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藤島知子の“女性同士のガチバトル”競争女子「KYOJO CUP」レポート

第14回:新たな計画「TOKEN GO PROJECT」によるトークン号が初参戦

2022年10月23日 開催

2022年シリーズの第2戦が開催された

2020年チャンピオンの三浦愛選手がトークン号のステアリングを握る

 10月23日、富士スピードウェイでKYOJO CUP第2戦が開催された。開幕戦が5月に実施されて以来、しばらくぶりの開催となったが、今季初参戦のチームやドライバーからすれば、マシンに慣れたり、セッティングを煮詰めるチャンスの時間と捉えることもできるだろう。

 一方で、これまで参戦してきたドライバーとしては、しばらくマシンに触れられずにいたら感覚が鈍ってしまわないかという不安もあった。そうしたなか、KYOJO事務局はオンラインを活用して、ひと月に1、2度の頻度でメンタルトレーニングを実施。女性ドライバーたちが前向きにレースに取り組むための環境作りにサポートしてくれていた。

5月の開幕戦から実に5か月ぶりのブリーフィング。感覚が鈍っていないか心配

 レースウィークは爽快な秋晴れ。これまで雨に見舞われることが多かったKYOJO CUPだが、これほど週末にかけて天候の心配をしないでいいことは初めてのことかも知れない。朝の気温は10℃前後に冷え込む季節となっていたが、ドライのセットで調整に入った。

 レース当日の天候も晴れ。予選が始まる8時台の気温は前日よりも少し高まって13℃に上がった。とはいえ、前回のレースよりも気温は下がっているし、20分間の予選でタイヤをどう温め、何に集中して走らせるべきか頭のなかを整理しながらコースイン。グリップを確かめながらアタックに入る。終盤の8LAP目で2分2秒台が出て、その勢いで次の周はさらに縮めていきたいと意気込んでいたものの、登り坂のセクター3で他車とラインが交錯してタイムは伸びず、14番グリッドから出走することが決まった。

予選ではタイムを詰め切れず14番手に甘んじた

 トップ勢は2分0秒台。KYOJO CUPは今季で6年目を迎えるが、参加して2、3年のドライバーもベテラン勢も経験を重ねるごとに腕を上げている。走り続けてきた私としてはタイムが及ばないのはもどかしいが、世界的に見ても貴重な女性ドライバーたちのバトルの舞台が確実にレベルアップしていることはどこか誇らしく、そこで戦う私も負けていられないなと思った。

「ウィズ コロナ」と言われ始めて以来、各地のイベントは観客の入場にまつわる制限がなくなってきているが、パドックエリアも賑わいを取り戻していた。子供たちはレーシングカーと同じカラーリングが施されたペダルカーのドライブを楽しんでいたり、ロードバイクの体験コーナー、交通安全体験、ジャガーの試乗会なども行なわれていた。

 ステージには19名のKYOJOドライバーが3回に分けて登壇し、各自の自己紹介とレースにまつわるエピソードや意気込みを語り、事前にファンから寄せられた質問に答える場面も。コロナ禍ではSNSなどを通じて応援メッセージが寄せられていたが、こうして数年ぶりに足を運んでくれた観客のみなさんと顔を合わせ、表情を見るのは久しぶりの感覚で、当たり前だった姿を取り戻すことができて嬉しかった。

全19人のKYOJOドライバーが交替しながらステージで自己紹介を実施
お客さんとの触れ合いも久しぶり

 昼をまわると、コースインの時間がやってきた。

 湿度は低く過ごしやすい秋晴れだが、陽射しが照りだしたことで気温は21℃に上昇。グリッドにつくと励ましの声をかけてくれる人や写真を撮ってくれている人たちも。スタート3分前のアナウンスが流れると、穏やかな雰囲気が一転して空気が張り詰める。レースと向き合うあの緊張感が再びやって来た。フォーメーションラップを終えると、レッドシグナルが全灯し、消灯。レースがスタートした。

