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ヤマハの「パフォーマンスダンパー」を体感してみた クルマとバイクがより上質な乗り心地に変化
2022年11月21日 00:00
2001年にトヨタ自動車の「クラウン アスリートVX」に採用されたことをきっかけに、標準搭載品として、あるいは車種別アフターパーツとして着実に裾野が広がっているのが、ヤマハ発動機の「パフォーマンスダンパー」だ。走行時、車両のフレームに発生する微小な振動を抑制することで乗り心地を高める、という仕組みのパーツだが、本当にその効果は実感できるのだろうか。同一車種の装着車と非装着車を比較試乗できる機会が得られたので、レポートをお届けする。
そもそもパフォーマンスダンパーとは?
「パフォーマンスダンパー」とはどういうパーツなのか、改めて解説しておきたい。
ご存じのように、自動車の多くは車体フレームに金属素材が使われている。走行中、路面に凹凸などがあると、車体の金属フレームはその衝撃で瞬間的に変形するが、変形後すぐに元に戻るのではなく、いわばバネのような微細な振動がしばらく継続してしまう。また、車体が変形するとタイヤの接地バランスに影響することも考えられ、それによって乗り心地が低下する可能性もあるわけだ。
そこで、フレームの変形を抑え、振動を素早く収束させることで走りの改善を狙ったのがヤマハのパフォーマンスダンパーだ。オイルと高圧窒素ガスが封入されたダンパーの働きにより、車体フレームに発生する1mm以下の微細な振動を吸収・低減する仕組みで、同社によると「コーナリングのスムーズ化」「ノイズ低減」「揺れ抑制」など、操縦安定性や静粛性につながる特性の変化が見込めるとしている。一部の車種・グレードで標準搭載しているほか、アフターパーツメーカーを通じて一般販売も行なっており、四輪車は100車種近く、二輪車はおよそ39車種が装着可能となっている(2022年10月末時点)。
取り付け箇所は、例えば四輪車だと車体前後のバンパー裏側付近が多い。既存のボルト穴などを利用して取り付けることになるが、その車種で最も効果を発揮できる箇所を見極めたうえで最適な減衰力にチューニングしているため、車種別専用設計と言っていい。ある車両向けに設計されたものを別車種に流用するのは、たとえ取り付けることができたとしても正しい効果が発揮されないので注意が必要だ。
ちなみに、パフォーマンスダンパーに似たアイテムとしてストラットタワーバーが思い浮かぶかもしれないが、ストラットタワーバーは車体の剛性を高めるものであり、振動を低減するためのものではない。パフォーマンスダンパーとストラットタワーバーは、果たす役割がそれぞれ異なるということだ。ただし、車種によってはストラットタワーバーを固定する箇所にパフォーマンスダンパーを取り付けるケースもあり、その場合は共存できない。購入前にアフターパーツメーカーにあらかじめ確認しておくといいだろう。
なお、四輪車用のパフォーマンスダンパーの価格はおおむね10万円前後、二輪車用は3~4万円ほど。その値段なりの価値はあるのか、試乗車で効果を確認してみた。
ミニバンやセダンに加わる明らかな上質感
試乗した四輪車は日産のミニバン「セレナ」と、トヨタのセダン「クラウン」で、それぞれのパフォーマンスダンパー装着車と非装着車を交互に乗り比べた。最初に試したセレナでは、粗い舗装路面で気になりがちなタイヤノイズが、パフォーマンスダンパー装着車だと明らかに一段抑えられていることが分かる。ノーマル車ではこもるような音が響きやすい広い車内だが、パフォーマンスダンパー装着車はそれがシルキーなサウンドとして伝わってくるかのようだ。
路面の小さなギャップを乗り越えたときの「ドン」といった軽い突き上げがあるシチュエーションでも、その音やシートを通じて体に伝わってくる振動はマイルドになっている。人為的に作られた波状路のような大きなギャップだと、パフォーマンスダンパーの振動低減の効果をより一層感じやすい。ノーマル車は乗り越えた後に「お釣り」のように振動がまとわり付いてくるように感じるが、装着車はそれをスッと収束させ、しっとりとした落ち着きをかもし出す。
