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トヨタ、2023年は航続距離2倍の「液体水素GRカローラ」をレースに投入 来年2月の公式テストで登場か?
2022年11月28日 07:33
液体水素を用いて走る水素GRカローラについて報告
11月27日、スーパー耐久最終戦鈴鹿を開催中の鈴鹿において、TOYOTA GAZOO Racingのスーパー耐久活動報告が行なわれた。スーパー耐久では水素を燃焼して走る32号車 ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept(以下、水素GRカローラ)と、カーボンニュートラル燃料を用いて走る28号車 ORC ROOKIE GR86 CNF concept(以下、GR86 CNF)を開発しており、2台に関する進化点などが報告された。
出席者は、トヨタ自動車 GAZOO Racing Company President 佐藤恒治氏、同 GR 車両開発部 部長 高橋智也氏、同 GR パワトレ開発部 副部長 小川輝氏、同 レクサス GR エンジニアリング部 主幹 三好達也氏、同 CJP 企画部 主査 太田博文氏の5名。大きな報告となったのは、2022年の富士24時間レースで展示された液体水素を用いて走るGRカローラについてだ。
スーパー耐久最終戦鈴鹿においてなんらかの進捗を示すとしていた液体水素GRカローラだが、2023年シーズンからスーパー耐久レースに投入していくという。現在テスト走行を繰り返しており、最高速度としては気体の水素を用いる現行の水素GRカローラに比べて「10%落ち程度までは確認」(高橋部長)という。
液体水素を用いるメリット
高橋部長は液体水素、一般に水素は常温では気体となるため液化水素とも呼ばれるが、液体となった水素を用いるメリットを改めて説明した。
まず、現行の気体を用いる水素GRカローラでは、70MPaという非常に高圧の水素を用いている。高圧で用いるのはなるべく多くの水素を小さな体積にしようというものだが、そのために特殊な高圧タンクや大型の高圧水素充填設備が必要になってしまう。水素GRカローラは、すでに新型「MIRAI(ミライ)」によって量産技術の確立された高圧タンクを転用することでこの問題を解決、レースに使えるほどの安全性を証明し続けている。しかしながら、水素の充填作業が話題になっているように、高圧水素タンク4本を搭載しても航続距離の問題は残り、また充填設備は専用トラックを用いるため広大なスペースが必要になっている。
高橋部長は、これらの問題に対し液体水素カローラはメリットがあるという。解決すべき問題もあり、同時に課題を示した。
体積エネルギー密度が高く航続距離が伸びる(現時点でテスト走行に使用している車両には、気体水素の約2倍の水素量を搭載)
→マイナス253℃という低い温度を保つ必要がある
水素ステーションがコンパクトになり、ピット内での充填が可能になる(面積は従来の約1/4までの縮小が可能)
→タンク内での受熱により気化する水素への対応
昇圧の必要がなく、複数台連続の充填が可能
→マイナス253℃という低温環境下で機能する燃料ポンプの技術
まず、航続距離についてだが、水素の基本的な性質として液体にした場合、体積は約1/800になる。ただし、融点はマイナス259.2℃、沸点はマイナス252.6℃(なので、一般的にマイナス253℃といわれる)と極低温のため、その低温を保つ技術が必要になる。
佐藤プレジデントはその方式を「魔法びん方式で対応する」と語っており、真空2重槽液化水素タンクが用いられることになる。そのタンクに蓄えられた液体水素を熱交換などで気化、気体となった水素を内燃機関で燃やしていく。気体となって燃焼させる部分は、現在の水素GRカローラと同じ技術であり、水素GRカローラでの知見があるからこそ成り立つ液体水素GRカローラになる。
液体水素GRカローラは、実用化を目指した開発に
液体水素GRカローラのメリットとして佐藤プレジデントが挙げるのが実用性について。現在の水素カローラでは高圧タンクを4本搭載するため、リアシート部が占拠されている。2シーターのスポーツカーとなっているのだが、液体水素タンクを用いることで実用的な空間を提供できるようになるという。
佐藤プレジデントは、SUVやトラックなど空間の大きな乗り物では圧縮水素タンクを搭載できるとしており、トヨタとしては圧縮水素、液体水素の両面から水素自動車の可能性を探っていくようであるし、すでに水素を燃料として用いるFCEV(燃料電池車)も実用化しているため、水素をどのような形でどのように用いればカーボンニュートラル社会へ近づけるのか、その多様な手段を手に入れようとしている。
気になる液体水素GRカローラのデビュー時期は、2月23日に富士スピードウェイで行なわれるスーパー耐久の公式テストを目指しているとのこと。また、その際には液体水素の「つかう」だけでなく、「はこぶ」や「つくる」といったロジスティックまわりも必要になるほか、ピットで液体水素を充填するといった実証も必要になる。気体の水素についてもFIA(国際自動車連盟)に申請&報告を行なっており、同様な作業を行なっていくことで、トヨタは水素社会の可能性を切り開こうとしている。
2月23日の公式テストに間に合わない可能性もあるとのことだが、トヨタは液体水素自動車の開発に本格的に舵を切ったのは間違いない。