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日産自動車大学校の学生たちによる本気の取り組み、「NISSAN MECHANIC CHALLENGE」とKONDO Racing
2022年8月17日 11:33
近藤真彦監督率いるKONDO Racing
KONDO Racingは、その名前からも分かるように近藤真彦氏が2000年に設立したレーシングチームのこと。当初は近藤氏自身が「フォーミュラ・ニッポン」(現在のスーパーフォーミュラの前身)に参戦するために設立され、自身のドライバー引退後は監督としてモータースポーツ活動を行なっている。スーパーフォーミュラでは、2018年にはチームタイトルを初めて獲得するなどの実績を残しているほか、今シーズンはサッシャ・フェネストラズ選手が第5戦で初優勝を遂げているなど、ここ数年の苦境から立ち直りつつある現状だ。
活躍の場はスーパーフォーミュラだけではない。SUPER GTでも2006年から日産自動車および横浜ゴムとのパートナーシップのもとGT500クラスへの参戦を開始。チャレンジは脈々と続けられている。2022年シーズンも24号車 リアライズコーポレーション ADVAN Z(佐々木大樹/平手晃平組、YH)として、直近の第4戦富士では予選2位、決勝3位を獲得している。
近年はGT300クラスへの参戦も行なっており、2020年には藤波清斗選手、ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ選手という強力なドライバーラインアップでチャンピオンを獲得している。2021年シーズンも最終戦までシリーズチャンピオンを争いながら2位になるなど、GT300クラスでは毎年のようにチャンピオン争いに絡んでいる強豪チームになっている。
2022年シーズンも「56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R」として参戦していて、開幕戦では見事に優勝。ポイントリーダーの座を維持している。
KONDO Racingは、スーパーフォーミュラ、SUPER GTの強豪チームに成長しており、日本のレースシーンに欠くことができない存在になっている。
チームを支える日産自動車大学校、レースごとに各校の学生たちが参加
KONDO Racingの56号車をサポートするスポンサーの1つとして、そして車両をメンテナンスするメカニックなどを派遣するテクニカルパートナーとして支援を行なっているのが「日産自動車大学校」だ。
同校はその名前からも分かるように日産自動車が設立。日産のディーラーなどで活躍する整備士の育成を目指す専門学校になっている。複数の学科が用意され、4年制の一級自動車工学科、2年制の自動車整備科、3年制の国際自動車整備科など目的に応じて進学できる。
学科によるが、「国家一級自動車整備士(小型)」の受験資格を得たりなどさまざまな資格を得ることが可能で、一級自動車工学科を卒業すると大学卒業と同等の資格を得ることができる。
卒業生の多くは日産系列のディーラーなどで整備士として活躍することになるが、もちろん日産以外のメーカーのディーラーに就職したり、部品メーカーなどに就職する卒業生もいるという。
そんな日産自動車大学校は2019年から「NISSAN MECHANIC CHALLENGE」(ニッサン・メカニック・チャレンジ)というユニークな取り組みを行なっている。ひと言でいえば、同校の生徒や卒業生となるディーラーメカニックが、レーシングチームの一員としてサーキットで活動することで新たな経験を得るという取り組みだ。
同校の学生は、KONDO Racingのチームマネジャーやガレージでの作業担当のメカニック、ホスピタリティエリアのゲスト対応などの役割が割り当てられているという。日産自動車大学校は全国に5校(栃木校、横浜校、愛知校、京都校、愛媛校)あり、サーキットによって担当する学校が代わるという。第4戦 富士に関してはサーキットから近いところにある横浜校の担当ということだった。
横浜校の代表として今回のレースに参加していたのは、同校の3年生である村松優樹さんと、2年生である松岡佑磨さんの2人の学生だ。松村さんは副チームマネジャーとして、松岡さんはタイヤの空気圧を計測する担当として、パドックおよびKONDO Racingのピットガレージで作業に参加している。
副チームマネジャーとして参加した村松さんは「ドライバーの装備を用意したり、ドリンクを渡したりという作業を行ないました。これまで外からレースチームを見ることはありましたが、中に入ってみると全然違う風景でした。例えば、決勝レース前のウォームアップ走行などではチーム全体がピリピリしている。そうした感覚を味わうことができたのが大きな収穫です」と、外から見るのと中に入って実際に参加することの大きな違いを説明してくれた。
