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「Gathers(ギャザズ)」35周年と振り返るカーオーディオ&ナビの進化の歴史 開発スタッフが当時の苦労話を語る
2023年4月3日 08:10
ホンダ車向けの純正アクセサリーを手がけるホンダアクセス。本田技研工業と本田技術研究所内の用品関連を研究・開発を行なう部門を統合・集約し、ホンダ用品研究所として1976年にスタート。その後、ホンダ用品技研を経て1987年から同社名へと変更し、各種用品を手がけてきた。取り扱う商品は多岐にわたっているが、中でも走りに関連したアイテムを扱う「Modulo(モデューロ)」、音や映像関連を扱う「Gathers(ギャザズ)」の両ブランドはホンダ車オーナーでなくても、一度は耳にしたことはあるだろう。
今回、注目したいのはギャザズだ。同ブランドは今年で35周年を迎えるとのことで、メディア向けに実機展示やインタビューの場が設けられたので紹介していきたい。ちなみに、このブランド名については正確な記録が残っていないとのことながら、一説には「いろいろなメーカーが集まって“togather(一緒に)する”という意味が込められているとか。
さて、本題に入る前に少しカーオーディオの歴史をひもといてみると、クルマの中で音楽を楽しむことが一般に普及しはじめたのは、1975年に世界初のカーコンポーネントステレオ(パイオニア製)が発売されて以降のこと。ホンダでいえば初代「シビック」がまだ販売されていた時代だ。以後、カーオーディオメーカーはもちろん、自動車メーカーもラインアップを強化させていく。ホンダも同様で初代「シティ」(1981年)や3代目「シビック」(1983年)あたりから、用品カタログにオーディオ機器が並ぶようになるものの、アフターマーケットのアイテムが選べるという程度でそれほど力が入ってはいなかった。
そうした流れを払拭すべく、「お客さまがもっと車内で音楽を楽しめるように、ホンダ車にあったカーオーディオを。」と誕生したのがギャザズなのだ。その時、実に1987年、世間は今まさにバブル景気が華開こうとしていたタイミング。中嶋悟氏がF1にレギュラー参戦をはじめた年でもある。
ギャザズとしてはじめて車両と連携して開発を行なったのは4代目シビック(1987年)、2代目「CR-X」(同)から。ベースはアルパイン、クラリオン、パイオニアの製品ながら、ボタン配置やボリューム位置、基本スペックなどは同社が策定しており、専用設計だからこそできる操作性やデザインを統一。各メーカーは内部構造や細部で個性を出すといった差別化が図られていた。ちなみに、当時は1DINサイズのカセットデッキが主流。CDプレーヤーもリリースが始まってはいたものの、まだまだマニア向けの位置づけだった。
1992年にはナビゲーションをラインアップ。パイオニアが1990年に発売した世界初のGPSカーナビ「AVIC-1」をベースにしたもので、地図などのデータを収録したマップカードがホンダ専用となるモデル。そのほか、液晶テレビや携帯電話ハンズフリーユニットなど、近年のトレンドへと繋がる第一歩を踏み出した年でもあった。
その次のトピックといえるのが、車内通信「GA-NET」の採用(1995年)。これによりオーディオユニットやナビゲーション、CDやMDプレーヤーをシームレスに接続可能とし、異なるメーカーの機器までもコントロールできるようになった。今日でも利用されているカーナビ画面でエアコンを操作するなんていうのも、この機能があるおかげなのだ。
2000年代に入るとオーディオ専用機は徐々に姿を消し、2DINタイプのカーナビがセンターコンソールの主役の座を確立する。近年ではPND(ポータブルナビゲーション)やディスプレイオーディオといった伏兵が現れつつも、カーナビは地デジ、「internavi」などの通信機能、ドライブレコーダーなどを取り込みつつ、より大きな画面を取り込むべく進化。8インチや9インチは当たり前となりつつ、ついには11.4インチの超大画面も登場。車両と連携して開発を行なえるメリットが、ここでも発揮されることになる。
カーナビの進化は軽量化との戦いだった
ギャザズ黎明期からカーナビの開発に携わってきたホンダアクセス 商品企画部 YPL課 ナビグループ アシスタントチーフエンジニア 大坪浩也氏、開発部NVD1ブロック アシスタントチーフエンジニア 佐藤亮氏にインタビューを行なうことができた。
カーナビのメディアは最初が専用メモリーカードで、続いてCD-ROM、DVD-ROM、そしてハードディスクへと変遷してきた。同社でも一時はこの3タイプをラインアップしていたこともり、10万円から上は40万円あたりまで幅広くラインアップしていたそうだ。また、この時期は同時に性能競争も激しくなりつつあり、本体の重量もどんどん増えていく傾向があった。中でも7インチのインダッシュモニターに加え、データ用と録音用で2台のハードディスクを搭載していたECLIPSE製のハイエンドモデルは、「過去一番重かったんじゃないかな?」と記憶に残っているとか。
