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藤島知子の“女性同士のガチバトル”競争女子「KYOJO CUP」レポート

第13回:新たに「ファントークン」を導入し、2022年シリーズがいざ開幕

2022年シリーズが開幕

日本のモータースポーツ界で初の「ファントークン」導入

 5月15日、KYOJO CUP第1戦が富士スピードウェイで開催された。2020年、2021年のKYOJO CUPは富士と鈴鹿の2か所で実施されたが、今季は4戦全てが富士スピードウェイで行なわれる。

 KYOJO CUPは今季で6年目を迎えるが、女性ドライバーたちのガチバトルは年を追うごとに注目度が増してきている印象を受ける。テレビの密着取材ではレースに挑む女性たちの日常やサーキットでマシンと向き合う姿がクローズアップされ、そんな姿を見て自分もこのステージに挑んでみたいとチームを立ち上げて参戦するドライバーもいる。年間エントリー制となり、KYOJO CUPで参戦経験を持つドライバーたちの復帰も目立つなか、初参加のメンバーは5名。今回の開幕戦には総勢21台のマシンがエントリーした。

 このところ、インターネットの力を駆使してあらゆるジャンルのスポーツが新しい形でファンとコミュニケーションをとる施策が行なわれている。モータースポーツの世界ではコロナ禍の影響もあって、レースのライブ配信が盛んに行なわれるようになったことも変化の1つといえるが、今季のKYOJO CUPはさらに新たな仕組みが導入された。

 その新たな取り組みとは、日本のモータースポーツ界で初となる「ファントークン」の導入だ。トークンはすでにF1やサッカーのチームなど、プロスポーツの団体が導入して広がりはじめているもので、クラウドファンディングと投資の要素を併せ持つ仕組み。KYOJO CUPが導入するのはFiNANCiE(フィナンシェ)のアプリを通じてあらかじめ定めた数のトークンを発行し、ファンは購入したトークンに応じた特典を手にしたり、投票に参加したりしながらKYOJO CUPを支える立場になる。また、手にしたトークンは売買することで価格が変動するため、投資的な一面を持つ。

 KYOJO CUPのファントークンはレースの主催者、チーム、ドライバーがアプリ上で意見を交わしてコミュニケーションを図れるというもので、これまでになかった企画が実現する可能性を秘めている。今回のトークン発行の目標としては、集まったお金で「チームトークン」を立ち上げてレーシングカーを購入。カラーリングをしたり、ドライバーを選出することに関わり、トークン号の共同オーナーになるというものだ。主催者によれば「モータースポーツの本当の面白さを知ってもらうこと」が一番の目的なのだという。

 いまやさまざまな分野でDX(デジタル革命)が進んでいるが、デジタルツールは普通に暮らしているだけでは接点がないはずの人やモノをつなぎ合わせる役割を担っている。レースの世界においては、ファンとレースをする側の参加者が効果的にコミュニケーションを図り、その魅力が幅広い層に広まるキッカケになってほしい。

「ファントークン」を導入したKYOJO CUPにぜひ注目してほしい

 私自身は6年目の参戦となるKYOJO CUP。レース前のテスト走行で感覚を取り戻しながらレース当日に向けて準備を進めていく。今季、私がハンドルを握るマシンは「ENEOS☆BBS☆VITA-01」。当日の天候は晴れ。これまで積み重ねてきたことを振り返りながら、気持ちを新たに8時30分からの予選に挑む。コースコンディションはドライ。コースオープン2分前になると、各車がわれ先にとピットロードになだれ込む。20分間の予選が開始して4LAP、5LAPと周回を重ねていくにつれて、トップ集団は2分01秒台から00秒台に突入。私は終盤までペースを上げられず、8周目にセクター1、2、3でベストを更新するも2分03秒774で14番手となった。

 コロナ禍となった数年の間はパドックに一般来場者の入場は許されていなかったが、今回は入場者に向けて感染予防対策が行なわれる中、応援してくれているファンたちの姿が戻り始めてきた。特設ステージではドライバー全員を3回に分けて紹介するトークショーが実施され、ファンに見守られながら意気込みを語った。

