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マンション専用MaaS「フリクル」東京 葛西で実験運行開始。日鉄興和不動産とMONETが記者会見
シャトル運行とオンデマンドバスのハイブリッド
2020年2月21日 14:16
- 2020年2月20日 開催
日鉄興和不動産は2月20日、東京都内で「マンション向けMaaS『FRECRU』実験運行に関する記者発表会」と銘打った記者会見を開催。トヨタ自動車とソフトバンクが出資して設立されたMONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)のシステムを採用したマンション向けMaaS「FRECRU(フルクル)」の実証実験を、同社が2019年に東京都江戸川区葛西で分譲した「リビオシティ・ルネ葛西」で開始したことを明らかにした。
実証実験は2月21日から6か月~1年にわたって行なわれる予定で、7時~23時の間に住民のスマートフォンのアプリから予約して、マンションから葛西駅などの11か所までのポイントをオンデマンドで利用することができる(7時~9時は葛西駅へのシャトル運行)。
料金は葛西駅へのシャトル便が200円、それ以外は300円となり、小学生以下の子供は無料で利用できる。
先進的なMaaSでマンションに付加価値を付ける
日鉄興和不動産 常務取締役 住宅事業本部長 吉澤恵一氏は日鉄興和不動産の概要や、MaaSに取り組むことになった経緯などについて説明した。
吉澤氏は「日鉄興和不動産は旧興銀系の興和不動産と新日鉄系の新日鉄都市開発という2社が1つになって2012年に誕生し、昨年現社名に変更した企業。オフィス事業とマンション事業を行なっており、2018年の販売戸数では業界6位となっている。中古マンションの値上がり率で1位になっており、リーズナブルな価格設定がお客さまにうけている」と述べ、同社のマンション事業は、マンションの建て替えや再開発などで土地を有効活用できるようにしていくことだと説明した。
そしてその住まい作りの思想として、吉澤氏は「メーカー系なのでモノ作りは一生懸命やっている。安全安心なマンションと同時に、先進的なことを意識して取り組んでいる。そうした中でこれまでも無人コンビニや家具のサブスクリプションなどについてやってきたが、MaaSにも注目しており、昨年の6月にMONET TechnologiesさまのMONETコンソーシアムにも参加させていただき、その可能性を探ってきた」と述べ、同社の事業戦略として先進技術をマンションなどに取り入れることで、マンションに付加価値を付ける取り組みを実施。その延長線上でMaaSに注目しており、今回の取り組みにつながったと説明した。
吉澤氏は「これまでも三井不動産さんの柏の葉、森ビルさんの虎ノ門ヒルズや六本木ヒルズなどで取り組みがあり、大規模なマンション全体でシャトルバスを運行するというのはあった。しかし、今回われわれがやろうとしているようなオンデマンドの取り組みはなかったので挑戦してみようということになった」と述べ、従来の不動産デベロッパーの取り組みとは別の切り口で実証実験を行なうことで、差別化を図っていきたいと説明した。
その上で、実現できるかに関しては、「そもそも利用ニーズがあるのか、行き先があるのか、採算性があるのかという3つの仮説を立てて、マンションの住民からも聞き取り調査を行なうなどして、十分可能性があると考えて実証実験を行なうことにした」と説明。同社の分譲マンションの中でも439戸という比較的大規模でやや鉄道駅から遠く、目的地が点在しているという立地のリビオシティ・ルネ葛西で実証実験を2月21日より行なうとした。
リビオシティ・ルネ葛西は東京都江戸川区にある分譲マンションで、2019年8月に竣工して9月から入居が始まっており、すでに全戸入居が完了しているという。東京メトロ 東西線の葛西駅と、JR 京葉線の葛西臨海公園駅の中間にある立地で、葛西駅までは徒歩18分でバスも走っており、通勤にはバスを使う住民が多いことも特徴だという。東京都内ながらクルマがあると便利な環境と言え、周辺にレストランや遊興施設などが点在しており、オンデマンドの実験に適していると判断したとのことだった。
今後の展開について吉澤氏は「西葛西に現在280戸のマンションを販売しており、そこへの導入や、城東地区などにある単身者用マンションの複数でやってみるなどの展開は考えられる。そのほかには現在は法律の関係がクリアできていないが、お店からの宅配品をバスで送るなども考えられる。また、マンションは高騰しているが、こうした取り組みを成功させることで、駅からやや遠い土地であっても、新しいニーズが掘り起こせるのではないか」と述べ、こうした取り組みにより、従来は駅から遠くマンションを建てるにはあまり適していなかった土地に、MaaSを組み合わせることで新しい価値を創造していきたいとした。
