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ランボルギーニ、ステファン・ヴィンケルマンCEOインタビュー 2022年は内燃機関モデルを発売する最後の年、バッテリEVは2028年に投入と予告

2022年3月23日 実施

ステファン・ヴィンケルマン氏は1964年10月18日にベルリンで生まれ、ローマ育ち。メルセデス・ベンツ、フィアットを経て2005年にアウトモビリ・ランボルギーニの最高経営責任者(CEO)に就任。2016年3月15日にquattro GmbH(Audi Sport GmbHの前身)のマネージングディレクターに任命され、Audi Sportブランドを統括。そして2020年11月に再びアウトモビリ・ランボルギーニCEOに就任した

2021年度は販売台数、売上高、利益率が過去最高の年になったランボルギーニ

 伊ランボルギーニは2021年度の販売台数、売上高、利益率が過去最高の年となったことを発表しているが、3月23日にアウトモビリ・ランボルギーニCEOのステファン・ヴィンケルマン氏へのインタビュー取材会が催された。取材会はイタリアのサンターガタ・ボロニェーゼにある本社と、東京の港区六本木にある「THE LOUNGE TOKYO」をオンラインでつなぎ実施。

 まずヴィンケルマン氏が「2021年は本当に記録づくしの1年でした。主な記録だと、世界販売台数8405台。売上高19億5000万ユーロ。営業利益3億9300万ユーロ、営業利益率20.2%といった数値が挙げられます。また、毎月お客さまからいただく注文が生産台数を上まわっており、本当に嬉しい悲鳴の状態です」とあいさつ。

2021年度の好調な数字

 また、ウクライナの危機にも触れ、「早く正常化することを願っている」と語ったほか、現在ロシアでの活動を一時的に停止していることと、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)を通じてウクライナへ50万ユーロの寄付をしたと明かした。そして今後については、「ウクライナの危機があるため、どういった1年になるのか、なかなか見通せない状況である」とした。

 今後については、2021年5月に発表した電動化へのロードマップ「Direzione Cor Tauri(コル・タウリに向かって)」の通り、2023年~2024年にかけて全ラインアップのハイブリッド化(PHEV)を行ない、2025年以降も継続して電動化を推進。

 そして2022年については、内燃機関のみを搭載したモデルを発売する最後の年と位置付け、発表を予定しているのが「ウラカン」の2種類と、スーパーSUV「ウルス」のフェイスリフト版であると説明。さらに、バッテリEV(電気自動車)については、おそらく2028年ごろの投入になるだろうと投入時期について言及した。

5年で18億ユーロの投資にはPHEVの開発費が含まれているがバッテリEVの開発費は含まない

──過去最高の販売台数や営業利益など好調な業績を達成できた背景や理由とは?

ヴィンケルマン氏:いろいろな理由があるが、1つにはコロナ禍の第一波が押し寄せてきた2020年の夏あたりから予想を上まわるマーケットの回復ぶりが見えてきたこと。実際に2020年末~2021年初めにかけて、アジア太平洋地域、中東ヨーロッパ、米州どの地域でも急速に需要が回復したというのが大事な要素として挙げられます。次にブランド自体が非常にいい状態にあったということ。具体的には、競合に比べてユーザーの平均年齢が非常に若い点。「トレンディで若々しいブランドだ」というイメージが定着して、ランボルギーニというブランドに興味を持っていただけるユーザーが年々増えてきている。商品ラインアップも同様で、「ウルス」を導入したことによって、今までのランボルギーニにいなかった新しい顧客層を取り込むことができたのも非常に大きな要素として挙げられます。あと、昨年はバッテリが一切搭載されてないV型12気筒の内燃機関を搭載する「アヴェンタドール」で“これが最後ですよ”という「Last of Kindキャンペーン」を実施したところ非常に好評で、実績に大きく寄与しています。

2021年1月22日に発表したV型12気筒エンジンを搭載するフラグシップスペシャルモデルの日本7台限定モデル「アヴェンタドール S Japan Limited Edition」

──今後5年間で18億ユーロの投資を行なうということですが、主に電動化への設備投資関連だと思うのですが、工場の改修だったり電池工場への投資など、今話せる範囲で構わないので、何か具体的な内容を教えていただけないでしょうか?

