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スズキ、博報堂、富山県朝日町のMaaSプロジェクト「ノッカルあさひまち」が本格運行を記念してセレモニーを実施

2021年10月12日 実施

株式会社博報堂 常務執行役員 名倉健司氏(左)、富山県 朝日町 町長 笹原靖直氏(右)

朝日町は地元住民の利便性を向上させ、博報堂はその知見を他の地方自治体に横展開していくという連携協定

 スズキ、博報堂、朝日町(富山県)の3者は、共同で取り組んでいるMaaS(Mobility as a Service)となる「ノッカルあさひまち」が10月1日から本格運行を開始したことを記念して、博報堂と朝日町がセレモニーを10月12日に行なった。

 同時に博報堂と朝日町はDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に向けた連携協定を締結し、同町 町長 笹原靖直氏、博報堂 常務執行役員 名倉健司氏による連携協定調印式も同時に行なわれた。

あいさつする富山県 朝日町 副町長 山崎富士夫氏

 朝日町は富山県の県庁所在地である富山市の富山駅から「あいの風とやま鉄道」を利用して約50分(同町のWebサイトによる)という場所に位置する、日本海に面した地方自治体。同町のWebサイトによれば、令和元年の人口は1万1246人という規模の地方自治体となる。その朝日町は、大手広告代理店として知られる博報堂とDXの推進に関する連携協定を結ぶことを明らかにし、調印式を行なった。

株式会社博報堂 ビジネスデザイン局 部長 畠山洋平氏
畠山氏のスライド
畠山氏のスライド

 博報堂 ビジネスデザイン局 部長 畠山洋平氏は「政府が自治体DXを推進しているが、自治体の現状として、仕事量は増えているが職員数は減っている。そんな中で効率的な行政運営が鍵になると総務省の資料でも言われている。コロナの中で生活者の意識も変わってきており、地域コミュニティと自治体サービスをDXで再構築し生活利便性を充実させていくことが重要になりつつある」とその背景を説明した。

株式会社博報堂 CMP推進局 部長 堀内悠氏
堀内氏のスライド

 博報堂 CMP推進局 部長 堀内悠氏は、両者の提携の概要を説明。堀内氏は「博報堂は生活者発想をとても大事にしており、今回の取り組みでも生活者発想での自治体サービスDXの実現を目指そうとしている。その1つの事例がこれまで実証実験を行なってきた“ノッカルあさひまち”で、地域コミュニティの想いを、デジタルを利用して可視化する仕組みを構築した」と述べ、今回の提携につながったのは博報堂、スズキ、朝日町などが共同で行なってきたMaaSの実証実験となる「ノッカルあさひまち」であると説明した。

 そしてそのノッカルあさひまちの成果として「10年ぶりに外出したおじいちゃんや、ドライバーさんとの会話が楽しくて、毎回使ってくださるヘビーユーザーの方、おばあちゃんしかいない集落でドライバーを務める若者などのさまざまな効果が出てきている」と述べ、すでに地域になじんでいると説明した。

 その上で、地方には地方になじんだDXが必要だと堀内氏は述べ、地域のコミュニティを活性化していけるようなDXの推進を朝日町と一緒に実現し、それを他の地方公共団体などにも横展開していきたいと説明した。

 また、堀内氏は「ノッカルあさひまちはいわゆるマイカーを利用した送迎サービスだが、それが主目的という訳ではない。地域全体の交通をどのように最適化していくかが最大の目的だ。そのため、地域にすでにある鉄道、バス、そしてタクシーといった交通などにどのようにこのサービスを追加して全体を最適化していくが大きな課題だと認識している。タクシーとバスの中間ぐらいのサービスだと考えてほしい」と述べ、例えば利用者の自宅に迎えに行くというのではなく、バス停のようなところに利用者に来てもらいそこからのサービスという形になっていると説明した。なお、現時点では予約はWebでも、電話でもできるそうだが、将来はLINEを使ってできるようにするなども検討しているということだ。

朝日町の町長と博報堂の常務が連携協定に調印

調印する両者

 その後、連携協定に署名した朝日町 町長 笹原靖直氏、博報堂 常務執行役員 名倉健司氏がそれぞれスピーチを行なった。

朝日町 町長 笹原靖直氏

笹原町長のスピーチ

 デジタルトランスフォーメーション連携協定締結にあたり、一度ごあいさつ申し上げる。昨年12月に自治体DX推進計画が総務省から示され、全国の自治体において行政におけるDX推進の機運が高まっている。当県においてもDX、働き方改革改正推進本部を設置し、県、市町村を含む行政のDX推進について検討が進められているが、全国的に規模の小さい自治体ではなかなか進められず、朝日町においてもDX推進に頭を抱える状況であった。

