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藤島知子の“女性同士のガチバトル”競争女子「KYOJO-CUP」レポート
第5回:2020年シーズン開幕戦はコロナの影響により初の無観客レースに。さらに大雨警報が発令するレベルの豪雨に苦戦
2020年7月13日 16:16
- 2020年7月4日 開催
本来であれば、モータースポーツが開幕戦を迎える時期に、世界を大混乱に陥れた新型コロナウイルス。私たち女性レーサーたちが競い合う「KYOJO(キョウジョ)カップ」は、5月に予定されていた2020年のスタートを切る開幕戦が延期に。その後、6月初頭に緊急事態宣言が解除された後、開幕戦は7月4日に無観客レースとして開催されることが公式発表された。
ドライバーたちはそれぞれに自粛生活を続けていたようだが、レースが延期となっていた中、KYOJOカップの存在をもっと多くの人たちに身近に感じてもらえるようにと、Web会議ツールで知られるZoomを活用したドライバーズミーティングを開催し、その模様がKYOJOカップのホームページやYouTubeを通じて公開された。そのほかにも、2020年のシーズンに参戦予定の各ドライバーが自宅でヘルメットを傍らに置いてメッセージを配信したりと、応援してくれるファンとの繋がりをもつ新たな試みも行なわれた。
2020年で開催4年目のシーズンを迎えるKYOJOカップ。今季の大会は女性が活躍する社会の実現を目指すミュゼプラチナムがメインスポンサーとなり、女性ドライバーたちが切磋琢磨して競い合うKYOJOカップをサポートする形となる。
今シーズンから指定タイヤが変更に
参戦チームやドライバーにとって、開幕戦は全4戦で開催される今年の流れを占うレースとなりそうだ。昨年までと異なるもっとも大きな変更点は、レースに使用できる指定タイヤが変更されたことだ。具体的には、これまで装着していたヨコハマタイヤのADVAN Neovaから、ダンロップ製のVita専用タイヤに変わった。タイヤの性格が異なれば、マシンのセットアップやドライバーの走らせかたに影響を与える。これまで得たノウハウを活かしながら、チームとドライバーが一体となって攻略していく必要がありそうだ。
一方で、開幕戦は延期となっていたが、レースの開催地となる富士スピードウエイは、徹底したコロナ対策を行ないながら、営業時間を短縮してスポーツ走行は可能という状況だった。開幕戦が延期されたことは、今年初めてマシンに触れるドライバーたちにとって、準備期間としてマシンに慣れ、練習に時間を費やせるメリットもあったようだ。
そうした中、このレポートを書いているドライバーの1人の私、藤島知子は、昨年と同じSFIDAレーシングチームから「ENEOS☆MOMO☆PMU」のエントリー名で2020年のシリーズに挑むことになった。富士スピードウエイでVITA-01のハンドルを握るのは、昨年11月の最終戦以来およそ半年ぶりとなる。公認レースは各レースの主催者が取り決めたレギュレーションのもと、イコールコンディションでレースに臨まなければならない。
KYOJOカップにはレース専用車両であるウエストレーシングカーズ製の「VITA-01」が使われているが、ドライバーの体重とレーシングスーツやヘルメットなどの装備品を含めた重量込みで615kgを下回ってはならない。今回のダンロップの指定タイヤは、市販車と比べて軽量な車重のVITA-01に合わせて専用開発されたタイヤとなる。これまで装着していたADVAN Neovaと比較すると、ダンロップの指定タイヤは、しなやかにたわむ感触を与えてくるもので、ウエットグリップは低め。実際に走ってみると、昨年までのタイヤとは異なる感触に少し戸惑いを覚えた。
レースウィークを迎えた7月の第1週は、梅雨らしく雨と晴れの天気がコロコロと変化する不安定な陽気が続いていた。雨の降り方次第では、コース上の水かさが増して川になっていたりと、路面のコンディションも刻々と変化していく。レース当日は雨の予報が出ていたため、各チームはそうした状況に対応すべくテストを繰り返していた。
レース前日の夕方には、KYOJOカップの発起人であるレジェンドドライバーの関谷正徳氏がドライバーを招集してミーティングを実施。KYOJOカップに初参戦するというドライバーもいれば、幼いころからカートレースをしてきた経験はあっても、初めて4輪のレースデビューを飾る20前後の若手のメンバーもいる。
関谷氏は、ドライバー同士が相手に敬意を払ってクリーンなレースを行なうことの重要性を語り、接触事故を避けるためのアドバイスも行なった。また、コロナの感染予防対策を行ないながらという特殊な環境下で開催されるレースということで、各スタッフの健康状態の申告についての説明、ピット内での3密を避け、休憩所を有効に活用する過ごしかたを提案するなど、注意事項が共有された。
曇天の中の予選で、まさかのトラブルが発生
いよいよ迎えたレース当日。静岡県は大雨警報が発令されるほどの雨量となり、午前中から昼ごろにかけて行なわれた各カテゴリーの予選や決勝は途中で赤旗になったり、セーフティカー先導のもとでレースがスタートするケースも見受けられた。KYOJOカップの予選は14時にコースインを開始したが、雨が上がって気温が暖かいせいか、路面の乾くスピードは早く、レコードライン上はほぼドライの状態に。ただし、雲が通り過ぎていくスピードはとても速く、雨が近づいてきている気配もある。コースイン開始の時をピットロードで待つマシンたち。「雨が降り始める前にタイムをたたき出さなければ」というピリピリとした空気が漂っていた。
