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住友ゴム、タイヤで培ってきた解析力を活用した「センシングコア」技術とは? タイヤメーカーの新たな挑戦を体感してみた
2022年4月25日 11:43
- 2022年4月22日 実施
タイヤメーカーが目指す新たな領域
住友ゴム工業は4月22日、独自開発を進めている「センシングコア(SENSING CORE)」の技術および将来の拡大構想に関する説明会を実施した。会場は技術説明に加えて、車両から実際に得られるデータやモニタリングの様子を確認できるようにと、日本自動車研究所(JARI:Japan Automobile Research Institute)の城里テストコースで行なわれた。
説明会には、住友ゴム工業 代表取締役社長の山本悟氏、取締役 専務執行役員の西口豪一氏、執行役員 オートモーティブシステム事業部長の松井博司氏の3名が登壇。
冒頭のあいさつで山本社長は「モビリティ社会の変革はCASE(Connected:コネクティッド、Autonomous:自動運転、Shared:シェアリング、Electric:電動化)など、さまざまな分野ですでに競争が始まっていて、自社で開発を進めているセンシングコアは、交通事故のない社会や将来の自動運転の実現など、モビリティ社会の発展に貢献する技術であり、開発を加速させている。また、センシングコアについては、すでにタイヤ空気圧、タイヤ荷重、路面状況、タイヤ摩耗といった情報を検知する機能を発表しているが、今回はCASEやカーボンニュートラルの実現に貢献するための3つの取り組みと、新たな機能を1つ発表させていただきます」と、説明会実施の主旨を語った。
具体的には「走行状態からCO2の排出量を可視化する機能」「検知した路面情報を地図上で共有し、後続車に事前に危険を伝達する仕組み」「タイヤ点検業務を自動化する仕組み」、そして新たな機能としては、トラックの車輪脱落事故を未然に防止することを目標にした「車輪脱落予兆検知」となる。
社長のあいさつに続き、執行役員 オートモーティブシステム事業部長の松井博司氏から「センシングコア」についての説明が行なわれた。
そもそもセンシングコアは、自動車のタイヤ回転信号やエンジン情報を解析してタイヤの空気圧低下を検知するためのソフトウェア「DWS(Deflation Warning System)」がベースとなっていて、この機能を拡張してタイヤにかかっている荷重やタイヤの摩耗量、滑りやすいなど路面状況を検知することができるシステムのこと。
タイヤのエアバルブに装着して空気圧を計測するTPMS(Tire Pressure Monitoring System:タイヤ空気圧監視システム)を必要とせず、タイヤの回転速度のムラや車速、ブレーキの介入状態など、車両から吸い上げた情報だけでいろいろと検知できるのが大きな特徴で、これは住友ゴムが30年かけて培ってきたノウハウによるデータ解析技術の成果だという。
もちろんTPMSがないため正確な数値は測定できないが、システムとしては現状からの差分を拾って異常を検知していく。そのため、空気が少しずつもれていくためドライバーが気がつきにくい「スローパンクチャー」も、空気の減り具合の速度から検知可能にしている。
車両から得られる情報だけを使用するなら、いろいろなメーカーでも開発できてしまいそうだが、松井氏によると「車両から出ているさまざまな情報にはノイズがたくさん入っていて、それらのノイズを除去することや、除去したあとにどの情報をピックアップして解析するか、そこに長年培ってきた住友ゴムのノウハウがあります」という。
センシングコアは、車載コンピュータ(※現状は主にブレーキのコンピュータ)にインストールするソフトウェアで、物理的な本体ユニットや追加センサーもなく、後付け電子パーツのような電池切れの心配もないうえにメンテナンスフリーとなるのがメリット。また、ソフトウェアのアップデートにより、新たな検知機能の追加など拡張していくことも可能になる。
また、住友ゴムではセンシングコアのさらなる活用方法として、路面状況の共有化を目指している。例えばセンシングコアが「ここは滑りやすい」と判断した路面の位置情報をクラウドに登録し、それを他車へと共有するもの。車両にもTRC(トラクションコントロール)など滑り路面に対するセーフティ機能は搭載されているが、センシングコアでは、そういった状況を事前に把握できるところに安全をプラスできる意義があるという。