 そうした、朝日町では、博報堂と地域の移動課題解決に向けた連携に関する協定書を締結し、町内の交通に関する課題解決に取り組み、その成果として新たな交通サービス「ノッカルあさひまち」を朝日町で立ち上げたところだ。

 博報堂は「ノッカルあさひまち」を通じて、ICTを活用した商業連携策などにも積極的に取り組んでおられる。今回、博報堂から幅広く町の課題をとらえ、その解決に取り組んでいる経験を活かし、ともにDX化に対する課題に取り組んでいくことへの提案をいただいたところだ。町としても、今後のDX化を進めるにあたり、博報堂などと力を合わせて課題解決に挑むことは強い推進力になるものと確信している。このことから、本日ここに、これまでの町の交通に関する課題解決にとどまらず、DXに関する課題についても、朝日町、博報堂が相互に連携協力して取り組むことになった。

 本町ではDX化推進に向けた庁舎内職員9名によるDXプロジェクトチームを本日付で発足させ、朝日町と博報堂がワンチームで推進できる体制整備を図っていく。今後町のDX化を進めることで、町民1人1人の生活の利便性が向上することを目指し、町の将来像である夢と希望が持てる町作りの実現に向けて着実に歩みを進めていきたい。

 そのためには、関係各位からもご助言を賜りますようお願い申し上げてあいさつに代えさせていただく。


博報堂 名倉氏のスピーチ

株式会社博報堂 常務執行役員 名倉健司氏

 笹山町長ならびに朝日町役場の皆さま方には、この度の連携協定締結に心から感謝申し上げる。新型コロナウイルスに対する不安はいまだに多くの生活者に影響を及ぼしている。一方でこの中はデジタルトランスフォーメーションの進化、そして新しい生活様式の実現とこれからの新生活を進めていくような施策が数多くこれから予定されている。人口減少社会、脱炭素、ジェンダー問題など、日本は社会課題解決型の新しい産業などの進化を求めており、私ども博報堂は単なる効率型DXではなく、1人1人の生活者の体験、人生を豊かにする人中心の価値創造型DXの実現を目指している。

 そのような中で、博報堂は2020年より朝日町に来て、交通のDX化である「ノッカルあさひまち」の実証実験を通じ、朝日町に暮らす生活者の皆さまの移動や、地域コミュニティの活性化に取り組んできた。先ほど笹山町長より説明があったが、この事業が次のステージに進み、さらに事業の範囲が広がる事はわれわれにとっても大変うれしい限りだ。

 博報堂としても、朝日町の挑戦をさらに一歩前に進め、町全体で生活者の暮らしや地域コミュニティにサービス提供を実現することは非常にチャレンジングなことだと思っている。博報堂がこれまで培ってきた、生活発想未来への洞察サービスの構築力を、今後は町作りに活かし、朝日町にクラス皆さまと一緒に心を震わせるようなさまざまな体験価値を創造していきたい。そして、この朝日町モデルの成功が、今後全国の地方自治体にも活用されることを目指し、皆さまと共にチャレンジをしていきたい。


 両氏のスピーチと前出の堀内氏のプレゼンテーションの後で、協定調印書へのサインが行なわれ、現地あるいはオンラインで参加している報道関係者に対して公開された。

富山県、国土交通省の関係者もノッカルあさひまちの本格サービスインを歓迎

ノッカルあさひまち

 セレモニーの後半には、両者を結びつけたMaaSサービスとなる「ノッカルあさひまち」が正式なサービスとして10月1日から運行開始されたことを祝う式典が行なわれた。

朝日町 住民・子ども課 課長 水野真也氏
説明に利用されたスライド

 まず、朝日町 住民・子ども課 課長 水野真也氏、博報堂の畠山氏がノッカルあさひまちの概要を説明した。水野氏は「ノッカルあさひまちは本年1月~か9月まで実証実験を行なってきた。会員数は164名で、のべ利用者数は799名、ドライバーは22名となっており、利用者からも好評の声を得ている。10月1日から本格運行に至ったのは地域内の交通利便性を高める、持続可能な公共交通づくりにつなげる、助け合いの促進につなげるという3つの理由があり、本格運用に移行した」と述べた。

 また、博報堂の畠山氏は「MaaSには都市部では多くのステークホルダーが参加するシステムだが、地方では移動に困っている高齢者の方などに対応する必要があり、われわれはそうした方や地方が抱える社会課題に取り組もうと考えてこうしたシステムを導入した」と述べ、少子高齢化により進展する高齢者の免許返納などにより発生する高齢者の移動が制限されるなどの社会課題を解決するためにこうした事業に取り組んでいると説明した。

