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東芝、無充電EVの実現に貢献する新たな「透過型亜酸化銅(Cu2O)太陽電池」を開発

2021年12月22日 発表

EV(電気自動車)のボンネットとルーフに新開発の太陽電池を搭載し、1日の目標航続距離39kmを目指すという

1度も充電せずにEV(電気自動車)を乗りまわせる時代がくる?

 東芝は12月22日、無充電EV(電気自動車)などの実現に貢献する新たな「透過型亜酸化銅(Cu2O)太陽電池」を開発したと発表した。

 発電層の不純物を抑制することで、世界最高の発電効率となる8.4%を実現。この太陽電池をEVに搭載した場合、充電なしでの航続距離は、1日あたり約35kmに達すると試算。将来的には1日あたり約40kmの走行が可能になり、走行で消費した電気を太陽光発電で蓄電池に補充することで、さらに長距離の走行が可能になるとしている。今後も、EVを購入したら、1度も充電をせずに走行し続けることができる世界を目指すという。

 透過型亜酸化銅(Cu2O)太陽電池は、低コストで高効率なタンデム型太陽電池の実現に向けて活用が期待されているもの。タンデム型太陽電池とは、2つの太陽電池セルをボトムセルとトップセルとして重ね合わせ、両方のセルで発電することにより、全体としての発電効率を上げるのが特徴だ。

東芝のビジョン
東芝の低コスト・高効率タンデム型太陽電池技術
目標効率とポテンシャル

 東芝では2019年に、世界で初めてトップセルとして、透過型Cu2O太陽電池を開発。既存のSi(シリコン)太陽電池などを重ねて利用することで、低コストで高効率なトップセルの開発が可能になることを示し、Cu2O/Siタンデム型太陽電池として、Si太陽電池単体効率を上まわる23.8%の発電効率の実証に成功していた。現在でも透過型Cu2O太陽電池の実現に成功しているのは東芝だけだという。

 代表的な高効率太陽電池であるガリウムヒ素半導体(GaAs)などの「III-V族太陽電池」を積層したタンデム型太陽電池は、30%台の発電効率が報告されているが、製造コストがSi単体の太陽電池と比べて数100倍~5000倍と高く、幅広い製品に適用するには課題があった。透過型Cu2O太陽電池は、銅と酸素の化合物であるCu2Oを主な材料とし、III-V族半導体と比べて、基板、原材料、製造装置はいずれも安価で、大幅な低コスト化が期待できる。

 東芝 研究開発センター ナノ材料・フロンティア研究所トランスデューサ技術ラボラトリー フェローの山本和重氏は、「GaAsタンデム太陽電池を自動車に搭載した場合、2000万円程度かかり、車体価格をはるかに上まわってしまう。幅広く活用するには大幅なコストダウンが必要になり、そこに、透過型Cu2O太陽電池が貢献できる。地球上に豊富に存在する資源である銅と酸素によって構築され、基板にはガラスを用い、半導体や部品製造で使用されているスパッタ装置を利用できる。製造コスト、資源、信頼性の点で優れている。経年劣化要因もなく、欠点が少ない技術である」とした。

株式会社東芝 研究開発センター ナノ材料・フロンティア研究所トランスデューサ技術ラボラトリー フェロー 山本和重氏

 また、透過型Cu2O太陽電池は、短波長光を吸収して発電し、長波長光を透過する構造となっているため、長波長光で発電するSi太陽電池をボトムセルに用いることで、短波長から長波長まで幅広い波長の光をエネルギーに変換することができ、限られた設置面積でも必要な電力を供給できる低コスト高効率太陽電池を実現できる。

 今回発表した技術では、透過型Cu2O太陽電池を高効率Si太陽電池に積層することで、全体の発電効率を27.4%に高めることができると試算。Cu2O/Siタンデム型太陽電池が、Si太陽電池の世界最高効率26.7%を超えるポテンシャルを有することを確認したという。

