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パナソニック、20kgを切る“業界最軽量”の新型電動アシスト自転車「ビビ・SL」とリニューアルした柏原工場を公開
2021年10月5日 13:51
- 2021年10月4日 開催
パナソニック サイクルテックは10月4日、同社の本社にある柏原工場をリニューアルし、この工場で生産する“業界最軽量”の新型電動アシスト自転車「ビビ・SL」を発表。同日に大阪府柏原市の本社で発表会を開催した。
ビビ・SLの発売日は12月3日で、価格は12万5000円。カラーは「パールピーコック(GD4)」「クラシカルレッド(R5K)」「パールココアブラウン(T2L)」「ディープブルーメタリック(L51)」の4色を設定している。
ニューモデルであるビビ・SLでは、リニューアルされた柏原工場で生産される新型ドライブユニット「カルパワードライブユニット」を搭載。カルパワードライブユニットでは素材や部品などの設計を見直したほか、基板のアナログ回路を減らしてデジタル方式に切り替えることなどの手法で部品点数を削減。グラム単位での積み重ねによって軽量化を推し進め、これまでと変わらない力強いモーターアシスト力をキープしながら、2軸モーターとして業界最軽量となる約2.8kgを達成。これは従来のドライブユニットから約24%(約900g)の軽量化になるという。
また、車体下側のダウンチューブの形状を二重構造型から卵型に変更した「かるらくアルミフレーム」を採用。従来はダウンチューブ下側の凹部分に這わせていたケーブル類を内部を通すよう変更したことで形状の最適化を図り、構造面での強度確保によってアルミ部材の肉厚を薄板化して重量を軽減している。
さらに素材の樹脂にカーボンを配合して強度を高めた「カーボン配合軽量バスケット」を化学素材メーカーの小松マテーレと共同開発。底面は網目を細かくして小物が落ちにくいよう配慮しつつ、強度の高さを生かして側面の編み目を大きくデザインして重量を低減しており、従来品(BE-ELL43)のバスケットと比較して約175gの軽量化となっている。
こうした数々の取り組みにより、ビビ・SLは24型のショッピングモデルとして業界最軽量を誇る19.9kgの重量を達成。駐輪場でラックを利用するために持ち上げたり、倒してしまって起こすとき、自転車を降りて押し歩きするシーンなどの使い勝手を高めている。
軽量化以外にもビビ・SLは、「こぎ出し」「坂道」「平地」といったシーン別でアシスト力を最適に制御する「カルパワーアシスト」を採用。こぎ出し時にはペダルにかかる負荷を検知してアシスト力を調整、負荷が低い場合はマイルドに、負荷が高い場合はパワフルにアシストする。坂道では一定のペースでペダルを踏み続けられるようモーターがペダリングをアシストして滑らかな走りを実現。平地では中速域からのアシスト力をプラスしてスピードの伸びを向上させている。
基本設計ではサドル高を従来品のBE-ELL432から約5cm下げ、最低地上高を67cmに設定して足つきのよさを向上させたことに加え、シートチューブの角度を後方に寝かせてサドル位置を後退させ、ペダリングで膝を曲げ伸ばしする負担を軽減して楽にこぎ続けられるようにしている。
このほか、ビビ・SLと同じカルパワードライブユニットを搭載する「ギュット・クルームR・EX」「ギュット・クルームR・DX」「ティモ・A」の3モデルを同じく12月3日、「ビビ・L」「ビビ・L・20」の2モデルを2022年2月4日に発売する。
ビビ・SL主要諸元
品番:BE-FSL431
タイヤサイズ:24×1 3/8 WO
質量:19.9kg
寸法:1780×580mm(全長×全幅)
変速機方式:内装3段シフト
モーター形式:直流ブラシレスモーター
定格出力:250W
バッテリー:リチウムイオンバッテリー
バッテリー容量:8.0Ah
充電時間:約3.0時間
走行距離(パワーモード):約31km
走行距離(オートマチックモード):約37km
走行距離(ロングモード):約57km
柏原工場のリニューアルは生産体制の強化、環境負荷の低減が目的
発表会では最初にパナソニック サイクルテック 代表取締役社長 稲毛敏明氏が登壇。柏原工場をリニューアルさせることになった経緯などについて説明した。
電動アシスト自転車は2016年~2020年の5年間で販売台数、普及率ともに右肩上がりが続き、今年度以降も市場は堅調に拡大していくと見ていると説明。とくに2020年度は新型コロナウイルスの影響による生活様式の変化などによって自転車市場全体が大きく伸長、同社の販売も過去最高を記録したという。
今後はコロナ禍の継続、社会の高齢化、カーボンニュートラル社会への変革などが大きな潮流となり、移動や運動・健康、環境に対する意識変化が定着して自転車の存在価値はさらに高まっていくと分析した。
同社は電動アシスト自転車のリーディングカンパニーとして「世界中の人々が青空の下へ走り出せる未来を創造します」という新たなビジョンを掲げ、この実現に向けて環境配慮型の製品作りを推進していくミッションを策定。柏原工場のリニューアルは生産体制の強化、環境負荷の低減を目的に実施されている。
生産体制の強化では、同日に発表した業界最軽量の新型ドライブユニットであるカルパワードライブユニットの生産設備を新設したほか、ロボットによる溶接の自動化を進めた自動溶接設備を導入した。
カルパワードライブユニットの生産設備では、これまで人力に頼っていた工程を可能な限り自動化し、トレーサビリティの強化や予防保全につながる仕様の検討に注力。“個流し生産ライン”による工程在庫の削減、官能検査のセンサー化による品質管理体制を構築して省人化を推し進めた。これらの取り組みにより、生産能力を従来比で最大180%に高めた高効率生産を実現しているという。