特にターゲットとして想定しているのが高度な車載OSを搭載する次世代EV(電気自動車)で、あらかじめ車載OSにインストールして提供する方法や、自動車メーカーのクラウドサービスを利用して提供する方法などを検討しているという。中国や欧州などはタイヤの空気圧管理などが、すでに法律で厳しくなっていて自動車メーカーとの交渉も前向きに進められているそうだ。また、新たに自動車産業に入ってくる新規メーカーなども、OSにインストールするだけで安全性を高められることから問い合わせも多く寄せられているという。取締役 専務執行役員の西口豪一氏は「いずれはセンシングコアが“インテル入ってる?”みたいに、多くのクルマに新車から備わっているのが当たり前になるのが目標で、2030年には3桁億円の売り上げ規模になると想定している」と語る。
松井氏はセンシングコアのビジネス構想について「大きく3つのステップに分けて計画を進めている」といい、2020年から開始したステップ1の空気圧温度管理サービスにて、得られたデータでユーザーに新たな価値を提供できることを確認し、2021年から一般ユーザー向けに販売を開始しているという。そしてステップ2では、2022年よりセンシングコア技術の実証実験を開始し、そしてステップ3の取りかかりとして、2024年からセンシングコアの販売を開始し、その先のサステイナブルバリューリングへ繋げていく予定だと明かした。
また、すでにステップ1を提供しているユーザーから「タイヤの空気圧の確認時間が短縮できた」「身体的な負担が軽減できた」など感想も回収しているという。具体的には、1台当たりのダイヤ空気圧の確認作業が平均103秒から54秒へ、約半分に短縮できることを確認しているほか、4輪のタイヤキャップを開けて、しゃがんで空気を充填していたものが、タブレットで空気圧を確認して、必要なタイヤにだけに空気を充填すればよくなり、身体的な負担の軽減にも繋がっているなど、ソリューションの効果が出ていると紹介した。
なお、現行車へのインストールも可能ではあるものの、さまざまな項目をチェックしなければならないため、あまり現実的ではないそうだ。
センシングコアの活用を実際に体感
JARIの城里テストコースには低μ路があり、あらかじめセンシングコアを搭載した車両が走行して、ここは「滑りやすい路面」であることをクラウドに登録。そのデータをセンシングコアを搭載していない車両へと情報共有できる活用パターンを紹介した。
テストコースを走行していくと、滑りやすい路面の100m手前から警告を表示、30m、10mとどのくらいまで接近しているかも警告し続けてくれるので、ドライバーとしてはあらかじめ身構えることができた。滑りやすい路面を知らずに走っているよりも、知っていればあらかじめ速度を落としたり、ブレーキが効きにくいことを想定した運転をすることが可能になり、間違いなく安全には寄与する。
テスト車は後付けモニターに警告を表示させていたが、いずれは自動車のメーターやナビといった搭載しているディスプレイに表示させることを想定しているという。
車輪脱落予兆検知については、実際に大型トラックはドライブできないので、動画で確認。ナットをトルクレンチを使わずに手で締めた状態で走行。30分後には約1mmの緩みが確認できたという。実際にタイヤが外れてしまったあとでは、その原因特定は難しいそうで、とにかく事前に予防することが重要。このテストでは1輪だけあえて異常を発生させているが、データでは運転席の振動は正常な状態とほぼ変わらず、ホイールナットが緩んでいることをドライバーが感じ取ることはかなり難しいという。
しかし、センシングコアを搭載していれば、車輪の回転速度のムラから異常を検知してドライバーへ警告することが可能となる。毎日の運行前点検を実施していたとしても、走行中にホイールナットが緩む可能性はあり、こういった機能があればドライバーも運送事業者も安心を得られるだろう。
すでに実証実験が行なわれている空気圧の管理については、センシングコアだけでなくTPMSを一緒に活用するサービスを開始していて、車両のメンテナンスを行なうメカニックが4輪のタイヤのエアバルブを開けて、エアゲージで空気圧を測るという作業時間を、一気に半分以上に短縮することが可能となる。すでにダンロップ系のタイヤショップで実証運用がスタートしている。また、メカニックだけでなく、ドライバーがスマホで空気圧を確認できるサービスも開発しているという。