 同町のWebサイトの説明によれば、ノッカルあさひまちを利用するには会員登録が必要で、利用者は予約窓口などに電話するかWebサイトで予約が可能になっている。乗車時にはあさひまちバスの回数券(1枚200円)が必要で、乗り合いの場合は回数券2枚(400円)、一人での利用の場合は回数券3枚(600円)が必要になる。コースや時刻表はあらかじめ決まっており、自分が乗りたい便を指定することで乗ることができる、そうしたシステムになっている。

 なお、笹原町長があいさつを行なったほか、富山県知事政策局 三牧純一郎氏、国道交通省総合政策局 モビリティサービス推進課 課長補佐 石川雄基氏などがお祝いのスピーチを行なった。

富山県知事政策局 三牧純一郎氏のスピーチ

富山県知事政策局 三牧純一郎氏

 ノッカルあさひまちの本格運行セレモニーが行なわれますことを喜び申し上げる。私個人としても昨年まで東京で経済産業省にいて、博報堂さまとは北海道地震や台風の被害災害の復興事業を一緒にやっておりましたし、ここ富山県に来てからも一緒にワーケーションの事業で協力させていただいた。笹原町長をはじめとした朝日町の皆さま、富山県内でもチャレンジングな挑戦を行なう自治体として知名度が上がってきている。また、国道交通省さまのサポートもいただき、こうした朝日町が成長軌道に乗っていくことを喜ばしいことだと思っている。

 県の方でも成長戦略を検討しており、その中でいろいろ検討している。しかし、富山県でこうした最先端事をやろうとしても、あまり関心を持ってもらえないということがこれまでだった。しかし朝日町の取り組みでそれは大きく変わりつつあり、われわれもそれを後押ししていかなければならないと考えている。

 先ほど関係人口(筆者注:その自治体に住んではいないが関係する人、例えば自治体の企業に勤める人などの数のこと)を増やすというお話があったが、われわれもこれまで考えてこなかった訳ではなく、成長戦略の中でも移住や敢行などをメインに考えてきた。しかし、これからは一緒に何かを作っていこうという関係人口を増やしていくことが大事で、そうしたことも富山県の成長戦略の中に入っている。

 また、DXやシェアリングのような新しいビジネスを起こし、それを住民生活の向上に入れていくということも当然入っている。しかし、そうした事例が実際に増えていかないと、富山県ではそういった事例があまりないから提案を持っていってもしょうがないと思われてしまう側面がある。そうした中で朝日町の取り組みは全国的にも注目されており、全国から多くの視察に来ていただいており、県全体のDX推進という観点からも非常に重要な事業だと認識している。

 今回のセレモニーをきっかけに博報堂さまと朝日町さまの取り組みがますます進展していくように、われわれとしても置いて行かれないように全力でサポートしていきたい。


国道交通省総合政策局 モビリティサービス推進課 課長補佐 石川雄基氏のスピーチ

国道交通省総合政策局 モビリティサービス推進課 課長補佐 石川雄基氏

 ノッカルあさひまちの取り組みが実証実験を経まして本格運行に切り替わり、地域の皆さまの足としてますます活用されていくことをお喜び申し上げたい。

 また、かねてより交通行政ご理解ご協力いただき、誠に感謝申し上げたい。われわれとしては、少子高齢化、人口減少が進む中、地域の足をどのように確保していくか、また昨今の新型コロナウイルス感染症の影響が大きくなっている中でそれに対してどのように対応していくか、それこそが一番大きな課題だと思っている。

 私が担当しているのはモビリティサービスで、高齢化の進展、住民減少の中で移動のサービスというものがだんだんと縮小してしまい、住民の方々が移動に不便を感じるということが起きている。そこで、今まで通りのそのままの考え方だけではなく、新しい技術を使いながら、さまざまな取り組みを一歩一歩進めている。今回、富山県朝日町さんが取り組みをいただいている、新しい考え方ですとか、交通事業者の方々のご協力をなどいただいて、マイカーを使って住民の方々に便利に移動していただくのは「事業者協力型自家用有償旅客運送」という制度を活用していただいている。

 地域の移動を維持活性化していただくことにわれわれも取り組んでおり、今回朝日町に関してはこうした取り組みが進んで言うことに感謝申し上げたい。大事なことは、こうした取り組みをサステナブル、つまり継続的に進めていくことが大事であり、そのために住民の皆さま、行政、交通事業者、さらには交通事業以外の民間事業者などさまざまな方が連携をしていただき、知恵を出し合って取り組みを進めていくことが大事だ。今回朝日町での取り組みが実証実験から本格運行に切り替わりにあたり、多大なるご尽力をいただいたものと思っている。そうした中で、多くの方々が引き続き連携して助け合っていただきながら、移動を指させていただきたいと思っている。また、コミュニティの活性化という観点からも、こうした形で取り組んでいただいていることを国土交通省として感謝申し上げたい。

 今後も朝日町の取り組みが成功することを記念してあいさつに代えさせていただく。