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自工会 豊田章男会長、最大のテーマは「カーボンニュートラル社会」の実現 「自動車産業を応援いただきたい」と語る
2022年5月19日 19:16
- 2022年5月19日 発表
自工会(日本自動車工業会)は5月19日、オンライン記者会見を行なった。自工会の出席者は豊田章男会長、三部敏宏副会長、日髙祥博副会長、片山正則副会長、内田誠副会長、鈴木俊宏副会長、永塚誠一副会長の7名。今期の自工会を運営する首脳陣が全員出席した。内田誠副会長、鈴木俊宏副会長の2名は、今期からの新任副会長になる。
豊田会長は、この新体制で迎える今期の抱負を冒頭で語った。
豊田章男 自工会会長あいさつ
豊田でございます。本日の理事会におきまして自工会の新たな役員体制を正式に決定いたしました。この半年間、新体制スタートに先立ち定期的に正副会長で集まり、共通課題への理解を深めてまいりました。さらにスピード感を持って自工会活動を進めるには、現場の事実を知ることが何より大切だと考え、正副会長各社の若手によるサポートチームを立ち上げ、現地現物現実を合言葉に、会社の垣根を越えた取り組みを進めております。
本日は新体制で取り組んでいく重点テーマに込めた思いを改めてお話させていただきます。今私たちは新型コロナウイルスや半導体不足、自然災害の影響を受ける中で、必死にサプライチェーンをつなごうとしております。軍事侵攻による、悲しく、やり切れない現実にも直面しております。資源や食料価格の高騰など世界経済の先行きも不透明になってまいりました。こうしたリスクのあるときこそ、未来に向けた変革を止めない強い意志が必要だと思っております。
その最大のテーマは「カーボンニュートラル社会」の実現です。カーボンニュートラルは私たちの暮らしそのものに変化を迫るものであり、移動を通じて人々の暮らしを支えてきた自動車産業の変革を問うものでもあります。
最初は私自身も何をすればよいのかよく分かりませんでした。カーボンニュートラルを正しく理解することから始めようと呼びかけることから、まずはスタートいたしました。「敵は炭素、内燃機関ではない」「CO2削減はエネルギーを作る、運ぶ、使う、すべての工程でやるもの」「カーボンニュートラルという山の上り方は1つではない」「技術力を活かすには規制で選択肢を狭めるべきではない」、こうしたことを言い続けながらさまざまな実証実験を進め、その都度分かってきたことを発信してまいりました。その結果、世の中の理解も深まり、一緒にやろうという仲間たちも増えてまいりました。
カーボンニュートラルは日本の自動車産業のCASE技術を磨くチャンスでもあると思っております。CASEの進化とともに、暮らしに深く根ざしたモビリティサービスなど、クルマが生み出す価値は大きく広がってまいります。
私はモビリティ産業への変革を進めている自動車は成長産業だと思っております。だからこそ、岸田政権が掲げる「成長と分配」の原動力になれると考えております。
コロナ禍の2年間を見ても、日本での設備投資と研究開発費は12兆円、稼いだ外貨は25兆円、新たに生み出した雇用は27万人。自動車産業は日本の成長を支えてきたと自負しております。
分配の観点においても、この春の労使協議では自工会各社が中心となり、賃上げの流れを生み出すことができたと思っております。その中で課題も見えてまいりました。
自動車産業の中で交渉のテーブルにつける人は3割に過ぎません。組合組織がない7割の人たちにこの流れをつなげていくことが大切だと思っております。カーボンニュートラルも、成長と分配も成り行きで実現できるものではありません。
日本をもっとよくしたいという強い思いと、国家戦略のもと、みんなで一緒に動いていくことが求められております。そのためにも今年大きく踏み出すべきテーマが自動車税制の改革です。
自動車業界といたしましては、表年、裏年という発想や、 縦割り行政から脱却した骨太の議論を求めてまいります。今の日本に必要なのは、エネルギーの課題を打開し、カーボンニュートラル対応を加速させながら新しい成長の道筋を作り出す、そんな成長戦略だと思います。
税のあり方も、こうした成長戦略産業政策の中で腰を据えて見直すべきだと思います。今年は、大局的な視点から自動車税制の見直し議論を深め、何とか道筋をつけたいと思っております。
そしてもう一つ、来年は東京モーターショーの年です。 前回は他業界にも参画いただき、130万人の来場者を集めました。 自動車を軸にして他業界と一緒にやれば100万人規模を集められることを証明できました。
この学びを活かし、来年の東京モーターショーは「JAPANオールインダストリーショー」という名前にしたいと思っております。モビリティの枠を超えて日本の全産業で連携し、さらにスタートアップ企業も巻き込んでいくことで、たくさんの人が集まる場にしたいと考えております。
