ニュース

藤島知子の“女性同士のガチバトル”競争女子「KYOJO CUP」レポート

第10回:第2戦の舞台は鈴鹿サーキット。後続から逃げ切り8位フィニッシュ

2021年7月25日 開催

1年ぶりに訪れた鈴鹿サーキット

 2021年7月25日、鈴鹿サーキットで「2021 KYOJO CUP SUPPORTED BY MUSEE PLATINUM 第2戦」が開催された。KYOJO CUPは富士チャンピオンレースシリーズのプログラムの1つとして行なわれてきたものだが、富士スピードウェイが東京2020オリンピックのロードレースの開催地になることに伴って使用できず、昨年から今年にかけて7月のレースは鈴鹿サーキットで開催されることになったのだ。よって、KYOJO CUPは2度目の鈴鹿戦となった。

 今回のレースには14名の女性ドライバーがエントリー。KYOJOで使われるVITA-01のマシンやそれ以外のカテゴリーで走行経験をもつドライバーもいれば、今回のレースで初めて走るドライバーもいる。

KYOJOで使用するマシンVITA-01
シャーシはセミモノコックフレーム+スペースフレームで、サイズは3712×1600×1070mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2200mm。フロントのトレッド幅は1390mm、リアのトレッド幅は1440mm
シフトレバーは右側に配置される。メーターの他に前後ブレーキバランサーやテールランプのスイッチを装備する
ブレーキは全輪4ピストンアルミキャリパーとベンチレーテッドディスクローターを装備。タイヤは2020年からダンロップのVITA専用タイヤ 「DIREZZA V-01」のワンメイクとなっている
エンジンはトヨタ「ヴィッツ」と同じ1NZ-FCを搭載。トランスミッションもヴィッツの5速MTを採用している

 レースウィーク直前には、KYOJO CUP事務局が希望者に向けてオンラインでメンタルトレーニング講習を受講できるようにプログラムを用意してくれた。講師はオリンピック選手やプロドライバーなどのアスリートに指導を行なっている小林玄樹氏。第2回となる講習会のテーマはアスリートが勝負の時に抱く緊張やプレッシャーをコントロールする方法について。オンラインの環境を活かしてスライドや動画を表示しつつ、有名アスリートの言葉を例に挙げながら、貴重なアドバイスをしていただいた。身体を鍛え、走行テクニックを磨いたとしても、心を鍛えるプログラムは個々で学ぶにはどうしたらよいか分からないところもある。こうして、女性ドライバーたちがスキルアップするための環境を用意していただけることには感謝するばかりだ。

 富士スピードウエイとは異なる鈴鹿のコースをどう攻略しようかと、各々のドライバーはイメージを膨らませながら現地での調整をスタートしているようだ。VITA-01のマシンを企画・製作したウエストレーシングカーズは鈴鹿を本拠地とする企業で、シリーズ戦はこれまで戦い抜いてきた鈴鹿のクラブマンレーサーたちが切磋琢磨しあっている。今回はそんな鈴鹿勢に加えて、普段は富士スピードウエイのシリーズで戦っているメンバーたちが加わり、土曜日のVITAのレースには44台ものマシンがエントリーした。そのうち、KYOJO CUPにダブルエントリーするドライバーは12名。私自身、いつもは日曜日に開催されるKYOJO CUPのみ参戦しているのだが、今回は土曜日のFCR-VITAのレースでマシンをシェアしている見崎清志さんにシートを譲っていただいたことで、土曜日のレースにダブルエントリーするチャンスを得られた。

全日本ジムカーナのレジェンド級チャンピオンの山野哲也選手が、同日開催していた【2021 N-ONE OWNER'S CUP】Round 10 SUZUKAでドライビングコーチとして現場にいたので、貴重なアドバイスをいただいた
女性だけのレースシリーズKYOJO CUPをプロデュースした関谷正徳氏

 そうは言っても、レース前にテストが出来ず、1年ぶりに訪れることになった鈴鹿サーキット。前回のレースで残してしまった悔いを取り戻すべく、あのときに止まっていた時計の針がまた再び動き始めた。まずは走行ラインやシフトポイントなどを確かめながら、徐々にペースアップしていく。ストレートエンドから高速で下りながら右へ回り込む1コーナー。下りきった鉢の底から2コーナーへ駆け上がると、その先にS字が連続。逆バンクやダンロップを経て登り切ると、高速コーナーからデグナーに繋がるセクションへ。ここで、ひとたびリズムが狂ってしまうと、姿勢のわるさがしばらく先まで悪影響を及ぼし、大きなタイムロスに繋がってしまう。また、鈴鹿は富士と違ってコース幅が狭く、抜きどころを見極めるのが難しい。鈴鹿で走り慣れていそうなマシンの後ろについて走ってみるものの、あっさりと置いて行かれてしまったりする。タイムアップするためには、できないことを炙り出して、苦手を克服していくことも大事だが、それだけでは自信をもって攻めていくことができない。昨年よりも少しでも切り崩していけている部分は肯定的に受け止めつつ、客観的に分析するように心掛けながら、よい部分はもっと伸ばせないものかと考えてみたりする。

 走行周回を重ねながら、行き詰まってしまっていた私に声を掛けてくださったのは、VITA倶楽部のアドバイザーとして鈴鹿に来ていた福山英朗さん。VITA倶楽部を主催し、VITA-01の産みの親であるウエストレーシングカーズは、各地で行なわれるレースのレポートをSNSで紹介していたり、タイヤやパーツの販売で得た利益をモータースポーツ発展のために役立てようとしていることが分かる。福山さんは日本のみならず、世界の舞台で活躍してきた豊富な経験をもつドライバー。そんな福山さんにアドバイスして貰えることはありがたいこと。

