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日野、不正問題で小木曽社長が記者会見 特別調査委員会から「みんなでクルマを作っていない」と指摘も

2022年8月2日 発表

日野自動車株式会社 代表取締役社長の小木曽聡氏

 日野自動車は8月2日、3月4日に公表した認証不正問題について、外部有識者で構成される特別調査委員会の調査により、エンジンの認証申請に係る長期にわたる不正の事実が判明したことを明らかにした。同社は、調査報告書を受領して、同日、今後の対応と併せて関係省庁に報告したとしている。

 特別調査委員会の調査により判明した不正行為の全容としては、車両用ディーゼルエンジンにおいては、排出ガス関連では平成15年排出ガス規制(新短期規制/E6)以降の幅広い機種において、主に劣化耐久試験に関する不正行為が判明。燃費関連では、重量車燃費基準が導入され税制優遇制度の対象となった平成17年排出ガス規制(新長期規制/E7)以降、主に大型エンジンにおいて燃費測定に関する不正行為が判明した。

 また、産業用ディーゼルエンジンにおいては、排出ガス関連で平成23年規制(3.5次規制)以降の幅広い機種において、主に劣化耐久試験に関する不正行為が判明。さらに、2016年に国土交通省から、認証取得時の排出ガス・燃費試験における不適切事案の有無を報告するよう求められた際に、虚偽の報告を行なったことが判明した。

特別調査委員会は「みんなでクルマを作っていない」「世の中の変化に取り残されている」「業務をマネジメントする仕組みが軽視されていた」と指摘

特別調査委員会 委員長 榊原一夫氏

 同日、日野の不正行為について調査結果を公表した特別調査委員会 委員長 榊原一夫氏らが出席する記者会見が実施され、その中で、不正行為につながる背景などが語られた。

 重量車については、2006年(平成18年)度から、燃費に関する2015年度目標を達成した車両について自動車取得税軽減措置が講じられることとなり、以後、制度の変遷はあるものの、燃費のよい車両については減税措置が講じられたり、購入時に補助金が支出されるなどのインセンティブ制度が導入された。そこで日野では、2005年(平成17年)11月、当時副社長を退任して技監となっていた元役員の指示をきっかけに、当時のE7規制(2005年適用開始。新長期規制)対応の大型エンジンE13C等について、この2015年度目標の達成を目指すこととなった。しかし実際には、2015年度目標には大幅に未達の状況でありながら、役員がその達成を強く求めるなどしたため、開発担当者らは2005年(平成17年)12月下旬頃、開発担当の専務取締役及び副社長に対し、目標を達成見込みであるという報告をしたものの、その後適切な対応をしなかったことなどの具体例が報告された。

 日野の不正行為について、榊原氏は「当委員会は、本問題の真因を次の3つと考えております。1つ目は、みんなでクルマを作っていないこと。2つ目は、世の中の変化に取り残されていること。3つ目は、業務をマネジメントする仕組みが軽視されていたことであります」と指摘した。

 1つ目の真因について「みんなでクルマを作っていないということからは、セクショナリズムが強く、組織が縦割りで、部分最適の発想にとらわれて全体最適を追求できていない。職業的懐疑心や批判的精神に基づいて、開発のプロジェクトにおいて自由闊達な議論をしていない。能力やリソースに関して、現場と経営陣の認識に断絶がある。工期に関する情報収集をする部署、品質保証部門や品質管理部門の位置づけや関わりが、みんなでクルマを作るという発想になっていないなどの現象が生じていました」。

 2つ目の世の中の変化に取り残されていることについては、「過去の成功体験の大きさより変化することや、自らを客観視することができず、外部環境や価値観の変化に気付かなかったということであり、この真因からは上意下達の気風が強すぎて、上に物を言えない、できないことをできないと言えないという風通しのわるい組織となっています。過去の成功体験を引きずり、できないことや過去の過ちを認めることができない、また問題点を指摘すると自ら解決を担当させられて、他部署の助けが得られない。開発プロセスに対するチェック機能が不十分などの現象が発生していました」。

