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ホンダ、2023年のF1開幕に向けて記者会見 「2026年のパワーユニット製造者登録後に複数のF1チームからコンタクトがあった」とHRC渡辺社長

2023年2月20日 開催

今シーズンもオラクル・レッドブル・レーシング、スクーデリア・アルファタウリの2チームに供給する

 本田技研工業の子会社で2輪/4輪のレース活動を行なっているホンダ・レーシング(HRC)は2月20日、「HRC Sakura F1 2023 Press Briefing」と銘打った記者説明会を開催し、アルファタウリにパワーユニットを供給しているRBPT(Red Bull Power Trains)に技術サポートするF1活動に関しての説明を行なった。

 すでにエントリーリストなどでも明らかになっている通り、昨シーズンはRBPTとホンダの名称が入らない形でのパワーユニット製造者の登録名になっていたが、今シーズンは「ホンダ・RBPT(Honda RBPT)」とホンダの社名が入る形になり、よりホンダの関与が強くなった名称での参戦となる。

 ホンダ・レーシング 代表取締役社長の渡辺康治氏は、「26年規定のパワーユニット製造者登録を行なった後、複数のF1チームからコンタクトをいただいている。F1が今度どういう動きをしていくのかを含めて見ていきたいと考えているが、再参戦という結論には至っていない」と現時点では再参戦という結論は出ていないが、F1チームとの話し合いが行なわれた事実を明らかにし、何らかの形で参戦する可能性を探っていることを示唆した。

Honda RBPT H001をオラクル・レッドブル・レーシング、スクーデリア・アルファタウリにRBPTを通して供給

株式会社ホンダ・レーシング 代表取締役社長 渡辺康治氏

 ホンダ・レーシング 代表取締役社長の渡辺康治氏は「2022年の4月に二輪、四輪のモータースポーツ活動を統合して新生HRCとしてスタートを切った。2輪、4輪の分野でそれぞれが持っている技術の相互運用と効率化を実現し、ホンダのDNAであるモータースポーツ活動を確実に継承できるように強い基盤を築いていきたい」とコメント。

 また、「本日はF1に焦点を当ててHRCの取り組みを説明していきたい。22年シーズンにおいてHRCはレッドブルのパートナーとしてRBPTにパワーユニットを供給し、オラクル・レッドブル・レーシングとスクーデリア・アルファタウリの2チームにサポートを提供し、オラクル・レッドブル・レーシングが2つのタイトルを獲得している」。

「2023年も引き続き両チームをサポートし、両チームのマシンにはホンダロゴとHRCのロゴを入れており、パワーユニットの製造者名にホンダが入るようになった。パワーユニットはHonda RBPT H001として23年を戦っていく。ホンダの名称が入ることをうれしく思っており、ホンダのブランドが入った両チームを全力でサポートしていくので、今シーズンも応援よろしくお願いしたい」と説明した。

第4期ホンダF1の大逆襲を実現した立役者の浅木泰昭氏はホンダを4月末で定年退職

株式会社ホンダ・レーシング 常務取締役 四輪レース開発部 部長 浅木泰昭氏

 続いてホンダF1第4期で後半に成績を急激に上向きにさせた立役者として知られるホンダ・レーシング 常務取締役 四輪レース開発部 部長の浅木泰昭氏が説明を行なった。その冒頭で浅木氏は3月末を持って現職から退き、4月末でホンダを定年退職することを明らかにした。

浅木氏のコメント

 3月末に現在の部長職を退き、4月末でホンダを定年退職する。そこで、これまでF1に関わってきた5年間について説明し、ホンダの技術者がどうF1に関わっているかを説明したい。

 ホンダ創業者の本田宗一郎はレースがなければホンダがないといった。それを現代風に言うとレースはホンダのDNAだということになるが、四輪で言えば世界最高峰のレースであるF1に参戦して勝つということになり、ホンダがレースをすること(の意味)だと考えている。世界のトップレースで勝つということは、技術者が世界一になるということだ。しかし、サラリーマンの技術者が勝つというのは実は大変無謀なことだ。

浅木氏のキャリア

 そうしたホンダのレースに参戦する意味をよく示しているのが私のキャリアだと考えているので、よくこの私の経歴のスライドを使わせてもらっている。私は第2期F1に参加させてもらい勝つことを体験し、それを持って量産に移ってV6エンジンの開発などを行なっていた。1990年ごろホンダは経営的に厳しく他のメーカーに買収されるのではないかと言われていた。そうした中で、当時日本は豊かになって子育てに必要なクルマのニーズが高まっており、初代オデッセイを開発してヒットしたことがホンダの苦境を救った。

