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藤島知子の“女性同士のガチバトル”競争女子「KYOJO CUP」レポート

第12回:2021年シリーズのチャンピオンが決定

 2021年12月12日、KYOJO CUP 第4戦が富士スピードウェイで開催された。今季は夏にオリンピック・パラリンピックの開催地だったこともあり、シリーズの最終戦の開催時期は真冬に差し掛かった。週末のレースはいつも併催されているインタープロトシリーズのほかに、ヤリスカップやMINI CHALLENGE JAPANなど、7カテゴリー以上のレースのスケジュールでパツパツの状態。金曜日のスポーツ走行はVITAのマシンが走れるのは2枠のみで、私と同じマシンをシェアして土曜日のFCR-VITAのレースにエントリーしている見崎清志選手と1本ずつだけ走るのがレース前最後の走行となった。

 雨に降られることが多いKYOJO CUPだが、今回の天候は安定した冬晴れ。週半ばに雪が降り積もり、雪化粧をした富士山が私たちを出迎えてくれた。コロナ感染症の陽性者数が落ち着いてきたこともあり、数年ぶりに観客たちがパドックに入場することを許された。

 コロナ禍になってからというもの、他者とのコミュニケーションを控え、各自がレースを戦うためだけにピットとコースを行き来している状況だったが、こうしてレース開催日に見る当たり前の光景が少しずつでも戻ってきたことがうれしく思えてくる。遠くからチームの様子を見守るファンやサインを求める人もいたりして、やはりレースというものは、単にスポーツとして結果を競うだけでなく、応援してくれるファンがあってこそ成り立つものなのだと実感した。

インタープロトのマシンのカラーリングを模したペダルカーの体験コーナー
親子で楽しめるイベントも展開された
トークステージなども開催
サインを求められる場面も
ジャガー最新モデルの試乗体験コーナー

 パドックでは子供たちがインタープロトのマシンのカラーリングを模したペダルカーでレースを体験するコーナーやジャガーの最新モデルの試乗が行なわれたほか、トークステージは登壇者を数人に減らして実施。KYOJO CUPの大会スポンサーを務めているMUSEE PLATINUMは乳がん検診車を派遣して、無料でマンモグラフィーによる検診を行なっていた。こうした場を通じて、乳がん検診の普及の重要性を広める活動は素晴らしく、私自身もレース後に立ち寄らせてもらった。

MUSEE PLATINUMによる乳がん検診車の派遣

 サーキット走行は周回を重ねるほどにトライ&エラーを繰り返しながら、自分自身の走りと向き合い、マシンのセッティングを考える機会を得たりするもの。しかし、今回は走行時間が短い。自分自身の走りの傾向を探り、失敗しがちな箇所をどう修正して走るか擦り込むために事前にシミュレーターでトレーニングを行ない、頭の中を整理して実走行に臨んだ。

 VITA-01のマシンは同じセッティングで走ってみたとしても、コース環境の変化やタイヤの使い方でクルマの挙動が変わってしまったりする。そうした変化をいかに探り取り、最適な状況にもっていくのか試される部分もあるのだが、なかなかうまく合わせこんで走ることが難しい。予選は7時50分からスタートとなる。いつもは20分間で行なわれるが、真冬の朝はさすがに路面温度が低いとあって、いつもより5分多めに走る時間を与えてくれた。

 いざ出陣と装備品を身に付けながらマシンに近づいたところでトラブルが発生。マシンの液晶メーターの表示がダウンして全く映らなくなってしまったのだ。私は「そんなの大したことじゃない」と自分に言い聞かせてマシンに乗り込んでコースイン。ニュータイヤを履いているため、アクセルとブレーキ操作とを繰り返しながらタイヤを温めてアタックに入る。

