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東芝、車載半導体事業戦略説明会 パワー半導体の最注力分野Si-MOSFETで事業拡大へ

2023年5月24日 開催

東芝デバイス&ストレージ株式会社 半導体応用技術センター車載ソリューション応用技術部シニアマネジャーの来島正一郎氏

 東芝デバイス&ストレージは5月24日、車載半導体事業の取り組みについて説明会を開催した。東芝デバイス&ストレージ 半導体応用技術センター車載ソリューション応用技術部シニアマネジャーの来島正一郎氏は、「東芝は長年に渡り、車載市場にパワー半導体やアナログIC製品などを展開してきた経緯がある。パワー半導体は、電動化や電装化が進む車載インフラを支えるキーパーツであり、とくに小型化、高機能化要求が強い車載モーター市場に向けて新たなソリューションを提供していく」と語り、「100年に一度の大変革を迎えている車載市場に向けて、パワー半導体とモーター制御ICで最適なソリューション提案を行ない、変革期の自動車業界に対して新たな価値を創造していきたい」と述べた。

東芝のパワー半導体事業

 東芝では、1957年からパワー半導体の事業に取り組んでおり、65年以上の歴史を持つ。

東芝パワー半導体の製品技術推移

 同社では、車載向けソリューションとして、MOSFETやIGBTなどのパワー半導体のほかに、モータードライバーや車載向けフォトカプラー、ブリッジIC、ファインセラッミクスなどを提供。インバータや電動パワステ、バッテリ管理、モーター制御などを通じて、省電力化や高効率化、小型化に貢献。環境対応車の拡大や、安心安全なシステム構築にも貢献していることを強調する。

「東芝のパワー半導体は、xEVのモーター駆動システムなどで多数使用されている。EV車への移行を支援するほか、CO2排出量削減への貢献、小型および高効率電圧変換により、軽量化と資源の効率的な使用をサポート。ガソリン車に見劣りしない航続距離の伸長にも貢献していく。電動化によりCO2排出量を削減することは、東芝が目指すカーボンニュートラルの実現にも貢献できる」などと述べた。

 車載半導体では、CASE(コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化)に向けて、それぞれ製品を提供しているという。

 具体的には、コネクテッドでは、車載インターフェースブリッジIC、CXPI通信IC、オーディオパワーアンプIC、ディスプレイコントローラなど、自動化では、TVSやBRTによる小信号デバイスやLV-IPD、パワーMOSFETなど、シェアリングでは車載インターフェースブリッジICや小信号デバイスなど、電動化ではモーター制御IC、パワーMOSFET、IGBT、SiC、フォトカプラーなどを提供しているという。

パワー半導体の最注力分野、Si-MOSFET

 パワー半導体においては、Si-MOSFETを最注力分野に掲げており、成長が見込まれる車載のほか、産業分野やサーバー市場も対象にして、事業を拡大していく考えだ。

「パワー半導体のなかでも車載向けの市場成長が大きく、とくに電動モーター関連市場の拡大に伴って、低耐圧MOSFET市場が急拡大すると予測している。自動車1台あたりの電子制御ユニット(ECU)は2020年には35個であったものが、2030年には48個へと約1.4倍に拡大すると予測されているが、ECUの中に搭載されるMOSFETは169個から267個へと約1.6倍になると予測されている。冗長性を確保するためにECUの増加よりも、MOSFETの増加量の方が大きくなる」という。

 車載向けパワー半導体では、175℃までの高温動作や、ゼロディフェクト品質、低損失化などが求められており、そうしたニーズに対応したモノづくりも進めている。

低耐圧MOSFET

 現在、東芝では12Vのバッテリに対して40V耐圧を実現するMOSFETと48Vのバッテリに対して80Vおよび100V耐圧のSi-MOSFETを製品化。主流となっているのは第9世代と呼ばれるもので、第8世代に比べて、オン抵抗低減率は15%となり、低いオン抵抗とスイッチング損失により、世界トップクラスの高性能を実現しているという。さらに第10世代では第8世代に比べて30%の低減、開発中の第11世代では40%の低減率になるという。

