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藤島知子の“女性同士のガチバトル”競争女子「KYOJO CUP」レポート

第15回:2022年第2戦から3週間のインターバルで臨むレース。積み重ねてきた成長を実感する第3戦

 2022年11月13日、富士スピードウェイの富士チャンピオンレースシリーズ第6戦にて、「KYOJO CUP 第3戦」が開催された。開幕戦から第2戦は5か月もの間隔が開いたが、今回は前戦からわずか3週間後の開催でインターバルが短い。第2戦で得た感覚が体に残っているうちに次のレースに臨めることは、前回のよかった点を伸ばし、弱点を克服する上で効果的ではないかと思いながらレースウィークに入った。

 私たちのチームは木曜日からスポーツ走行を開始。前回のレースで感じたドライビングにまつわる気づきを確かめるべく、セッティングは変えずにやりたかった運転操作を試してみる。

 6年目のシーズンを迎えているKYOJO CUP。女性ドライバーたちは毎年メンバーが少しずつ入れ替わりながらも、レースをこなすごとに着実にスキルアップし、全体のレベルが上がってきている。マシンに乗れる時間が限られている中でレベルアップを図るとなれば、乗れない時間をどう過ごしていくのかが大事。マシンの挙動を繊細に感じとり、着実に操作していける体づくり、オンボード映像のチェック、シミュレーター、メンタルトレーニングなど、日常の仕事の合間にやるべきことはたくさんある。偶然にいい結果を得ることなんて難しい今、チャレンジしなければチャンスが訪れることはない。厳しい環境ではあるももの、自分と向き合い、チャレンジできるものが目の前にあることに感謝しつつ、ダメなところは反省。一方で、よかったこともちゃんと振り返って認めてあげる。まだまだ目指すべき場所は遠いものの、私自身もKYOJOの取り組みを通じて少しずつ変化してきているのだなと実感している。

 金曜日の夕方には参戦するドライバーが集められて、KYOJOミーティングを実施。この場では毎回、プロジェクトを立ち上げたレジェンドドライバーの関谷正徳氏の解説で放映された動画を観ながら、前回のレースを振り返る。決勝レースで数台がコーナーに並んで入ったとしても、相手の逃げ場は残しながら、安全にフェアなレースをすることの重要性、リスクに繋がる事例をみんなで検証したり、どうするべきか考えたりと、今後レースで戦っていく上で必要な心構えを学ぶ。ミーティングの場を通じて、ドライバー同士が意見を交わす場があり、オンラインで行なわれるメンタルトレーニング講習など、多角的な取り組みを通じて、成長を促す学びを得られることもKYOJO CUPならではの素晴らしい取り組みだ。レースというものは本来、自分以外のドライバーはライバルにあたるはずだが、みんなが共に成長し、全体のレベルを押し上げることに繋がっている。

 関谷氏によれば、数万点の部品から成り立つクルマと向き合うレースは、あらゆるスポーツの中でも難しいという。レギュレーション的には、タイヤは同じ、フロントカウルは3つの顔が選べて、ダンパーやブレーキパッドは変えていいし、車高やアライメントなど、セットアップは自由。つまり、ドライバーは自分のクルマを知ってるか否かで能力が試される。何を意識して走るかも大事だという。

走行データを確認し、次の走行で改善を試みる

 1dayで開催されるレースということで、予選は日曜日の8時40分にスタート。コースオープン2分前になると、各車が一斉にピットロードになだれ込む。20分の間にこれまで取り組んできたベストを発揮するためにできることは何か、頭で組み立ててから走り出した。

自分のクルマをいかに知っているかが勝負

 普段のスポーツ走行枠では速度や特性が異なる車両と一緒に走る。KYOJO CUPで走らせているVITA-01は1.5リッターエンジンをリアに搭載し、後輪駆動で走らせるマシン。排気量は低めであるものの、ドライバーを含めた最低重量は615kgで、富士スピードウェイのトップスピードは205km/h前後にのぼる。車重が1t以上ある量産車と比べると、ブレーキを踏み始めるポイントは奥まで突っ込める上にコーナリング速度も速い。つまり、同じ特性のマシンでコースを専有するとなれば、他車とのペースの違いも分かりやすく、おまけに、空力性能をほどほどにとどめているマシンは後続車の直後を走るとスリップストリームがよく効く。タイヤを温めながらペースのよさそうなマシンの背後についてアタックに差し掛かろうとしたところ、1コーナーで前方にいたクルマがスピン。単独走行になったあと、後続車両と共にアタックに入り、10LAP目で2分2秒763で15番手。1秒台に入れられないもどかしさはあるが、14番手の#32 ビーフラット横浜grVITAに乗る助川選手とは0.09秒差。決勝は予選とは異なる戦いになるので、奪還するチャンスがあると信じたい。

