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ホンダ「Modulo X」シリーズ10周年記念イベント 土屋圭市氏×開発福田氏&湯沢氏によるスペシャルトークショーも実施
2023年3月6日 11:17
- 2023年3月5日 実施
ホンダアクセスは3月5日、ホンダ純正コンプリートカー「Modulo X(モデューロエックス)」の誕生10周年を記念して、東京都渋谷区にある代官山 T-SITEにて「Modulo Xシリーズ10周年記念モーニングクルーズ」を開催した。
イベント会場には、超高倍率の抽選に当選したModulo X約50台が集まったほか、Modulo X開発アドバイザーの土屋圭市氏、ホンダアクセスModulo X開発統括の福田正剛氏、ホンダアクセスModulo X完成車性能担当の湯沢峰司氏、カーライフ・ジャーナリストのまるも亜希子氏が参加。4人は駐車場に止めてあるオーナーカーを見てまわりながら、直接話しかけてコミュニケーションを楽しんでいた。
前日に鈴鹿サーキットで開催されていた「モータースポーツファン感謝デー」でステージトークショーを行なったのち東京へ移動してきたという土屋圭市氏は、「Modulo Xにかける想いが強いので、鈴鹿を抜け出してきました」とあいさつ。
また、会場内には最初のコンプリートカー「N-BOX Modulo X」をはじめ、歴代のModulo Xや、それぞれの開発裏話が書かれたパネルなども展示。改めて開発に携わってきたスタッフの想いを形にしていた。
スペシャルトークショーも実施
イベント後半は、代官山 蔦屋書店2階にあるシェアラウンジのイベントスペースにて、まるも亜希子氏をMCに迎え、スペシャルトークショーを実施。
この10年を振り返った土屋氏は、「あっという間の10年だったし、まさか半導体不足でクルマが作れない状況が起こるなんて思いもしなかった」とコメント。続けて開発の流れについては、「福田さんが次はこういうModulo Xを作るんだと言ってきたら、それのライバルになりそうな国産車も輸入車も先に乗っておくわけ。それで福田さんと湯沢さんにこのメーカーはこういう方向性で仕上げている。このメーカーにできて、Modulo Xにできない訳ないよね?って伝えるの。そうすると福田さんから、『3倍も金額が違いますよ』って返ってくるわけ。で、金の話は知らんと言いながら、10年間作り続けてきました」とエピソードを紹介。
同じく福田氏は、「10年……長いようで短いようで、とにかくぎっしり詰まっていました。実はModulo X専属のスタッフはいなくて、みんな副業のようなものなんです。実際には別の仕事があって、もっといいクルマを作りたいという“情熱”を持ったスタッフが、自分の意思で参加しているんですね。それに対して土屋さんも最高の走りを見せてくれるから、こういうクルマができあがったんだと思います」と、この10年間を反芻した。
新卒で入社して開発に携わってきた湯沢氏は「普通のクルマ好きがいきなり職人と呼ばれるレベルの2人と仕事したわけです。これまで学んできた理論なんか関係ないって言われるし、今まで一般論だったこともあれ?違う?ってなるし、ついていくのに必死でした。楽しかったけれど、言っていることを分からなきゃ、追い付かなきゃってプレッシャーばかりでした。でも今は、その言葉の重みが分かるようになり、逆に今度はこれをユーザーに自分の言葉で伝えなきゃ、伝えたい!ってなっていますね」とModulo Xと一緒に成長してきたと話す。
Modulo Xの最大の特徴でもある“実効空力”についても改めて解説。湯沢氏は「空力は100km/h以上とか高速域じゃないと効かないのでは?と思われている人も多いようですが、日常生活のなかでその効果をクルマのなかで感じられるものを実効空力と名付けて開発しています。エアロパーツなのでもちろん見た目も重要ですが、空力の効果を知ってもらいたいと考えて開発しています。実際に空力でサスペンション変えたの?って思うくらい変化を与えられます」と解説。
福田氏も「よく土屋さんから、効果があってもユーザーが欲しくなる造形じゃないと意味がないと言われました。さっき駐車場に止めてある皆さんのクルマを土屋さんと眺めていて、やっぱりいいねと思いました」と補足。