コースの路面は乾き始めたとはいえ、ところどころ濡れているようにも見える。豪雨で土が流れ出た跡、急勾配のカーブが連続する第3セクターは、オイルが漏れた跡なのかスリップしやすい箇所もあったりする。私はタイヤのグリップレベルを確かめるようにして周回を重ねていった。途中、ヘルメットのバイザーに雨粒が打ち付ける場面もあったが、周回を重ねたマシンのタイヤは徐々に温まり、路面のコンディションは好転していった。
後半でタイムアップを狙っていけると思った矢先、私のマシンのコクピットでは、まさかのトラブルが発生。午前中の豪雨でマシンがずぶ濡れになってしまったせいか、コックピットに取り付けていた肩を支えるパッドが外れて足下に転がり込んできてしまったのだ。予選に残された時間はわずか。落ちたバットがペダルに挟まらないように、パッドを左足で足下の壁に押しつけながら走ったが、今度は反対側の肩パッドが外れてシートの上に。体勢も気持ちも落ち着かず、不完全燃焼のまま予選の時間が終了。結果、決勝レースは11番グリッドからのスタートとなった。
豪雨、スピン、接触。波乱に満ちた決勝レース
決勝レースの進行は16時ごろにスタート。不安定な天候は相変わらずだったが、幸いにも路面はドライ。ただ、グリッドではマシンの脇に立つスタッフの身体は風に煽られ、直立しているのが厳しいほどの強風が吹きさらしていた。バックミラーを覗き込むと、背後にはどす黒い雲が近づいている。
フォーメーションラップでタイヤを温め、グリッドへ。レッドシグナルが点灯して消灯。開幕戦の火蓋が切って落とされた。1コーナーでは各車が横並びになって進入していく、どさくさで数台前に出ることに成功したが、神様のいたずらなのか、オープニングラップの序盤となるコカ・コーラコーナーに差し掛かるあたりで、土砂降りの雨が襲いかかってきた。車速が高いコカ・コーラコーナーの脱出から100Rを通過するあたりで外に飛び出すマシンの姿はなく、「前に出たい」という気持ちが昂ぶる状況の中で、各車のドライバーは体勢を崩さずに走り続けていく。
トップ集団は、4番グリッドからスタートした#37 翁長実希選手がヘアピンでスルリと前に躍り出た。300R先のダンロップコーナーでは、ポールポジションからスタートした#38 三浦愛選手が痛恨のスピン。その先にあるスープラコーナーでもスピン車両が出ていた。
2周目に差し掛かる段階では、私のマシンは7番手。VITA-01はABSがついておらず、今ドキ貴重なアナログマシンといえるが、雨で濡れた1コーナーはブレーキがロックしやすいので、緊張感が高まる。そんな矢先、#610 髙橋純子選手が停まり切れずにオーバーラン。スピンで順位を落とした後に猛追してきた#38 三浦愛選手も2度目のスピン。雨も風も強い状況でレースは続いていく。いやいや、レースはまだ序盤。いつセーフティカーが入るか分からない状況のなか、最終コーナーでスピンするマシンも。
降り続く雨でいよいよ路面の水かさは増していき、コースコンディションはレース続行が厳しい状態に。2周を迎えた段階でセーフティカーが導入され、各車隊列を整えていく。4周ほど周回を重ねたところで赤旗中断となり、一旦、グリッド上に停車して再開を待つことになった。そのおよそ25分後、セーフティカーの先導で走行を開始。6周を迎えたタイミングでレースは再スタートが切られた。
雨は一旦上がったように見えたが、再スタートが切られた1コーナーに差し掛かる頃には、強い雨が打ち付けて路面はまた水かさが増した状態になって、前走車が舞い上げた水しぶきで前方の状況が見渡しにくい。「今度こそは」と意気込んで1コーナーに飛び込んでいくマシンたち。ブレーキングで2番手を快走していたはずの初参戦の#86 猪爪杏奈選手がスピン。その直後、私はホームストレートから1コーナーに向けたブレーキングをするタイミングに差し掛かるところだったが、スピンした猪爪選手に2台のマシンがスピンしながら接触していく状況が見えた。私は1コーナーのブレーキングでロックしかけてフラつき、外側のガードレールに向けて車体が傾いた時は一瞬ヒヤリとしたが、気持ちを冷静に保ってカウンターをあて、どうにか姿勢を持ち直した。
私の少し前を走っていたマシンたちは、コース上の停車車両を避けるため、一旦コースの外側にオーバーランしてコースに復帰していく。1コーナーの路面は、接触車両のパーツが散乱したままの状態。レースが中断されていた間にタイヤはすっかり冷え切ってしまったらしく、その後のコカ・コーラコーナーでタイヤがうまくグリップせずにスピンしたり、コース外に飛び出すマシンが続出。私はマシンをコース内に留めるのが精一杯な状態の中、結果的に9位でチェッカーを受けた。決勝レースは審議の結果、再スタート違反やセーフティカー中のスピン車両がそれぞれ30秒のペナルティが科せられたことで、私の正式結果は8位となった。
最終結果は、序盤から前に躍り出て逃げ切った#37 翁長選手が優勝。淡々とペースを上げていった#712 RINA ITO選手が2位。3位は幾度ものスピンを乗り越え、ファナルラップのチェッカー直前で登りつめた#38 三浦愛選手が獲得した。
開幕戦から大荒れの展開で、選手たちが持つ力と精神力が試された今回のレース。次戦は3週間後となる7月26日に鈴鹿サーキットのフルコースで開催される。KYOJOカップはこれまで富士スピードウエイのみで開催されていたこともあり、鈴鹿で行なわれる第2戦の行方がどうなっていくのか楽しみだ。