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新型シビックTYPE Rにホンダアクセスの「実効空力デバイス」を取り入れたテールゲートスポイラーを装着したら、驚異のハンドリングマシンに仕上がった

群馬サイクルスポーツセンターでホンダアクセスの新型シビックTYPE R用「テールゲートスポイラー」の効果を体感してみた

純正テールゲートスポイラーと交換して効果を体感

 ホンダの純正アクセサリーを展開するホンダアクセスから、シビックTYPE R用のテールゲートスポイラーが発売された。純正テールゲートスポイラーの取り付けステーをそのまま使い、羽根の部分だけを交換するアイテムにも関わらず価格は27万5000円! カーボン製だから当然といえば当然の価格帯かもしれないが、実はこの価格になるそれなりの理由がちゃんとあった。

 ホンダアクセスといえば「Modulo」というブランドもまた馴染みがあるところだろう。そもそもはホイールのブランドだったModuloだが、S2000やFD2型のシビックTYPE Rあたりからエアロに対するこだわりが世にジワジワと浸透。日常の速度域でも体感できる空力効果を生み出していた。

ホンダアクセスの純正アクセサリーを装着した新型シビックTYPE R。エクステリアではテールゲートスポイラーのほかに、ドアミラーカバー(1万5400円)やドアバイザー(1万6500円)、プロテクションフィルムセット(7150円)、ライセンスフレーム(3850円~4950円)などが設定されている
リアルカーボン×レッドポリエステル綾織のテールゲートスポイラーは27万5000円

 ホンダアクセスではこのエアロダイナミクスのことを「実効空力」と名付けて展開を始め、その後のどのモデルに対しても同様のアプローチを繰り返していた。前後リフトバランスを最適化させたそのテイストは、路面に吸い付きながらも、ドライバー次第で動かしやすいバランスを展開していたことが特徴的。ただ単にダウンフォースを強烈に与えてベッタリさせる訳ではないところがポイントだ。

ホンダアクセスのテールゲートスポイラー。取り付けは純正ステーをそのまま使用する
盗難防止用のロックボルトもオプションで用意している(5390円)
ウイング下面には独特な形状をした突起物が配されている……
純正比マイナス1kgとのことだが、持ってみるとわずか1Kgとは思えないほど軽く感じた

 それと同時に足まわりに対しても純正とはひと味違うものを提供していた。近年ではステップワゴンやフリード、そしてS660に対してコンプリートモデル「Modulo X」を世に打ち出している。いずれもが走りの質にもブランドがあると感じさせるものばかり。「4輪で舵を切る」と謳われたその仕上がりは、クルマとドライバーが対話しやすく、いつでもどんな路面を走ってもフラット感にあふれ、同時にステアリングフィールを片時も変化させないテイストを生み出していた。だが、今回はテールゲートスポイラーのみの交換で走りを変化させようというのだから興味深い。

右はシビック用のテールゲートスポイラー。左のTYPE Rは高さもありレーシングカーのような迫力
シビック用のテールゲートスポイラー(奥)、TYPE R用テールゲートスポイラー(手前)

航空機に採用されているシェブロン形状を初採用

 このテールゲートスポイラーの開発コンセプトは「いかなる道でもFUNなGT性能」。前後のリフト量を均等に近づけ、すべてのタイヤに均等荷重を与え、外乱に強く、ヨーの発生を最小限に抑えたという。中央のメインエレメント部は実際に航空機などに使われている「NACA4412」をベースとした断面形状を採用。芯のある直進性を生み出すために後端はガーニーフラップ形状も取り入れている。

デザインの狙い
初期デザイン案
こだわりの翼端板

 これによりさらにリアへのダンフォースを与えようとしているが、ウイングすべてにそれを展開しないのは、そのバランスを調整し旋回性を損なわないためだ。ウイングの両サイドはダンフォースを減らすように斜めに落とされているところがポイントとなる。

 また、サイドプレートは純正とは前後が並行に近くなるようなデザインとし、Aピラーからの風の流れを受け止める形状としている。Aピラーからボディサイドに沿って後方に流れてきた大きな風の渦をこのサイドプレートがコントロールし、直進安定性を高めてくれるという。Aピラーとサイドプレートの重なり方がポイントのようだ。

