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SUPER GT、「グリーンプロジェクト2030」でCO2排出量半減 2023年にカーボンニュートラル燃料を導入し、ハイブリッド化も 「できることからやる」と坂東代表

GTA代表 坂東正明氏

2030年までにCO2排出量半減を目指す

 11月6日、SUPER GT最終戦を開催中のモビリティリゾートもてぎにおいて、SUPER GTを運営するGTA(GTアソシエイション)代表取締役 坂東正明氏の定例会見が実施された。

 坂東代表は、2030年までにCO2排出量半減を目指す「SUPER GT Green Project 2030(SUPER GTグリーンプロジェクト2030)」を発表。2023年からカーボンニュートラル燃料を導入することやタイヤセットの削減を行なうことなどを詳説。2027年へ向けてHEV(ハイブリッド車)など電動化技術の導入を検討することも明らかにした。

2023年からカーボンニュートラルフューエル(燃料)を全面採用、2027年にはハイブリッド化も

──今後SUPER GTが取り組んでいく環境対応ロードマップの概要について説明を。

坂東代表:一連の取り組みは「SUPER GTグリーンプロジェクト2030」として、2030年までにシリーズの中でCO2排出量の半減を目指すもの。SUPER GTに参戦している自動車メーカー、タイヤメーカー、エントラント、並びにJAF、オーガナイザーと歩調を合わせ、業界一丸となって進める取り組みで、サーキットに足を運んでいただけるファンのみなさんにもご賛同いただき、一緒にやっていきたい。JAFのカーボンニュートラル分科会と連携もしていきたいと思っている。

(目的は)モータースポーツに関するCO2排出量の策定方法を確立したいというのが1つ。温室効果ガスの削減に向けてはさまざまな方策があるが、われわれの業界では電機自動車、水素、合成燃料があり、われわれ(SUPER GT)としては化石燃料を一切使用しない、内燃機関を環境対応にする、ということを考えている。

 まずはできることからやる、ということで、化石燃料を一切使用しない合成燃料を2023年より導入する。明日11月7日にテストを行ない、シーズンオフのテストも合成燃料で走らせて分析しながらやっていく。2023年の岡山国際サーキットの公式テストからは全車、合成燃料で行なう。

 バイオマス由来の燃料で、最終的には再生可能な水素で作るe-fuelの採用に結びつけ、国産化を目指したい、というのが目標。その技術をモータースポーツの現場できちっと作り上げていきたいと考えている。

 それと同時にタイヤに対しては、グリップ力を考慮することも当然だが、長く走れるタイヤ作りをしてほしいとお願いしている。来季から300kmのレースでは従来6セットのところを5セットに削減する。ドライもウェットも1セットずつ減らす。450kmのレースにおいては7セットを6セットにする。

 これによりタイヤの生産、ロジスティクス、現場に来て組み上げる人間の手、それを持ち帰って廃タイヤにする作業など、全部が削減方向になる。われわれとしてどの方向を向いて何をやるかが重要。2030年に50%削減をうたうのであれば、まずはできることをきちっとわれわれの世界の中からやっていく。

 マニュファクチャラーの方には燃費のいいクルマをお願いしている。エンジンは今までと同じ2基のままとなるが、距離が長くなって給油時間が短ければプラス(有利)になる。チームは(ピット戦略において)いろいろな想定ができる。

 今(カーボンニュートラルフューエルを)入れているのはWRCのみ。世界では今後F1が2026年から、MotoGPは2027年から導入すると聞いている。2023年から100%使うわれわれがおそらく一番早い。このトライから国のインフラ化にまで結びつけられるよう努力をしていきたい。

 また、サーキット内のゴミ、プラスチックなどの再生利用促進に向けてはサーキット各社が取り組んでいるが、ゴミの分別をしたらその先の何に結びつくのか、ということもしっかり議論する。2019年は40万人がサーキットに来場しているが、お客さん1人1人が1kgのゴミを減らせば40万kgのゴミがなくなる。周辺の自治体に影響してくるところもあると思うが、お客さんのスタンド側もパドック側も一緒になって取り組みたい。