 EVなどの限られた設置面積で、必要な電力を供給できる高効率タンデム型太陽電池の実現につなげることができる技術に位置づけており、同社ではEVや電車、船舶、ドローンへの活用に加えて、成層圏通信プラットフォームであるHAPSなど、さまざまなモビリティ領域への適用が可能になるとしている。

今回の技術の概要
透過型Cu2Oセルの結果のまとめ
タンデム効率の試算

 東芝では、発電効率を低下させる原因となるCu2O発電層中の不純物の量を制御する独自技術を開発し、優れた光透過性を有する透過型Cu2O太陽電池を実現したという。Cu2Oの半導体結晶としての性質により、結晶中には酸化銅(CuO)や、銅(Cu)といった不純物が生成されやすく、それらが発電効率と光透過性を低下させる原因となっていた。X線回折法を用いて、Cu2O発電層に含まれる、ごく微量のCuOやCuを直接検出することで不純物の量を精密に数値化し、これらの不純物が最小化する成膜プロセス条件を特定。優れた光透過性と高い発電特性を両立させた透過型Cu2O太陽電池の開発に成功した。Cu2O発電層には、大面積に拡張可能な成膜法である反応性スパッタ法を用いて薄膜形成を行ない、将来の低コストでの量産も視野に入れているという。

 山本氏は「Cu2O発電層では、酸素量が少し変化すると透過率が下がり、発電効率も悪化する。大面積で単一相を作る技術の確立が課題であるが克服できる」としたほか、「4端子による実用化を目指している。4端子では配線が増加することになるが、よりコンパクトにできたり、歩留まりを高めたりできる」と述べている。

東芝が開発した透過型Cu2O太陽電池セル。透明化を実現しているのは東芝のみという

 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が発表した太陽光発電システム搭載自動車検討委員会の中間報告書では、高効率太陽電池を搭載した自動車(EV、PHV、HEV)による年間充電回数ゼロの実現に向けた試算を公開しているが、東芝では、この試算方法を参考に、Cu2O/Siタンデム型太陽電池をEVに搭載した場合の充電なしでの航続距離を簡易的に試算した。

 これによると、Cu2O/Siタンデム型太陽電池の発電効率を30%に高めることができ、車載設置面積を3.33m 2 と仮定し、EVの電費にNEDOによる試算で使用された2030年の想定値である12.5km/kWhを用いて計算すると、充電なしの1日の航続距離は39kmになるとしている。

「Cu2O/Siタンデム型太陽電池の発電効率向上と、EV電費の改善により、1日あたり約40kmの走行が可能であり、さらに、EVに搭載する容量数10kWhの蓄電池を利用することで、走行で消費した蓄電池の容量を太陽光発電で補充し続けることができ、自宅や充電ステーションでの充電なしで、長期間の走行が可能になる。クルマを購入したら、まったく充電することなく利用できるという理想の将来に近づけることができる」と山本氏は展望を語った。

本技術をEVに適用した場合の航続距離の試算

 また、太陽電池単体の重量は軽く、1m 2 あたり1kgを切り、その半分程度になるかもしれない。重たいのは強化ガラスであり、自動車メーカーがどんな保護部材を選択するかにかかっているという。

 なお、今回開発した発電効率8.4%の透過型Cu2Oを活用した場合には、充電なしの1日の航続距離は約35kmと試算。今後、東芝では、タンデム型太陽電池の発電効率で30%以上、それに必要な透過型Cu2Oトップセルの発電効率は10%以上を目標に開発するという。

 また、東芝エネルギーシステムズと共同で、量産タイプのSi太陽電池と同じサイズである4cm角の大型Cu2O太陽電池の開発を2021年春から開始しており、2023年度を目標に、外部評価用サンプルの供給を計画。2025年度を目標に、実用サイズのCu2O/Siタンデム型太陽電池の製造技術の完成を目指すという。

 最後に山本氏は「高効率化と大型化の2つのアプローチを行なっている。低コストで高効率、経済的なCu2O/Siタンデム型太陽電池は、小設置面積でも高出力を実現することができる。EVへの適用は、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けた課題の1つである『運輸の電動化』に貢献できる」とまとめた。

今後の展望