 また、米国に移ったときにはトヨタのカムリとホンダのアコードが激しい競争を繰り広げていたが、カムリが6速ATを入れてくると言うことになったときにホンダにはその選択肢がなかった。そこで燃費競争で負けるのがいやで気筒停止のエンジン技術を開発し、アコードの魅力を増して燃費で戦えるようにした。また、N-BOXの開発では当時ホンダの軽自動車は全く売れていなかったが、魅力的な軽自動車を世に出すことでホンダの立て直しに貢献した。

2018年にトロロッソとの提携が再スタートになった

 そうした中で、60歳まであと半年というところで、F1を見てくれないかという話をもらった。世界一になった自信でここまできた会社が、パワーユニットサプライヤーの中で唯一1勝もできずに撤退してしまうのではDNAが途切れてしまうと考えて引き受けることにした。そしてトロロッソ(現在のアルファタウリの前身)が苦しい時期のわれわれに手を差し伸べてくれて、レッドブルからの信頼を勝ち取った。

高速燃焼を改善
新燃料の導入

 技術開発の観点では、当初はトップチーム(筆者注:具体的にはメルセデスのパワーユニットのことだと思われる)と大きな性能差があったが、エンジン内部での高速燃焼に関してホンダのエンジニアがもがき苦しみながら見つけてくれて追いつくことに成功した。そして2019年にはホンダの別の部門にも協力してもらい、新燃料を開発して投入した。この新燃料では単に性能だけでなく、カーボンニュートラルフューエルとすることも可能にしており、2021年はそれを使ってチャンピオンになった。

2019年のオーストリアGPで復帰後初優勝
2019年ブラジルGPで1-2フィニッシュ
2020年のイタリアGPでアルファタウリのピエール・ガスリー選手が優勝

 思い出深いレースとしては、2019年のオーストリアGPでのマックス・フェルスタッペン選手による復帰後の初優勝、2020年のイタリアGPでの一緒に苦しい時期を過ごしてきたアルファタウリとピエール・ガスリー選手による優勝などがある。

バッテリセルの内製化
2021年の最終戦でチャンピオン獲得

 そして2020年にはF1からの撤退が決定された。私が知ったのは発表の10日前だったが、このままでは終われないと新骨骼パワーユニットの開発を許可してもらい、奇跡的に開幕に間に合わせることができた。また、バッテリセルのホンダ内製化も実現し、2021年のシルバーストーンでのイギリスGPで投入することができた。そして2021年の最終戦アブダビGPでは最終ラップで逆転してドライバーチャンピオンになることができた。

日本GPで1-2フィニッシュしてドライバータイトルを獲得

 2022年はホンダの知財で作ったパワーユニットをRBPTに供給してオペレーションもホンダが行なう形で参戦してきて、ホンダのホームレース(日本GP)で1-2フィニッシュを達成し、さらにチャンピオンも獲得することができた。その日本GPでホンダ関係者を代表してポディウムに登ることができたことはよい思い出だ。

武内伊久雄氏が四輪開発部長として着任する

 今後4月1日からは私の後任として武内伊久雄が着任する。今後ともホンダとHRCをよろしくお願いしたい。

2023年シーズンに向けては信頼性向上に向けた開発を行ない、プレシーズンテストの準備はすでに整っている

株式会社ホンダ・レーシング エグゼクティブチーフエンジニア F1プロジェクト LPL(総責任者) 角田哲史氏

 ホンダ・レーシング エグゼクティブチーフエンジニア F1プロジェクト LPL(総責任者) 角田哲史氏は、今シーズンのHRCのF1参戦体制に関しての説明を行なった。

角田氏のコメント

 これまでCART参戦などをへて第3期F1、第4期F1に関わってきた。2022年のF1パワーユニットの競争で重要だったのは、2月に行なわれたホモロゲーション凍結までの開発だ(筆者注:F1のパワーユニットは2022年の開幕前の時点で開発が凍結され、信頼性向上に関わる部分以外は2025年末まで開発が凍結されている。そのスペックが凍結されるタイミングが昨年の2月)。

 2021年シーズン中からホモロゲーションまで全力で開発し、そのパワーユニットをRBPTに供給してきた。ホンダの方針でエンジニアはカーボンニュートラルの開発へと移行していったが、オペレーションに問題がない程度の人員は引き続き残っており、多少のトラブルはあったものの安定して運営できた。HRC Sakura(HRCの本社)のミッションルームからも的確にサポートすることができ、オラクル・レッドブル・レーシングのタイトル獲得に貢献できたことをうれしく思っている。

