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藤島知子の“女性同士のガチバトル”競争女子「KYOJO-CUP」レポート

第3回:上位陣まであとひと息。激しい展開が繰り広げられた第3戦

2019年10月20日 開催

 世界的にも珍しい女性ドライバー同士が競うプロレースシリーズ「KYOJO-CUP」。全4戦が富士スピードウェイで開催される2019年のシーズンは、今回のレースで早くも3戦目に突入。今季は開幕戦が4位、第2戦が7位と、なかなかいい結果が残せずにいる状況は悔しいばかり。

 そんな私のダメっぷりを見かねたチームは、私が苦手としているダンロップの低速コーナーから上り坂が連続する第3セクターを走る様子を観察して問題点を見つけ出し、アドバイスをしてくれた。指摘された個所は重点的に走り方を変えてみたりと、気持ちを1つにして取り組む環境を作ってくれていることには感謝するばかり。レースで結果を出すには判断力やテクニック、度胸や冷静さも必要だが、地道な努力は裏切らないと信じて取り組みたいところ。

女性ドライバー同士が競うプロレースシリーズ「KYOJO-CUP」。開幕戦4位、第2戦7位。今回の結果はいかに

 いよいよ迎えたレース当日。天気予報は曇りだったので、ドライ路面で走ることを想定していたのに、朝、ホテルで窓の外を見てびっくり。路面は前日の雨で濡れたままのウェット状態。太陽が顔を覗かせることもなく、そのまま予選の時間がやってきた。前日の夕方に行なわれたスポーツ走行は仕事で参加できなかったため、タイヤは皮むきさえできていない状態。しかも、前日行なわれた決勝レースでエンジンが壊れてしまったということで、メカニックがニューエンジンに載せ換えを行なったため、コースは走れていないとのこと。20分間の予選は、新品タイヤを温めようと心掛けるもタイムが伸びず、7番グリッドが決定。チームのみんなには申し訳ない状況だったが、あとは11時から行なわれる決勝レースに賭けるしかなかった。

 決勝までの時間はステージカーでKYOJOドライバーのトークショーが行なわれ、それぞれのドライバーの紹介やレースへの意気込みが語られた。レース開催の前週は、台風19号の被害に遭われた地域もあったことから、ここ富士スピードウェイからも元気を届けられるようにと、ドライバーたちは皆で「前へ!」という掛け声とともに心を1つにして臨んだ。

ステージカーでKYOJOドライバーのトークショーが行なわれた
会場ではジャガー・ランドローバーやKeePerブースとともに、台風19号で被災された地域に向けた復興支援募金も行なわれた
子供向けのコンテンツも充実
KYOJO-CUPで使われるレース専用車両「VITA-01」。エンジンは2018年より現行型トヨタ「ヴィッツ」のGR SPORT仕様で使われる1.5リッターを搭載し、最高出力は109PS。タイヤは横浜ゴムのスポーツラジアルタイヤ「ADVAN NEOVA AD08R」(195/55R15)を履く

前を走るマシンは手を伸ばせば届きそうな距離……

 記念撮影を終えてマシンに乗り込むと、ドライバーたちの表情が真剣な眼差しに。1台ずつコースインしてグリッドに着いた。グリッド上には応援者たちが駆けつけてくれたが、コース上からの退避を促すサイレンの音が鳴ると、サポーター1人ひとりとグローブ越しに硬く手を握り合い、フォーメーションラップを開始。オープニングラップから勝負に出られるようにとウェービングを念入りに行なってタイヤを温め、スタートを切った。

 アウト側の路面はわずかに湿っているように見えたので、1コーナーはインを通るラインを狙い、1ポジションアップに成功。とにかく前のグループに食らいついていかなければついて行けなくなってしまうと、気持ちを前に向けて走っていく。

 序盤は前走車に少しだけ遅れをとってしまったが、周回を重ねるごとに徐々に距離を縮めていった。数周が経過すると、上位6台が接近したままコーナーをクリアしていく。上位陣はポールポジションからスタートした#36 村松日向子選手、#37 翁長美希選手、#49 荻原友美選手、そこに#48の星七麻衣選手が激しく入れ替わる形で争いを繰り広げている。それに続くのが、#87 山本龍選手、6番手に#24 藤島知子。富士スピードウェイは、世界でも有数のホームストレートの長さ(1.5km)を持つことで知られているが、KYOJOのレースを競うVita-01で前走車を追従して走ると、スリップストリームが効いて順位が入れ替わることがある。それを利用した次のコーナーへのアプローチやせめぎ合いもこのレースの見どころといえるだろう。

