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2023年に始まった「フェラーリ・チャレンジ・ジャパンシリーズ」について、フェラーリ・ジャパン フェデリコ・パストレッリ社長に聞く

2023年4月8日~9日 開催

フェラーリ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 フェデリコ・パストレッリ氏

 フェラーリ・ジャパンは、4月8日~9日の2日間にわたってフェラーリのワンメイクレース「フェラーリ・チャレンジ・ジャパンシリーズ」の開幕戦を富士スピードウェイ(静岡県小山町)で開催した。同イベントは全日本スーパーフォーミュラ選手権と併催で行なわれたもので、フェラーリの公式発表によると、当初の予想を上まわる22台のエントリー(最終的にレース1に出走したのは21台)を集めて開催された。

 この会場で取材に応じたフェラーリ・ジャパン 代表取締役社長のフェデリコ・パストレッリ氏は、「日本はフェラーリにとって重要な市場であり、非常にブランド浸透率が高い。そして長いモータースポーツの歴史もあり、フェラーリ・チャレンジ・シリーズのリージョナルシリーズを開催するのにふさわしいと判断した」と述べ、英国に次いで2番目の国別シリーズの展開を決めた理由を説明した。

日本でもフェラーリ・チャレンジ・シリーズがスタート

フェラーリ・チャレンジ・ジャパンシリーズのスタートの様子

 モータースポーツと言えば、多くの読者にとってはファンとしてサーキットで観戦したり、テレビで見たり、好きなドライバーに声援を送る、そうした“観戦するスポーツ”としての側面が強いだろう。というのも、野球のバットやサッカーのボールとは違って、レースに参加するにはバットやボールとは桁が2つも3つも違う価格のレーシングカーが必要になるので、そのハードルは決して低くない。

 ただ、モータースポーツであっても参加型のイベントもあり、ジムカーナやダートラ、あるいはレーシングカートなどのグラスルーツ(草の根)と呼ばれる、必要とされる車両のコストが低いモータースポーツもある。例えばレンタルカートはヘルメットやグローブなどがあれば参加でき、身近なモータースポーツと言っていいだろう。

 そうしたプロドライバーが走るモータースポーツ、そしてグラスルーツのモータースポーツと並んで近年注目を集めているのが、ジェントルマン・モータースポーツと呼ばれる、高価なレースカーを買える富裕層(モータースポーツの世界ではそうしたドライバーをジェントルマン・ドライバーと呼んでいる)が自らレースカーを購入して参加するタイプのレースだ。SUPER GTのGT300の大多数を占めているFIA-GT3規格のレーシングカーはそうしたジェントルマン・ドライバーをターゲットとしたレースカーで、市販車をベースに改造することと、コスト上限を決め、かつBOP(Balance of Performance)で性能を調整することでレーシングカーとして低コストで激しい競争が可能なレースを実現している。

 そしてジェントルマン・ドライバーにとってもう1つの人気カテゴリーが、プレミアムモデルを販売するメーカーが行なっているワンメイクレースだ。ポルシェ、ランボルギーニといったプレミアムカー、あるいは日本風にいうとスーパーカーになるが、そうしたメーカーの多くが本国や欧州などでワンメイクレースを開催しており、ジェントルマン・ドライバーに人気を集めている。憧れのスーパーカーを目いっぱい走らせて、他のドライバーと競争できることなどが人気の理由だ。

 スーパーカーメーカーの代名詞と言ってよいフェラーリも例外ではなく、欧州などで「フェラーリ・チャレンジ・シリーズ」と呼ばれるワンメイクレースを開催している。2023年から日本で開催されるようになったフェラーリ・チャレンジ・ジャパンシリーズは、リージョナルシリーズとしては英国シリーズに次いで2番目に開設されたシリーズになる。

「日本でシリーズを始めたのは、日本市場が堅調で重要な市場であるから」とフェラーリ ジャパン パストレッリ社長

チャレンジ・シリーズで利用されている488 Challenge Evo

 フェラーリが日本でチャレンジ・シリーズを始めた理由について、フェラーリ・ジャパン 代表取締役社長 フェデリコ・パストレッリ氏は「いくつかの理由がある。1つ目としてフェラーリにとって日本市場は非常に堅調で、最も重要な市場の1つであること。2つ目としては、日本ではフェラーリは多くのお客さまに愛されてきた長い歴史があること。そして、最後に日本はモータースポーツが盛んで、こちらも長い歴史があるということがある。そのため、フェラーリは英国に次ぐ2つ目のリージョナルシリーズとして日本で開催することを選んだ」と説明する。

 フェラーリにとって日本市場は、長らくアジアの中で最も大きな市場だった歴史があり、フェラーリブランドが非常に浸透している市場と言える。それはフェラーリを購入するような富裕層の間だけでなく、昔のスーパーカーブームやF1でのフェラーリの活躍などにより、モータースポーツファンの間にもフェラーリブランドは深く浸透していると言ってよい。そのような市場背景があるからこそ、フェラーリは日本でフェラーリ・チャレンジ・ジャパンシリーズを開催することを決めたということだ。

 フェラーリとモータースポーツと言えば、やはりF1や今シーズンから参戦を開始し、開幕戦で3位入賞と活躍を見せたWECなどが有名だろう。言うまでもなく、フェラーリはF1において欠かせないアイコニックな存在であり、フェラーリのないF1など成立しないと言っても過言ではない存在だ。フェラーリ ジャパンのパストレッリ社長は「大きな違いはワークスレーシングかカスタマーレーシングかということにある。F1やWECはワークスチームであり、フェラーリにとっては競合と競って結果を出すためのレースであり、フェラーリにとってこのチャレンジは常に重要だ。それに対してカスタマーレーシングはお客さまのためのレースであり、お客さまが楽しんでいただけるようにする。それが重要だ」と述べ、カスタマーレーシングはフェラーリにとって顧客サービスの一環であり、顧客が楽しめるようなレースを目指していると説明した。