ヴィンケルマン氏:5年間で18億ユーロという投資は過去に例がない規模ですが、これから出てくる3つのモデル、アヴェンタドールの後継となるPHEV(プラグインハイブリッド)、ウルスの後継となるPHEV、ウラカンの後継となるPHEV版の開発が主な使い道になります。それ以外にも、本社のあるサンターガタ・ボロニェーゼにある工場の改修も含まれます。先ほどお伝えしたアヴェンタドールとウラカンの後継車種は、新しい生産ラインが必要になるので、そこにもお金を使います。また、自社で作れないパーツについてはサプライヤーに納めてもらい、それを当社でアッセンブリするという流れになります。そのほかにも、今現在当社にない新しい仕事や新しいポジションができますので、そこに採用する人材も必要になります。要約するとこの投資は「商品開発」「インフラの整備」「人材」の3つになります。ちなみに、この投資にはバッテリEVに対する開発費は含まれていません。

アヴェンタドール

──2028年ごろにバッテリEVを出すとのことですが、同じグループ系列のポルシェは「カイエン」、アウディは「e-tron」をすでに出しているのに、なぜランボルギーニはそこまで時間をかけて電動化を進めていくのでしょうか? ランボルギーニが電動化で目指すところと、電動化を進めるにあたり業績への影響をどう見ていますか?

ヴィンケルマン氏:ランボルギーニはテクノロジをすごく大事にしている会社なので、電動化については、必ずしも先陣を切る必要はないと考えています。EV市場がスーパースポーツカーを受け入れる準備ができた段階で参入し、そこから1番になることを狙っていきます。

 また、全モデルをハイブリッド化して、そのあとバッテリEVを投入する予定について、現状は正しいアプローチだと思っていますが、このあともハイブリッドを続けるかどうか、例えばほかにも合成燃料という可能性もまだ残っているので、それをやるかどうか? ハイブリッドを続けるかどうか? という結論はまだ出していません。これから考えていくことになると思います。

ランボルギーニ初のハイブリッドモデル「シアン」

 やはり一番大事なのは“サステナビリティ”だと考えています。どの市場でも、どの地域でも、これからはCO2排出量の規制がどんどん厳しくなっていくので、そういった規制に合わせていかなければならない。また、日本でもヨーロッパでも北米でも売れるクルマにする必要があるので、一番厳しい規制のルールに合わせてクルマを作り、各市場で売れるクルマをきちんと作って発売しようと考えています。ただし、ランボルギーニである以上は、エモーショナルである部分は絶対に外せないし、今あるクルマよりももっと高いパフォーマンスが出せるクルマでなくてはならないと思っています。このまま何も変えないで販売し続けても、結局は市場から追い出されてしまうと思うので、これからはサステナビリティを重視して進めたいと思っています。

 ただ、スーパースポーツカーを購入される富裕層はこれからもっともっと増えてくるといます。また同時に今ランボルギーニを乗っている方も、今後のランボルギーニに対してサステナビリティを期待すると思います。特に若い世代の人たちはクルマ自体がサスティナブルでなかったら検討の土俵にも乗せてくれないという状況に陥ってしまうので、やはりサステナビリティが重要だと考えています。

 電動化による業績の変化については、私としては見通しは明るいと思っています。もちろん現実はしっかり見据えなければいけないし、同時にこれから10年間ランボルギーニとして何を達成するすべきかもしっかり見据えなければいけないと思っています。

 そして、ランボルギーニのブランドイメージはこれからもますます強化されるでしょうし、私たちのクルマはやっぱりドリームカーであり続ける必要があると思っています。このランボルギーニのようなドリームカーを購入される人たちのパイは、これからさらに広がると考えているので、多額の投資をしてもむしろ今よりよい実績が出せるのではないかと考えています。

──2028年までに、今よりもっとたくさんのEVがいろいろなメーカーから出てきていると思いますが、ランボルギーニはドリームカーを作るブランドである以上、後発で出しても、みんなを驚かすようなEVでなければならないと思いますが、何かアイディアや秘策があるのでしょうか? ただバッテリで走るだけのクルマだったら、ファンががっかりすると思うのですがいかがでしょうか?

ヴィンケルマン氏:先ほどお伝えした通り、電動化に対して先陣は切りませんが、電動化がランボルギーニの新しい世界を開くことは間違いないと思います。今いろいろなEVの乗り比べ試乗をしていますが、やっぱりフィーリングとかセットアップって違うんですよね。これはいいニュースだなと思います。よくEVは同じような乗り味だと言われますが、やっぱり乗ってみると違うんですよね。

 例えばグループ内を例にすると、ウルスはフォルクスワーゲングループの中のポルシェの「カイエン」、ベントレーの「ベンテイガ」、アウディの「RS Q8」と同じプラットフォーム共有していますが、実際に乗ってみると全然乗り味が違いますよね。プラットフォームが同じクルマでもこれだけ乗り味が違うわけですから、ましてやプラットフォームが異なるクルマだったらもう全然違うわけです。だから同じプラットフォームでも差別化をしていかなければならないし、実際にやってそれを証明していかなければいけないと思っています。それは絶対に可能で、ランボルギーニの第1号のバッテリEVが出るときには、必ずや結果が出せると私自身思っています。

ポルシェ「カイエン」
ベントレー「ベンテイガ」
アウディ「RS Q8」

大切なことは販売台数ではなくユーザーの満足度

──2021年度の販売台数が過去最高の8405台ですが、1万台はいつごろ達成できそうだと考えていますか?