特設ステージで行なわれたドライバーを紹介するトークショー。感染対策として3回に分けて行なわれた

 それ以外にもランドローバーの最新モデルの試乗体験、トヨタ MIRAIは量産車の試乗体験と併せて、燃料電池の発電の仕組みを用いてモーターで走らせるミニカーのドライブ体験やラジコンコーナーも設けられていて話題を呼んでいた。また、インタープロトに参戦しているマシンのカラーリングを施したペダルカーのレースも行なわれ、子供たちが一生懸命な姿をみせたり、楽しそうに過ごしたりしている様子が微笑ましかった。

 コロナ禍ではしばらくの間、人が集まるイベントの開催が控えられていたが、こうしたイベントが久しぶりに開催されるようになり、ファンがドライバーに励ましの言葉をかけてくれるということが本来のレースのあるべき姿だと思い出させてくれた。

ランドローバーの最新モデルの試乗体験、燃料電池の発電の仕組みを用いてモーターで走らせるミニカーのドライブ体験、ペダルカーのレースなど、さまざまなイベントが開かれた

開幕戦の結果は?

 時刻が正午をまわると、決勝のコースインの時間がやってきた。グリッドには21台のマシンが並び、改めてKYOJO CUPが盛り上がりをみせてきていることを実感する。駆けつけてくれたファンはマシンと写真撮影を行ない、放送席ではマシンとドライバーを紹介。チームのスタッフたちが「頑張れよ」と拳を付き合わせて去ると、フォーメーションラップを開始した。

 レッドシグナルが消灯して、12周のレースがスタート。緊張のボルテージが高まる。各車はエンジンの回転をクラッチでミートして後輪が蹴り出していく。集団は車速を高めながらわれ先にと1コーナーに向かって連なっていくが、私は2速から3速にシフトアップするところで、力が入りすぎて5速に入ってしまうという痛恨のミス。エンジン回転が下がったことに気がついて、すぐさま3速に入れ直すもほんのわずかな操作で前方との車速差が生まれて順位を落としてしまう。

 まだ手が届きそうに見えるマシンの背後を追ってアクセルペダルを力一杯踏み込んでいっても、その差はなかなか縮まらない。スタート直後は各車ともにタイヤのグリップやブレーキの効き具合が安定しないため、1コーナーの外側にオーバーランしたり、ハイスピードなコカ・コーラコーナーでスピンしたりするマシンの姿も。私自身もマシンの状態に最大限の神経を払いながら前を目指す。100Rでは外側の縁石に片輪を乗せて姿勢を崩したマシンが別マシンに接触するアクシデントも起こっている。

 ヘアピンで目の前を走っていた115号車のD.D.R. VITA-01の粟野如月選手のインをついて前に出たが、300R先のダンロップのブレーキングで粟野選手にインを突かれて順位が戻る。上り坂のセクター3のスープラコーナーで再びインから前に出た。ホームストレートは向かい風だ。前方の車両と間隔が空いてしまったため車速が伸びず、スリップストリームを使って前方を走る私よりも車速が増してきた粟野選手が1コーナー手前で前に出た。

 私は1コーナーのブレーキングを少し遅らせて立ち上がり重視のクロスラインを狙い、コカ・コーラコーナーに向けてインのポジションをとるが、100Rを2台併走で走るプレッシャーにアクセルが緩んだすきに抜かれ、ダンロップでまた前に出たりと、テール・トゥ・ノーズのせめぎ合い。どうにか前に出ることに成功したが、まだ2LAP目に入る序盤。集中して走っているぶん、12周のレースが長く感じる。

 その後は単独で走行する状況となり、タイヤの状態が変化するにつれてオーバーステア気味の動きが出てきたが、そのリズムにドライビングを合わせていく形で周回を重ねていく。4LAP目に差し掛かるストレートでは序盤に順位を落としていた初参戦の39号車 CS.ダイワN.AKILAND VITAの奥田もも選手が私のスリップにつき、前に出られてしまった。「まだまだ諦められない」と5LAP目に突入するストレートでは、今度は私がスリップで前に出ようとしたところ、彼女の背後に65号車 中川ケミカルMARS-VITAの小松寛子選手が連なって迫ってきたことで、3台並んで1コーナーへ。今度は小松選手が先頭に踊り出た。小松選手の背中を追いセクター3までは近くに見えていたマシンも、ほんの少しずつ立ち上がりで生まれる速度差の積み重ねがやがて大きな差となって追いついていけない。