 また、前工程では、加賀東芝エレクトロニクスに建設している新棟での300mmラインにおける生産を予定しているとともに、後工程ではタイ工場での展開を拡大して生産能力を倍増させることになるという。

「パワー半導体は約500種類の豊富なパッケージを用意し、低ノイズ特性や高温動作保証、省エネの実現などのメリットがある。今後はCuクリップの技術を活用することで、大電流と低オン抵抗チップ、低抵抗パッケージの開発により電流密度を高めていく」などと語った。

SiC半導体で事業領域を拡大も

SiC半導体で事業領域を拡大させる

 一方、今後の取り組みとして化合物半導体(SiC/GaN)に触れた。

 現在、主力としているSi-MOSFETに比べて優れた材料物性を活かし、より高出力化、高効率化、小型化が実現でき、革新的な性能向上が期待できるSiC-MOSFETは、車載分野においてもパワー半導体の使い勝手を高めることができる。

 現在、3.3kVの鉄道向けモジュールを生産しているほか、これをベースに650Vおよび1.2kVのSiC-MOSFETのサンプル出荷を開始。今後は1.2kVの車載向けデバイスの開発を進めることになるという。

「SiCの適用によって消費電力が低減し、インバーターの小型化や軽量化に貢献できる。また、SiC化によりCO2排出量を低減できる。EV搭載バッテリの容量低減による軽量化が可能になり、走行距離の延伸にもつなげることができる」としている。

 東芝が開発に取り組んでいるSiC-MOSFETは第3世代といわれるもので、微細化技術とセル構造の最適化により使いやすさや低損失を実現。性能指数であるRon・Qgdは第2世代に比べて80%低減しており、スイッチング特性を大幅に改善できるという。さらに結晶欠陥の成長を抑制するbuilt-in SBD構造を採用しており、信頼性を高めることができるという。

 なお、東芝デバイス&ストレージはNEDO GI基金のSiC/GaNプロジェクトに採択されており、SiCモジュールでは優れた熱特性によりハイパワーでの高出力、高効率化が求められる機器への応用、GaNパワーデバイスでは高周波スイッチングにより、kWクラスでの高効率、小型化が求められる機器への応用に取り組んでおり、「次世代パワー半導体の開発や、電力機器への実装に向けた動きを加速していく」と述べた。

 一方、車載アナログICについても説明。これまでに46年間に渡り26億個の量産実績を持ち、とくに車載用モーター用途で実績があることを強調。「低振動や低騒音を実現したモーター用ICを提供しており、小型化、放熱対策によりコスト低減にも貢献する」と述べた。

 最新の車載モーター制御用LSIである「Smart MCD(Motor Control Device)」は、ワンチップでMSDとMCU(Motor Control Unit)の機能を備えており、システムの小型化に貢献するほか、さまざまなモーター制御アプリケーションに最適化し、今後増加する各部位で独立した制御を行なうゾーン化にも対応。独自アルゴリズムに基づくベクトル制御モデルを提供することで、ソフトウェア開発の負荷を低減できるという。「ハードウェアとソフトウェアの組み合わせによって、モーター制御に特化した命令で電力性能比の飛躍的に向上したり、技術環境変化へ追従する柔軟性を確保したりできる。GUIで動作させることができる開発環境も提供する」という。2023年後半以降のリリースを予定している。

 さらに、シミュレーションによって設計や検証、開発を行なうMBD(Model Based Development)に取り組んでいることにも言及。車載用パワー半導体に関する熱およびノイズのシミュレーション技術として「Accu-ROM(Accurate Reduced-Order Modeling)」を提供するという。電動パワステに関するシミュレーションの場合、これまでは約33時間かかっていたものが3.5時間に短縮できるという。「従来のシミュレーションと、Acc-ROM技術によるシミュレーション結果には差がなく、時間の大幅短縮が実現できている。AnsysのTwinBuilderにAccu-ROMを組み込んで提供している」などとした。