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富士通、ニュルブルクリンク北コースの安全対策強化にAI活用 2025年のシステム運用開始に向けHDカメラ100台増設など

2023年1月23日 発表

「ノルドシュライフェ」のコースにおけるAIによる車両などの識別映像(左)、AIによる対象種別ごとの可視化(右)

 富士通は1月23日、ドイツのサーキット運営会社ニュルブルクリンク(Nürburgring 1927 GmbH & Co. KG)の常設レーストラック「ノルドシュライフェ」に、2023年1月よりAI技術を活用した安全対策強化に向けたシステムの導入を開始すると発表した。

 ニュルブルクリンクのノルドシュライフェは、世界最長で多数のカーブを持つ難易度の高いレーストラックで、富士通では同レーストラックにおけるレースの安全対策に向けて、AI技術を活用する包括的な支援を行なっている。

 2022年に実施した実証実験では、レーストラックの内、2.8kmの区間に8台のHD(ハイビジョン)カメラを光ファイバーケーブルで接続するとともに、AI機能を搭載したシームレスなシステムを構築。これにより、HDカメラからの映像をAIがリアルタイムで監視および判断し、レーストラック上のLEDディスプレイを介して即座に危険をドライバーに警告できるようになるため、ほかの車両や人との接触事故などを未然に防止することが可能になるとしている。

 ニュルブルクリンクでは、2025年のグランプリレースシーズンまでに同システムの実運用開始を目指しており、富士通では、同実証実験による有効性検証を踏まえて、今後2年間で「ノルドシュライフェ」のレーストラック全域に追加のHDカメラ100台の増設とAI機能の強化を行ない、「ノルドシュライフェ」の約21kmの監視による安全対策を支援していくとしている。

AIを活用したシステムを導入する背景

 ニュルブルクリンクと富士通では、カメラやAIを搭載したICTの活用により、レーストラックの異常を自動検出し、ドライバーに即座に危険を警告できる基盤を整備することで、安全対策の強化を目指している。その背景として、現在、ニュルブルクリンクのレーストラックでは、レースの安全を守るスタッフであるトラック・マーシャルたちが旗を振ることやラジオ放送を活用することで、ドライバーに危険の警告や事故発生を伝えているが、救助が来るまでに時間を要し、ときにはコースが閉鎖されレースに大きな影響が生じるなどの課題があった。

 富士通では、ニュルブルクリンクのニーズに対応するため、レーストラック上の車両や人物を識別するAI画像認識機能をシステムに搭載し、レーストラック、砂利、芝生の表面、ガードレール、安全柵などをリアルタイムに判別可能とした。例えば、レーストラックでの事故、コースへの人の侵入、車両の立ち往生、低速車両などの発生をカメラが捉えると、その情報を受信したAIが安全上の問題発生を識別し、レーストラック上のライトやLEDディスプレイに警告を表示する。また、今後の適用拡大を見据え、モジュール設計を採用した拡張性の高いシステムを実現したとしている。

 ニュルブルクリンク CEOs, Christian Stephani氏とIngo Böder氏は「世界的に有名な『ノルドシュライフェ』の未来の安全性に備えた基盤を整備する本プロジェクトはわれわれにとって非常に重要であり、ニュルブルクリンク100年の歴史の中で最も大規模なイノベーションの一つです。本プロジェクトにおいて、AIは最良の解決策だと考えます。なぜなら、これほど多くのカメラからの画像をリアルタイムに監視、判断し、適切な行動を取ることは人の力だけでは実現できないからです。富士通は、必要な専門知識と適切なソリューションを提供するだけでなく、この歴史的なレーストラックへの情熱を共有する重要なビジネスパートナーです」とコメント。

 一方、Fujitsu Services GmbH, Head of Digital Transformation Unit DACH, Jörn Nitschmann氏は「本ソリューションは、レーストラックへの適用だけではなく、自動車産業のデジタル化とイノベーションに貢献するもので、道路交通やそのほかのシーンにおける技術の適用の検討を進めています」と、今後の展開を述べている。