 さっそく、福山さんに私が走ったオンボード映像をチェックしていただいたところ、走行中に下半身が安定せずにコックピットに収まる身体がグラついていることが気になると指摘された。振り返ってみれば、私の身体は高速のS字で揺られて体力ばかりが奪われてしまい、そのうえ操作に遅れが生じることで、イメージしたラインを辿れず、一旦崩れたリズムの影響を引きずってタイムダウンしてしまっていた。つまり、自ら不安定な挙動を招いていたのだ。ドライビングを行なう運転姿勢が大事だと頭では分かっていたものの、基本を守れていなかったことにハッとさせられた。

レース前のブリーフィングの様子

 福山氏はレース前のブリーフィングで、参加するドライバーたちに向けて、安全にレースをする上で鈴鹿のコースでありがちなリスクについて説明。野球界など、他のスポーツで互いの選手を尊重し合うプロの選手たちのふるまいを紹介しながら、スポーツマンシップの大切さについて語ってくれた。

いよいよ決戦の日曜日。まずは予選から奮闘

 そして、日曜日がやってきた。天候はドライ。朝はそれほど暑くはないが、陽が高くなっていくにつれて、太陽が照りつけていく。いよいよ女性たちによるガチバトル「KYOJO CUP 第2戦」がスタート。週末に向けて調整してきたドライバーたちの腕試しの時間が始まった。

 まずは8時50分から20分間の予選がスタート。コースコンディションは変わらずドライだが、少し湿度が高い感じもする。コースイン2分前になると同時に、各マシンがピットロードになだれ込み、タイヤを温めながら走り出した。

 私は土曜日のレースで走ったタイヤで走行したが、はやる気持ちからオーバースピード気味でコーナーに進入してしまったり、ステアリングを切り込むタイミングが合わせ込めなかったりと、思うようにリズムをつかめず、ベストタイムは2分32秒656で13番手となった。

 コース上では同日に開催されているさまざまなカテゴリーの決勝レースが次々に行なわれていく。お昼をまわると、夏本番らしい強烈な陽射しが照りつけ、路面温度は最高潮に達している様子。決勝は14時20分にスタート。各車は元気よくコースを走ってマシンをグリッドに着け、レースのスタートが切られた。土曜日のレースは44台もエントリーしたためローリングスタートになったが、KYOJOのレースは停止状態からレッドシグナルが消灯して走り出すスタンディングスタート。下りのホームストレートから一斉に進入していく1コーナーでどんな展開を迎えるのかと、いつもと違う緊張感に包まれる。

決勝は強烈な陽射しが照りつける14時20分にスタート

 スタート直後、エンジン交換のため最後尾スタートとなっていた100号車 下野璃央選手が私のマシンをスルリと交わしてポジションアップ。先頭集団はポールポジションからスタートした18号車 辻本始温選手を86号車 猪爪杏奈選手が抑えてトップに躍り出る。デグナーの立ち上がりでは、アウト側からイン側のエリアに87号車 山本龍選手がコースアウトしてしまう。辻本選手は下り坂となるスプーンコーナー立ち上がりのバックストレートで猪爪選手のスリップにつき、130Rに向かうものの、そうは簡単に譲ってはくれない。

 私は前方を走るマシンに追いつこうとして走るものの、なかなか距離を縮めていけない。1コーナーでは辻本選手が猪爪選手を交わしてトップを奪還。48号車 星名麻衣選手はコースアウトしたところから復帰。100号車 下野選手はファステストラップを刻みながら、わずか2周目で5番手まで順位を上げている。2周目を終えた頃、コースアウトした車両から逃げ切る形で私は10番手にポジションをアップ。

 3周目に入ると、18号車 辻本選手、86号車 猪爪選手、37号車 翁長選手、2019年にKYOJO CUPのチャンピオンを獲得した71号車 村松選手が1コーナーでインをキープすると、アウト側にいた翁長選手が2コーナーで接触を避けるようにして外側の縁石まではらみ、その隙に村松選手が3番手となる。

 このあたりから、辻本選手は2位以下のマシンがバトルしている隙に後続車を引き離していく。5周目には、4番手を走っていた翁長選手がダンロップコーナーで単独スピン。コースアウトしてアウト側のグラベルに捕まってしまい、マシンを降りて待避する背中が見えた。2番手の猪爪選手と3番手の村松選手はそれぞれのマシンが得意なセクションで距離を縮めたかと思うと離れて、また近づいてと繰り返すというスレスレのバトルを展開。辻本選手はミス無く淡々と走りトップを独走している。

2位の100号車 下野璃央選手と3位の11号車 斉藤愛未選手

 ファイナルラップでは1コーナーから2コーナーにかけてインを付いた村松選手とアウト側にいた猪爪選手が接触し、猪爪選手がコースアウトしてしまった。結果、8周に及んだ決勝レースは辻本選手が優勝。村松選手は2位でチェッカーを受けたが、猪爪選手と接触した判定で40秒のタイム加算のペナルティが科せられたことで7位に。正式結果は、2位に100号車の下野璃央選手、3位は11号車の斉藤愛未選手が入賞した。私はスピンしていた後続車が迫るなか、どうにか逃げ切る形で8位となった。コースに留まる守りの走りよりも、まだ見ぬ領域に攻め込む気持ちで挑まなければ成長はないのだと反省。

徐々に後続を引き離していった18号車 辻本選手
レース後半は独走で鈴鹿ラウンドを制した18号車 辻本選手
表彰台の様子

 第3戦は再び富士スピードウェイに戻り、当初予定されていた10月から9月26日に開催日を変更して行なわれる予定。鈴鹿を経験したことで、これまでとは違った角度で自分の走りを客観的に捉え、柔軟に取り組んでいけるように心掛けたい。