なぜそこまで重さにコダワるかといえば、重量が増えることによりインパネまわりや取り付け部などに負荷が掛かり破損などの影響が出る可能性が無視できないこと。また、インダッシュモニターのような形状の場合は、取り付け部(一般的には本体を4本のビスでインパネ内部の骨組みに留める)から離れた位置に重量物が来ることで振動が大きくなる可能性もある。そのため、メーカー側に条件を提示してテストをしてもらったり、自社でも厳しい試験と検証を行ない、パスできなかった場合は軽量化や逆に補強を入れるなどの対処を行なっていたという。
同社の2DIN一体型モデルでは「結構、顔(パネル部分)で支えているんです。顔にゴムが付いていて全体で支えるみたいな構造」にすることで強度を高めているほか、「(2DINの内部は)1階建て、2階建てみたいな構造になっているんですが、その間を支えている構造部材をどれだけ減らすか」なんて地道な努力も行なわれているそうだ。
また、その一環として「(軽量かつ高剛性な素材である)マグネシウムで作ったらどれだけ軽くなるか」を検討したこともあるとか。その結果は確かに数百g程度の軽量化は実現できたものの、コスト面で折り合わず断念という結果になったようだ。
ただ、まったくの無駄足に終わったかというと、製品として世に出たアイテムもある。それが初代「インサイト」(1999年)向けに用意されたスピーカーだ。一見、ごく普通のスピーカーにしか見えないが、フレームがマグネシウムでマグネットも当時ではじめたばかりのネオジムを使うなど、こだわり満載の一品。コストをある程度無視して軽量化を追求したインサイト向けならではのアイテムといえる。
2010年代に入ってからは画面の大型化が進み新型「ステップワゴン」と「ZR-V」向けには、ついに11.4インチの大画面を搭載したHonda CONNECTナビ「LXM-237VFLi」が登場する。このモデルの特徴の1つと言えるのが、CD/DVDスロットへのアクセス方法。
一般的なナビの場合は、下部が手前側にチルトして上部にあるスロットにアクセスするスタイルだが、このモデルではディスプレイが電動で上にスライドすることで下部にスロットが現れるのだ。当然、本体(1.75DIN=高さ80mm)内部のCD/DVDプレーヤー部も上から下に移動しており、開発者自ら「奇策です」と語るこのスタイルは、従来の構造を踏襲できなかったタメに生まれたもの。単一車種のためにこれだけの専用設計を投入したのは「大英断だった」と振り返ったものの、車両の開発時から設計に関わることができるメリットが大きかったのは間違いない。
今後についてはどうだろうか? 大坪氏は「今後も大画面ナビが主流として続く一方、CarPlayやAndroid Autoがあれば十分だよというお客さまもだんだん増えてきている」と二極化を示唆しつつ、「ホンダの場合はこの領域を、まだたくさんのクルマが用品でやっています。お客さまの好みや予算に応じて選んでいただけるところは用品で設定したいと思ってます」とした。
昨今、純正ナビやディスプレイオーディオを標準で装備するモデルが増えつつあるものの、「ホンダの場合、N-BOXからステップワゴンまでいろいろなクルマがあるので、そういうところで選べる用意をしていくのがわれわれの使命だと考えている」と語ってくれた。
ナビゲーションやオーディオの高付加価値化がトレンド
近年では前述した大画面化に加え、高付加価値化を目指したオプション設定にも意欲的だ。その1つが、カーナビ用オプションとなる「リアカメラdeあんしんプラス」。最近のホンダ車には「ナビ装着用スペシャルパッケージ」に「リアワイドカメラ」が含まれているが、通常なら後方の映像が見えるだけのカメラを利用して、さらに安心感を高める機能を加えることができるのだ。
2016年に誕生したこの機能、現在では「3」に進化して「後退出庫サポート機能」「後方死角サポート機能」「後退駐車サポート機能」「後方車両お知らせ機能」の4つを実現。具体的な内容については写真を見れば一目瞭然。ちょっとした不安を解消し、安心感を高めてくれるのだ。
クルマそのものにも先進安全機能として「Honda SENSING」が装備されているけれど、こちらは映像で見えるのが嬉しいところ。価格も対応車種ならなんと2万2000円と、クルマ関連のアイテムとしては超お手ごろ。
もう1つがギャザズの基本に立ち返って「音」のグレードアップ。これは音響セッティングが可能なパナソニック製と三菱電機製の対応モデルに用意されたもので、ケンウッド製の「ギャザズ オーディオオプション ハイグレードスピーカー」と、「ステップワゴン」や「フィット」など対応車種それぞれの車室内の音響特性にあわせた専用セッティングデータがセットになったもの。
実際に聞き比べてみるとノーマルでもそれほど不満は感じさせないものの、装着車両は音の明瞭感や定位など明らかにひとクラス上の印象を受ける。オーディオのグレードアップは費用が高額って印象だけれども、こちらはトレードインスピーカー程度の価格なのでお手ごろだ。専門店にお願いするほどではないものの、普段のドライブでもう少しイイ音で好きな音楽を楽しみたい、なんてユーザーにはピッタリに違いない。