フレームの製造工程で導入した自動溶接設備では、フレームを構成する部材を投入した後の工程を完全に自動化。これによって成長が続く自転車業界で供給面のボトルネックになっている生産能力不足の解消を図り、溶接の自動化で安定した品質を確保。従来から生産能力は130%以上に向上しているという。なお、自動溶接設備を導入した部分を担当していた溶接技術者は別の工程の溶接を手がけることになり、自動化による人員の削減などは行なわれていないとのことだ。
環境負荷の低減では「エコ排水システム」を採用した節水型皮膜処理設備、粉体塗装の採用でVOC(揮発性有機化合物)排出ゼロを実現する粉体塗装設備を導入している。
フレーム塗装の前工程に導入された節水型皮膜処理設備では、皮膜処理に使う薬液のメーカーが行なったラボテストと導入設備で起きる差異を共同作業によって原因究明し、さまざまな課題を解決。劇薬を使うことなく皮膜処理する工程の具現化にたどり着いた。フレームの皮膜処理は従来のシャワー方式から薬液に浸すディップ方式に切り替え、パイプ内部までムラなく均一な皮膜処理が可能になったことに加え、全自動2ライン化によって多品種に柔軟に対応できる生産体制を構築。被膜品質と量産性という相反要素を両立している。
さらにフレーム処理で使った薬液を落とす洗浄水に、行程内で発生する再利用可能な水を使ってスプレー圧洗浄するエコ排水システムでは、洗浄水の使用量を32%削減している。
粉体塗装設備では、従来の溶剤塗装から20色以上のカラーを粉体塗装に置き換え、液体の溶剤では実現できない塗料の厚塗りを行なうことで、溶剤塗装で行なっていた3コート3ベイクの工程を粉体塗装では1コート1ベイクで完結する。また、静電気によってフレームなどにまとわせる粉体塗装は塗装ブース内に残った粉末をエアーを使って回収し、90%ほどを再利用可能であることに加え、溶剤塗装の使用後に洗浄で使う有機溶剤が不要になり、人体や環境に優しいVOCゼロ排出も実現している。
最後に稲毛氏は、「当社では高品質で安全・快適に乗ることができ、安心して長い間使い続けられる“柏原クオリティ”の電動アシスト自転車をお客さまにお届けするため、パーツやフレームの素材などを吟味して、高レベルな信頼性試験を実施して独自の高品質基準をクリアした製品だけをお客さまにお届けしております。今後も当社は“Made in 柏原”にこだわり、さらなる生産能力の強化、品質の向上と環境配慮型のもの作りを実践してまいります」と語って発表を締めくくった。
リニューアルした柏原工場内を見学
発表会の終了後には、リニューアルした柏原工場の工場見学会が行なわれた。さまざまな生産技術が駆使されている工場内は基本的に撮影禁止だが、リニューアルされた部分を含めて一部で撮影が許可されたので、ここでは撮影できたところを中心に紹介していく。
工場に入ってすぐのエリアには鉄やアルミといった金属パイプが多数ストックされている。長さはいずれも5.5mだが、用途別に肉厚や直径が異なる16種類のパイプが用意されており、車種やフレームの部位に合わせて切断され、さまざまな形状に加工して使用するという。
最初に撮影できたのは、シートチューブとダウンチューブを接続する「ロウ付け溶接」の工程。ダウンチューブのハンガーラグにシートチューブを圧入したあと、接合部分を7本のバーナーで周囲から炙り、800℃~900℃に熱してからすき間にロウ材を流し込んでいく。作業員が圧入状態の両パイプを器具にセットした後は、バーナーによる加熱やロウ材の差し込みといった作業が自動で進み、作業終了後は作業員が器具から取り外してすぐ下にある冷却水に沈めて作業終了。7本のバーナーがパイプを真っ赤に熱していくシーンは遠目に見ても迫力満点でスリリングだが、工程のほとんどが自動化されて作業員の安全がしっかりと確保されていた。
続いてはリニューアルで登場した自動溶接設備。搬送用ロボット4基、溶接用ロボット3基、画像検査用ロボット1基で構成されており、3セッションのMAG溶接でフレームを組み立てていく。部材の取り出しから溶接、溶接の良否判定、搬送用台車へのセットといった一連の作業をすべてロボットが行ない、ブース内に人間が入る必要がないため安全性も高いという。
電動アシスト自転車の心臓部となるドライブユニットは建物内の2階で製造されている。国内向けの2軸モーター式では71種類の部品を使用しており、制御用の基板はソフトを書き込んで取り付けされた後、振動や衝撃、浸水などの対策として透明な樹脂によるポッティング加工が施される。
ここでは製造工程の説明に加え、従来品と新製品のカルパワードライブユニットの実物を持ち上げて比較することができた。重量差は約900g(約24%)とのことだが、実際に持ち上げて前後左右に揺さぶってみると、慣性の面でも大きな差があると実感できた。
最後に撮影できたのは粉体塗装設備のロボットアーム側。2本のロボットアームがゆっくりと進んでいくフレームを追いかけるように動きながら、前後フォークやヘッドチューブ、ハンガーラグといった形状が複雑で塗料を乗せにくい部分に粉体塗装を吹き付けていく。粉体塗装は顔料のほか、つや出しや強度確保を目的とした樹脂などを細かなパウダー状にして構成。ブース内の床面にはフレームに付かなかった粉体塗装が散らばっているが、これらは回収されて遠心分離が行なわれ、塗料の廃棄ロスも削減できるという。
工場見学会の後には敷地内にあるショートコース「陽のあたる坂道」を使った試乗会も実施。4度、8度、12度という3種類の斜度を設定した坂道が用意されたコースを使い、ビビ・SLの扱いやすさやカルパワーアシストの細かな制御などを体感できた。