いよいよ第2戦がスタートした

 ギアを1速に入れ、ある程度のエンジン回転でクラッチをミートしていくが、一発勝負のスタートはいつも緊張感が走る。路面のコンディションにもよるが、今回はエンジン回転が足りなかったのか勢いがない。せめぎ合う集団は1コーナーになだれ込み、「遅れをとるまい」という一心で、とにかく食らいついていく。

 周回を重ねていったところ、前方を走っていた#15 恒志堂レーシング レブニーズVITAのRINA ITO選手との車間を縮めて最終コーナーでインを差しにかかったが、私のマシンはボトムスピードが高すぎてハーフスピン。姿勢を立て直している隙に離れてしまった。すると、今度は後方から迫っていた#7 小倉クラッチワコーズAFC★VITAのおぎねぇ選手がホームストレートで私のスリップストリームについて抜かれてしまった。

 このまま引き下がるわけにはいかないと、100Rで併走しながらヘアピンへ。前に出るタイミングを探りながら上りのスープラコーナーでパッシングに成功。しかし、マシンはレース後半になってオーバーステア気味の挙動に変わり、調整しながら走っていたが、その後、私はシフトミスをしてしまったことで失速し、再び抜かれてしまった。12LAPの周回中に順位を取り戻すことは難しく、結果的に15位でチェッカーを受けることになった。

激しいポジション争いが繰り広げられた

 一方、トップ集団はポールポジョンからスタートした#37 KeePer VITAの翁長実希選手を#109 KYOJO TOKUN DREAM VITAの三浦愛選手が抑えてトップに躍り出た。2LAP目のブレーキング競争で翁長選手が再びトップに立つと、2位争いをする集団を一気に引き離して単独走行に。

優勝は#37 KeePer VITAの翁長実希選手

 2位、3位争いをしている集団は激しく入れ替わる状況が続き、9LAP目には一時は順位を落としていた#337 D.D.R. VITAの斉藤愛未選手が3番手にジャンプアップ。優勝は#37 KeePer VITAの翁長実希選手、2位を獲得したのは#38 LHG Racing YLT VITAの猪爪杏奈選手、3位は#337 D.D.R. VITAの斉藤愛未選手が獲得した。

2位の猪爪杏奈選手(左)、1位の翁長実希選手(中)、3位の斉藤愛未選手(右)

#109 KYOJO TOKUN DREAM VITA 三浦愛選手インタビュー

三浦愛選手

 2022年のKYOJO CUPはトークン発行型クラウドファンディングを行なう新しい取り組み「TOKEN GO PROJECT(トークン・ゴー・プロジェクト)」をスタート。トークン発行によって得られた資金は、KYOJO CUPに出場するチームを立ち上げ、1台のマシンを走らせるという夢のプロジェクトだ。

 この取り組みは単にマシンを走らせるために始められたものではなく、ファンのコミュニティができることで、今まで見えてこなかったレースの魅力をアプリのトークルームを通じて知ってもらいたいという思いがあったそうだ。

トークン号

 トークン発行型クラウドファンディングは資金調達を行ないながら、発行されたトークンは株のように投資的な要素をもつため、レースを知らない人たちも参加している。つまり、このプロジェクトは応援者それぞれがトークン号のオーナーとなり、レースに参加することに繋がるのだ。

 トークンを得た参加者はチームの運営に関わることができる。投票によってマシンのカウルを選び、カラーリングを選定し、ハンドルを握って欲しいドライバーを選び、チーム名の選定に投票する。その結果を汲んで仕上がったマシンには2020年にKYOJO CUPでチャンピオンを獲得した三浦愛選手が乗ることが決定した。

応援者それぞれがトークン号のオーナーとなる

2年ぶりにKYOJO CUPに参戦した三浦愛選手にお話を伺ってみた。

──レースお疲れ様でした。トークン号の期待を背負って走るKYOJO CUPはいかがでしたか?