メーターが表示されない……

 ペースアップしようと、ホームストレートエンドでブレーキを踏み込むも、ABSが付いていないマシンはリアタイヤがロックして白煙を上げてフラついてしまう。路面温度が低いため、まだタイヤがグリップを発揮しきれていないらしい。ブレーキをリリースしながら姿勢を立て直すも、リズムが崩れてなかなかタイムアップしていけないのがもどかしい。そんなこともあって、集団から完全に離れた状態で走ることになり、私がハンドルを握る24号車 ENEOS.CLA.pmu VITAは14番手になったところでタイムアップとなった。

決勝レースは12時30分ごろにコースイン開始

 決勝レースは12時30分ごろにコースインが開始されたが、メーターが表示されないトラブルは今日中に解決することが難しく、変わらない状況で走ることになった。マシンの水温、油温、車速やラップタイムが表示されないのはともかくとして、エンジンの回転数が分からないのはちょっと痛い。なぜなら、VITA-01は5速MT車なので、スタートするときはアクセルをわずかに開けてエンジン回転を合わせた状態でクラッチをミートさせて走り出すからだ。回転が高すぎる状態でクラッチを繋ぐと、ホイールスピンを起こしてロスをしてしまう。一方で、回転が低すぎる状態で繋げばトラクションが掛からず、他者を出し抜くことは難しい。とはいえ、案じても仕方がないので、エンジン音を聴きながら回転数を想像して、勘で繋いでいくしかない。

ポールポジションを獲得した18号車 辻本始温選手
24号車 ENEOS.CLA.pmu VITAは14番手スタート

 レッドシグナルが消灯して、レースはスタート。前のグリッドにいたマシンが出遅れ、私も前に出られない状態で1コーナーへ。ズラリとした隊列で連なっていく集団を追いかけるようにしてオープニングラップを走行した。

 幾重にも重なって1コーナーを抜けた先頭集団は、予選で3グリッド降格となり、8番手からスタートした37号車 Keeper VITAの翁長実希選手が5番手に浮上。ヘアピンでは3番グリッドからスタートした34号車 YGF Drago VITAの下野璃央選手がブレーキングで2番手に躍り出る。ポールポジションからスタートした18号車 ORC ARUGOS VITAの辻本始温選手は34号車 下野選手と怒濤のせめぎあいを繰り広げ、下野選手がトップに立った。その後、翁長選手がファステストラップを刻みながら追い上げをみせている。

18号車 ORC ARUGOS VITAの辻本始温選手と34号車 下野選手とせめぎあい
8番手スタートの37号車 Keeper VITAの翁長実希選手

 後方を走る私は、スープラコーナーや最終コーナーの進入で前走車に距離が縮まるも抜くに至らず、むしろ、立ち上がりでじわじわと離されていってしまう。ダウンフォースが効かないVITA-01のマシンは前走車に近づいてスリップストリームに入ると後続車両が前の車両に引き込まれるようにしてスピードが増していくのだが、私の前を走るマシンがさらに前を走るマシンのスリップストリームについているせいか、私のマシンはどんどん離されてしまう状況だ。焦る気持ちが災いし、ブレーキが遅れてツッコミ過ぎの傾向に陥ると、鼻先の向きが変わらず、ほんのちょっとモタついた瞬間に大きな遅れをとってしまう。次の周は同じミスを重ねないように修正して走っていくが、前方に見えているマシンに近づける気配がないのがもどかしい。エンジン回転も把握できないため、レブリミットまでキッチリ引っ張って走りきれていないせいなのか、これほどまでに差が生まれてしまうとは思いもよらなかった。10周目を迎えたファイナルラップではスピンでタイムロスをした7号車 おぎねぇに迫るもチェッカーフラッグを目前にしてあと一歩で追いつけず、14位で最終戦を終えた。

14位でフィニッシュ

 2021年のシーズンの締めくくりはうだつの上がらない結果になってしまい、応援していただいたみんなに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。しかし、3歩進んで2歩下がることはあったとしても、前を向いて歩き続けることで得られるものが必ずあるはずだ。まだまだ諦めず、しぶとくドライビング向上のためにできることに取り組んでいきたいと強く思った。

