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義務化が進む自転車保険はクルマの保険でカバーできる?

クルマ持ちが入る自転車保険を考えてみた

全国で進む自転車保険の加入義務化や努力義務(au損保調べ)

 自転車の保険を義務化にする地域が拡大中だ。2020年4月1日から東京都、奈良県、愛媛県が自転車保険義務化地域になったほか、大阪や京都や兵庫など以前から義務化している地域も多くある。今後も7月1日に山形県、10月1日には山梨県、福岡県、そしてトヨタ自動車のお膝元である愛知県豊田市の義務化が決定しているほか、義務化に向けた準備を進めている自治体も多い。

 そして、義務化とは関係なく自転車の交通事故は発生し、裁判でも高額な賠償金の判決が出ている。自転車を運転する場所が義務化地域か否かに関わらず加入しておいたほうがいいだろう。

東京都の自転車に関する保険加入義務化のチラシ

クルマの任意保険の特約で自転車保険をカバーできる

 そこで、自転車の保険に加入しなければとなるが、マイカー所有者にとっては意外に簡単に入ることができるほか、実はすでに入っていた、ということも多かったりする。

 なぜなら、義務化が進む「自転車の保険」とは「自転車保険」という名前の付いたものでなくても、自転車の運転中の責任を賠償する保険であればよい。つまり、クルマの任意保険で「個人賠償責任保険」などの特約(オプション)が付いていれば、必ずしも自転車の保険を新たに契約する必要はない。また、自動車保険以外でも火災保険や傷害保険の特約、またクレジットカードに付帯しているケースもある。

自転車の保険として認められる例(東京都の場合)

 実際に入っているかどうかは契約内容の書類などで確認してほしいが、参考までにセゾン自動車火災保険が提供するおとなの自動車保険では、「個人賠償責任特約」の加入率は32.6%だという(2019年3月末時点)。とにかく保険料を安く設定していた人だと特約に入っていない可能性が高そうだ。逆に等級が上がって保険料が安くなったぶんを充実した補償にまわしているような人だと加入済みかもしれない。インターネット型保険でも同様で、新規契約の見積もりや更新の際に複数示される保険パターンのうち、補償が充実したパターンには個人賠償責任保険の特約が付いていることが多い。

 なお、「個人賠償責任保険」の名称は保険会社によって異なる。日常生活賠償……のような名称もあれば、「安心パック」のようなセット提供もある。最近では自転車保険に注目が集まっているため、どの特約が自転車保険に相当するという案内もあるので確認してみてほしい。名称の例としては以下のようなケースがある(自転車の事故について補償されるかは要確認)。

・個人賠償責任危険補償特約
・個人賠償特約
・個人賠償責任特約
・日常生活賠償責任保険特約
・日常生活賠償特約

自分への補償や自転車の補償も要検討

 東京都などで義務化されているのは、ケガをさせてしまった相手に対する保険(個人賠償責任保険)。しかしクルマと違って、自転車事故では自分も大ケガをする確率は高くなるので、義務ではないが自分への補償も考えておいたほうがいい。

 例えばクルマの保険の「人身傷害」のなかで乗車中のほかに車外でも補償が有効な特約を付けると、自転車に乗っていてクルマにぶつけられた場合にまず、自分の保険会社から補償がされる。

 しかし、クルマの保険の特約では弱点があり、クルマにぶつけられた場合には補償がされるものの、自転車同士の事故や自転車で自らどこかにぶつかってケガをしたという場合、自分に対しての補償がないことが多い。

 これとは別に、クルマで出かけた先で、クルマを降りている際の事故を補償する特約もあるがこれも限定的だ。例えば自転車を積んでクルマで旅行に行き、その旅先での自転車事故はカバーできる可能性があるかもしれないが、最初から自転車ででかけた場合は適用外だったりする。

 そして、相手側に責任がある事故は相手の保険で補償される可能性が高いが、示談の成立に時間がかかったり、裁判が長期化したりすれば、それまで補償がおあずけになることもある。そこで、すぐ補償が受けられる方法は考えておいたほうがいいだろう。

保険金額や条件なども確認すべき

 次に支払われる保険金額も重要だ。よく例にあげられる2013年の事故で裁判所が出した9521万円という賠償命令。約1億円の補償が認められる時代になったこともあるが、自転車の事故であっても重大なケガや後遺症を残す可能性があると認識すべきだろう。

 そして、これまでは自転車の事故は損害が大きくても補償されなかった可能性があることを考えると高額化は被害者側にとっては有利になる。起こしたことの責任はしっかりとってもらえる時代になってきたということでもある。

 そこで自転車を運転するほうも保険金額や補償内容はしっかり把握したい。

 例えば自転車を新車購入したり整備を受けたりするとき、自転車店によって貼られるTSマークがあるが補償条件が厳しい。青いTSマークは上限1000万円、赤いTSマークは1億円だが、補償内容は「死亡若しくは重度後遺障害(1~7級)」となっている。物損や一時的なケガは対象外で補償のハードルは意外に高い。義務化の法律はTSマークでもパスできるが、万一の際の助けになってくれるかは難しい。