三浦選手:2年ぶりということで、身体を合わせこむのに精一杯。ギリギリで間に合った感じでした。VITAはフォーミュラと比べて空力は効かず、スリップストリームを使い合ってバトルを繰り広げることもVITAの魅力だと思います。また、2020年の時と比べて参加台数が増えていて驚きました。VITA-01はコスト的にも比較的参戦しやすいレースとあって、モータースポーツの底辺を支える存在になっているのだなと感じました。

──そして、三浦さんはトークン号に乗るドライバーとして参戦されました。心境はいかがでしたか?

三浦選手:率直に言うと、ただKYOJO CUPに出るというのではなく、トークン号のプロジェクトだから乗ったというところがあります。KYOJO CUPのプロデューサーを務める関谷正徳さんは常に新たな挑戦をしていて、私自身、そこにはすごく魅力を感じていますし、一緒に努力できる1人としていられることをうれしく思います。

──私たちKYOJOドライバーとしても、F3で表彰台に乗った経験をもつ三浦選手は1つの目標でしたし、初めてこのレースに参戦する若手も含め、同じ舞台で競いたいと思っていたドライバーも多かったはずです。

三浦選手:私自身、今回は結果が振るわなかったのですが、KYOJO CUP全体のレベルは上がっていると感じました。翁長選手は練習の仕方にこだわってきていることも見えていたので、彼女が速くなっていくことでみんなのスピードも上がっている感じがします。今日の決勝では危うい場面がなかったわけではありませんが、そうしたなかでも関谷さんは「ドライビングアスリートとしてフェアなバトルをして欲しい」と言い続けていますし、とくに若い子たちはそれを守ろうとしているあたりはいい傾向だと思いました。

──今ではスタート直後に弾き出されてしまうようなこともなくなってきていますね。

三浦選手:全く気の置けない環境と言えますね。私は同じチームで4名の女性ドライバーと一緒に走らせてもらいましたが、そこには男性とは違うドライバー同士の関係性がありました。一緒に高め合っていく感じは女子の部活のようでした。当然、みんな自分が1番になりたいと思っているけれど、そうした意識はもっておきながらも、データやセットについての情報を共有したりする。2年前は個々に取り組んでいましたが、それとは違い、みんなが速くなりたいと思っているのだなと感じました。レースが終わった後は、ピットの小部屋のドアを閉めて女子トークで盛り上がったりしていました。

──三浦さんは今回トークン号に乗ったことで、ファンのみなさんとの接点が拡がったのではないかと思います。みなさんに向けてスピーチをする場面もありましたが、その体験をどう受け止めていますか?

三浦選手:今回はマシンのデザインもファンの方がやってくれましたし、マシンに貼られた応援者の名前を指さして、「これ僕です」といった具合に話かけてくれる人もいました。自分のレースというよりは、みんなのレースを戦っている感覚で、決勝もそういう走りをしました。みんなが見ていて面白いとか、感動してくれるレースにしたいと思うと、怖くてももう少し飛び込んでみようといった勇気が沸いてきました。みんなの夢を背負っている責任感を感じましたし、表面化されたことで自分も強くなれました。

──最後にみなさんにメッセージをお願いします。

三浦選手:クルマに乗る時に、マシンに貼られたみなさんの名前を見るだけで、みんなに応援してもらって乗れているのだと実感していました。みんなで気持ちを共有できますし、私自身が気持ちをキレイにして貰えた感じがします。

 トークン号は私自身、第3戦まで乗らせていただく予定ですが、その後もプロジェクトは続きます。コロナ禍でファンのみなさんとの距離は遠くなっていましたが、今回は近いところまで来てくれたので、触れ合えたことは久々の感覚でした。次は私も頑張りますし、トークン号のドライバーが変わったとしても応援して欲しいです。関谷さんはじめスタッフのみなさんが支えてくれていますが、新しいことを始めるってすごく大変なこと。短期間で形にしてくれたことに感謝していますし、みなさんも一緒に盛り上げていって欲しいと思います。

 三浦さん、素敵なお話をありがとうございました。もちろん私も次戦に出場しますので、よろしくお願いいたします。


 手に汗握る展開が繰り広げられているKYOJO CUP。第3戦は11月13日に同じく富士スピードウェイで開催される。