 あとは以前から各地で行なっている森林保全活動も続ける。地域と一緒にできるモータースポーツイベントみたいな形でやりながら、環境対応への理解を深めていきたいと思っている。

 これによって2030年も音の出せるレースをすることを目標にしている。だからみなさんにもご理解いただきたい。ただ、環境ばかり見るのではなく、お客さんが見て楽しい、サーキットへ足を運んでもらえる環境作りもやらないといけない。

 予算はみんなで負担している。TNH(トヨタ、日産、ホンダ)も、オーガナイザーも、タイヤメーカー全社も、チームも、当然GTAも負担している。みんなが一体となった輪を大きくしていき、(将来的に)日本の自動車、モータースポーツにおいてどんな方向性があるのか、(いくつかの選択肢から)選んでいただけるようになれば。

──2027〜2030年の新型車両でハイブリッド化するとしているが、技術的な部分は競争領域とするのか、協調領域とするのか。

坂東代表:HEVを使用するのであれば、現行は(ユニットは)ワンメイクになると思う。競争はしない。1つの物を入れたうえで、それがプラスアルファになるようなことを考える。バッテリについては、日本には資源(がない)問題があるのと、バッテリの後処理も考え出すと、そこにかなりの予算が取られるので、(競争領域とするのは)難しいかなと思う。

 2026年、2027年にハイブリッドの要素を入れるので、遅くとも2025年末までには方向性、方針を決定したいとマニュファクチャラーと話をしている。今日(11月6日)午前中にTNHにも集まってもらい、SUPER GTから合成燃料を、国産をうたってやっていきましょう、と発信していくことについてアグリーをいただいた。みなさん(メディア)の方でも国産に向けてSUPER GTが本気だ、ということを伝えていただければ。

──2030年に向けて各社新しい取り組みをやっていくことになる。タイヤの削減などもあるが、メーカー、チーム、オーガナイザーも含め、総合的なコストは上がる方向か、下がる方向か。

坂東代表:消耗部品については、一番大きいのはブレーキのローターとパッド。これについては、距離が長くなっても1周のラップタイムが落ちるのであれば、ブレーキに対する負担は同じくらいになると思っている。1年間で使うブレーキのコストを削減するべく、ブレーキパッドをより長持ちするものに変えていくためのテストはシーズンオフに実施する。

 将来像を見つめ、環境に留意して新しいレギュレーションを入れれば、そこには開発費用がかかる。その場合は2030年ではなく2040年まで見据えて、開発費用を期間でならしたときに、現行より1年にかかるコストが下がるような方向で物を考えていく必要があると思う。

 ただ下げるのにも限度がある。コストが下がってもレースが面白くならなければ仕方がない。そこは規則の中で(高い)クオリティでレースをやっていきたい。

2024年からのFIA F4新型車両、価格は最大限に努力する

──FIA F4第2世代の車両に関して説明をいただきたい。

 昨日(11月5日)、2024年より採用するFIA F4第2世代車両を無事みなさんにお披露目でき、やっと走ることができた。シャシーは東レ・カーボンマジック、エンジンサプライヤーはトムス、タイヤサプライヤーは住友ゴム工業(ダンロップ)、エンジンオイルはペトロナス、ホイールはTWS(TAN-EI-SYA)となる。Haloなどの安全装備もある。FIAからは安全装備についてかなり高い要求があり、それに合致させるのは大変な努力が必要だったと思う。その結果、(車体が)少し大きくなっている。

 2023年2月頃から受注を受け付ける予定。バジェットキャップや為替はFIAが定めていて、その中でやらないといけないが、そうした安全性を満たしたうえで、円安もあり、おそらく現行よりは(値段が)高くなると思う。

