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SUPER GTに挑む横浜ゴムに聞く、清水倫生氏と白石貴之氏が語る2022年シーズンのタイヤ開発
2022年7月29日 09:15
日本のモータースポーツを支える横浜ゴム、GT300の半数以上にタイヤを供給
横浜ゴムはモータースポーツに熱心な企業として多くのモータースポーツファンに愛されているタイヤメーカーだ。というのも、横浜ゴムのモータースポーツ活動は、SUPER GTやスーパーフォーミュラといった華やかなトップカテゴリーだけでなく、ラリーやジムカーナのように入門カテゴリー、グラスルーツと呼ばれる誰でも参加できるようなカテゴリーにまでタイヤ供給しているからだ。「横浜ゴムなくして日本のモータースポーツなし」と言ってよいほど、文字どおり日本のモータースポーツを足下から支える存在だ。
そうした横浜ゴムのSUPER GT活動は、2台体制で臨んでいるGT500と、レギュラー28台のうち半数以上となる15台のGT300、合計15チーム、17台に対してタイヤを供給している。この供給数は、SUPER GTにタイヤを供給する4メーカーの中で最大勢力となっている。特にGT300では他メーカーが供給台数を絞っている中、多くのユーザーチームに供給する横浜ゴムの姿勢は、シリーズを成立させる要素の1つと言ってもよい。
GT500では19号車 WedsSport ADVAN GR Supra(国本雄資/阪口晴南組)と24号車 リアライズコーポレーション ADVAN Z(佐々木大樹/平手晃平組)の2チームにタイヤを供給している。トヨタと日産それぞれ1台ずつという体制になり、いずれも長年のヨコハマタイヤのユーザーチームで、チームとのコミュニケーションも円滑に進んでいる。
2021年は19号車が第2戦富士と第7戦ツインリンクもてぎの2戦でポールポジションを獲得。第7戦もてぎでは2位表彰台も獲得している。2022年シーズンも第2戦富士において19号車がポール、24号車が予選2位とフロントローをヨコハマタイヤ装着車で独占したのも記憶に新しいところだ。
2022年 GT500クラスのヨコハマタイヤ装着マシン(ゼッケン順)
19号車 WedsSport ADVAN GR Supra 国本雄資/阪口晴南組
24号車 リアライズコーポレーション ADVAN Z 佐々木大樹/平手晃平組
GT300に関しては2020年に56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R(藤波清斗/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ組)がチャンピオンを獲得したが、2021年は惜しくも2位に。2022年はチャンピオンを奪還するシーズンとなる。開幕戦では56号車が見事に優勝を飾っており、順当な出だしを見せている。第3戦を終えて現在もポイントリーダーとなっている。
2022年 GT300クラスのヨコハマタイヤ装着マシン(ゼッケン順)
4号車 グッドスマイル 初音ミク AMG 谷口信輝/片岡龍也組
5号車 マッハ車検 エアバスター MC86 マッハ号 冨林勇佑/平木玲次組
6号車 Team LeMans Audi R8 LMS 片山義章/ロベルト・メルヒ・ムンタン組
9号車 PACIFIC hololive NAC Ferrari 木村武史/ケイ・コッツォリーノ組
18号車 UPGARAGE NSX GT3 小林崇志/太田格之進組
22号車 アールキューズ AMG GT3 和田久/城内政樹組
25号車 HOPPY Schatz GR Supra 松井孝允/野中誠太組
30号車 apr GR86 GT 永井宏明/織戸学組
48号車 植毛ケーズフロンティア GT-R 井田太陽/田中優暉組
50号車 Arnage MC86 加納政樹/阪口良平組
56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R 藤波清斗/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ組
87号車 Bamboo Airways ランボルギーニ GT3 松浦孝亮/坂口夏月組
88号車 Weibo Primez ランボルギーニ GT3 小暮卓史/元嶋佑弥組
244号車 HACHI-ICHI GR Supra GT 佐藤公哉/三宅淳詞組
360号車 RUNUP RIVAUX GT-R 青木孝行/田中篤組
横浜ゴムのSUPER GT活動に関して、横浜ゴム 理事 タイヤ製品開発本部 副本部長 MST開発部 部長 清水倫生氏、同 MST開発部 技術開発1グループ グループリーダー 白石貴之氏にお話しをうかがってきた。
横浜ゴムのモータースポーツ活動はファンのため、カーボンニュートラルに取り組むのは当然
──2021年シーズンのSUPER GTでのモータースポーツ活動を振り返ってほしい。
白石氏:昨シーズンは、引き続きパンデミックの影響があって、富士が2戦、ツインリンクもてぎ(現:モビリティリゾートもてぎ)でのレースが2戦というやや変則的なシーズンだった。したがって、ツインリンクもてぎの2戦に目標を絞って結果を出すことを目指していた。それに合わせてタイヤメーカーテストなどで、構造、コンパウンドの開発を進めてきた。その意味で第7戦もてぎにおいて予選でポール、決勝で2位という結果は、思いどおりの結果を残すことができたと言える。
GT300に関しては一昨年にGT-Rでチャンピオンを獲得したという流れをほかの車両にも展開するコンセプトでタイヤ作りを行なっていき、それもほぼ早い段階で展開できていたので、思いどおりの展開だったと言える。
──2022年シーズンの開幕戦(岡山)、第2戦(富士)を終えての評価を。
白石氏:GT500に関して言うと、通常岡山の開幕戦はシリーズの中でも低温が想定されているので、低温向けを重視して構造などの開発を行なってきた。決勝に関してはトラブルなどもあって評価が難しいが、予選のタイム(24号車が予選5位、19号車が予選8位と2台ともQ1突破)を見る限りは狙いとしては思ったとおりになったと考えている。
GT300に関しては、新しいスペックのタイヤをシーズンオフにはたくさんテストしていただき、いいものを見つけていただいた。そのおかげで決勝に関しては56号車が見事なレース運びで優勝してくれたが、高温下でのパフォーマンスに関してはまだ課題があると考えている。
──この間も第2戦富士や2021年のツインリンクもてぎでのレースなどで、横浜ゴム勢が予選で上位に来ることが多い、タイヤの開発でそうした一発を重視した開発を行なっているのか? また、今シーズンのタイヤ開発の方針は?