予選は2分2秒763で15番手という結果に。決勝はさらなる順位アップを狙いたい

 決勝までの時間はパドックの特設ステージにて、2回に分けてドライバーのトークショーが行なわれた。午前中の予選や決勝レースの話題に触れ、観戦に訪れたファンに向けて意気込みを語った。

予選と決勝の間には、特設ステージでトークショーを開催

 ピットでは、レースが併催されているインタープロトと楽天モバイルとのコラボレーションで共同開発が行なわれているシミュレーターの体験コーナーが設けられていた。

 これは#37号車のKeePer号の実車で走ったアクセル、ブレーキ、ステアリングの入力といったテレメトリーデータを5G回線で送ってシミュレーター上に反映したもので、シミュレーターのステアリングを握るドライバーがインタープロトのマシンと一緒に走れるという新しい試み。まだ開発途中の段階でお披露目された形だが、シミュレーター上でリアルなレーサーと一緒に走れる楽しみが得られるほか、将来的には採取したデータを保存して、レース中に名バトルが起こったときにドライバーがどんな操作をしていたか、どういうライン取りをしていたかなど、レースを体験する上で新しい可能性が生まれるという。4Gや5G回線のメリットを活かし、リアルとバーチャルを繋ぐ新しい試みとして、将来のモータースポーツの楽しみかたに一足早く触れられる機会となった。

ピットでは、インタープロトと楽天モバイルが共同で開発を行なっているシミュレーターを体験
4Gや5G回線を使って実車の走行データをシミュレーターに反映し、シミュレーター上でマシンと一緒に走れるという仕組み

 時刻が12時を迎えるとKYOJO CUPの決勝に向けてコースインを開始。ヘルメットを被ると、それまでの和やかだったムードから一転し、レースモードにスイッチする。共にスキルアップを目指し、「いいレースを見せなければ」と切磋琢磨してきた女性ドライバーたち。もちろん、私もその1人だ。調子が低迷しているときも、平均ラップが少しずつ縮まってきた今回のレースウィークも、共に寄り添ってくれているチームに感謝しつつ、スタートの瞬間を待つ。グリッド上は人が立っているのも厳しいくらいに強い風が吹きさらしていた。

グリッドではVITA-01のマシンをシェアするレジェンドドライバーの見崎清志選手、KYOJO CUP発起人の関谷正徳氏たちが力を送ってくれた

 スタートはいつも緊張感が襲い掛かってくる。

 全車がグリッドについたあと、最後尾にいるオフィシャルがグリーンフラッグを振る合図を確認したら、ギアは1速に入れ、アクセルペダルを踏み込んでエンジン回転数を高める。そして、シグナルの消灯と同時にクラッチをミート。路面状況にもよる難しさもあるが、エンジン回転がわずかに低すぎたせいかスタートで出遅れて、後続の車両が目の前にチラついた。

レース、スタート!

 1コーナーに突き進むマシンの群れは「われ先に」と前に出ていくことしか考えていないので、譲る様子はさらさらない。前方にいた1台がスピンしてコースサイドへ。スタート直後にありがちな想定内の状況を横目にそれ以外の車両はコカ・コーラコーナー、100Rになだれ込み、コース幅が少し広くなるヘアピンで入り込む隙がないかとチャンスを窺う。集団になって走る序盤はペースが上がらないが、そう簡単に前に出ることができない。かといって、ちょっと油断すると、周囲の車両はスリップを利用しながらペースを高めていき、気づくと前走車との距離が開いてしまったりする。私は最大限の集中力をもって食らいついていった。