また、メカニックとしてタイヤの空気圧計測を担当した松岡さんは「ピットではメカニックの方々が真剣勝負をしているのが印象的でした。メカニックのみなさんはチームワークがすごくて、ものすごい量の作業を短時間でこなしている。将来自分がメカニックになったときにいろいろ参考になると感じました」と語り、最初はゲージをタイヤに取り付けて空気圧を測るときも緊張して手が震えて大変だったなどと説明してくれた。
2人とも将来はディーラーなどで整備士になりたいということだったが、副マネジャーを経験した村松さんは「マネジャーを経験してみて、指示されたこと以外でも自分がやるべきことを見つけて、それを率先してこなすことができたことが大きな収穫。将来は困っている人を見つけて、それを自分から手助けできるような仕事をしたいと思いました」と、NISSAN MECHANIC CHALLENGEの活動を通して、将来のやりたいことを発見したとのことだった。
思い出作りで終わってはいけない、真剣に取り組む姿を見てほしいと近藤監督
こうしたNISSAN MECHANIC CHALLENGEの取り組みについて、チームを率いる近藤真彦監督は「NISSAN MECHANIC CHALLENGEは文字どおり手探りで始めたプロジェクトだった。当初はプロが真剣にやっている現場に学生を入れることに対して異論がなかった訳ではない。しかし、実際に始めてみると、学生たちも目つきが変わってきて、チームの成績もちゃんと出るようになり、いい方向に変化していった」と、プロジェクトを始めた当初はさまざまな不安もあったそうだが、学生たちの取り組みへの理解も進んだうえに、2020年にはチームがGT300チャンピオンを獲得するなど成果が出たこともあり、プロジェクトへの理解がさらに進んでいると説明してくれた。
近藤監督は「大事なことは遠足に来ている感覚ではなく、プロが真剣にやっている背中を見てもらって、真剣に取り組んでもらうこと。自分も若いころ、何も言ってくれない星野一義さんの背中を見て、学んでやってきた。学生の子たちも、メカニックやドライバー、チーム関係者などが真剣に取り組んでいる姿から学んでもらって、思い出作りじゃない経験にしてほしい」とプロジェクトへの思いを語ってくれた。
近藤監督自身、ドライバー時代はインパルチームの星野一義総監督をはじめとした先輩ドライバー、チームを立ち上げ監督になってからも星野総監督などの先輩監督の背中を見て、少しずつ前に進んできたという。そうした経験を、NISSAN MECHANIC CHALLENGEを通して若い子たちに伝えていきたい、それが今は伝える側に回った近藤監督の思いになる。
その思いは2人のドライバーにも共有されている。藤波清斗選手は「普通の学生さんにはここの環境は体験できないものだと思う。それを体験できることは学生さんの未来にとって大きな意味があると考えている」と述べたほか、ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ選手も「いいときもわるいときも一緒に共有できる」と語ってくれた。2人のドライバーも学生たちと同じ思いを共有できることが、チームにとっても大きな意味があると教えてくれた。
SUPER GT第4戦 富士でも6位入賞。ポイントリーダーを維持した56号車の次戦は114kgのサクセスウェイトを搭載
そうした56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rだが、SUPER GT第4戦富士のレースではポイントリーダーということもあり、99kgのサクセスウェイトを搭載しているという中での難しいレースになった。そうした中でも、予選で10位、決勝では着実なレースを行なうことで6位まで順位を上げてゴール。サクセスウェイトが99kgでこの結果は賞賛に値する。
次のレースでは114kgとサクセスウェイトがさらに重たくなるため、ポイント獲得へのハードルはさらに上がることになる。後半戦でも前半戦と同じように着実にポイントを重ねていくことができるかどうかが、チャンピオン奪還に向けての重要な要素となっていくだろう。
SUPER GTは8月27日~28日に鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で行なわれる第5戦の450kmレースから後半戦が開始される。第5戦鈴鹿で学生たちも参加する56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rがどのような活躍を見せるのか、大きな注目ポイントの1つになりそうだ。