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藤島知子の“女性同士のガチバトル”競争女子「KYOJO-CUP」レポート

第1回:女性ドライバーだけのレースが開かれる理由、そして開幕戦

2019年5月12日 開催

競争女子とは?

 5月12日、静岡県の富士スピードウェイで競争女子「KYOJO-CUP(キョウジョ カップ)」の開幕戦の火蓋が切って落とされた。

「競争女子??? 女性ドライバーがハンドルを握る公認レースって存在するんだ?」

 レースに興味をお持ちの皆さんでも、もしかしたらそんな風に思うかもしれない。それというのも、世界で開催されている公認レースは男女混合で行なわれているものがほとんどで、圧倒的に男性のレーシングドライバーが多い。日本のレースシーンを見てみると、女性ドライバーの比率は40台参加している中で多くて2~4人。中には女性が1人も参加していないカテゴリーもあったりする。

 レースはモータースポーツと呼ばれているが、世の中に存在するスポーツのほとんどは身体能力が異なる男女をそれぞれ分けて競うのが一般的。では、モータースポーツは何故、男女別に開催されないのだろうか? それは女性にとって不利ではないのか……? 女性の体重は軽いなんて言われることもあるが、今ではマシンとドライバー込みで最低重量を計測するものが多い。そうなれば、運転スキルと身体能力が問われるため、女性は不利になりやすい。

 そんな事実を踏まえ、女性ドライバーのみで競うことができる「KYOJO-CUP」を現実のものにしてみせたのが、日本レース界のレジェンドの1人、関谷正徳氏だ。彼はプロドライバーとして活動後、レースチームの監督として活躍し、数多くの若手トップドライバーを育ててきたことで知られる人物である。プロを目指すドライバーが置かれた状況や、社会にとってのレースの存在を肌身で感じてきた彼は、女性だけでレースを行なう環境作りが必要だと感じたのだ。

 そうした経緯で、2017年に富士スピードウェイで女性初のプロレースシリーズとして開催することになった競争女子「KYOJO-CUP」。マシンはウエストレーシングカーズが製作し、今では日本だけでなく、海外にも販売している「VITA-01」と呼ばれるレース専用車両を使って行なわれる。

KYOJO-CUPで使われるレース専用車両「VITA-01」

 一見するとフォーミュラカーに見えるマシンはスペースフレーム構造で構成されているもので、エンジンは2018年より現行型トヨタ「ヴィッツ」のGR SPORT仕様で使われる1.5リッターを搭載。同じくヴィッツで採用されているHパターンの5速MTはドライバーの右側に配置される。エンジンスペックは109PSだが、市販車のヴィッツの車両重量は1040kg。同じエンジンでも、ドライバーの体重とレーシングスーツやヘルメットなどの装備品を含めた最低重量が580kgのマシンに搭載されるとなれば、パワーウエイトレシオは別モノになる。

 ちなみに、富士スピードウェイのストレートエンドにおける最高速は200km/hに到達する。サーキットで実際の音を聞くと驚かれるかもしれないが、エキゾーストの音色はパンチがあるもので、「ホントにこれがヴィッツのエンジンなの?」と思えるほど、迫力があったりするのだ。

 レーシングカーとしてみると排気量は少なめだが、「マシンを操る」という意味では、他のカテゴリーのレースで速いドライバーがパッと乗ってドライブしても、頭と技をもって臨まなければ決して速く走ることはできないところが面白い。

 ちなみに、使えるタイヤはレースの車両規定で決められていて、グリップ力が高いレース用のスリックタイヤは使えない。KYOJO-CUPでは、市販のスポーツカーに装着される横浜ゴムのスポーツラジアルタイヤ「ADVAN NEOVA AD08R」(195/55R15)を使う。また、ブレーキがロックするのを抑制するABSは付いていない。ブレーキパッドの選択は自由だが、コクピットの回転式のスイッチでブレーキの効き具合の前後バランスが調整できる仕組みはフォーミュラカー的だ。LSDも付いていないし、車体を前に進めていきたい気持ちがあっても、クルマの状態を考えて操作をしないと速く走ることはできない。パワーや制御で誤魔化しが効かないぶん、ドライバーは冷静かつ正確にマシンをコントロールして、最適な状態に持ち込むテクニックが問われるというワケだ。