スタート直後に前方のマシンがスピン。それを横目に前へ、前へとチャンスを狙う

 2LAP目の後半はセクター3で#7 小倉クラッチワコーズAFC★VITAのおぎねぇ選手との距離が縮まり、スリップストリームについたが、前に出るには勢いが足らない。3LAP目は#32 ビーフラット横浜grVITAの助川ちひろ選手、#7 おぎねぇ選手が争っているところに、300R先のダンロップコーナーのブレーキングで#24 ENEOS BBS Vita-01の私のマシンが近づいた。セクター3は3台がテールトゥノーズで連なって走る。その後、ヘアピンコーナーで#7 おぎねぇ選手と私のマシンは助川選手のインをつき、2台がスルリと抜きに出た。

 #7 おぎねぇ選手の前に出ることができず、もどかしさが募る中、7LAPに入ったところでチャンスが到来。1コーナーを立ち上がった2台は僅差で並んでコカ・コーラコーナーへ。#7 おぎねぇ選手はイン側、私はアウト側から勝負に出たところ、私は前に抜け出すことに成功した。その勢いでリードしていったつもりだったが、わずかなミスでペースを落とし、抜いたはずの#7 おぎねぇ選手が迫る。

 10LAP目の1コーナーからコカ・コーラコーナーで今度は私が抜きかえされてしまった。その後、ヘアピンでクロスラインを狙ってピタリと背後につき、ファイナルラップのスープラコーナーでインから仕掛けたが、またもやハーフスピンで姿勢を崩した隙に逃げ切られてしまった。

 結果は11位。あと一歩のところでポイントを逃してしまったが、おぎねぇとのバトルは互いの逃げ場を残しながらフェアに戦うことができて、いい汗をかくことができた。とはいえ、まだまだやるべきことはあるし、今回の一戦を通して得られた気づきもあった。そのあたりは、12月11日に富士スピードウェイで開催される最終戦に繋げていきたい。

 第3戦で優勝を獲得したのは#37 KeePer VITAの翁長実希選手。第2位は#109 KYOJO TOKEN DREAM VITAの三浦愛選手。第3位は#38 LHG Racing YLT VITAの猪爪杏奈選手という結果になった。翁長選手は2022年のシリーズで3戦目の優勝。最終戦で昨年チャンピオンを獲得できなかった雪辱を果たせるのか。今季を締めくくるレースに注目してほしいと思う。

1位の#37 KeePer VITAの翁長実希選手
2位の#109 KYOJO TOKEN DREAM VITAの三浦愛選手
3位の#38 LHG Racing YLT VITAの猪爪杏奈選手
表彰式

AIM Legend’s Club Cup

 今回は私たちが走ったVITA-01のマシンをシェアする形でAIM Legend’s Club Cupが開催された。わが#24 ENEOS BBS Vita-01のハンドルを握ったのは、土曜日に開催されているFCR-VITAのレースにフル参戦してきたレジェンドドライバーの見崎清志選手。見事、ポールポジションを獲得して決勝レースに臨んだ。

AIM Legend’s Club Cupでは、レジェンドドライバーの見崎清志選手と#24 ENEOS BBS Vita-01をシェア
マシンに小さく貼られた高齢者マーク
衰えることない真剣なまなざし
AIM Legend’s Club Cupの決勝は、ポールからスタート

 雨に見舞われた決勝中にスピンしたことで7位に甘んじた見崎選手だったが、「これまで日本のレース史に名を残してきたレジェンドたち。60代~80代という年齢差はタイム差に影響すると思うけれど、普段はこのマシンで走っていないメンバーにも関わらず、うまいし手強かった」と雨に翻弄された悔しさを口にしていた。

 また、#22 花キューピットWAIMARAWA☆01のハンドルを握った柳田春人選手は予選6位、決勝6位でフィニッシュ。「昨年乗らせてもらったマシンとの違いを感じたけれど、VITA-01は奥が深い。セットを勉強して臨まないといけないと思う。手前でシフトアップしたら、挙動が安定したよ」とマシンと向き合った感想を交えてコメントしてくれた。時代の流れでマシンやレースの在り方が変わってきている今も「ドライバーが最善を尽くすためにできることは何か?」と考える姿勢は変わらないようだ。こうして、1台のマシンを通して彼らとコミュニケーションがとれることを嬉しく思った。