ヴィンケルマン氏:販売記録を打ち立てることは、それほど重要視していないです。それよりもお客さまからの受注が堅調に入ってるかが大事だと思っています。また、ドリームカーですからお客さまの満足度がすごく大事だと考えています。ディスカウントなしで中古車の価値も非常に高いところをキープする。そうすることによってお客さま、そのエモーショナル的にも正しい選択をしたと思えるでしょうし、それだけじゃなくてその投資という意味でも正しい選択をしたなと思っていただけるので、ランボルギーニとしては満足度の方が大事だと思っています。そして、その投資をすることと、そのまま台数をある程度抑えること、このバランスを取るのがメーカーの責務だと思います。

 スーパースポーツカーというセグメントに入ってくるお客さま自体の数が増えれば当然そこから恩恵は得られますが、その数字ということよりも、ただ単に成長するだけではなくてランボルギーニのお客さまにとってエクスクルーシブさの部分をリスクを冒すことなく、健全に成長させていくことが大事だと思います。そこは会社の業績とのバランスをうまくとりながらやっていきたいと思っています。

取材会はイタリアのサンターガタ・ボロニェーゼにある本社と、東京の港区六本木にある「THE LOUNGE TOKYO」をオンラインでつないで行なわれた

──50周年となった昨年「クンタッチ」のハイブリッドモデルを発表しましたが、今後もそういった復活モデルとなるハイブリッドやEVは期待してもいいのでしょうか?

ヴィンケルマン氏:1971年にクンタッチが初めてジュネーブオートショーに出展されたとき、それまでのスーパースポーツカーのイメージを激変させたわけです。デザインもそうですが、縦置きエンジンが後ろに搭載されているレイアウトとか、ドライバーと助手席の間にギヤボックスがあるとか、シザードアもそうですが、もう「あの日からランボルギーニのテクノロジとかデザインDNAが決まったと言っても過言ではない」というぐらい唯一無二のモデルです。だからこそ50周年記念の節目に、クンタッチを現代的に解釈をした限定モデルを出しました。

112台限定の50周年記念特別モデルのクンタッチ LPI 800-4とヴィンケルマン氏

 ランボルギーニは会社のルーツや歴史をすごく大事にしていますが、やっぱり今やっていることやこれからやることは新しいものでなければいけないし、革新的じゃないといけないし、夢を与えるようなものでなければと思っています。

 あのクンタッチの限定モデルは、やはり唯一無二のモデルなのですごくよかったと思います。ただ、ランボルギーニとしては未来に目を向けていかなければいけないと思ってるので、レトロなクルマを現代的に解釈したモデルというのは、当面は考えておりません。

 来年はアウトモビリ・ランボルギーニとして60周年を迎えますので、大々的にお祝いしようと思っています。

──ヴィンケルマンさんはランボルギーニCEOは2度目の就任です。前回はSUV市場に挑みましたが、今回は電動化に挑むことになるかと思いますが、前回からの市場の変化とご自身のタスクの変化についての考えを教えてください。

ヴィンケルマン氏:最初にランボルギーニの社長をやったときは、アヴェンタドールとウラカンの導入と、ウルスの導入準備まで関わっていました。主に力を入れたのがブランドの確立で、スーパースポーツカーとして新しい世代に訴えるということをやっていました。あと数台限定モデルを導入する「Few of(いくつか)戦略」や、新しいニュースを発信して存在感を高めることが仕事でした。

スーパーSUV「ウルス」

 当時、SUVを導入することで「ランボルギーニはスーパースポーツカーだけじゃないよ」というのをより知らしめたのも、前回の任期の最後の方の私の仕事ですね。今回はハイブリッド化と電動化ということですけども、基本的に私のやるべきタスクはあまり変わりません。

 とにかく存在感を高めること。あとはそのランボルギーニが次にやることは今よりもいいものだと世に知らしめて証明すること、それから世界中にいるランボルギーニファンの夢を叶えること、このタスクは今回も変わっていません。

 では、前回と何が違うかというと、それを達成するために使うツールが今までとは違います。電動化は今までやったことがないので、そこが唯一の違いだと思います。前回もウルスを導入する際は、今までやったことのないことだったため、いろいろな人から「そんなのやるな」とか「スーパースポーツカーだけにしとけ」と散々いわれましたが、実際に蓋を開けてみたら大成功だったので、本当にやってよかったと思いますし、ウルスで成功したからこそ強固な基盤が築けて、今のように将来への投資もできるわけですから。