さらに、上下に大きくうねっている路面で一瞬「フワリ」と浮かび上がり、その後路面に体が押しつけられるように感じる区間でも、パフォーマンスダンパー装着車は余計な上下動が少なく、起伏をきれいにトレースしているかのような追従性を示す。まるでサスペンションの減衰力が強まりコシが加わったかのようで、車体との一体感が増したと感じられるほどだ。
走行中、ハンドルから伝わってくる細かな振動も低減しているか、もしくは角が取れたようなフィーリング。ノーマル車ではこうした振動をほとんど常に感じ続けていることを考えれば、高速道路などを長時間運転するときの疲労感が大きくなるのもうなずける。今回の試乗では高速で長時間走行するようなシチュエーションは試せなかったが、パフォーマンスダンパー装着車にはロングドライブ時の疲労軽減の効果も大いに期待できそうだ。
続いて乗車したクラウンは、車体の元々の剛性や品質が高いこともあり、違いを感じにくいのではないかと思いきや、さらにもうワンステップ上質な乗り心地に進化するという驚きがあった。セレナと同じように、ギャップを乗り越えたときの挙動の収まり具合、ノイズ低減の効果も実感できるが、面白かったのはステアリング操作に対するレスポンスがクイックになったように感じられたこと。それによって車体が少しだけコンパクトになったのでは、とすら思えるほどだった。
また、上り坂の続く区間でローギアになり、エンジン音が大きくうなりを上げる場面では、ノーマル車だと「頑張ってる感」がどうしても耳につく。しかし、パフォーマンスダンパー装着車はそれよりも軽快にエンジンが回っている印象で、ドライバーとしても心理的な負担が少ない。エンジンの振動からくる不快なノイズ成分がきれいに取り除かれたからなのだろうか。
二輪は剛性感がアップしたかのよう
そして今回、二輪の試乗車としてヤマハの250ccネイキッド「MT-25」も用意されていた。取り付けスペースに余裕の少ない二輪車にも対応できるよう、パフォーマンスダンパーは大幅に小型化されたバージョンとなっている。車種によって固定位置や固定方法は異なるが、MT-25については車体の左側、フレームとエンジンをつなぐような形で取り付けられていた。したがって、エンジンの振動に加え、タイヤなどからフレームを経由してハンドルやシートに伝わってくる振動も低減されることが考えられる。
実際に比較試乗してみたところ、その効果は確かだ。MT-25の2気筒エンジンの鼓動感はわずかではあるがマイルドに、路面から拾う細かな振動もなだらかな変化になっている。なかでも注目すべきは剛性感の向上だ。鉄フレームのMT-25であるにもかかわらず、まるでワンクラス上のアルミフレーム車体になったかのようなソリッド感。軽く左右に車体を振って蛇行してみたときの、路面追従性と軽快感にその差が現われる。
ただ、言い換えるとそれは、鉄フレームらしさを(あくまでも感覚的に)少し失ってしまうという意味でもある。「しなる」ことで走りに味わいが出るとされる鉄フレームのバイクだが、パフォーマンスダンパーによって剛性感が増すことで、そういった鉄フレームらしい挙動を感じにくくなってしまうシーンもあるように思えた。四輪と同じように上質さを加えつつ、よりスポーティな走りにつながる剛性感はプラスされるが、それがいいと思えるかどうかは個人の「好み」で別れるところかもしれない。
家族ドライブも快適にする自己満足に終わらない有意義なカスタム
パフォーマンスダンパーによる車体挙動の変化、乗り心地の向上は間違いなく体感できる。場合によっては、タイヤやサスペンションを交換したのではないかと勘違いしてしまいそうになるほどの効果は、四輪車用が10万円前後、二輪車用が3~4万円という値段相応か、それ以上の価値があるのではないだろうか。
車種によってはストラットタワーバーを一緒に取り付けられない場合があることと、重量増になること(四輪用は1本1kg程度)を除けば、少なくとも装着することによるデメリットやリスクは見当たらない。構造上メンテナンスフリーで、定期的な修理・交換も基本的に不要。スポーツ車だけでなくファミリーカーにも適した装備のため、運転の楽しさを広げつつ、同乗する家族の快適性までアップすることも考えれば、パフォーマンスダンパーは単なる自己満足に終わらない有意義なカスタムと言えるはずだ。