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ホンダ、次世代燃料電池システムのモックアップを初公開 2020年代半ばに年間2000基の販売を想定
2023年2月2日 19:06
- 2023年2月2日 公開
多様なパワーユニットを手掛けるモビリティメーカー
本田技研工業は2月2日、東京都港区にある青山本社にて「水素事業説明会」を実施するとともに、「次世代燃料電池システム」のモックアップを初公開した。説明会に登壇したのは、本田技研工業 取締役 執行役専務 青山真二氏、事業開発本部 事業開発統括部 統括部長 一瀬新氏、事業開発本部 事業開発統括部 水素事業開発部部長 長谷部哲也氏の3名。
まず青山氏は「ホンダは四輪、二輪、パワープロダクツから航空機まで、幅広い製品を提供するモビリティカンパニーです。そして、これらのモビリティを合わせると世界一のパワーユニットメーカーでもあります。創業以来、こうした多彩なパワーユニットを通じて、意思を持って動き出そうとする世界中の全ての人に行動するパワーを提供し、移動と暮らしの進化に貢献してまいりました」とあいさつ。
そして今後も、地球環境への負荷をなくすことと、尊い命を守る安全を達成することに関して徹底的に取り組み、2050年に全製品カーボンニュートラル化を目指すほか、クリーンエネルギー、リソースサーキュレーションの3つを柱にした「環境負荷ゼロの循環型社会の実現に貢献する」と語った。
続けて、四輪、二輪の電動化はもちろん、交換式バッテリを使った製品の利活用を拡大させるとともに、30年以上にわたり手掛けてきた「水素技術」や「燃料電池自動車」の開発で培ったノウハウをもとに、さまざまな商品展開にチャレンジしていくという。またホンダは、コア技術である燃料電池システムを、さまざまなアプリケーションに搭載して利用することで、水素を使い社会のカーボンニュートラル化を促進しつつ、水素供給を含めた周辺サービスをワンストップで提供しながら、水素需要の喚起にも貢献したいとしている。
そして最後に、「2022年4月には、この領域を統括する水素事業開発部を発足させ、燃料電池をコア技術としたさまざまな事業展開を行ないながら、これからの水素社会の構築に貢献をします」と締めくくった。
GMと共同開発してきた次世代燃料電池システム
水素事業開発部部長の長谷部氏は、「再生可能エネルギーによってカーボンニュートラルを実現するためには、季節や天候によるエネルギーの変動要素を安定化させる機能が必要となります。水素にはバッテリと比較して、エネルギー密度が高いという特徴や電気とのエネルギー変換が容易という特徴があり、電気を補う次世代のエネルギーとして有望視されている。また、燃料電池を使えば、他の液体ガス燃料と比較して、燃焼を伴わずにエネルギーを取り出せることから、CO2の出ないエミッショフリーなエネルギーになる」と、水素や燃料電池の特徴を紹介。
またホンダは1990年代後半から、実用化を見据えた燃料電池技術の乗用車への適用に着手。2002年には世界初となるFCV「FCX」を日米で同時発売し、2008年には燃料電池の出力密度の進化とともに、燃料電池システムの小型化を実現したセダンタイプのFCV「FCX クラリティ」を発売。そして2016年にはさらなる小型化を果たした燃料電池を搭載し、世界で初めて5人乗りを実現したセダンタイプのFCV「クラリティ FUEL CELL」を発売したと、これまでの流れを語った。
長谷部氏はさらに、2024年に発売を予定している次期FCVについて、「CR-Vのハイブリッドモデルをベースに、水素燃料タンクを2本搭載し、燃料電池システムとドライブユニットを一体搭載することで、ベースモデルの高いダイナミック性能を踏襲した一体感のあるハンドリングと、すっきりした乗り心地を実現する1台」と説明。
また、次期FCVはGMとの共同開発で、アメリカのミシガン州にある合弁会社「Fuel Cell System Manufacturing,LLC」で生産する次世代燃料電池システムを搭載する予定で、低コスト化とともに耐久性および耐低温性能の向上を図るほか、クラリティ FUEL CELLに搭載していた燃料電池システムと比較すると、仕様や構造を見直すことでコストを3分の1にするとともに、耐久性を2倍に向上させ、さらには耐低温の向上を実現していると説明。
水素は高いエネルギー密度のため運ぶことや短時間で充填可能なのが特徴で、バッテリでは実現が困難とされる稼働率の高い大型モビリティや大型インフラの電源など、短時間のエネルギー充填が必要なモビリティにより適していて、今後はFCVだけでなく、そうした用途を中心に積極活用していくという。