MONETのスマホアプリで予約可能。支払いはPayPayないしバウチャー券で
そうしたリビオシティ・ルネ葛西のMaaS実証実験にMaaSのシステムプラットフォームを提供するのがMONET Technologiesだ。
MONET Technologiesはトヨタ、ソフトバンクが出資してスタートしたMaaSのプラットフォームを提供する企業。現在はトヨタ以外にも、本田技研工業、ダイハツ工業、日野自動車、スズキ、いすゞ自動車、スバル、マツダが出資しており、出資企業を見れば一目瞭然のように日本の自動車産業を挙げての取り組みとなっている。
MONET Technologies 代表取締役副社長 兼 COO 柴尾嘉秀氏は「MONET Technologiesは自動運転社会を見据えてモビリティサービスを進化させていっている。自治体との連携や企業との連携という2つの柱で事業を行なっており、今回の日鉄興和不動産さまとの取り組みは後者のうちの1つになる。そうした取り組みにより移動における新しい価値の創造を行なっていきたい」と述べ、日鉄興和不動産も参加しているMONETコンソーシアムが2月現在で500社に達したことを2月19日に発表したことなどを明らかにした。
その上で、今回のFRECRUの取り組みついて説明し「住民の皆さまにヒアリングを行ない、課題などについてお話しをうかがってきた。その上でオンデマンドのバス停をどこに置くかなどを決定し、11か所で始めることにした」(柴尾氏)とした。
柴尾氏によれば、今回のFRECRUでは、朝の通勤時間帯(7時~9時30分)は駅までのシャトル運行を行ない、その後はオンデマンドサービスに移行する。そして最後は23時までの運行する仕組みになっている。料金は朝の駅へのシャトル便は200円で、オンデマンド運行時には300円という値段が設定されている(小学生以下は無料)。運賃はスマホ利用のQRコードによる支払いシステムである「PayPay」を利用するか、マンションのカウンターで購入できるチケットのどちらかでの支払いになるという。なお、日鉄興和不動産の発表によれば、将来的にはアプリ内でクレジットカードを用いた決済に対応する計画はあるとのこと。
利用する場合には、MONET Technologiesが提供しているアプリ(iOS/Androidに対応)をダウンロードして、事前に利用するバスを予約する必要がある。予約は24時間前から10分前まで可能で、マンションの住民だけが予約できるシステムになっている(子供のために親が予約するなどは可能)。
そうしたFRECRUなどの取り組みに関して柴尾氏は「ログデータの解析を行ない、例えばどこが乗降数が多いかなどを調べてデータ可視化を行ない、サービスの最適化を行なっていきたい。最終的には地域におけるモビリティの価値向上を目指し、地域全体の共同モビリティへと取り組みを拡大していきたい」と述べ、今回のリビオシティ・ルネ葛西の取り組みで得られたデータを元に、地域社会全体に役に立つモビリティ、例えば過疎地での事業などにもつなげていきたいと説明した。
マンションの住民だけが移動できるシステム。車両は日野のリエッセII GX
記者会見後にはリビオシティ・ルネ葛西に移動して、バスの運行状況の見学会が行なわれた。今回の実証実験に利用されるのは日野自動車「リエッセII GX」(形式:SHG-XZB50M)で、運転手1名のほか、最大で26名が乗車できる。荷物置き場も用意されており、そこにベビーカーなどを置くことができる。また、チャイルドシートも標準装備されており、子供連れの子育て世代でも安心して利用できるよう配慮されている。
なお、MONET Technologiesの柴尾氏によれば、このバスの運行主体はリビオシティ・ルネ葛西の管理組合になるという。MONET Technologiesの関係者によれば「法的にこのバスはあくまで自家用という扱いで、管理組合が送迎を行なうという形での運行になる。この点はすでに所管の官庁に問い合わせて承諾をいただいている」とのことで、ナンバープレートも白ナンバー(自家用車)になっており、マンションの住民のみが利用できるということも住民向けの説明書などに明記されている。
今回の見学会では、実際にリビオシティ・ルネ葛西の住民が利用する様子などが公開され、子供連れで乗る女性も実際に利用していた。子育て中の家族が、子供連れでちょっとしたところに買い物に行きたい、お年寄りが病院に行きたいなどのニーズを十分満たすと見ていて感じた。