 なお、今シーズンから参戦しているWECに関しては「フェラーリの歴史の中で耐久レースは重要な意味を示している。それを本年は富士で見られるので、今から楽しみ」とし、フェラーリ ジャパンとしてもF1 日本GP同様に重要なイベントと位置付けて、顧客などを招待していきたいと述べた。

シリーズにはディーラーがチームとして関わり、ディーラーのビジネスを後押しする側面も

チャレンジ・シリーズで利用されている488 Challenge Evo

 そうしたフェラーリ・チャレンジ・ジャパンシリーズだが、参戦車両は488シリーズをベースにサスペンションやブレーキなどを強化している「488 Challenge Evo」で、前述のFIA-GT3規定で作られている488 GT3 Evoと市販車の中間的な存在になる。エンジンは3.9リッターV8ターボで、最高出力は670CV、最大トルクは760Nmというスペックになっている。なお、シリーズの詳細などに関しては過去記事で詳しく紹介しているので、合わせて参照いただきたい。

488 Challenge Evoのコクピット
488 Challenge Evoのエンジン

 フェラーリ・チャレンジ・ジャパンシリーズでは、ドライバーは購入した車両をフェラーリの正規ディーラーにメンテナンスを委託して参戦する形になる。今回の富士スピードウェイで開催されたレースには、フェラーリのセミワークス的な存在になるAFコルセ・チームからエンジニアやメカニックが来日し、ディーラーによるチームの技術サポートなどを行なっているという。フェラーリの関係者によれば、このようなサポートを行なっているのも日本のディーラーチームのレベルを底上げし、将来的には日本にAFコルセに匹敵するようなディーラーもレースもやるようなチームに育っていってほしいという想いがあるからだという。

 フェラーリ ジャパンのパストレッリ社長は「われわれのディーラーは市販車だけを販売しているのではなく、レーシングカーも販売しており、それもビジネスの一部分になっている。そのため、われわれとしてもこうしたイベントを開催して、彼らの後押しをする必要があると考えており、それも日本でシリーズを始めた理由の1つ」と説明した。

 そしてディーラーのビジネスを後押しする意味の中には、交換パーツの供給や販売という別のビジネスの側面もあると考えられる。レーシングカーではブレーキなどの消耗品はもちろんこと、クラッシュが発生すればボディカウルの交換も発生するなど、さまざまなパーツが必要になる。

 フェラーリの関係者によれば、そうしたことを想定して、すでに2023年のシリーズに必要な交換部品は日本にストックとして用意されており、ユーザーの要望に直ちに応えられるような供給体制を敷いているとのことだった。

まずは走行会からスタートして、レース参戦へとステップアップすることも可能

タイヤはピレリが供給

 フェラーリ ジャパンのパストレッリ社長は「われわれのシリーズには4つのカテゴリーが用意されており、ドライバーがそれぞれのレベルに合わせて参加できる。また、競争までは望んでいないというお客さまには、クラブ・チャレンジというサーキット走行会も用意しており、それに参加していただくこともできる」と述べ、488 Challenge Evoを購入してサーキット走行会にだけ参加することも可能で、クラブ・チャレンジに参加した後にレースにも出てみたいと思えばチャレンジ・シリーズに参加することも可能とのことだった。

 フェラーリによれば、今回のフェラーリ・チャレンジ・ジャパンシリーズに22台がエントリーしたうち、5~6名のドライバーがクラブ・チャレンジの卒業生とのこと。まずは走行会(クラブ・チャレンジ)に参加し、そこからレース(チャレンジ・シリーズ)にステップアップしてもらう、そうした形をイメージしているということだった。

 なお、海外のフェラーリ・チャレンジ・シリーズには、ゲストドライバーとして著名ドライバーが呼ばれることがある。フェラーリに縁があり日本でも人気のドライバーと言えばキミ・ライコネン氏、ジャンカルロ・フィジケラ氏、フィリペ・マッサ氏など少し考えただけでいくつもの候補が浮かぶが、フェラーリ ジャパンのパストレッリ社長は「そうしたフェラーリに縁があるドライバーが日本で人気があることは理解している。ただ、実際に来ていただくとなるとさまざまな準備が必要になるので、今の時点ではあるともないとも言えない」と、機会があれば検討してみたいが、今のところは具体的な計画はないと答えてくれた。

 また、同じように日本の若手ドライバーを育成プログラムに入れて育てる気はないかと聞いてみたところ、「その可能性は十分にある。今の時点では誰か具体的に計画があるわけではないが、ドアはオープンだ」と述べ、将来的にプロ志望の若手ドライバーをフェラーリ・チャレンジ・ジャパンシリーズに参戦させて育成する可能性はあるとした。

 過去には競合メーカーのポルシェのワンメイクシリーズに、ホンダの育成を外れた笹原右京選手が参戦してシリーズチャンピオンを獲得し、翌年以降、SUPER GTなどの上位のシリーズへとステップアップしていった例もある。日本のファンとしては、フェラーリのジュニアドライバーに日本人ドライバーが選ばれればシリーズへの親近感もより近くなると考えられるだけに、将来的にはそういった展開にも期待したいところだ。

フェラーリ・チャレンジ・シリーズのロゴ