実効空力の開発に関して土屋氏は「レーシングカーより大変。レーシングカーはタイムが速ければそれでOKけど、Modulo Xはいかに乗り心地をよくして、風の影響を受けないようにするかだからね。自転車に乗って手を出せば風圧を感じるように、20km/h~30km/hでもエアロは絶対に効果があるから、開発ではテストコースで限界速度域まで出してみるし、トラックの横から出たときに風の影響がどうあるかまで検証している。本当に大変だよ」と開発の苦労を振り返った。
続けて、「福田さんが何も教えないのよ。見て学べ自分で考えろスタイル。でも実はこれは、福田さんの前の開発のボス古橋さんの時代から同じ。乗り終わって『本当にこれでいいのか?』だけ言って帰るもんだから、湯沢さんは一晩中自分で考えて何か変えてくる、そしてまた福田さんが乗るの繰り返し。普通なら心折れちゃうよね。でもModulo Xの開発スタッフはみんな情熱があるから辞めないのよ。あ、僕はちゃんと優しくアドバイスしてますよ(笑)」と土屋氏。
また、事前のアンケートで心に残るModulo Xについて土屋氏は「ステップワゴン」と回答していて、その理由は「一番開発に時間がかかったのは2年半のS660だけど、ステップワゴンも2年くらいかかっている。ただステップワゴンは、運転するお父さんだけが気持ちいじゃなくて、2列目に乗っているお母さんや子供も気持ちいい。手に持っているジュースがこぼれない、お菓子が飛んでいかないサスペンションを作らなきゃと思っていたから時間がかかった」と語る。
福田氏も当時を思い出し「テストコースで土屋さんに乗って下さいってお願いしたら、いきなりスライドドアを開けるんですよ。え? 運転席じゃないの!って驚きましたよ。仕方ないから自分が運転するんですけど、少しずつ背もたれの角度を寝かし始めるんです。いろいろな状況をくまなくチェックしているんですよ」とコメント。
また心に残るModulo Xについて福田氏と湯沢氏は2人とも「S660」と回答。その理由について湯沢氏は「もともとS660用純正アクセサリーの開発でもプロジェクトリーダーをやっていたので思い入れがありますね。当時はまだS660でModulo Xの計画はなかったのですが、自分的にはそこを視野に入れて開発していました」と語る。苦労したポイントについては「S660はTYPE Rじゃないんだよなと思っていて、GT(グランドツーリング)カーにしたいと考えていました。せっかくリアにエンジンを搭載している後輪駆動車なんだから、後輪のけり出しを感じられる、それでいて懐の深い乗り味を作り出すのがとても難しかったです」と回答。
福田氏は「Modulo Xを作るのは費用もかかりますが、湯沢くんが『小さなGT3を作るんです』って真顔で言ってきて、開発コンセプトを書く紙には『覚醒』とだけ書いてあって、最初は何じゃこりゃ?って思っていましたね。でも、共通の意識として乗ってみたらこれは軽自動車じゃないなって思わせられるものを作ろうと言うのはあったと思います」と当時を思い出していた。
また、福田さんはどんな人かというアンケートに土屋氏は「こだわりのかたまり。しつこいし、うるさいし、ダメなものを次の日にまたテストするような人。レースだと前日にダメだったものはもうダメで、翌日に再テストなんかしないんだけど、福田さんはダメなもの(例えばダンパー)とダメなもの(例えばスプリング)を掛け合わせたら、何か化学反応が起きるかもしれないと思っていて、しつこく何度でもテストする。レースでは無駄な時間だと思っちゃうけど、実際にそれでいいものが見つかったこともあるから、福田さんにとっては無駄な時間なんてないんだなと思った」と人物像を語った。
また湯沢氏については漢字1文字で“忍”と書き、「本当に10年間もよく耐えられるなぁって思う。自分で考えて福田さんに何度も乗ってもらってやっとOKが出たら、今度は自分のところに持ってくるの繰り返しですよ。でもだから、今最終責任者という立場にいるんだと思う」とコメント。
逆に土屋氏の印象を聞かれた湯沢氏は「常にレーサーではなく、ユーザー目線です。ただ走るのが好きな人ではなく、ちゃんとこれを買うユーザー層はどんな人なのかを見ていているから凄い。開発者はついつい技術ばかり追い求めてしまい、視野が狭くなってしまうので、いつもそれを是正してもらっている感じですね」と回答した。
このほかにも、暴露トーク満載で行なわれたトークショー。最後は記念品プレゼントの抽選会が行なわれ幕を閉じた。