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ミズノの最新ドライビングシューズ「ベアクラッチ」、本当に足裏の情報が正しく伝わってくるのか試してみた

ミズノの最新ドライビングシューズ「ベアクラッチ」を試してみた

人とクルマと街をつなぐ靴とは

 1年あまり前、スポーツブランドのミズノは、マツダと共同開発したドライビングシューズを世に送り出して注目を集めた。価格が約4万円とけっこう高価な部類ながら瞬時に売り切れて追加生産されたことも話題となったが、今回試し履きした「ベアクラッチ」はオンラインショップで1万2100円と、ずっとリーズナブルな価格帯で登場した。

 ミズノがドライビングシューズへの本格的な参入を検討した背景にあるのは“可能性”にある。日本国内の運転免許証の所有者は約8215万人、対してスポーツシューズ市場は約5500万人と、約3000万人も規模が大きいという。この大きな市場にミズノとして「新しい価値」を提供できるのではと考えたそうだ。

今回試し履きをしたミズノのドライビングシューズ「ベアクラッチ」

 もちろんドライビングシューズ市場には、すでにいくつかの競合他社が参入している。ただし、「共通する大きな課題が2つある」とミズノの開発担当の横山氏はいう。

 1つは既存の商品は足裏の感度を優先するために薄底タイプが多く、履くと硬かったり痛かったりすること。もう1つは操作性を高めるためにかなりタイトなフィッティングにした商品が多く、長時間履いていると足が疲れてしまうこと。要するに運転には適しているが、日常履きにはミスマッチな商品が多いという。

ミズノ株式会社 ワークビジネス事業部 企画マーケティング課 横山大氏

 そこでミズノでは、「ドライブ&ライフ」をコンセプトに、従来のドライビングシューズの常識を打破し、日常での快適な歩行とダイレクトなペダルフィールの両立を実現するという新しい価値を追求。「人とクルマと街をつなぐ1足」となることを念頭に置いた独自の方向性を打ち出した。

 ちなみに、「ベアクラッチ」という商品名は、エンジンとトランスミッションをつなぐクラッチのように、人とクルマと街をつなぐ存在になってほしいという想いが込められている。

現時点でのラインアップは、カラーが左から「ネイビー」「ホワイト」「ブラック」。サイズは24.5~28.0cmまで0.5cm刻みで設定

肉厚ソールでも足裏に情報をしっかり伝達できる独自特許技術を応用

 ミズノがドライビングシューズという新しい領域に参入するにあたり大切にしたポイントは、「運転のことを第一に考えて設計すること」「ペダリング動作において足裏の感覚を重視すること」「かかとが巻き上がっていてペダルを踏み換える際のアシスト性能を有していること」、この3つを製品開発のコアに掲げたという。

 そのポイントを具現化するためにミズノは、ミッドソールの上面にスポーツシューズで培ったノウハウを生かした「MIZUNO COB(ミズノ コブ)」という足裏の情報伝達機能を持たせた。これがベアクラッチの最大の特徴だ。

ミッドソールの上面にあるMIZUNO COB。COBは「CENTER OF BALANCE」の頭文字

 このMIZUNO COB、きっとさまざまなプロスポーツの専用シューズに採用されている特殊な技術かと思ったら、トレーニングシューズ用だという。トレーニングは試合とは異なり、体幹や各部の動きなどをチェックしながらやるもの。そこでできる限り裸足に近い感覚を追い求めた結果生まれたのがこのMIZUNO COBだという。

 すでにレーシングドライバーからも、他社の一般的なドライビングシューズと比べて肉厚のあるソールにも関わらず、ペダルから伝わってくる情報を感じやすいと評価実績を持っている。

ペダルや地面と接するソール面にあるひし形の凸凹は、実はMIZUNO COBの凸凹と位置を合わせてあり、それにより足裏の情報が正しく伝わるという
MIZUNO COBの上に直接足が乗る訳ではなく、足の裏で凸凹を感じられる程度の薄いインナーが装着される

