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ホンダ、新型「シビック TYPE R」世界初公開 開発責任者・柿沼秀樹氏らによるプレゼンで明かされた進化点とは?
2022年7月21日 11:00
- 2022年7月21日 発表
本田技研工業は7月21日、新型「シビック TYPE R」を世界初公開した。価格やスペックなどは明らかにされておらず、9月に発売予定であることがアナウンスされた。
新型シビック TYPE Rのグランドコンセプトは「Ultimate SPORT 2.0」。先代シビック TYPE Rのコンセプトである「Ultimate SPORT」をさらに進化させ、速さと優れた走りの喜びを極めたピュアスポーツ性能を目指したという。
デザインについては現行シビックをベースにTYPE Rとしての走行性能を高めるため、さらにロー&ワイドなパッケージを追求。エクステリアではボディと一体になったワイドフェンダーを採用し、サイドパネルから美しく流れるような造形に仕上げるとともに、フロントからリアに抜ける一連の空気の流れをコントロールすることで空力性能を向上させた。
インテリアでは気持ちがたかぶるような赤いシートとフロアカーペットを採用するとともに、インテリアパネルまわりは運転に集中できるようにノイズレスなブラック基調に仕上げた。また、メーターのデザインには通常の表示に加えて+Rモードのデザインを採用している。+Rモードではサーキット走行などにおいて、ドライバーが必要な情報をいかに瞬間認知できるかを重視し、上部にはエンジン回転数やレブインジケーター、ギヤポジションなどを、下部をマルチインフォメーションディスプレイをレイアウト。レブインジケーターには注視しなくても感覚的に認識できる点灯式を採用するなど、瞬間的に情報を視認できるレイアウトとするとともに、気持ちもたかぶるデザインに仕上げたとのこと。
パワートレーンについての詳細はアナウンスされていないものの、これまでのTYPE Rを上まわるパフォーマンスを目指し、TYPE R専用の2.0リッター VTECターボエンジンをブラッシュアップし、より高出力・高レスポンスとなるよう追求。加えて6速MTの操作感とレブマッチシステムを進化させることで痛快なドライビングフィールを追求したという。
この新型シビック TYPE Rについて、開発責任者である柿沼秀樹氏を筆頭とした開発陣によるプレゼンテーションが行なわれたので、その模様をお伝えする。
ハートに響く官能と絶対的な安心感を兼ね備える究極のスポーツ
はじめに登壇した柿沼氏は、ホンダが1964年にF1に初参戦し、翌年のメキシコグランプリで初優勝して以降、さまざまなモータースポーツに挑戦してきたことを紹介するとともに、レーシングカーが持つテクノロジーと圧倒的なドライビングプレジャーを追求するのがTYPE Rであり、F1への挑戦を起源とするチャレンジングスピリッツを象徴するチャンピオンシップホワイトを専用ボディカラーに、そして深紅のホンダエンブレムをまとう唯一のモデルだと解説。
TYPE Rが登場したのは1992年の「NSX R」が最初となっており、以降1995年に「インテグラ TYPE R」、1997年に「シビック TYPE R」などと続き、ホンダ自らがベース車両にファインチューニングを施す手法でTYPE Rシリーズは進化してきた。ここでいう手法とはクルマの快適性を犠牲にしてでも軽量化を施し、足まわりを硬め、エンジンをチューニングするというもので、これによりTYPE Rのコンセプトである速さと圧倒的なドライビングプレジャーを進化させてきたという。
このような生い立ちを見続けてきた柿沼氏は、2017年モデルのシビック TYPE Rの開発責任者に就任。TYPE Rとしての圧倒的な速さとかつてないグランドツアラー性能を兼ね備えた異次元のTYPE Rを作りたいと考え、スポーツカーとしての枠を超えた「Ultimate SPORT」をコンセプトに「ベースモデルと同時開発のうえでスポーツカーとしてありたい運動性能を徹底的に突き詰めることで理想のFFスポーツカーを妥協なく追及しました。これまでのTYPE Rの歴史を守るのではなく、これからの時代にあるべきスポーツカーを思い描き、TYPE Rの新しい歴史を作るべく開発を実行しました」と振り返る。
柿沼氏が開発責任者に就任するまでのTYPE Rは乗り手を選ぶことを前提としたスポーツカーだったが、時代が進み、テクノロジーが進化する中で2017年モデルからは運動性能と快適性を高次元で両立する新たなTYPE Rへと舵を切った。柿沼氏は「その考え方は、初代NSXがそれまで乗り手に我慢を強いて限られた人しか操ることができなかったリアルスポーツが持つ“操る喜び”を、誰もが味わえるよう解放したことと同じと言えます。技術により、快適性能と環境適合性の両立を実現することで、TYPE Rをより多くの方に開放したのが第2世代のTYPE R」と説明する。