角田氏の肩書き
これまでの経歴

 2023年に向けては、出力アップはできないが、信頼性の向上にはさまざまな手を打ってきた。(ホモロゲーション凍結前までは)性能優先で開発してきたが、E10燃料導入で下がった部分を補ったりすることで、エンジン内部の負荷は上がってしまっていた。シーズン中にもそうした問題がいくつか顕在化したため、今シーズンに向けてはそこの改善に取り組んできた。

 また、パワーユニットの理解を深めることで制御やエネルギーマネジメントにも努めて、MGU-Kのデプロイ、組立精度の向上なども行なってきており、すでに今週から行なわれる予定のプレシーズンテストに向けて準備が整っている。RBPTへの技術支援を精いっぱい行なっていきたい。

いくつかのF1チームからのコンタクトがあったとHRC渡辺社長

左から株式会社ホンダ・レーシング エグゼクティブチーフエンジニア F1プロジェクト LPL(総責任者) 角田哲史氏、株式会社ホンダ・レーシング 代表取締役社長 渡辺康治氏、株式会社ホンダ・レーシング 常務取締役 四輪レース開発部 部長 浅木泰昭氏

 3人のスピーカーによるプレゼンテーションの終了後には、記者からの質疑応答が行なわれた。

――FIAは2026年からF1のパワーユニットサプライヤーの1つとしてホンダを登録した。ホンダは2026年のルールに向けてエンジン開発をしているのか? また、2026年にF1参戦する予定はあるのか? あるとすればパワーユニットのサプライヤーなのか、ワークスチームなのか、どのような立場になるか?

渡辺氏:2026年以降のF1は電動化に大きく舵を切っている。それはホンダの方向性であるカーボンニュートラルの実現と合致している。そうしたこともありパワーユニット製造者としての登録を行なった。それは今後F1がどういう動きをして、レース全体がどうなっていくのかをしっかり見ていくためだ。

 パワーユニット製造者登録を行なった後、複数のF1チームからコンタクトをいただいている。F1が今度どういう動きをしていくのかを含めて見ていきたいと考えているが、再参戦という結論には至っていない。

 パワーユニットを開発しているのかという点に関しては、2026年からのF1ルールの中でホンダの技術として生きてくるものに関しては開発を続けている。

――マシンのロゴにホンダが入ったのはどうしてか?

渡辺氏:ロゴに関しては2022年の日本GPからサイドにホンダ、ノーズにHRCというロゴが入る形になっており、本年もそれは同様だ。HRCが両チームに対して技術支援を行なっており、その絆の象徴としてホンダのロゴを入れていただいている。

――HRCの開発リソースをカーボンニュートラルの開発に振り分けたという説明があったが、それでリソースが不足したりしないのか?

角田氏:カーボンニュートラルの方にリソースは割いたが、パワーユニットの運用には必要なリソースはある。残ったメンバーで新しい技術の開発も行なっている。

――引退される浅木氏に、ホンダはレースだけでなく会社としても転換点にあると思うが、後輩に伝えたいことはあるか?

浅木氏:レースはホンダのDNAと申し上げたが、世界一になったのだという自信を背景に新しい世界を切り開いていってほしい。苦しいことを乗り越えた技術者にしか分からないことがあり、そこが他社と違うのだというのを見せていってほしい。後輩たちには大変期待している。

――ライバルメーカーは2023年向けのパワーユニットで信頼性の向上を活用してパフォーマンスを改善していると言われているが、HRCはどうか?

角田氏:信頼性を上げることでパワーユニットの最高出力が上がることはないし、最高出力を上げることは許されていない。しかし、信頼性を上げることで使用数に制限があるなかでその使い方で差を出すということなら可能だ。

――レッドブルが2026年からフォードと提携することが発表された。不安になっているファンもいると思うがメッセージはあるか?

渡辺氏:2026年からレッドブルがフォードと組むということは事前に連絡をいただいていた。しかし、2025年までは両社がしっかりと信頼関係を持ってチャンピオンを狙っていく、そこはぶれないでやっていきたい。レッドブルがフォードと組むことに何かを言う立場にはないが、レッドブルとの協力関係はいろいろあるので、そこはこれまで通りしっかりやっていきたい。

――レッドブルとの話が壊れて失敗したのはなぜなのか?

渡辺氏:別に失敗になったとは思っていない。レッドブルとはいろいろなコミュニケーションをしており、さまざまな話をしている。結果的に2026年以降は一緒にやることはないとお互いに決めた。2025年まではこれまで通りの関係を継続することになる。

――クリスチャン・ホーナー氏(オラクル・レッドブル・レーシングチーム代表)はホンダと続けていくのは話が複雑過ぎると言っていたが、それに対してホンダ側の見解は?

渡辺氏:レッドブルとは普段から密接にやりとりをしており、さまざまな議論をしている。その中で両社の判断という形なので、これ以上何かをお話しすることはない。