 このカテゴリーは8年やってきているが、成果も出ている。F4から出てきたチームもあるし、ドライバーもGT300やGT500、スーパーフォーミュラに行っていて、そこからF1にも行っている。モータースポーツの格としてのピラミッド作り(のベース)はここのカテゴリーなんだと、より多くの人たちに認識してほしいし、レーシングカートから上がってきた人がF4から先にステップアップできるよう継続してやっていきたい。

 価格は最大限に努力する。チームの負担は高くなっているし、全国に移動するのもかなりのコストになっているので、それもやらないと(対策しないと)と思う。若い人たちは走らないといけない。走る場を与えるために使っている(カテゴリーな)ので、コストなどできる限りのところはフォローして、サーキットにおいても走れる時間(の幅を広げる)、料金を下げるなど、いろいろな部分で協力してほしい。ダンロップさんにも長く走れるタイヤ作りを今までどおりお願いしている。

パドック、ピットウォーク、元通りにするなら「付加価値」を考えるべき

──フルコースイエロー(FCY)に対する練度、まだ改善の余地があるのではないかという声が出ている。今後のクオリティアップについてはどのように考えているか。

坂東代表:第7戦SUGOで17号車がFCY中に抜いたとか抜いていないとかいう話があったが、確認が誰も取れない状態だった。なぜそういうことが起きたかというと、GT300同士やGT500同士であれば(追い越しをシステム上検知して警告表示)できるが、GT300とGT500の異なるクラス間ではそれが反応しなかったのが理由。それについては今回のもてぎから反応するように(2クラスを想定したシステムに)修正した。

 FCYの目的は、車速を落として安全な状態にし、早く片付けてレースに戻すためのもの。(コクピットのディスプレイにその旨表示され、速度制御される機械的なシステムについては)あくまでもポストにいるオフィシャルの旗振りの補助という位置付け。旗が優先で、機械的なところはサブとなる。信号があまりにも乱雑になっていたり、オフィシャルの旗が全く見えなかったりすれば問題だが、(仕組みの)方向性としてはいい方向に進んでいると思う。

 オフィシャルがもつ無線機に対する指令は、(電波が届かないなどで)まだ精度高くできていないサーキットもあるので、そういった設備の問題は解決していく必要がある。1つ1つ学んで次に進めましょうというのがFCYの現状なので、われわれとしては(機械的なシステムを)100%完璧に、というのはすぐには難しいが、ポストのオフィシャルをしっかり見て、FCY(の信号によるコクピット表示など)がその補助だと理解してほしい。そのうえで、ハードウェア面の精度はもっと上げていかなければならないと思う。

──今回の最終戦、モビリティリゾートもてぎでは、パドックにも一般のお客さんが最大人数を制限しながらも入れている。コロナ対策、2023年はどのような方針で考えているか。

坂東代表:パドックとの行き来や演者との線引き・導線は、2023年も何かしていくべきと考えている。ピットウォークとグリッドウォーク、パドックについては、国の方針がなくても自主的にわれわれの中で1つのラインを引かないといけないと思っている。ただし、元に戻すのなら、元に戻したうえで価値のあることをしたい。今後サーキットと話をしながら、パドック、ピットウォーク、グリッドウォークに関する付加価値という考え方も取り入れたいと思っている。

──最終戦となりました。シーズン最後の会見の締めの言葉を。

 3年目になるWithコロナ。来年もまだ続くと思う。でも、その中でもより多くのお客さんがここへ来て、楽しかったと言われるものを作っていかなければいけない。それをプロモーターとしてやっていくが、日本の自動車産業界の人たちがここに全員揃っているということも大事にして、その大きさの中でうぬぼれることなく、一緒にレースをお客さんと楽しめれば。

 また、そこには経済効果があり、きちんと産業として回るようなものの一部にならないといけないとわれわれは思っている。今後2030年に向け、環境を守りながら、日本の産業界と一緒に継続してレースをやっていくことは大きなことだと思う。誰もリタイアすることなく、もっと産業として大きくなり、経済効果が生まれることを維持した状態で、2030年までは絶対にやるぞと思っている。みんなで努力して盛り上げて、伝えることによって、そこでまた新しいものが生まれてくるのではないか。