全く新しいショーを目指して、名実ともに変革してまいりますので、ご期待いただきたいと思います。
最後になりますが、私の信念は「自動車はみんなでやってる産業、未来はみんなで作るもの」この2つです。日本の自動車産業の強みは、乗用だけではなく、商用、軽、二輪も含めたフルラインナップ体制です。その強みを活かしながら、カーボンニュートラルも、成長と分配も、ペースメーカーとして役割を果たしてまいりますので、ぜひとも自動車産業をあてにしていただきたいと思っております。
未来のために、地球のために、意思と情熱を持ってみんなで行動してまいりますので、変わらぬご支援をよろしくお願いいたします。
自動車は成長産業、だからこそ適切な税制を
豊田会長が冒頭のあいさつで強調していたのが、自動車は成長産業であるということだ。コロナ禍で多くの産業が(もちろん自動車産業も)厳しい状況に陥るなか、グローバルで売上を伸ばし、12兆円の研究開発費を注ぎ込み、25兆円の外貨を稼ぎ、27万人の雇用を生み出した。コストカットで乗り切るのではなく、成長することでコロナ禍を越えてきた。
その産業に対する税制をしっかり検討してほしいと提案している。税金は社会をよりよくするために使われていくものであり、自動車業界における税制を適切にすることで、さらに発展できるということだろう。税制をしっかり見直して、成長産業である自動車に適切なものにすることで、グローバルで伸びていき税収も増えるということを示唆している。
実際、トヨタ自動車個社に限っても、2011年の東日本大震災の際に東北に投資することを決断し、東北地域のトヨタ自動車の売上を500億円から5000億円に伸ばした。「雇用を生み、利潤を生み、税金を納める、税金を払い続ける方法での社会貢献を決断した」(トヨタ自動車社長 豊田章男氏)と語っており、産業から搾り取って税収を上げるのではなく、産業を成長させることで税収を上げようという意思がある。それが、「日本をもっとよくしたいという強い思いと、国家戦略のもと、みんなで一緒に動いていくことが求められる」という部分になる。
その上で、大きなポイントとなるのがカーボンニュートラルだ。バッテリEV1つしかないと思われていた約1年前、2021年4月22日開催の自工会の会見で豊田章男会長は。「私たちのゴールはカーボンニュートラルであり、その道は1つではない」とeフューエルや複合技術活用について言及。その午後には、モリゾウ選手として水素燃焼エンジンで富士24時間レースに出ることを発表した。
今では当たり前になってしまった、モリゾウ選手が水素燃料タンクを背負って耐久レースを走る風景だが、世界的に見れば大会社の社長がレースに出ることも異例なら、水素燃焼エンジンのクルマが耐久レースで普通に完走していることも異例だ。その後、スバルもカーボンニュートラル燃料で参戦し、マツダもバイオディーゼル燃料「サステナ」を使用して参戦している。この1年で、カーボンニュートラルへの道筋がずいぶん広がったように見える。
その点について質問したところ豊田会長は、「カーボンニュートラルは、当時菅総理が2050年にカーボンニュートラルにしますよというところから(始まり)、正しく理解しようよということや、全産業でやっていくもんだよねということをずいぶん申し上げてまいりました。(当時は)自動車各社も各社の強みや立場が異なる中で、全社の意見を平均したような限定的な内容になっていたと思います。そのような中で、先ほど申しましたように『敵は炭素であり内燃機関ではない』『選択肢を1つに狭めるべきではない』というようなことを、分かった都度情報開示してきました。それゆえに、日本には電動車フルラインナップという強みがあり、改めてわれわれも、またわれわれの産業を応援いただく方も理解が深まったと思います」と語る。
1年間さまざまに取り組んでいく過程で、各社のそれぞれの強みがあり、その理解が深まることで新しい取り組みができているという。それが各社の得意分野を活かしたタスクフォースになり、カーボンニュートラルへの取り組みを進めているという。
バッテリEVにおいては電池の生産など一部の部品を中国に頼っている現状があり、発電においても日本は電力需要の高まりに答えられる状況にはなく、そのコスト負担の論議もきちんとされていないという。
「先行きが不透明であるからこそ、選択肢を狭めずに活動を進めることが重要であり規制が先行することは避けていただきたいと思います」と語り、コロナ禍からの回復期において各国の首脳が日本に来る機会が増えつつある中で、「1つの選択肢に狭められたような報道ではなくて、みんなでカーボンニュートラルを地球のためにやってきましょうという観点で報道をしていただくよう、よろしくお願いをしたい」という。
二輪車、商用車、乗用車については、各副会長が個別に取り組みを語った。