マシンには現行型トヨタ「ヴィッツ」のGR SPORT仕様で使われる1.5リッターエンジンが搭載される
タイヤは横浜ゴム「ADVAN NEOVA AD08R」(195/55R15)を使用
ブレーキパッドの選択は自由で、コクピットにはブレーキバランスを調整するスイッチが備わる
VITA-01のコクピットまわり。5速MTのシフトノブはドライバーの右側にレイアウトされる

 ごあいさつが遅れてしまったが、今こうして原稿を執筆しているワタクシ、藤島知子は、KYOJO-CUPのマシンのハンドルを握るドライバーの1人。KYOJO-CUPは2017年からスタートして3シーズン目を迎えるが、初年度からドライバーの立場ですったもんだと格闘しながら、このレースの発展を願うモータージャーナリストの1人でもある。

 2019年のシリーズは、昨年からお世話になっているSFIDA RACING TEAMより、今年も継続して参戦することになった。マシンはオレンジとホワイトのカラーリングがトレードマークの「ENEOS☆MOMO☆Pmu VITA」のハンドルを握らせてもらう。

本レポートはKYOJO-CUPに参戦するモータージャーナリスト・藤島知子がお届けする

課題が見つかった予選、決勝

 レースウィークの水曜日に富士スピードウェイに入ったが、実のところ、昨年の最終戦を走って以来、初のスポーツ走行となる。マシンは足まわりのセッティングを変更しているそうだが、今回は土曜日に開催されるレースで同じマシンをシェアして走るドライバーがハンドルを握るため、私自身はチームのもう1台のマシンで練習走行を開始。久々に乗るVITA-01の走行感覚を取り戻すところからスタートした。

 金曜日にも走行枠が設けられていたが、開幕戦までに残された時間はわずか。練習を重ねるライバルたちに遅れをとっている焦りもある中、限られた走行時間を有効に使いたい気持ちもある。昨年の課題を思い出しながら、試してみたかった走りを少しずつ実践してみることにした。レースのレギュレーションとしては、車両の最低重量が昨年よりも重くなったこともあって、ウエイトを積んで走ったが、タイム的には少しずつの進化ではあるが、縮まっていた周回もある。ただ、コース上で他の車両が混ざると、それをかわすのにタイムロスが生まれてしまって、安定したタイムで走らせることができない。

 そして迎えた決勝当日。朝から装備品チェックやメディカルチェックを経て、9時に開始する公式予選に向けて準備を進めていく。路面はドライコンディション。自分自身の中で、3つの目標を決めて臨んだものの、タイミングを合わせて前走車のスリップストリームを利用することもできずにいた。タイヤは積極的にアクセルを踏み込んでいかなければ温まらないワケだが、今置かれた状況にアジャストできずに、タイヤの内圧も上がりきっていなかった。結果、自己ベストを出すことはできずに7番グリッドからのスタートが決定した。改めて、予選時間の使い方やタイヤマネージメントへの課題を認識した。

予選では時間の使い方やタイヤマネージメントへの課題を認識

 決勝まで4時間ほどあるが、その間、ピット裏のパドックでは来場者が楽しめるさまざまな催しが行なわれていた。

 来場者が集まっていたのが、ジャガーの最新モデルの試乗会。先日、「2019 ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞したEV(電気自動車)「I-PACE」もズラリと並べられていた。ジャガーならではの美しいスタイルを眺めたり、実際に走行を体験して笑顔で降りてくる参加者の姿が目にとまった。