死亡や重度後遺症の場合に上限1億円が補償されるTSマーク(赤)が自転車に付いている場合も

 また、クルマの保険でも個人賠償責任保険の金額には大小があり、自由に設定できるところのほか、一律3000万円というところや3億円というところもある。これも想定される事故に応じて選べるほうがいいだろう。

 そして、示談交渉サービスや弁護士費用の補償の有無も確認しておきたい。事故が起これば示談交渉は不可欠で、専門家が間に入ってくれることは心強いからだ。

「自転車」を冠したズバリの特約も登場

 最近の傾向としてはクルマの保険に「自転車」という名前の付いた特約も登場している。SBI損保では以前から「自転車事故補償特約」があり、今回の義務化の対象となる自転車で相手をケガさせてしまった場合などに使える損害賠償責任保険に加えて、自分や家族のケガを補償する傷害保険もセットになっている。

 おとなの自動車保険には「自転車傷害特約」という特約がある。ただし、これは自分自身や家族のケガに備えるものなので、今回義務化された保険には当てはまらない。おとなの自動車保険の場合は「個人賠償責任特約」が東京都などで義務化されている自転車保険に当てはまるものなので、この両方に入っておくことで、自分や家族のケガも相手への賠償もカバーできることになる。

 三井ダイレクト損保では、2020年1月1日から「自転車賠償特約」が用意された。特徴的なのはクルマの保険で設定した対人、対物と同額の賠償であること。三井ダイレクト損保の場合対人賠償は無制限となるため、自転車事故でも自動的に無制限ということになる。対物についても自転車の事故で自動車事故以上の被害額になる可能性は低いと考えれば安心できる補償と言えるだろう。

 先にも記載したとおり、自転車事故としては約1億円というのがこれまでの賠償の最高額になるが、いざというときの補償の限度額についても気にして選びたい。

SBI損保の自動車保険には「自転車事故補償特約」がある。家族全員が対象で、自転車で他人をケガさせてしまった場合などの損害賠償責任保険と、本人や家族がケガをした場合の傷害保険がセットになる
おとなの自動車保険の「自転車傷害特約」は自身や家族のケガに対するもの。他者に対する補償は「個人賠償責任特約」になるので注意したい。なお、おとなの自動車保険の個人賠償責任特約の補償限度額は無制限だ
2020年からスタートした三井ダイレクト損保の「自転車賠償特約」。自動車保険で設定した対人賠償、対物賠償と同額が補償される

自転車専用保険ならではのサービスもある

 事故の際の補償については自動車保険の特約などでカバーできることが多いが、自転車専用の保険には、ならではのサービスが用意されていることもある。

 au損保の自転車向け保険では、相手のケガに対する個人賠償責任補償と自身のケガに対する補償に加えて、外出先で自転車が動かなくなってしまった場合に自転車を搬送してくれるロードサービスもある。

 また、事故の補償とは関係ないが、自転車の盗難に対する保険も用意されており、自転車が趣味で遠出することも多い、あるいは高級な自転車を持っている人にとっては、気になるサービスといえるだろう。

au損保の自転車向け保険はロードサービスも受けられるのが特徴。自転車で長距離を走る人にはうれしいサービスだろう
高級なロードバイクなどに乗っている人向けの車両盗難保険も用意される

必要な条件を考えて、重複なく加入。そして、定期的に見直しを

 自転車の保険になるのは、このほかにクレジットカードや火災保険などにも個人賠償責任保険としてオプションが付いている場合もある。新たに加入したり特約を追加したりする前に、まずは加入しているものの確認作業から入ることをおすすめしたい。複数の保険があれば補償内容が重複していることもあるため、無駄な保険料を支払わないためにも確認は重要だ。

 次に、補償内容やサービスをよく検討して必要な保険や特約を契約する。もし、クルマの保険の特約では不十分と感じる場合は、別途、新たに自転車保険を契約することになるが、その場合も、補償内容の重複は避けたい。もともとクルマの保険に個人賠償責任保険を付けているなら、自転車保険の加入後に重複する部分の特約を外せば保険料の節約になる。

 また、クルマの保険の更新時期となるなら、自転車保険のことも考えて保険会社選びからはじめてもいい。クルマの事故の補償と違い、現在は自転車事故に対する補償体制にはかなり差があるからだ。

 そして、一度決めたらそれで終わりというのではなく、次の更新時期などは再度選び直しをすすめたい。自転車保険は発展途上であり、1年たてばまた補償内容やサービスに進化があるはずだからだ。

ネットで契約OK、既存の保険に特約追加もすぐできることも多い

 加入や特約追加が決まったら手続をする。クルマの保険の場合は途中から特約を追加できることも多く、インターネット型の保険なら、ネット上で特約を追加して差額の保険料をクレジットカードで払えばすぐ適用ということも多い。

 また、代理店型の保険の場合は代理店に相談すれば、ほかに加入している保険とあわせてトータルで最適な提案をしてくれるかもしれない。

 いずれにしても、密集したところに行かなくても自転車の保険は申し込むことはできる。当面は不要不急の外出自粛は続くかもしれず、そして、必要な食料の買い出しや、通勤しなければならない人にとって自転車は役立つ乗り物だ。

 現在は医療機関の負担を増やさないためにも絶対に事故を起こさないつもりで自転車に乗らなければならないが、転ばぬ先の杖としても自転車保険は今、検討すべきだと思う。