商用車 片山正則副会長
商用車を担当する片山正則副会長は、「1年前に選択肢を定めるものではない」と決めたことが、非常に大事であったという。商用車においては、本当にさまざまな使われ方があり、山奥でも使われることからインフラなども大事になるとした。
「小型に関してはバッテリベースの部分、大型に関しては長距離ということで燃料電池」という棲み分けがよく語られるものの、カーボンニュートラル燃料などもあり、現状では選択肢を狭めない方がよいとする。
また、個社での取り組みだとどうしても規模が小さくなりがちで、インフラなども含めた動きが必要になる商用車では、自工会という単位で電動化社会を受け入れてもらうための取り組みが大切であるとした。
乗用車 三部敏宏副会長
三部敏宏副会長は、カーボンニュートラルは長期にわたるチャレンジであるという。まだまだ進化の過程にある技術もたくさんあり、多様な選択肢は排除するべきではないとした。
そのカーボンニュートラルに向かう道筋としては、「CO2の見える化」「CO2を減らす活動」が大切で、製品ライフサイクル全体でのCO2排出量の算出、特にその国際的な技術ガイドライン策定が必要であると語る。さらにその国際的な技術ガイドライン策定において、日本として議論をリードできるよう連携して取り組んでいるとのことだ。
また、5月末にG7の気候・環境大臣会合が開かれるが、そこに向けて技術だけでなくエネルギーを含めた多様な選択肢の重要性についてとりまとめ、自工会として各国の自動車工業会と連携して発信していくという。
二輪車 日髙祥博副会長
二輪車については日髙祥博副会長から取り組みを紹介。カーボンニュートラルに対応する施策としてホンダ、カワサキ、スズキ、ヤマハ発動機の4社で電動二輪車用のバッテリ交換規格を策定。さらにその交換式バッテリをインフラとするため、ENEOSホールディングスも加わった5社で新会社「株式会社Gachaco(ガチャコ)」を設立(2022年4月1日)、シェアリングサービスを東京などの大都市圏から開始していく。
この交換式バッテリについては、国際標準化の取り組みもしていきたいとのことだ。
さらに、電動化だけではなく、二輪車向け水素燃焼エンジンの可能性も共同開発などで探っていく。水素を燃料とするもの、バイオエタノールを燃料するもの、そのほかを燃料するものなど、カーボンニュートラルの可能性を探索していきたいとした。
カーボンニュートラルについては別の面からも質問があったが、豊田会長は「カーボンニュートラルに限っては、エネルギーを作る、運ぶ、その分野も含めて達成するものだということは、ぜひ正しくご理解いただきたいというふうに思います。日本でクルマを輸出し外貨を稼いでいるわけでありますが、エネルギー状況が今のままであったとしたら、日本からクルマは輸出できないということになると思うんです。申し上げておりますのは、それは雇用問題にもつながると思いますし、日本の自動車産業の競争力というものが、われわれの、自分たちの力以外のところで相当に低下してしまうという現実になります。コロナ禍においても雇用を増やしているのも外貨を稼いでいるのも自動車産業でありますので、ぜひとも自動車産業を応援いただきたい、あてにしていただきたいというふうに切にお願いいたします。何か自動車だけをですね、悪者扱いにするようなことはぜひ勘弁していただきたいなというふうに思いますので、よろしくお願いいたします」と、カーボンニュートラルに対する論議は総合的に考えてほしいという。
よく自動車の走行CO2排出量、製造CO2排出量だけが論議されるが、商品のライフサイクル全体で捉えると、日本から輸出する際にカーボンニュートラルでなければ、将来的になんらかの国際的なペナルティが発生する可能性もある。日本で作られた自動車は自動車輸送船でしか輸出できず、ご存じのとおりそれはディーゼルエンジンで動いている。
また、自動車は製造する際にもなんらかの形で電気を使っているが、発電された電気そのものがカーボンニュートラルでないと、製造された商品もカーボンニュートラルではなくなる。
日本は島国ということもあって、世界のどこへでも船を使って安価に輸出できるという地理的条件を活かして発展してきたが、それがカーボンニュートラルになるとデメリットになるかもしれない時代を迎えている。その中で、一時的に好調に見える(ただ、今期は原材料費の高騰で、前期よりは減収になる会社が多い)自動車産業に税金を負担させ、そこに多くの負担を持ち込むことは、結果的に日本のためにならないのではないかという問いかけだろう。「ぜひとも自動車産業を応援いただきたい、あてにしていただきたいというふうに切にお願いする」というのは、日本の基幹産業でもある自動車産業を率いる自工会会長としての自負でもあり、国や国民の支えがほしいという痛切な叫びでもあるだろう。