KYOJOカップ第4戦優勝は37号車 翁長実希選手

レースは37号車 Keeper VITAの翁長実希選手が優勝

 レース結果は37号車 翁長実希選手が7周目の1コーナーでトップに立って優勝。2位は34号車 下野璃央選手、3位は18号車 辻本始温選手。2021年のシリーズは20才の辻本始温選手がチャンピオンを獲得する結果となった。

KYOJOカップ 第4戦の表彰台。写真左から2位の34号車 下野璃央選手、優勝の37号車 翁長実希選手、3位は18号車 辻本始温選手
2021年シリーズのドライバーランキング表彰式。写真左から2位の翁長実希選手、チャンピオンの辻本始温選手、3位の下野璃央選手

2021年シリーズチャンピオンの18号車 辻本始温選手にインタビュー

18号車 辻本始温選手

 最年少の20歳でシリーズ女王に輝いた18号車 ORC ARUGOS VITAの辻本始温選手にチャンピオンを獲得した感想についてインタビューを行なった。辻本選手はレーシングカートを経て、2020年にKYOJO CUPで4輪レースのデビュー。2年目のシーズンで早くもチャンピオンを獲得した。

──チャンピオンを獲得して、率直にどんな気持ちですか?

辻本選手:うれしいです。安心したという気持ちが強いですね。最終戦の獲得ポイントは通常の1.5倍になるから、巻き返されたらどうしようと思っていたけれど、チェッカーを受けたときは良かった~と思いました。2021年のシーズンは雨のレースのときに下野選手に抜かれてしまいそうになった焦りもあって、1コーナーで2度も単独スピンしてしまったことがありました。結果的に彼女がスピンしたことで、レースの展開は楽になりましたが、自分自身の気持ちが弱いと感じて、それからメンタルトレーニングの本を買って取り組んできました。

──メンタルトレーニングを行なって、自分自身が変わりましたか?

辻本選手:すごく変わったと思います。KYOJO CUPは参戦するドライバーに向けてオンラインでメンタルトレーニングを行なってくれていますが、講習を受講して変わってきました。そのおかげで、去年よりもレース中に焦ることが少なくなってきたと思います。

 最後はシリーズ争いで緊張感がありましたが、攻めるというよりもちゃんとポイントを獲って帰ることを意識しました。チャンピオンを獲るためには、やはりメンタルは大切ですね。

 私はレースの1週間前になるとすごく緊張するので、焦ったときにどういう風に深呼吸したらいいかといったことも意識しました。焦らず取り組めるレース計画の立て方、自分の気持ちの持ちかた。例えば、何時に起きて何時に寝るのかといったこともそうです。起床する時間に対して、どういう風に動いたらこうなるっていうことを作戦立ててこなしてきました。

──日常のリズムの組み立てから、レースは始まっていたということですね。それまで乗っていたカートからVITA-01のマシンに乗り変えたとき、どんな印象を受けましたか?

辻本選手:本当にグリップしないクルマだなと思いましたし、ラジアルタイヤも初めての経験だったので、どういう風に温めたらタイヤが壊れないかと考えるのが大変で、初年度はそれで悩んだりしていました。中でも、鈴鹿サーキットは去年のKYOJO CUPで初めて走りましたが、富士スピードウェイと違ってテクニカルなコースだから、クルマの動かし方も分かっていない段階で、S字コーナーでクルマの向きが変わらないままアクセルを踏んでイン巻きしてスピン。難しいなと思いました。

──これから、KYOJO CUPにチャレンジしたいというドライバーがいたら、どんな言葉を投げかけますか?

辻本選手:まず、めっちゃ薦めます。VITAは4輪レースに初めてチャレンジするカテゴリーとして最適だと思います。シフト操作やクラッチの繋ぎ方など、基礎から学べるマシンなので、フォーミュラに行く前の段階で練習できるし、なんといっても、レースではガチガチのバトルができる。レースの経験を積み重ねられる意味でも最適なカテゴリーだと思います。

──辻本選手の背中を追って、KYOJO CUP参戦を目指すドライバーが出てくることを願っています。ありがとうございました。