白石氏:結果から、そうしたように見えるかもしれないが、決して予選を重視した開発を行なっている訳ではないし、自分たちでもそうした認識を持っていない。あくまでレースをトータルとして予選でも、決勝でも同じように高いパフォーマンスを発揮できるタイヤの開発を目指している。
今後のタイヤ開発だが、やはり真夏の富士、そして鈴鹿の450kmレースという2つの夏場のレースは温度も、路面温度も高くなるだろうし、厳しいレースになると考えている。開発としては一昨年ぐらいから取り組んできているコンパウンドの開発や、構造の方でも発熱性を抑えるような開発をしており、その両輪でやっている。
また、来年以降は距離が長いレースが標準になってくる可能性がある。そうした長距離のレースに向けて今シーズンどこまで開発できるかが課題になる。使用本数を減らしていくということは、寿命を延ばす必要があるが、それに伴ってタイムが落ちてきてしまう可能性がある。そうした技術的なチャレンジに今シーズンの開発でも取り組んでいきたい。
──レーシングタイヤと市販タイヤのつながりについて教えてほしい。
白石氏:SUPER GT向けに設計しているタイヤは、構造面、ゴムやその配合などに関しては特化したものになっている。その意味では市販車と直接的なつながりはないが、そうしたSUPER GTのタイヤを開発する上での開発の考え方、設計手法、高いグリップを実現する技術、そしてそうした技術を評価するやり方、工場での製造手法などは市販タイヤにも適用できるものが多く、レーシングタイヤ開発部門から市販タイヤ開発部門へフィードバックしている。
例えばレーシングタイヤの開発におけるテストの方法などは最先端の技術になる。温度がこう上がっていく時の挙動としてこうなるなどはレーシングタイヤの開発で得られる知見が少なくない。市販タイヤの開発にも十分応用が可能だ。
清水氏:ADVANスポーツ(横浜ゴムのハイパフォーマンスタイヤ)のケーシングの構造はモータースポーツ由来になっているが、このようにサーキットで開発したものを市販タイヤに採用することもある。但し、レース用タイヤは専用生産ラインで製造しているので、市販タイヤの生産ラインで量産可能とするため、加工性や生産性に優れたものを選択して適用している。
──横浜ゴムのモータースポーツとカーボンニュートラルの取り組みに関して教えてほしい。
清水氏:横浜ゴムがモータースポーツに関わるのは、ADVANブランドをアピールする場でもあるし、ADVANブランドを応援していただいているファンのみなさまのためにという2つの側面がある。
よって、持続可能なモータースポーツはタイヤメーカーにとっても重要で、カーボンニュートラルの実現、そして環境に配慮した製品を作っていかなければいけないと考えている。今シーズンはスーパーフォーミュラでこのような取り組みを行なっているほか、SUPER GTにおいても徐々に再生可能原料の採用に取り組んでいきたいと考えている。もちろん、競争という側面から性能が優先されるので、今すぐ全面的にというわけにはいかないが、使わない理由はどこにもない。環境にも配慮してこそADVANブランドだというのが私たちの認識だ。
──最後に今シーズンの目標を教えてほしい
白石氏:GT500はまず一勝を目指したい。GT300に関しては昨年取り損ねたシリーズチャンピオンを獲っていきたい。特に一昨年チャンピオンを獲った56号車に関してはチームとしての総合力があり、タイヤの持つ実力をよく引き出してくれる。そうした56号車を筆頭にして素晴らしいユーザーチームとご一緒させていただいているので、より多くのチームに勝っていただき、最終的にその中で一番優れたチームにチャンピオンになってほしいと思っている。
2020年のチャンピオンで開幕戦に優勝した56号車は第3戦を終えても依然としてポイントリーダーに
そうした横浜ゴムの第3戦鈴鹿だが、GT500では19号車 WedsSport ADVAN GR Supraが第2戦に続きポールポジションを獲得して、3戦して2ポールと速さを見せつける結果となっている。その半面スタート後に順位を下げるなど、第2戦と同じような結果になっているのが気になるところだ。第3戦では19号車が5位、24号車 リアライズコーポレーション ADVAN Zが6位と着実な結果を残しており、今後の富士、鈴鹿と続く長距離でかつ暑いレースでの結果にも期待が持てそうな状況だと言える。
GT300に関しては、開幕戦を優勝してポイントリーダーになっている56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rが、サクセスウェイトが最も重くなっているのにもかかわらず第2戦で予選14位、決勝7位、第3戦では予選3位、決勝でも3位と着実に上位で戦い、第3戦を終えてもポイントリーダーの座を維持している。第4戦以降はほかのヨコハマタイヤユーザーの奮起にも期待したいところだ。