この2017年モデルは世界95か国で販売され、歴代TYPE Rの販売台数(2021年9月までの世界累計販売台数)において過去最高となる4万7200台(欧州1万1000台、日本8100台、米国2万5100台、その他地域3000台)を記録した。こうしたTYPE Rファンの後押しを受け、現行シビックをベースにしたTYPE Rの開発を進めてきたという。
その新型シビック TYPE Rのグランドコンセプトは「Ultimate SPORT 2.0」で、ピュアエンジンTYPE Rの集大成として究極のFFスポーツを目指しており、己を超えるクルマづくりでTYPE Rにしかない本質的な価値を磨き上げ、ハートに響く官能と絶対的な安心感を兼ね備える究極のスポーツを目指すとした。
官能美を追求した新世代のUltimate SPORTデザイン
次に登壇した本田技研研究所 デザインセンターの原大氏からはエクステリアデザインについて解説が行なわれた。
新型シビック TYPE Rのエクステリアデザインは、高性能マシンとしての質感と純度を高め、官能美を追求した新世代のUltimate SPORTデザインを目指した。フロントまわりではひと目でTYPE Rと分かる迫力と、これまでにない色気のある表情が与えられた。また、これまでの手法と一線を画したフェンダーアンカーとリアドアをTYPE R専用とすることで、圧倒的なパフォーマンスを予感させるだけでなく、いつまでも眺めていたくなるような色気と一体感に満ちたデザインに仕上げたという。
フロントセクションのデザインポイントとしては、ハイパワーターボエンジンの性能をいかんなく発揮させるためバンパー&グリル開口部にエアロダイナミクスを取り入れた立体的デザインが与えられるとともに、ホイールハウス内の圧力を軽減して空気をスムーズにサイドへ流すフロントフェンダーダクト、リアタイヤ前の空気の流れを主流方向へ向けるサイドシルスポイラーといった空力性能にかかわるパーツは社内外のレース部門、レースカーサプライヤーの知見を取り入れながらスタイリングを進め、精緻なマシンとしての質感と純度を高めた。
リアまわりではベースモデルのスリークなシルエットを活かしながら、迫力あるロー&ワイドなフォルムとグラマラスなリアフェンダーによって地を這うレーシングカーのようなたたずまいを目指した。また、サイドシル、リアスポイラー、ディフューザーといったTYPE Rのパフォーマンスを実現するために作り込まれた空力パーツはブラックにペイントされ、全体を引き締めた。
また、リアセクションのデザインポイントとして、原氏は「サイドパネルから美しく隆起した一体型フェンダーは、スタイルだけでなくホイールアーチ周辺の空力ノイズの低減にも寄与しています。リアスポイラーはコンパクト化するだけでなくステーをアルミダイキャスト製としたことでダウンフォースの強化とドラッグ低減の両立を図りました。ディフューザーもアンダーフロアからそのまま一体化した形状とし、ボディの奥深くまで空力的な造形処理をすることで高いダウンフォースとスタビリティの実現に貢献しています」と解説している。
加えてマットブラック仕上げとなった専用19インチアルミホイール(タイヤはミシュラン「パイロットスポーツ 4S」でサイズは265/30ZR19)については、先代の「シビック TYPE R リミテッドエディション」で培った軽量・高剛性の機能デザインをベースにホイールサイズのワイド化によってより立体的なデザインへと進化。また、リバースリム構造を採用することでサイドから見た際にすっきりとしたリム形状がワンサイズ上の商品性を実現している。
ボディカラーについてはチャンピオンシップホワイトに加え、フレームレッド、レーシングブルー・パール、クリスタルブラック・パール、ソニックグレー・パールの全5色を用意する。
後席に座る人にもTYPE Rの世界観を
一方、インテリアデザインについては本田技研研究所 デザインセンターの小川泰範氏が説明。
新型シビック TYPE Rのインテリアではドアを開けた瞬間に気持ちを高揚させることを目指し、赤いシートとフロアカーペットを採用しつつ、色を排除した黒基調のインパネによってハイコントラストを演出。また、後席までつながるレッドカーペット、後席にスエード調表皮をあしらうことで後席に座る人にもTYPE Rの世界観を感じられる仕様となっている。
フロントのスポーツシートについては、限界走行を支える骨格と気持ちをたかぶらせるデザインを追求したとし、小川氏は「サーキットにおける限界走行やロングドライブまで、姿勢の保持性能とサポート性を最優先に骨格を鍛え上げ、強く、軽く見える形状を熟成しています。またTYPE Rの持つピュアさを表現するべく、より鮮やかな質感の高いレッドのスエード表皮を開発しています。シートパターンにはアグレッシブな気持ちを鼓舞するハニカムパーフォレーションを施しています。こちらは上下方向にグラデーションのあるパターンとなっており、体圧の密着するエリア、特に腰まわりだったりお尻まわりといった部分に大きなパーフォレーションを集中させ機能性を拡張するようなデザインになっています」と説明している。