またホンダでは、この日初公開したの次世代燃料電池システムよりも、さらにコストを2分の1に低減し、耐久性を2倍に向上する目標値を設定し、使い勝手や費用面で従来のディーゼルエンジンと、トータルコストで互換可能となるような研究もスタートさせているという。
そのほかにも、水素技術のさらなる活躍の場として、宇宙領域での活用を想定した先行研究も開始しているといい、JAXA(宇宙航空研究開発機構)とは有人月面探査で、人の居住空間に電力供給を行なう循環型再生エネルギーシステムについて研究開発契約を締結。宇宙領域での燃料電池技術、高圧水電解技術などの水素技術の研究を進めることで、ホンダのコア技術をさらに磨き、燃料電池による貢献のフィールドを拡大すると締めくくった。
コアドメインとして設定した4つの領域に注力して展開
続いて水素技術の事情計画が一瀬氏より語られた。一瀬氏はセクター別CO2排出量について、「発電・熱」「運輸」「産業」と3つのセクターが全体の90%弱を占めていて、ホンダはこれまで運用部門を中心にCO2削減に取り組んできたが、「今後は産業部門も取り組んでいく」と説明。その観点から次世代燃料電池システムの利活用ドメインを「乗用車」だけでなく、「商用車」「定置電源」「建設機械」と計4つ領域をコアドメインととらえ事業開発を進めていくという。
この水素を活用したカーボンニュートラル実現には、完成機メーカーの新機種開発の投資、工数の削減、初期投資と運用コストの抑制、水素の安価で安定的な供給といった課題を同時に解決するサポートが必要で、ホンダは運用サポートにも積極的に推進し、ワンストップで導入企業のカーボンニュートラル化に貢献するとしている。
続いて次世代燃料電池システムの販売目標について一瀬氏は、「2020年代半ばには次世代システムで年間2000基を想定し、普及期と想定している2030年にはさらに進化させたシステムで約6万基程度まで拡大。そして市場の進展を踏まえながら、2030年代後半には数十万基レベルまで拡大していくことを見越しております」と展望を語った。
また、4つのコアドメインの1つ、新型FCEVについては、昨年北米で発売した「CR-V」をベースに、次世代燃料電池システムを搭載していて、2024年に北米と日本で発売予定とし、短い燃料充填時間で長距離を走行できるFCEVの特徴に加え、プラグイン機能により、家庭で充電できるEVの利便性も兼ね備えたモデルであると紹介。
さらに商用車については、重量が大きく航続距離も長い大型トラックは、水素エネルギーを活用するメリットが大きいと考えられ、大型トラックについては、燃料電池システムを複数基組み合わせることで高出力なパワーユニットの搭載が可能という。すでに中国では、東風汽車集団股份有限公司と共同で、次世代燃料電池システムを搭載した商用トラックの走行実証実験を2023年1月より湖北省で開始しているほか、日本でもいすゞ自動車との共同研究による燃料電池大型トラックのモニター車を使った公道での実証実験を2023年度中に開始予定という。
定置電源に関して一瀬氏は、「近年クラウドやビッグデータ活用の広がりによって、データセンターの必要電力が急伸し、BCP(Business Continuity Planning:事業継続計画)の観点でも非常用電源へのニーズが高まっています」と説明し、発電領域においてはクリーンで静かな非常用電源から、燃料電池システムの適用を提案するという。
そこでまずは、アメリカのカリフォルニア州の現地法人アメリカン・ホンダモーターの敷地内に「クラリティ FUEL CELL」の燃料電池システムを再利用した約500kWの定置電源を設置し、2月下旬よりデータセンター用の非常用電源として実証運用を開始。その後もグローバルでホンダの工場やデータセンターへ適用するとしている。
建設機械については、市場の中で大きなセグメントを占める「ショベル」や「ホイールローダー」から燃料電池システムの適用に取り組むとしていて、そのほかにも建設機械への水素供給は従来の固定式の水素ステーションだけでは対応が難しいため、業界団体や関係者と連携して課題解決を図ると述べている。
最後に一瀬氏は、「燃料電池システムの普及拡大には、水素供給を含めた水素エコシステムの形成が重要となるため、水素バリューチェーンのさまざまな企業との協業・連携を強化しながら、水素の活用拡大に向けた新たなチャレンジに本格的に取り組んでいく」と締めくくった。