 3つ目の業務をマネージメントする仕組みが軽視されていたということには、「開発プロセスの移行可否の判定が曖昧でありました。パワートレイン実験部が開発業務認証業務の双方担当していた。規程やマニュアル類の整備が十分ではなかった。役員クラスと現場との間に適切な権限分配がなされていないなどの現象が発生していました」と説明した。

 榊原氏は「これらを受けて、当委員会としては日野に対し、目指すべきクルマ作りのあり方について議論を尽くすこと。品質保証部門の役割の明確化と機能強化。大きなルールの改正動向の把握と社内展開。開発におけるQMSを適切に構築し、その有効性を絶えずチェックし、必要であれば改善することなどを提言いたしました」とまとめた。

特別調査委員会による記者会見

自社の技術検証によるエンジン性能の確認結果で追加事項も判明

 日野自動車が、特別調査委員会の調査と並行して進めてきた自社の技術検証において、3月4日公表分からの追加判明事項として、以下の性能未達が判明している。

 車両用ディーゼルエンジンでは、平成28年排出ガス規制(ポスト・ポスト新長期規制/E9)の大型エンジン「E13C」について、経年変化により排出ガスの規制値を超過する可能性があるとしている。平成21年排出ガス規制(ポスト新長期規制/E8)、平成17年排出ガス規制(新長期規制/E7)の大型エンジン「E13C」「A09C」について実際の燃費性能が諸元値に未達としている。

 産業用ディーゼルエンジンでは、平成26年規制(4次規制)の大型エンジン「E13C-YS」「E13C-YM」「P11C-VN」について、経年変化により排出ガスの規制値を超過する可能性があるとしている。

代表取締役社長の小木曽聡氏が登壇する記者会見を開催

 特別調査委員会の記者会見後、日野自動車 代表取締役社長の小木曽聡氏が登壇する記者会見が開催され、小木曽氏はあらためてお詫びの言葉を述べるとともに、再発防止策に取り組むとし、今後、全社横断での品質マネジメント体制構築、組織・風土といった企業体質の改善、管理監督機能の強化をはじめとする健全なガバナンス体制確立について検討し、推進に向けた執行体制も含めて、3か月をめどに取りまとめていく考えを示した。

 会見の中で小木曽氏は、「今回発覚した不正行為を明確に禁じるような規定やマニュアルの整備、開発認証プロセスの正しさを確保するための牽制機能の強化。風土改革においては、従業員の意識改革のために、企業理念を改定いたしました。未来に継承すべき価値観として、誠実、貢献、共感を掲げ、コンプライアンスファーストの姿勢を明確化してまいります。こうした再発防止を徹底し、社内に定着させ、その心を浸透させるべく、継続的に改善および強化を図ってまいります」と述べた。

 具体的には、小木曽氏は「再び日野の商品品質を信頼いただけることを目指して、次の3つのテーマで検討を開始いたします。1つ目は、全社横断で品質マネジメントの体制を構築してまいります。2つ目に、組織風土といった企業体質の改善を行ないます。3つ目に、管理監督強化をはじめとする健全なガバナンス体制の確立を行なっていきます。これらの推進体制も含めて、3か月をめどに、再生に向けた具体的な取り組みをまとめてまいります」とした。

 小木曽氏は「不正行為の結果、あらゆるステークホルダーの皆さまに多大なご迷惑をおかけしております。規制を超過する排出ガスを出してしまっている可能性があること。トラックやバス、そして建設機械の供給がストップしてしまっていること。そして、お使いの業者さまやその先のお客さまにご迷惑をおかけしていること、当社のエンジンを採用いただいていた建機メーカーさまや、当社の生産活動にご協力をいただいている、仕入れ先さまの皆さまの事業にも大きな影響を及ぼしてしまっております。そういった日野を応援してくださっている皆さまの期待を裏切ってしまったことを、改めて心からお詫びを申し上げます。大変、申し訳ございませんでした。ステークホルダーの皆さまに多大なるご迷惑をおかけしていることを重く受け止め、正すべきことを正し、再生に向かって、全社一丸で取り組んでまいる所存でございます」との言葉を述べた。