また、センターコンソールにはTYPE Rの象徴であるマニュアルシフトノブと同一のアルミ製のパネルを採用するとともに、アウトレットパネルなどには静寂の先にひそむ凄み・華やかさをイメージした偏光ガンメタリックを配し、研ぎ澄まされたコクピットを演出。しっかりと手に吸い付くアルカンターラ巻きステアリングも装備した。メーターについては+Rモードのデザインを新たに採用し、コンフォート/スポーツモードとは異なる専用グラフィックが与えられている。
TYPE R史上最強のエアロバランス
そしてダイナミクス性能については再び柿沼氏が登壇して解説を行なった。
TYPE R専用の2.0リッター VTECターボエンジンではターボチャージャーの翼枚数や翼形状を新設計し、回転イナーシャを低減することでターボ回転数と応答性を向上させた。これにより、パワーウェイトレシオと最高速を向上させているという。
マニュアルトランスミッションについて、2015年モデルでターボ化に対応した容量アップやオイルクーラーなどの採用を実施するとともに、ショートストローク化によるシフトフィールの進化を図り、2017年モデルではさらにフライホイールの軽量化や自動ブリッピング機構のレブマチックシステムを新搭載してきたが、新型シビック TYPE Rではシフトフィールを細部にわたり磨き上げ、より洗練させながらフライホイールやレブマチックにおいてもさらなる進化を図った。これについて、柿沼氏は「回転体であるフライホイールの感性重量を大幅に低減(先代比25%減)させることで、レブマチックシステムの自動ブリッピングレスポンスを先代から10%向上させました。これにより、エンジン回転数差が一番大きい2速から1速へのシフトダウン時までも自動ブリッピングの作動を実現しています。一度乗ったらシフトチェンジが病みつきになる、そんなMT車の操る喜びを最大にしています」と解説を行なっている。
また、ボディまわりではベースモデルと同じく樹脂製のテールゲートの採用により鉄製の従来モデルと比べ約20%の軽量化を行なうとともに、構造用接着剤の接着塗布量を先代比で3.8倍と大幅に増加させ、ダイナミクスの基盤となるボディ剛性においても軽量高剛性化を突き詰めてきた。そのボディに新型シビック TYPE R専用のフード、フロントバンパー&アンダーカバー、サイドシルスポイラー、リアスポイラー、リアディフューザーといった空力アイテムを採用することで、「ダウンフォースはベースのシビックに対し200km/h走行時で実に900Nmにもおよびます。この先代モデルを上まわるダウンフォースをドラッグの低減とともに実現しています。TYPE R史上最強のエアロバランスで圧倒的なスタビリティと速さを磨き上げました」と柿沼氏はアピール。
足まわりについても「フロントサスペンションは進化したエンジンとタイヤのパフォーマンスアップに対応し、ミリ単位で最適化したサスジオメトリーにより強大な駆動トルクをしっかりと路面に伝え、狙ったラインを外さない駆動力タフネスを備えました。また、サスペンションアームにおいても剛性・形状のさらなる最適化を行なうことで、サスペンション剛性の向上を図り、グリップアップしたタイヤ性能を高荷重領域まで余すことなく発揮できる、進化したTYPE Rにふさわしいフロントサスペンションを設計しました」とその進化点について語った。
ドライブモードはコンフォート、スポーツ、+Rに加え、「エンジン」「ステアリング」「サスペンション」「エンジンサウンド」「レブマッチ」「メーター」の6項目を個別設定できるインディビジュアルを用意したのが新しい。インディビジュアルで設定した内容はエンジン再始動時も保持される設定という。
なお、新型シビック TYPE Rではデータロガーアプリ「Honda LogR」を新たに開発。このアプリでは4つのタイヤの摩擦円や車両の3Dモーションアニメをリアルタイムで表示させることが可能。また、走行データから車両挙動のクオリティやドライバーの運転レベルをホンダ独自のロジックで分析し、スコアリングとドライバーランクでアナウンスする機能、同じサーキットを走った別のTYPE Rユーザーのデータと自分のデータを比較できるVSモードといった多彩な機能が用意される。
最後に柿沼氏は「この2年におよぶコロナ禍の折、開発を止めずに磨き上げることに大変苦労しました。ホンダチャレンジングスピリットの象徴のようなTYPE Rという商品にかけた開発者たちの強い思いが結実した開発であったと思います。今回、新型シビック TYPE Rを完成形という次元にまで進化させました。このクルマの魅力をぜひ皆さまにも味わっていただければ光栄です。新型シビック TYPE R、そして未来のTYPE Rに熱い視線をお送りください」とコメントしてプレゼンテーションを締めくくった。