 また、スリムなアッパー形状は、足を使うスポーツ「サッカー」用で実在するスパイク「モレリアII」のラスト(=木型)を使用したという。さらに、ラウンドソールによってスムーズにペダルを踏み換えられるようになっているほか、上質で柔らかい人工皮革「ソフリナ」をアッパー素材に用いることで足当たりのよいフィッティングを追求している。

かかと部分のゴムを巻き上げることでペダル操作性を高めている

実際にベアクラッチを履いてドライブしてみた

 実は筆者、足のサイズが24.5cmと、身長172cmの割には小さいほう。紳士靴は25cmからでないと設定がないメーカーも少なくないのだが、ミズノはもともと24.5cmから設定しているそうだ。早速ベアクラッチの24.5cmを履いてみると、やはりピッタリ。駐車場まで歩いてみたところ、まずクッション感があって歩きやすいように感じられたのが第一印象だ。

 用意された車両は、ミニバンやSUVなど多様だったが、最初にクラッチ操作が必要となる3ペダル(6速MT車)のマツダ「ロードスター」をドライブしてみた。ロードスターは足の周辺のスペースに余裕がなく、ともするとペダルワークにも影響するほどだが、的確に力を伝えることができてブレーキ操作もクラッチ操作もとてもやりやすかった。

ベアクラッチを履いてマツダのロードスターを運転してみた
靴自体がスリムなので、スムーズにヒール&トゥができる

 これぞまさしくCOBの力なのだろう。クラッチミートも足裏で直接クラッチ板をコントロールしているかのような感覚。これだけソールに厚みがあるのだから、足裏とペダルの間には厚さなりの「何かが挟まっているような感覚」があるだろうと思ったのに、ぜんぜんそれがない。

 ブレーキも繊細なコントロールがしやすいので、意のままに止まれる。停車時にスッと踏力を抜いて“カックン”となるのを抑える操作も、よりやりやすい。だから同乗者にとってもより快適にドライブを楽しめることになる。ドライバーも結果的に同乗者への気遣いの度合いが小さくてすむようになるので負荷が小さくなる。

 ペダルの踏み換えもやりやすい。ヒールは見た目よりももっと丸いような感覚があって、なんのひっかかり感やストレスもなく、スッとアクセルとブレーキのペダルを踏み換えることができて、動かしたあとの収まりもよく、不安定に感じることもない。

 ロードスターからトヨタ「アルファード」に乗り換えてもその印象は変わらず。ドライビングポジションがアップライトになっても足首を動かしやすく、爪先側をメインでペダルを踏むようになるが、操作感はダイレクトなままだ。

試乗する機会の多いSUV。かかとを軸にした踏みかえもスムーズ
ミニバンはペダルを踏み降ろす動きになるが、それでも操作のしやすさは変わらない
セダンの運転席にも座ってみた。SUVやミニバンより足下の空間は狭いが操作に違和感はなし

 この感覚は、本格的なレーシングシューズなら当たり前のことだが、ベアクラッチの場合は、これほど運転がしやすいにもかかわらず、極めて歩きやすいことに感心せずにいられない。コンセプトどおり「ドライブ&ライフ」を巧みに実現していると思った。

 実は筆者は普段から仕事柄、運転用にと選んだドライビングシューズっぽい靴を履いている。あくまで「っぽい」製品でドライビングシューズではない。その理由は、運転主体とはいえ、やはり普段から履いて歩くことも考えると、あまりソールの薄いものは足が痛くなるので敬遠したくなるからだ。

ソールに厚みがあるので街を歩いても疲れにくい

 ある程度はソールの厚さがあったほうが好みで、その中でできるだけ運転しやすそうなものを選んでいた。その点、ベアクラッチなら本当に、街歩きにも運転にも上手く対応してくれそうだ。ゆくゆくはデザインやカラーのバリエーションが充実してくれるとなおよいかなと思った。

モダンなデザインなので、普段履きとしても使えるのがうれしい
ミズノの公式オンラインショップでは、注文したサイズが足に合わなかった場合のために「シューズ無料返送サービス」を実施している