ち取った感想を聞かせてもらった。
村松選手「第2戦、第3戦ともにポールポジションを取りながらも勝てないという悔しいレースが続いていました。レースは運もあるかも知れませんが、駆け引きや頭の使い方で負けていたと思います。富士スピードウェイはストレートが長く、他のマシンとのタイム差は少ないため、誰でもチャンスはある。ただ、スーパーFJと比べると、KYOJO-CUPのレース展開は難しい。混戦しているし、女性ドライバー同士のバチバチのバトルだし、揉まれて鍛えられる環境だと思います。今回は2位以下のマシンとの間隔が離れる展開に恵まれて、後ろを気にせず自分の走りができました。女性だけのレースは初めての経験でしたが、男性ドライバーに負けるよりも悔しかったので、最後に勝てたことは嬉しく思います。今私が着ているKNCのレーシングスーツは、2017年と2018年は小山美姫選手が活躍していたので、私も続けてシリーズチャンピオンを獲れたことを嬉しく思っています」。
たとえ速いタイムを刻んでも、レースで勝つことは難しい。ましてや、それが女性同士の戦いであれば、なおさら言いわけできない。見事な走りで優勝した村松選手の姿は圧巻だった。
最後に、今回のレースで3年目のシーズンの締めくくったKYOJO-CUPの発起人であり、女性ドライバーが競う必要性を唱え、競い合う場を提供してくれたレジェンドドライバーの関谷正徳氏に話をうかがった。
関谷氏「3年目のシーズンを迎えて、女性同士が競うレースの内容を見ると、それぞれのドライバーの運転技術も上がってきているし、競り合いが観客を沸かせて、レースが面白くなってきています。世界初の女性のプロレースシリーズとして始まったKYOJO-CUPですが、昔行なわれていた女性のレースは甘さもあって、継続が難しい状況があったことも事実です。そうした意味では、KYOJO-CUPのドライバーは、安全にレースができる技術を身に付けてきていると感じています。若いドライバーについては、カートレースからのステップアップとして、このレースに参戦することが目標になる環境になれば嬉しい。女性が輝く今の時代だからこそ、モータースポーツにおいても女性が成功し、盛り上がる雰囲気になってくれたらありがたいものです」。
レースの世界では少数派となる女性のプロレースシリーズ。3年目を締めくくろうとしている今、関谷氏は何を感じているのだろうか。
関谷氏「初めての物事はそう簡単ではなく、やらないという手もある。でも、KYOJO-CUPをやってよかったと思っています。モータースポーツはお父さんだけが楽しむのではなく、みんながお祭り気分で楽しめる環境が必要だと思っていて、サーキットが楽しい場所だという認識を持ってもらえるようになれば、モータースポーツそのものが市民権を得る1つのツールになっていく可能性もあります。そうした意味では、一般の来場者がレースに取り組むチームの様子を間近で見られるオープンピットを用意する取り組みなどを行なっています。大きいレースでは難しいことですが、乗り込むドライバーの様子や喜ぶメカニックの姿が見られる状況は感情が伝わってくる。感動は人からでしか得られません。モータースポーツがそうした感動をみんなで共有できるスポーツになれば最高ですね」。
「KYOJO-CUPは2020年も継続して行なう予定なので、挑戦するチームやドライバーを待っています。ドライバーが参戦するためにはA級ライセンスを取得し、マシンを調達する必要がありますが、資金的に難しいという場合でも、マシンを所有するオーナーの力を借りて参加しているドライバーたちもいます。興味を持ったら、まずはKYOJO-CUPの事務局に問い合わせてみてほしいですね。3年目を終えたKYOJO-CUPは観客との距離が近いレースとなり、見ている人が定着してきました。みんながレースの目撃者であり、女性レースの発展を見届けてくれていることは嬉しいものですね」。
新たな強敵が現れ、競い合う中で着実にレース全体のレベルも高まってきていると感じた2019年のKYOJO-CUP。スポンサーとチームスタッフの支えがあって、女性ドライバー同士が真剣勝負する場が与えられている。私自身はシリーズ7位という結果だったが、1年前の自分と比べてみると、トライ&エラーを繰り返しながら少しずつ進化してきていると感じる部分もあった。結果に結び付けることは難しいが、努力は結果に結び付くと信じて突き進んでいきたいと思う。
今季も「ENEOS☆MOMO.PMU VITA」を応援していただいて、ありがとうございました!