中央部と両端の形状を変えることで、直進とコーナリングでの効果を変えている
シェブロン形状を採用しているウイング下面。大きさ、数、位置のすべてが最適値となっている
使用するカーボンにもこだわっていて、リアルカーボン×レッドポリエステルの綾織として見た目にもインパクトがある
純正ウイングはつやのあるブラック単色
純正ウイングは後端を跳ね上げず、前方からの空気を下へと落とし込む形状になっている

 こだわりはそれだけでは終わらない。ウイング裏面には航空機の騒音低減目的でも使われるシェブロン(ノコギリ歯)形状が与えられている。シェブロン形状を与えていないウイングでは、直進から旋回に移った際に、旋回には追従できない空力特性があり、左右輪のダウンフォースのズレを感じさせていたという。シェブロン形状を与えることで旋回に対してスムーズにダウンフォースが移行できるようになったそうだ。これぞ、今回のウイングの“キーデバイス”と言っていいだろう。

ホンダアクセスの開発は、「実走行」と「形状修正」の繰り返しが基本スタンス。実際に開発中に使用していたウイングは、つぎはぎだらけで開発時の苦労が垣間見れる

抵抗感なくリニアに切れ込むステアフィールが好感触

まずは純正テールゲートスポイラーで試走

 今回はそのウイングを、路面が荒れていることで有名な群馬サイクルスポーツセンターで試す。まずはノーマルの状態をチェック。荒れた路面ではテールの跳ねが気になり、シビックTYPE Rの性能をフルに引き出す「+Rモード」を使うことは断念。ノーマルモードかコンフォートモードで走るのがやっとだった。旋回に移る際、言われてみればステアリングに抵抗感があるあたりがスムーズではないのかもしれない。だが、シビックTYPE Rは、そもそもサーキットのフラットな路面におけるタイムアタッカーなのだから仕方なしか?

クルマが安定することで目線がブレないことも大きな効果だ

 ホンダアクセスのウイングを付け替えて走り出すと、まず驚いたのがリアの跳ねが気にならなくなったことだ。抑えすぎていないことでストロークが稼げているということなのだろうか? 走り始めてコンフォートモードだったのかと錯覚したほどの乗り味があったのだ。けれども、テールの安定感が損なわれている訳じゃない。直進安定性は高く、リアをきっかけに進路が乱されるようなことがないところも好感触。

 また、突き上げがないために目線はブレず、落ち着いて視線を配れるところもうれしい。このあたりがGT性能のアップということなのだろう。さらに操いやすいと感じたのは、やはり旋回に移った際に感じたステアフィールだった。ステアリングが引き込まれるかのように抵抗感なくリニアに切れ込み、スルスルと旋回して見せてくれたのだ。どんな路面でも、どんなRのターンであったとしても先読みしやすく、ハイペースに駆け抜けることを可能にしてくれる感覚があった。一体感あふれるその走りには、価格以上の変化を感じることができた。

 これならウイングだけにお金を払う価値がある。純正状態で走り込んだ後にこのウイングを装着すれば、間違いなく何を言っているのかを感じることができるはず。長年「実効空力」にこだわってきたホンダアクセスが生み出した新商品。シビックTYPE Rのオプション選びには、このウイングを加えておくことをぜひおすすめしたい。走りの違いを感じられる2本のウイングを使い分ければ、走る楽しみはよりいっそう広がることだろう。

この日の試走では、ホンダアクセスがシビックTYPE R用テールゲートスポイラーに初めて採用した、シェブロン(ノコギリ歯)形状の「実効空力デバイス」の効果を体感するために、ホンダの軽自動車「N-BOX」を使った簡単な比較試乗も行なわれた
実効空力デバイスを装着する場所は、あらかじめ開発チームが設定したルーフの後部。磁石で簡単に脱着できるようになっていて、まずは非装着でテストコースを走り、その後、自分でルーフに実効空力デバイスを装着して、その効果のほど試してみた
結果、車幅が狭く重心の高いような車種でも、直進やステアリングを切り返すようなスラローム走行でも走行安定性が向上していた。もちろん、効果があるからといって、むやみやたらと付ければいいものではなく、そのクルマに合わせた数と取り付け場所があるのとのことなので、ホンダアクセスの今後の他車種への展開を期待したい