 また、横浜ゴムのブースでは、低燃費とウェット性能を両立したミニバン/SUV用タイヤの「BlueEarth RV-02」をミニバンに履かせて外周路を走る試走会を実施。ご家族連れはもちろん、荷物を乗せて走るミニバンユーザーも最新タイヤの実力に関心を持っているようだった。

 ステージではKYOJOドライバーのトークショーを実施。今年はミュゼプラチナムがLINEのお友達登録をした女性の来場者に日焼け止めをプレゼントしていたこともあって、話はレースに取り組むストイックな話題からお肌の美容事情まで、話の振りが多岐にわたるところも女性ならではの展開だったりする。

会場ではジャガーの最新モデル「I-PACE」の試乗会が開かれた
横浜ゴムは「BlueEarth RV-02」をミニバンに履かせて外周路を走る試走会を実施
ミュゼプラチナムによる日焼け止めプレゼントは、女性が主体となるイベントならでは
ステージで行なわれたKYOJOドライバーのトークショー
KYOJOドライバーで記念撮影

 ほどけた場の雰囲気もつかの間のこと。決勝レース直前に記念撮影が行なわれたが、気持ちを切り替えてマシンのコクピットに乗り込み、各マシンが次々にコースインしていく。

 そして、いよいよ開幕戦の決勝レース。ダミーグリッドについて、フォーメーションラップを開始。レッドシグナルが点灯して、消灯。レースがスタートした。スタートでは気持ちを無にしてエンジン回転を高めることに集中。クラッチミートしたが、回転が高すぎてホイールスピン気味になり、後続車両に抜かれてしまう。冷静さを取り戻すようにして1コーナーに向かってアウトからまわり込もうとしたところ、2番手スタートだった33号車 細川由衣花選手がコース中央でスピン。周囲のマシンはパッと散るようにして彼女のマシンを避けて通過していく。

 スタートのどさくさで順位は乱れていたが、私は5番争いをしながら前方の集団に喰らいついていく。間近を走る前走車もいたが、立ち上がりをスムーズに決めるため、前走車よりもラインをワイドに描いて、マシンに負担が掛かりにくい走りを意識しながら、抜きに出る隙をうかがう。

 最終コーナーに向けた第3セクターの始まりとなるダンロップコーナーでは、2つめの左カーブで28号車 RINA ITO選手とスレスレのせめぎ合いとなり、アクセルを緩めたくない思いから左のタイヤを路肩にわずかに少し落としながら併走したまま車体を前に進めていく。4周目、5~6番手争いをしている中で0.2秒差に追いつき、1台を抜いた。先頭集団は86号車 小泉亜衣選手、87号車 山本龍選手、48号車 星七麻衣選手がバトルを繰り広げていたが、ポールポジションからスタートした山本選手にスタート(グリッド停止位置)違反が判明して、ドライブスルーペナルティが課せられた。

 私の方はというと、6周目には13号車 おぎねぇの後を追いながら、5番手、6番手争いに。私の方がわずかに早いペースで周回を重ねていけたこともあって、5位に踊り出た。その後、序盤でスピンした細川由衣花選手が怒濤の追い上げをみせており、ホールストレートでスリップストリームにつかれた後、第2セクター立ち上がりの速さにかなわず、あっさりと抜かれてしまった。

5番手、6番手争いをする筆者

 8周目以降、各車は単独走行となり、10周目となるファイナルラップまで安定的なタイムを刻んでいった。結果、コース上では5位でチェッカーを受けたが、上位の1台が最低重量違反で失格になってしまったことで、正式結果においては4位をゲット。私としては自己最高順位を獲得することになった。

優勝は86号車 小泉亜衣選手

 ともあれ、練習時の自己ベストを出し切ることができなかった今回のレース。第2戦は9月1日なのでまだ先ではあるが、状況が変わっても自分のベストがコンスタントに出せるような練習を積む必要がありそうだ。次戦まで数か月の時間が空くが、乗れない時間に何ができるのか考えを巡らせながら、次戦に挑んでいきたい。