 1コーナーではイン側から攻めたり、アウト側から余裕を持ったライン取りでボトムスピードを高めて抜こうとしてみたりして、チャレンジしながら隙を窺う。3ラップ目の最終コーナーでは、アウトからインを差す走りで6→5番手にポジションアップを成功。しかし、次の周の1コーナーでは、5番手争いをしている#87 山本龍選手とお互いが譲る気持ちもなく2台が横並びのまま進入。私はアウトからアプローチしたが、イン側の走行ラインを#87 山本龍選手に抑えられてしまった。しかし、6周目では再び5番手を奪還。7周目はさらなるデッドヒートとなり、1コーナーは上位3台が3ワイドで進入。ファイナルラップまで順位が入れ替わりながら、私の目の前で手に汗握る展開を繰り広げていた。接近戦の状況とあって、前を走るマシンに手を伸ばせば届きそうなほど近くにいるのに、自分のマシンが前に出られない状況がもどかしかった。結果的には、#48 星名麻衣選手が初優勝を遂げ、2位に#37 翁長美希選手、3位に#49 荻原友美選手、4位に#36 村松日向子選手。それに続いて私は5位でチェッカーを受けた。

 結果を見れば、2つ順位を上げたことになるが、内容を見てみると、遠く前を走っていると思っていた上位陣に迫る状況で競える場所にいられたことは「進歩」といえるのかもしれない。これまで地道に練習と検証を重ねてきた成果が出始めてきたレース展開といえた。ピットに戻ると、応援してくれた仲間たちが「見応えのあるレースだった」と言ってくれたことがとても嬉しかった。

第3戦の優勝は#48 星名麻衣選手。2位は#37 翁長美希選手、3位は#49 荻原友美選手となった

チームメイトの見崎清志さんがレジェンドカップで優勝

ピットビル2階のクリスタルルームで関係者と記念撮影

 女性ドライバーたちが真剣勝負で戦っているKYOJO-CUPだが、サーキットでは通常目にしないユニークな試みも行なわれている。ピットビル2階のクリスタルルームでは、コースを走るマシンたちを眺めながら施術してもらえるネイルサロンが登場したり、疲れをほぐすマッサージコーナーなどが出現。また、KYOJOカップの大会スポンサーの1つであるミュゼプラチナムは、同社のLINEアプリからレース観戦に招待した女性たちが来場し、KYOJOドライバーとの交流も行なわれた。普段はレースやクルマの運転にあまり関わりがない参加者もいたりして、彼女たちとコミュニケーションがとれることは、クルマへの興味を広める上で有益な場だと感じられた。

ピットビル2階のクリスタルルームにネイルサロンやマッサージコーナーが設置された

 レース後は、私たちが走ったマシンのハンドルをレジェンドドライバーたちが握って競う「レジェンドカップ」が開催され、多くのファンがサーキットに押し寄せた。私たちのマシンは、チームメイトの見崎清志さんがハンドルを握って走ったが、日ごろの鍛錬とVitaレースの参戦経験を活かして優勝を遂げるという快挙を成し遂げた。レジェンドドライバーのメンバーは、日本のレース史における輝かしい活躍でレースファンを沸かせてきた華やかな面々。彼らの目から見たVita-01のマシンは、エンジンは封印して改造は許されず、ABSやトラクションコントロール、パワステなどが付いておらず、ドライバーのスキルが問われるマシンであるという点で、走り応えを感じていたようだった。

「レジェンドカップ」ではチームメイトの見崎清志さんが優勝

 見崎さんに女性ドライバーたちが競うKYOJO-CUPがどう見えているのか尋ねてみたが、「男女同権とはいえ、女性ドライバーがレースで戦うことは体力的にもハードルが高い。レースはセンスだけでなく、一般常識の持ち主であることも大事。女性レースにもっと参加者が増えていくといいね」と語ってくれた。世界のレースにはさまざまなカテゴリーが存在するが、こうして1台のマシンを通して、多くのドライバーと気持ちを共有し、ドライビングやセッティングについて語り合うことができるレースの在り方は素晴らしいと思う。さまざまなレースカーを経験してきた彼らが発する言葉にこっそり耳を傾けながら、「次のトライはどうしようか」と考えている私がいた。

 KYOJOカップの最終戦は11月17日に開催される予定。現在のポイントランキングは6位。前を向いて進んでいくしかない。