 6LAP目のダンロップコーナーでは奥田選手にインを突かれて再び順位を落としてしまった。その段階でレースはまだ折り返し地点。スリップを使って再び1コーナーで前に出て逃げ切りたいとアクセルを踏み込む。その挙げ句に少しオーバースピードでコーナーにアプローチしたりするものだから、インにつききれていない。こういう局面こそ冷静さを取り戻さなくては。その後は単独で最終ラップにマシンを運び、14位でレースを終えた。

 開幕戦の優勝は見事にトップで逃げ切ってみせた37号車 KeePer VITAの翁長実希選手。2位争いは激闘の末にKeePer VITAの下野璃央選手が獲得。3位は38号車 LHG Racing VITAの猪爪杏奈選手という結果となった。

 第2戦は10月23日に富士スピードウェイで開催されるため間隔が開くが、私たちのチームは6月に鈴鹿サーキットで開催されるVITAのMixジェンダークラスの耐久レースに参戦予定。目標を高く持ち、さらなるスキルアップを図りたい。

初戦で優勝を果たしたのは37号車 KeePer VITAの翁長実希選手

新たに装着したBBSホイールについてBBSジャパン 廣田篤喜部長に聞いた

BBSジャパン株式会社 営業本部 国内アフター営業部 部長の廣田篤喜氏

 さて、今季新たにVITA-01用に開発中の15インチのBBSホイールを装着することになったわがチームのマシン。外観的には足下が引き締まったイメージとなった。実際に走ってみた感想としては、100Rなど横力が強烈に掛かる環境でアクセルを踏みこむシーンや縁石を乗り越える際に“ねばり”を感じるもので、マシンの挙動を把握しやすい感触が得られた。このホイールは、VITA-01の競技専用ホイールとして2023年の販売を目指しているという。

 BBSジャパン 営業本部 国内アフター営業部 部長の廣田篤喜氏にお話を伺ってみると、もともと市販用に開発されたホイールをVITA-01の600kg前後の軽量な車重に合わせるために肉を削って軽量化したものだという。じつは、2021年のKYOJO CUPでチャンピオンを獲得した辻本選手のマシンでフィードバックを得て開発を行なってきたそうだ。軽量化と剛性のバランスを重視したもので、他社の鍛造ホイールと比べてコーナリングでねばることが特徴だという。

「“ねばる”という現象は靱性(じんせい)が影響していて、変形してたわんでも元に戻ることがホイールにとって大事なことです。例えば、コーナーを走る時やタイヤに突き上げる入力が入った時、靱性はホイールがタイヤからくる圧力を吸収してくれる。軽量なマシンの場合、ハイパワーのマシンとは異なるレベルの靱性が大事になってきます」(廣田氏)。

筆者マシンが装着する15インチのBBSホイール

 BBSのホイールといえば、2022年においてF1で全チームに供給されていることなどで知られているが、日本のレースシーンにおいてはSUPER GTやスーパー耐久など、さまざまなカテゴリーのフィードバックを得ながら日本の環境に必要なノウハウを積み重ねている。BBSジャパンの廣田さんは「あらゆるカテゴリーで知見を広めていきたい」と語っていた。BBSではホイールの効果を体験してもらう機会を設けることを検討しているそうだ。ホイール選びにこだわる皆さんには今後の情報に注目してみてほしいと思う。

 ちなみに、KYOJO CUPでは私がハンドルを握る24号車 ENEOS☆BBS☆VITAのほかに、13号車 ORC☆サウンドキッズVITAの高野理加選手のマシンが2022年の東京オートサロンのBBSブースでお披露目されたカラーのホイールを装着している。

13号車 ORC☆サウンドキッズVITAの高野理加選手のマシンが履くBBSホイール